40話 テントは快適
ラトミ村の村長の話は正直驚いた。
村長が代替わりしたのは、確か私が生まれた年だったはず。
それまでの村長が病気で急に亡くなったためだったかな。
「あの、話していただきありがとうございます」
「いいの、いいの。今は冒険者かい?」
「はい」
「若いのに大変だ。そうだ、これ持って行きな」
年配の男性が、奥からザロを2個持って来てくれた。
「熟しすぎちまって、もう売り物にならないんだよ」
「ありがとうございます」
ザロを受けとると、甘酸っぱい香りが広がる。
占い師以外に、良い思い出は無いけれど懐かしいな。
お店の2人に頭を下げて、広場に戻る。
そう言えば、横領で捕まった村長の村もさびれていたけど、ラトミ村もあんな風になるのかな?
そもそも、ザロの収入が減ってしまったら村としてはもたないような気がする。
それにしても、横領で捕まって村人を苦しめる村長を酷い人だなって思ったけど、まさか自分の生まれた村の村長の方が酷いとは驚きだ。
でも、ラトミ村で何が起こったのか詳しく知ることが出来てよかった。
これからは、ラトミ村から逃げて来ましたって言おう。
本当の事だし。
広場に戻り、許可板を見せて中に入る。
また管理している人が替わっている。
この村にはどれだけの数の自警団がいるんだろう?
すごいな。
場所取りをしていた荷物を片付ける。
テントを張れるように、場所を空けるためだ。
購入してきたテントを取り出しながら、何だかにやけてしまう。
村を逃げ出した時には考えも及ばなかった。
まさか自分で稼いだお金でテントが買えるなんて。
夢みたいだ。
テントを少し撫でて、気持ちを切り替える。
やっぱり、1人であっという間に組み立てられる簡単さが良いな。
地面に杭を打ち込んで、固定したら完成。
靴を脱いでテントの中に入って荷物を置くと、さっそく入口を閉じてソラをバッグから出す。
ソラは周りを見回してぴょんぴょん飛び跳ねている。
どうやら、喜んでいるようだ。
「ソラ、この中では声を出さないでね」
私の言葉にソラは縦に伸びてプルプルと揺れる。
おそらく大丈夫だろう。
「それにしても良いテントだよね」
敷物をテントの底に敷いて座ってみる。
テントの底の厚みもあって、いつもより座り心地が良い。
しかも、視線を気にしなくていいのがうれしい。
用事もないし、少し早いけどご飯を食べて明日の準備をして寝ようかな。
うん、テントを満喫したい!
罠の準備もしたいし。
そうしよう。
ソラの前にポーションを20本取り出して並べる。
ポーションが泡となって消えていくのを見ながら干し肉をかじる。
今日は野兎の干し肉だ。
野ネズミより肉に厚みがあるため食べごたえがある。
旨味は、野ネズミの方があるかな?
野兎でも十分美味しいけど。
干し肉を食べ終わった後はザロだ。
久しぶりの甘酸っぱいザロの香りを満喫しながら2個食べきってしまった。
「ふ~、美味しかった。ソラ、明日は狩りをしようか?」
ソラはチラッと私に視線を向けるとプルプルと揺れてまた食事を再開する。
バッグから本を取り出して、野兎用の罠を確かめる。
仕組みは比較的簡単なので、私でも作れそうだ。
しかも設置タイプだから安全に狩りが出来る。
材料を見てみるが、今持っている物で作る事が出来るだろう。
今日中に数個作ることが出来れば、明日仕掛ける事が出来る。
テントも買ったし収入が欲しい。
頑張って野兎を狩って、お金を稼ごう。
ソラは食事が終わると、バッグの上に乗ってプルプルと揺れて目を閉じている。
……あれ?
食事が終わっているのにソラの体の中で泡がしゅわ~っと出ている。
不思議に思ってみていると、しばらくして落ち着いた。
何だったのだろう?
いつもは食べている時だけ泡が発生するのに。
ソラをつつくと目を開けて、見つめて来る。
「大丈夫?」
ソラは縦に伸びたり縮んだりして元気なのをアピールしているみたいだ。
初めての事なので驚いたけど問題はないようだ。
……食べさせ過ぎたのかな?
40話を突破しました。
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