第4話 見詰め合う鈴とスズカ
夜明け前、府中本町駅に始発電車が到着したようだ。暗がりのなか、人の息吹が伝わる。車両から飛び出した競馬ファンが、足早に開門待ちの列に次々と加わる。駅から連絡通路で西門へ行けるが、正門前へ並ぶ人も多い。直線の攻防を堪能出来るゴール前や四コーナー付近の席を目指すのだ。
行列が伸びるなか、誰かの目線が鈴たちを捉えるのが、分かる。陽子と恭一のことを考えるのを止めた鈴、静かにしていると、感覚が鋭くなる。
数人後ろだ、どこかで知る男女だと、気配に触れる。隠れて目を配る彼ら彼女は、恭一を意識している。鈴はその列に並ぶ顔を、あれは誰だ? と必死で頭を巡らせる。
「ねえ、馨。あの人たちって……」
鈴が小声で「顔を向けずに、確認して欲しい」と、真相を恐れるように懇願する。
「難しい注文だな」で、渋い表情を我慢する馨が、横目を使う。
サイレンススズカが出走する天皇賞秋、「元の世界」から二十数年前、だとするならば。
「由美と新太か……」
片目をひくつかせる恭一の台詞で、三人の認識が一致した。昨晩から様々なコトがあり過ぎたのか、案外、鈴と馨は冷静だった。体格のいいアラサーの男性は、鈴の父親である新太だ。横にいる小柄で豊満な肉体を持つ三十絡みの女性は、馨の母親の由美だ。
二十数年前の姿で蘇ったもう一組の親たちが、いた。新太と由美は、恭一らに正体が露呈したのを、気付いていないか。いや、監視対象を把握し、素知らぬ振りをしている。三人も意識する二人を無視するように振る舞う。まるで狐と狸の化かし合いと、鈴は馨の耳元へ囁いた。
「あれじゃあ、尾行だよね」
「恭一が目標で、由美と新太サンはタッグを組んでいるな」
まるで探偵だと、声を擦れさせた馨が、空笑いで応える。
そもそも、陽子は新太と、恭一は由美と恋人だ。複雑に入り組んだ深い闇を、鈴は覗いた気がして、嫌な気分が胸に溜まる。列の後ろを眇めれば、由美と新太も今は「恋人同士」なのだ。少なくても競馬場での思惑は、一致している。バカみたいな話だが、サイレンススズカがレースを出走する時のみ、カップル二組は相互にボタンを掛け違えるのだ。
かの馬の追い掛けを始めた陽子と恭一、軌跡を求める由美と新太。歪な父親と母親の関係は、受け容れ難い実態で、愕然が顔色を染める。
日の出が地平から先端を覗かせ、一日の幕開けを告げる。秋の早朝、冷気は身を引き締め、今日を生きる為に活を入れる。だが、陽光も清涼もこの瞬間が疎ましい。天皇賞秋、来たる日をどう過ごせばいいのか分からない。鈴は、清々しい空気に「何でっ!」と毒づき、輝く陽から顔を斜めに逃がした。馨に向くと、困惑で影を濃くする表情に、同じ悩みが描かれていた。縺れた人間関係を頭に浮かべ、途方に暮れた嘆息を吐き合う。
「タイムスリップに関わる『老欅』の『お導き』、サイレンススズカの『事件』、親同士が入れ替わった捻れた関係と、恭一の陽子へのプロポーズ……かあ」
ひとつでも大変なのに、四重苦となり「どうすれば『元の世界』に戻れるのか」と、鈴が途方に暮れる。若き両親たちの混乱を目の当たりにし、鈴が悩ましげに手を頭へ添え、考える。以前から燻る鈴自身の不安、馨に本音で再び語る。
「ねぇ。ワタシたちって、誰の子どもなんだろう?」
「生まれてきたことは、確かだよ」
今度ばかりは、馨も息を飲んで強がるのが、精一杯だ。
『老欅』の『お導き』を巡り、史実への介入で反目するも、親たちに向く心の闇は同じと、希望の琴線が触れ合った。目指すのは「元の世界」への帰還で、「今の世界」でたったふたりは、協力して難局を乗り越えたいと、光明を暗中に灯そうとする。ただ、具体的な方法は模索の途中だが。
太陽は、晴天を駆け始める。東京競馬場の全容が明らかになり、舞台は整う。後は役者の名馬と、観客を待っている。爽やかな朝日のなか、鈴も馨も胸のうちに垂れ込める暗がりで、一筋の望みを求めて、いた。
「開門するぞ!」
