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39話 ラトミ村の特産品

「坊主、問題はないか?」


「はい。こんな軽いテントがあると初めて知りました」


「軽くて丈夫って人気の最新のテントだ」


「最新?……中古ですよね?」


「それを買った奴なんだが、好きな女が出来て冒険者を辞めちまってな。すぐに売りに出したんだよ」


「そうなんですか。これで、お願いします」


「はいよ。そうだ、マーク付けておけよ?」


「マークですか?」


「あぁ、同じようなテントがあると問題がおきる事があってな、自分だけしか知らない場所にマークを付けて置くんだ。名前でも記号でもなんでもいいぞ」


「マーク」


購入するテントを見る。

何処につけるのが一番だろう?


「……ここで付けて行くか?」


「えっと、お願いします」


「いや、マークは自分で考えろよ」


「……はい」


テントを広げてもらって、内側の天井の隅にソラと書こうとして気がつくと『空』と書いていた。

あれ?

……これ、前の私の記憶かな?

たぶんソラって読むような気がする。


「お、記号か?これだと他の奴には分かりづらいな」


何かは知らないが言葉だと思う。

でも、記号って思われたみたいだ。

……説明も出来ないので記号という事にしておこう。


「これから大変だろうが頑張れよ」


うっ、心がチクチクする。

早くラトミ村で何があったのか調べないと。

店の入り口で誰かと話していた門番さんともう1人の男性が、店の奥に戻ってくる。


「お!買ったのか?」


「はい、ありがとうございました。とてもいい品が買えました」


驚かされたけど、この人のおかげでかなりいいテントが購入できた。

良い人だな。


「ハハハ、いいって、いいって」


「おい、そろそろ見回りの時間じゃないか?」


「あっ、やばい。坊主、またな」


「ありがとうございました」


深く頭を下げると、2人は軽く手を挙げて急ぎ足で店を出て行く。


「相変わらず慌ただしいな、奴は。……じゃ、5ギダルだな」


「はい」


マジックバッグから5ギダルを取り出す。

親父さんにお金を渡してテントを受け取る。

親父さんが、店の奥から小さなバッグを取り出した。


「これ、やるよ」


「え?」


「小さいが正規のマジックバッグだ。それ劣化版だろ?」


「……はい」


「劣化版は金の出し入れの時に中が見られやすい。いくら持っているのかを知られるのは、危ないからな」


「ありがとうございます」


マジックバッグを受け取って深く頭を下げて店を出る。

広場に戻る途中、門番さんと親父さんを思い出して顔がにやける。

良い人達だな、それに一緒に居たもう1人の男性も。

文句も言わず、ずっと付き合ってくれていたし。


大通りに面した1軒の店に、見慣れた物があった。

ラトミ村の特産品だ。

ザロという果物で、栄養価が高く町で人気があると聞いた。

だが、値段を見て驚く。

私が知っているザロの値段の4倍はしている。


「高い」


「ん?ザロか?」


店の人が私の声を拾ったようで声をかけて来た。

慌てて声をかけて来た人を見ると、年配の男性のようだ。

店の奥には、奥さんらしき人もいる。


「はい。これってラトミ村のザロですか?」


「ハハハ、ザロはあの土地でしか育たないからな。……もしかしてラトミ村の者か?」


「はい」


「親御さんは?」


「……いえ、1人で旅をしています」


ラトミ村の情報が欲しいので正直に答えてみる。


「1人!……確かに今年はかなり厳しいが。はぁ~あの馬鹿な村長のせいだな」


「村長?」


思い出すのは私を殺せと父に話していた男性だ。

正直忘れたい。


「何も知らずに村から出て来たのか?あぁ、いや違うな。追い出されたのか?」


「……逃げて来ました」


「逃げる……あの村はそんなにひどい事になっているのか」


年配の男性は大きくため息をつきながら首を横に振る。


「占いのルーバさんが居ただろう?」


「……はい」


「ラトミ村のザ��は彼女が守ってきた。この果物は収穫時期がとても難しくてな。少しでも時期が違うと商品にならんのだ。だから彼女に占ってもらって、それを活かしていた」


「それを村長は気に入らなかったんだよ!」


いきなり声が増えて驚く。

声の方に視線を向けると、奥に居た奥さんらしき人がこちらにやって来る。


「ラトミ村はザロの収入源が無ければ維持できない村だ。収入源を守ってくれるルーバを支持する村人が多いのは当たり前だろう。それをあの馬鹿村長は、気に入らなかったみたいだよ。ルーバが病気の時に薬を渡さなかったんだとさ」


「周りの村人には薬は渡したと嘘をついてな。知っていたのは村長の腰巾着だけだ」


「ルーバは村にとって、ザロがどんな存在なのか知っていたからね。自分に何かあったら、必ず他の占い師に連絡を入れてくれているはずなんだ。それが何もない、これはおかしいと村人が村長の腰巾着を問い詰めて分かった事なんだよ。しかも、最初は子どものせいにしようとしたらしい。まったく前の村長は立派だったけど、今のは駄目だ。村は今荒れているそうだよ」


「村長の奴は、自分に楯突く村人を村から追い出したって話も聞くしな」


「親がいない子供も追い出されたそうだよ……あんたは、逃げたって言ったね」


「はい」


「どうしてだい?」


「……両親が村長よりだったので……その、問題が……」


「両親が……大変だったね」


「え!いえ、そんな」


……あの村長は、私が思っている以上に問題があったようだ。

それに追随した両親は……まぁ、もう他人だな。


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