15話 初めてのテイム
転がり、うつ伏せの状態で、止まった崩れスライム。
しばらく待つが、目を上げようとしない。
……まさか、元に戻れないのか?
どうしていいか分からず、もうしばらく待ってみるが、いつまでたっても上を向かない。
ただ、少しプルプルと震えていて哀愁が漂っている……。
……可哀想だと思うが、可愛いとも思ってしまう。
だが、現状ではどうしようも無いので体の向きを上に向けようと、手を差し伸べる。
が、崩れスライムについての本の一文を思い出して、手が止まる。
《レアの最弱スライムは突くと消えてしまうほどに弱く。》
読んだ時は、まさかそれほどに弱い魔物なんてっ、と思ったが。
目の前には、うつ伏せの状態で起き上がる気配のない崩れスライム。
……本当かもしれない。
どうしよう、触ったら消えてしまうかな?
でも、突くわけではないし。
そーっとそーっと包み込むように、下になった体の向きを前を向くように変えてみる。
……緊張した。
見るとなぜかプルプルと震えている……え!
まさか消える?
消えてしまうのか?
ドキドキと様子を見るが、しばらくすると止まった。
はぁ~。
「アハハ、何やっているんだろう、私」
崩れスライムは私をじっと見つめている。
正直、離れがたい。
……テイムできるかな?
最弱と言われるスライム、最弱で星なしの私。
お似合いかも。
テイム方法は本で読んだ。
だが、実際に私がテイムすることはないと思ったので、しっかりと読んではいない。
目の前の崩れスライムは、失敗したら消えてしまいそうだ。
マジックバッグから本を出して、テイム方法を探す。
本によれば、魔力を少し渡し魔物が受け入れたら光が現れるので、その状態の時に私の名前を告げて次に魔物に名前を付ける方法と、力でねじ伏せて宣言をする方法があるようだ。
後者は星が3つ以上の場合に、推奨されているテイム方法らしい、私には一切関係が無いな。
どちらも成功したら、印が現れると書かれている。
魔力を少し渡す……少しぐらいなら大丈夫かな?
ちょっとだけだし。
崩れスライムを見る。
じっと私を見つめている。
「ちょっとだけだし」
周りの気配を調べる。
こちらに近づいて来る気配は感じない。
大丈夫と自分に言い聞かせて、崩れスライムの前に膝をつく。
右手の人差し指の先に、ほんの少しだけ魔力を籠めて、指先を崩れスライムに近づける。
ドキドキと心臓がうるさい。
拒否をされたら、それで終わってしまう。
崩れスライムはプルプルと震えながら、近づいた指先に体をこすりつけた。
ふっと指先から魔力が移動するのを感じた。
すぐに指を離して崩れスライムを見る。
プルプル、プルプル。
微かに光に覆われたので、どうやら魔力を受け取ってくれたみたいだ。
次は私の名前を告げて、最後に崩れスライムに名前を与えると……。
私の名前。
親に取り上げられた名前ではない。
村を出た時から考えてきた名前。
踏まれても強く生きていけるように《アイビー》と自分で付けた。
前の私の記憶から、引っ張り出した名前だ。
踏まれても丈夫に生きる植物の名前らしい。
で、崩れスライムの名前は……え~っと、青い色だからアオ?ブルー?
何かもっと……考えながら上を向くと綺麗な青空が見える。
あっ……ソラ、ソラにしよう!
よし!
「私はアイビー、君はソラだ!」
プルプルした体がちょっと激しく動いて。
消えないかドキドキしながら見ていると、崩れスライムの額とおぼしき部分に小さな模様が現れた。
この模様がテイムされた印なのだろう。
よかった、成功した!