31話 ソラと声
自分の腕がソラに食べられているのを見つめる。
しゅわ~っと音が何度もする。
覚悟が決まったのか、不思議と落ち着いている自分にちょっと笑える。
……?
…………おかしい。
もうろうとしていた意識が、何だかはっきりしてきたような気がする。
そう言えば、少し霞んでいた視界もよく見えている。
それに重たく感じて動けなかった体が、少しずつ軽くなっているような気もする。
確かめるために、ソラに包まれていない反対の腕を持ち上げてみる。
……上がった。
倒れている体を少し動かしてみると、まだ少し体は重たいが動かすことが出来た。
ゆっくりと木に凭れるように座って、ソラに包まれている腕を見る。
何が起こっているのか分からない。
ただ、ずっとソラは腕を包み込んで何かを消化している……はずだ。
ずっとしゅわ~っと音がするので、それは間違いないと思うのだが。
ソラが包んでいる腕を見てみる。
しゅわ~っという音と共に大量の泡が生まれるので、泡が邪魔になって腕が見えない。
「ソラ?」
目が出てきた、というか閉じていた目を開いたようだ。
腕を包んだ状態で目がきょろりと動く。
さすがにソラとわかっていても、不気味だ。
自分の腕にスライムが絡まって視線が合っている状態だが、どうしたらいいのだろう?
考えても、ソラが離れるのを待つしかないのだろうな。
しばらく見つめ合っていると、腕からピョンとソラが離れる。
ソラが離れた腕を見て驚いた。
骨まで見えていた傷が、うっすらと痕を残す程度になっている。
痛みが消えて体が動かせるようになった時に、ソラが傷を治してくれている可能性も考えたが、本当に腕の傷が治るとは。
ただ呆然と、傷の跡が少し残る腕を見つめる。
「ぷぷ~」
「……えっ?……」
「ぷぷ~」
「………………ハハハ」
ソラがしゃべっている。
腕が治っている。
もう、どこから考えていけばいいのか分からない。
でも、これだけはわかる。
「ソラ、ありがとう。あなたのおかげで生き延びた」
腕に出来た傷は骨まで到達しており、太い血管を切ってしまっていた。
処置が出来ればよかったが、走って逃げなければならず傷をそのままに移動。
そのため大量に血を失ってしまい、処置が出来るときには既に手遅れだった。
いや処置が出来たとしても、私の持っているポーションでは危なかったかもしれない。
最悪、死んでいただろう。
生き延びても、片腕を失っていたかもしれない。
それに私が木の魔物に近づこうとしたあの時、ソラが止めてくれた。
あそこで止まっていなければ、死んでいた可能性が高いような気がする。
ソラを見つめて考え込んでいると、コロコロと転がって私の足にぶつかって来る。
……あれ?
飛び跳ねる事が出来るのに……転がっての移動なの?
ソラは不思議な存在だな。
有機物も無機物も消化が出来るけど、青のポーション限定だし。
深手の傷も治すことが出来るしって、これって青のポーションの力に似ている。
青のポーションを食べているから?
でも、私があげているポーションってみんな劣化している物だから、こんなに綺麗に傷は治らないはず。
ん~、分からない事だらけだな。
失わずに済んだ手でソラを撫でる。
「ぷぷ~」
と、声を出しながらあるバッグを見つめている。
そのバッグには、たしか私用の青のポーションが入っているはずだ。
どうやらソラは、お腹が空いているらしい。
相変わらずのマイペースに笑えてくる。
少し前まで死にそうだったのだけど……ふふふ。
バッグの中から残っていたポーションをソラに渡す。
すぐに食べきってしまうだろう。
さて、捨て場は落ち着いたかな?
そう言えば川辺に居た魔物の情報も役場に届けた方がいいのかな?
……また足止めされるとか、ないよね?
役場に届けたら、足止めはされなかったが驚かれた。
そりゃそうだよね。
ソラの能力が開花しました!
引き続きよろしくお願いいたします。