誰彼とない声が張ると、歓声が上がる。列にいる競馬ファン誰もが、期待で浮き足立ち、身体を強ばらせる。今日最初のレース、開門と同時の席取り合戦。レース前の興奮を押さられない競馬ファンは、ゲートが開くのを入れ込んで構えていた。気乗りしない鈴と馨も、競争へと否応なしに巻き込まれる。十数万人の観衆と化すまで、あと僅かな時間だった。
正午過ぎ、東京競馬場は人で溢れていた。マスコミの予想通り、入場者数は十万人を超えている。ウンザリするほど、人々があらゆる場所を埋めている。
鈴と馨、恭一は、競馬場の最終コーナー付近、恭一たちが好むメインスタンドの二階席に陣取る。コースへの距離と高さが程よく、「旧スタンド」の特徴である大屋根から吊ったゴンドラ席の真下だ。「旧スタンド」は改修され、二〇〇七年に新スタンドが完成し、「元の世界」では「メモリアルスタンド」だ。
最後の直線ではゴールへ走る馬を後ろから見ることになるが、大欅を抜けて第四コーナーから直線への攻防を望むには絶好で、馬の走り目に焼き付けられる。恭一は、何時もいる所と称した。一緒にサイレンススズカの追い掛けをする陽子を意識しての席取りだ。顔なじみの競馬ファン同士なら、何時もいる好みの席での待ち合わせか。
午前中、恭一は百円単位の豆馬券で遊んでいた。
「あーあ、また一着三着だよ」軽く嘆いても、「よしよし、読み通りに差し馬同士で決着したな」とささやかに喜んでも、ふたりの反応が薄ければ、興ざめする恭一も静かになった。サイレンススズカのみならず、競馬ファンである三人の会話は、意外なほど少なかった。
馨は何かを思案して黙り込み、鈴自身も憂鬱に口を曲げるのは、混雑での疲労だけでは、なかった。
気になる由美と新太を場内では見ていない、開門と同時に人の洪水に巻き込まれ、離れてしまった。競馬場のどこかにはいるのだろうが。
馨が圏外のスマホを手にし、時刻を十二時三十一分と確認する。スマホをスワイプすると、レース結果が表示される。タイムスリップ直前、サイレンススズカの天皇賞秋を確認しようとした名残か。
画面には、これから迎える特別三レースの「結果」が表示されていた。第七レースの「いちょうスークス」、第八レースの「南部特別」、第九レースの「河口湖特別」だ。
「おっ、競馬予想か?」
恭一が、目ざとく見つけ口を挟む。
「いや、まあ」
「勿体ぶるなよ」渋る背中を促すように、叩いた。
目を閉じて痛がる馨に、「試しに馬券、買ってみるか?」の笑い声が届く。
「じゃあ、鈴ちゃん。彼氏借りるわ」
恭一は「大丈夫だよ」と根拠のない慰めで、馨の肩を抱き馬券売り場へと宣言し、後ろ手を振った。
場内は身動きも一苦労で、身体を横に捻って、人の間をすり抜け前へ進む。押される馨は、足をバタつかせて転びそうになり、仲良く人の隙間に消えて行く。
「あたしも、行く!」
鈴が男どもの背中を追った。取り残されるのが、嫌だった。読み終わった新聞をマーキングとして、席に置く。混雑する場内、席取りの主張をお留守番の新聞にお任せだ。本来はマナー違反だが、この人波では仕方ないとも思う。
スタンド建物内の発売所に到着すると、「五百円で、いいよな?」と、念を押した恭一が、居並ぶ券売機の一つに投入した。百円玉が五枚、馨がふたりの酒代として渡した硬貨だ。初めて会う人間から奢られるのも気が引けるだろうと、心を配り、気持ちばかりの僅かな金額だが。いつの時代に発行されたのか定かでない百円硬貨が券売機に吸い込まれ、普通に動いて馬券が買えた。
まずは「いちょうスークス」だ。馨が、「二歳」の重賞戦、「サウジアラビアロイヤルカップ」ですね、と口にしたら、恭一は怪訝そうな顔をした。
馬齢について数え年から満年齢への変更が二〇〇一年。一九九八年は「二歳」ではなく「三歳」の表記だ。
「三歳」のオープン戦「いちょうスークス」は、「二歳」の重賞戦「サウジアラビラロイヤルカップ」になったのが二〇一五年だと、苦い笑声を鈴の耳へ届けた。
