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97話 説明してくれ!

-バークスビー団長-


「どうだった?」


アグロップが首を左右に振る。

拠点の周りには組織の者達が潜んでいる可能性があると言う話だったため、調べさせたのだが。

やはり、気配すら感じる事は出来なかったようだ。

ここまで、何もないと本当に見張られているのか疑問に思うな。

とはいえ、あの子が感じた事だ。

きっと居るんだろうな。

しかし、ミーラ達はどう動くんだ?

ここの見張りを手薄にするには、多くの自警団を一気に動かす必要があるが。

その辺りも、目星がついているのか?


「どうしました?」


「いや。奴らがどう動くのかと思ってな」


「なるほど、彼女の動きですか。狙いはあの子なんですよね……」


アグロップは、眉間に深い皺を作る。

どうも、あの子を参加させる事を嫌がっているようだ。

まぁ、9歳とは言っても見た目がな。


「あの子に頼り過ぎですよね」


「わかっている」


「自覚があるなら、これ以上は何も言いませんが」


確かに、頼り過ぎだよな。

あの子の作戦を、そのまま実行しようとしている。

それも狙われているのを利用して、大人として最悪な判断だ。

だが、疲れてしまっていたのだ。

何度も追い詰めては逃げられ、その度に被害者が出る。

その事に心が疲弊して、諦めようとする気持ちが生まれていた。

それを隠し、気持ちを奮い立たせてはいたが。

疲れはどんどん積み重なっていき、正直限界まできていた。

そんな時に、ボロルダとセイゼルクに紹介されたのがあの子、アイビーだ。

子供が狙われている事に、またかと言う気持ちがあった。

今度こそは守り抜きたいと思うのだが、不安が拭えなかった。

だが、アイビーは今までの子供達と全く違った。

俺と同じように、追い詰められていたボロルダが笑ったのだ。

組織の話をする時は、悲壮感さえ漂わせていた奴が。

話を聞いて驚いた。

自分の置かれた環境を理解し、その上でどう動くべきなのかを考えていると聞いたからだ。

そんな事が出来る子供がいるのかと。

後で分かったが、見た目よりも少しだけ上の年だったとしてもだ。

しかも、組織と対決までするという。

その思いが、限界まで来ていた気持ちに発破をかけた。

いい年した大人が、何をしているんだと。


「9歳なんだよな」


「そうですよ」


アグロップと苦笑を漏らしてしまう。

コイツは知っている。

俺が限界まで追い詰められていた事を。

そして、今は違う事も、その原因も。

拠点の玄関が開く音が耳に届く。


「来たみたいだな」


「そうですね」


アグロップと玄関まで迎えに行くと、マールリークとヌーガとシファルの姿が見えた。

だが、それ以外の者達がいない。

首を傾げていると、シファルがものすごい笑顔を見せた。

その表情に、背中がひやりとする。


「良い所に来てくれました。団長、早急に殺人者集団を捕まえるために討伐隊を作って下さい」


「「はぁ?」」


あまり意見が一致しないアグロップと、声がかぶる。

どういう事だ?

討伐隊?

此処で待機のはずだろう?

それとも、俺の知らないところでミーラ達が動いたのか?


「かなり危険な人物が多いので、人数は多めでお願いします。あっそうだ。さすがにこれから向かうのは凶悪犯達なので途中で退場する人がいるでしょう。それも考えて討伐隊の人選を、よろしくお願いしますね」


退場?

怪我をする奴はいるだろうが、退場という言い方は……あっ、なるほどそういう事か。


「副団長、討伐隊の人選を頼めるか?」


「分かりました」


「途中の退場者だが」


「問題ありません。誰も逃がすつもりはありません。では行ってきます」


足早に自警団詰所へ向かう副団長は、何処か楽しそうだ。

しかし、討伐途中で自警団の裏切り者を捕まえるのはいいが、昨日の作戦はどうなったんだ?

説明が欲しいが……。


「団長。どうかしましたか? あれ、副団長は?」


奥の休憩室から、1人の自警団員が歩いて来る。

俺が、後を任せても大丈夫だと思っていたガボジュラだ。

奴が裏切り者だとわかった時、ショックだった。

どうして、町の人達からも人望がある者が組織などに手を貸すのか。

まぁ、俺は奴ではないから分かる訳ないのだが。


「凶悪犯の集団が見つかった。どうやら殺人者らしい。なので早急に討伐隊を向かわせる。副団長は、討伐隊の人数を集めるために詰所へ行ったところだ」


「凶悪犯、殺人者ですか……しかし、その情報が本当かどうか討伐隊を向かわせる前に確かめないと」


討伐隊の話が出た瞬間、微かに動揺が見られた。

珍しい事だ。

まぁ、すぐに隠したが。


「それだったら問題ない。俺達が確認を取った」


マールリークが、にこりとガボジュラに笑いかける。

ボロルダ率いる冒険者チームと、セイゼルク率いる冒険者チームはこの町で信頼度が高い。

そんな彼らが調べた事に、意見を言う場合はそれなりの理由が必要だ。


「そうですか、失礼しました。団長、拠点の守りはどうしますか?」


「あぁ、そうだな」


拠点の守りを手薄にするって言う予定だったが、これはどうするんだ?

話が出来ていないからな~。

適当に言えばフォローが、入るか?


「拠点からも人を出す。此処は最低限でもいいだろう」


「団長、それはやめた方が良い。この場所が組織にとってまだ重要な可能性がある。ある程度は、ここに人は置いておこう。それに組織についての重要書類を、詰所から移動しただろう?」


昨日と話が違うな。

ほんと、説明してくれ。


「そうか? まぁ、確かにそうだな。何かあってからでは遅いか。ガボジュラ、拠点を守る奴を選んでくれ。残りは討伐隊だ」


「分かりました。すぐに」


ガボジュラが、休憩室へ行く後ろ姿を見送る。


「はぁ、昨日聞いたモノとは、かなり違う気がするが」


シファルを睨み付けると肩をすくませる。


「すみませんね。俺達もちょっと前にこの作戦に変更したので」


「はっ? 誰が言いだしたんだ?」


「もちろん、アイビーですよ? 待つ必要なし、今日仕掛けるのが一番だって」


あの子か。

だったら、まぁ大丈夫だろう。


「なんだろうな。あの子は不思議な子だな」


これまで、どんな作戦を考えても不安が付きまとった。

なのに今、不安な気持ちはない。

しかも作戦を、聞いてもいない状態なのにだ。


「で、これからどうするんだ?」


「あぁ、そうでした。これを」


「なんだ……おい、これ眠り玉に見えるが?」


「それはそうでしょう。眠り玉ですから」


「……どう使うんだ?」


「拠点に入り込んだ者達が、あの部屋に入った瞬間に建物全てに行き渡らせるようにですね」


全てに行き渡らせる?

何を言っているんだ?

いや、本気みたいだが。

マールリークとヌーガは苦笑いしている。

……本気で拠点にいる全員を眠らせるのか?


「敵だけでなく、味方も拠点にはいるのだが」


「それは、まぁ仕方ないですよ。こちらは人手が足りませんから」


「はぁ……まさか、あの子が?」


「ふふふ、あの子は本当に面白いですよね」


顔が引きつるのが分かる。

俺だったら、思いつかないわ。

と言うか、眠らせてしまった味方にどう説明をすればいいんだ?

それは間違いなく俺の仕事だよな。


「あ~、他の方法は」


「とっとと仕掛けてきますね。時間もありませんし。さすがに建物全てだと大変だ!」


「おい」


無視しやがった。

しかもなんだ、その笑顔!

まぁ、組織を追う事を考えれば少しぐらいは仕方ないのか?


「団長、これ」


ヌーガが、魔物を捕まえる時に使う強靭な紐で編まれた網を手渡してくる。

ものすごく嫌な予感がするが……。


「これは?」


「森に入った時に、裏切り者に向かって投げて動きを鈍らせるといいだろうって」


「……あの子か?」


「いや、シファルが」


よかった。

これはあの子じゃないのか。

って、シファルもえげつないな。

網を受け取って、ため息をつく。


「これ、上位魔物を捕まえる網じゃねえか」


「あぁ、これなら一網打尽だって」


「ハハハ、これも敵味方関係なくだよな?」


「さぁ、そこは団長の腕次第だ」


「いや、どう考えたって、敵だけに投げられるわけないだろ!」


「頑張れ」


他人事だと思いやがって。


「そのあとの事はまたあとでだな。来たぞ」


ヌーガの言葉に視線を向けると、討伐隊として選ばれた者達が集まってきている。

さすがアグロップだな。

裏切り者達に、腕に自信のある味方達。

かなりバランスよく選んできている。

さて、網を使うって事は、町の外。

森に入ったあたりで確保だな。


「団長、全員で45名です。問題ないですか?」


「あぁ、拠点からは数人だけ参加させる予定だ」


「数人……分かりました」


さて、やりますか。

これまでの恨みも込めて。


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