スマホに映る「いちょうスークス」の「レース結果」は、一着1番エアギャングスターと二着6番カシマアルデルと示されていた。恭一は、当然のごとく画面の「予想」通り、馬連1‐6を買った。
「馬連だけですか、三連単とかは?」と口走った馨に、恭一は「さんれんたん? 何それ?」と受け流された。馨が「レース結果」を確認すると、三連復や馬単、ワイドも存在していない時代だと気付いて、自身の頭を軽く叩いた。
「昔の競馬だし、覚えていない」と、口にする馨は「レース結果」には半信半疑だ。
何しろ、馬券を買ってなく、競馬観戦もしていない。本当に正しいのかと疑念を呈し、むしろ恭一の方が「当たるよ、コレは」と、確信的だ。
スタンド内も混雑して、払戻機近くのモニターで観戦だ。恭一曰く「的中したら、すぐに換金だ」と意気込んでいた。
その「いちょうスークス」、馨が懐疑心を顔にして、十三時の発走時刻を迎えた。テレビ画面だからか、実感が湧かない不思議な競馬だ。発走後も、ただモニターを眺めるだけだ。
気が付けばレースは大詰め、直線を迎える。二番手先行で先頭へと駆けるカシマアルデル。四番手で虎視眈々と抜け出すタイミングを窺っていたエアギャングスターが直線で追い付き、競り落として一着。みるみるうちに、馨は顔を興奮の血の気で散らす。
「過去は正しかったんだ!」
馨は鈴の肩を両手で掴み、揺する。痛がる鈴が「落ち着いてよ!」と手を乱暴に払い除ける。動揺するふたりを横目に、恭一が「馬連一点で的中は、凄い」と、呆れる。
馬連1‐6は1,850円ついて、払い戻しは9,250円だ。
次は第八レース「南武特別」だ。前走の一点的中は、鈴は信じられなく、偶然と思った、いや思い込もうとした。スマホに表示される「レース結果」は一着4番ワールドカップ、二着2番オンワードシノンだ。恭一は9,200円を迷いなく、馬連2‐4へつぎ込んだ。
隣では馨が、恭一が手にする馬券を穴が開くほど注目し、昂ぶりを抑えようとしていた。
十三時三十五分発走のレース、スタートから観ていると、あっという間に最終コーナー、三番手併走からワールドカップが直線抜け出す。二着は当然のオンワードシノン。
連続的中にも冷静たる馨。逆に恭一は奇跡の連勝に、喝采の瞬きを繰り返す。コレは本物の「結果」と今更、鈴は確信した。
馬連2‐4のオッズは12.7倍で116,840円だ。五百円が一時間もしないで、連続的中して十万円超だ。恭一が、鼻息を荒くして一万円札を手にしたが、それでも鈴は現実と思えなかった。
三レース目は、第九レースの河口湖特別だ。116,800円を、子ども銀行の貨幣のように、恭一は券売機に突っ込んだ。
十四時十分発走、スマホ画面のワンツーは、8番タイキラビリンスと7番アイアムブラザーだ。払い戻しと馬券購入の連続は忙しなく、今回は発売締切り直前で、馬券を握ってすぐの発走だ。競馬では、両馬とも五番手から直線を競り合う。恭一が息を切らして画面に食い入るのは忙しさに興奮が加わる。
そして、半馬身前に出たのがタイキラビリンスだ。こうなると感動などない、三人全員は、恐怖を感じた。
馬連7‐8は前のレース同じ12.7倍は偶然か。
「こんなことって……」
鈴は結果に絶句する。馨も驚きの表情で血の気が薄い。配当は1,483,360円で、所謂「帯封」だ。金額が百万円以上の場合は機械でなく、特別な窓口で係員の手から直接払い戻しされる。恭一は、驚きを隠すように、淡々と払い戻しの手続きをする。
「一点買いで、三連発は絶倫だ……」
恭一は軽口を絡め、札束が重いと唖然とする目を落とす。馨は運が良かったと、惚けた。三連勝より、未来から過去に投げ出された驚愕の事実を、鈴は改めて噛み締め、動揺を隠すように大きく数回呼吸を繰り返した。
「俺たちのいた世界に繋がってるかな。異世界でなくてさ」
馨が口端を、苦さを含め歪める。「今」が「元」と、どう関連しているのか、鈴は混迷を深めた。「今の世界」が単なる過去か異世界かは分からない。今のところ、時の流れは「史実通り」に動いているのか。そして恭一は、帯を纏う「福沢諭吉」を無造作に、馨が羽織るブルゾンの内ポケットにねじ込んだ。
「オマエの予想だし……」
口許を緩めた恭一は、配当金を全て渡した。馨の頬に冷や汗が伝わる。スマホ画面の「レース結果」は三レースで、「挑戦」は終了だ。
今日は、最高峰のG1レースである秋の天皇賞が、十五時三十五分に発走する。圧倒的なスピードで逃げ、六連勝したサイレンススズカの出走の影響は大きく、押し掛ける競馬ファンは一時間前でも増え続ける。
「そろそろ、買っておくか……」
恭一はスズカの単勝を、十万円買うと宣言した。
「金額とか配当じゃあ、ないんだよなぁ」
思いの籠った馬券か、サイレンススズカの勝利後にプロポーズを考えるだけはある。色々な思惑を含めて期待を膨らませる人間に、史実を知る馨は押し黙った。単勝を嬉々として、購入した恭一は、祈るように馬券に頭を垂れた。
十四時四十五分、五分後の第十レース「白秋ステークス」が終われば、次はいよいよ「天皇賞秋」を迎える。十五時三十五分の発送時刻は、一時間を切っていた。
場内のざわめきは直前のレースではなく、その先の決戦へ向けて、鈴を囃し立てる。他の観衆と同じく恭一も、気の早さを馳せる。
恭一は、気分良さげに「天皇賞はどうする?」と、競馬予想を促した。
「これから、パドックです」
馨は馬の下見所で、サイレンススズカの観察を主張した。実際、目にして、「事件」を変えるヒントを得たいと、鈴に囁いた。
「そうね。せっかくだから、スズカに会おうよ」
鈴が好奇心一杯の気勢と右腕を突き上げた。
「よし、行くぞ!」
馨が右手を叩き、ハイタッチで気合いを入れる。
この時に生まれていない鈴は、サイレンススズカを目にするのが嬉しく、興奮気味だ。会えないはずの名馬に対面は、興味津々は当然だ。その反面、パドックへは馨の「事件」への関与の思惑を抱いた行動だ。正直、「元の世界」への期待と不安が、鈴に入り混じる。
「パドックに行くんじゃあ。レースは、四コーナーで観れないな」
恭一が「せっかく、一緒にいるのに、」舌打ちの息が転がる。
昼より、場内の混雑は増していた。今いるメインスタンド内から四コーナーへは、五〇〇メートルの直線コースを逆に遡る。パドックは建物の外、正門の方向で更に遠い。身動きが厳しい状況で、何とかパドックへ行けても、四コーナーへの帰還は無理だろう。
「じゃあ、今日はお別れかもなぁ?」
恭一の残念な声音が、競馬場内の現実を呼び起こす。四コーナー付近の一般席で陽子と落ち合う恭一が、寂しそうに口を窄めた。
「今日は、そうなるかも知れません」
馨の表情にも、覚悟の影が差す。恭一はふたりと握手して「またな」と、手を振り別れた。鈴はこれが恭一との永遠の別れになる気がした。この時は。
恭一から離した手を握り合い、東京競馬場のメインスタンド建物内を、人を掻き分け、パドックを目指す。力強く引く手から痛みが伝わる、スズカの「事件」を、史実を変えるには、どうすればいいのか? との悩みも一緒に達する。
人の狭間を縫って歩むと、左手の出入り口、外の芝コースへの登り坂の通路に、違和感を覚える。
「あれ、何だろう?」
鈴が気付くと、隣では獲物に集中する猛禽のような鋭い視線。
坂の途中で、紺の制服を着た若い男が大声を出し、しゃがんでいた。
「警察官?……」
手を解き、馨が狙いを定める先に、焦りの声音を張る青年警察官がいた。若い彼は、ニキビの目立つ顔を幾度か上下させていた。慣れない制服に着られているのは、新人か。無線を片手に、大声で見えない人間に頭を垂れて謝罪していた。漏れ聞こえる言い訳は、上司からミスへの叱責に、告げていた。
見れば、腰のホルスターに銃が、浮いていた。まさに、ぷかぷかと漂う。しかも吊り紐も、海中で自由に泳ぐ海草の如く、揺らぐ。
馨が、すっと手を伸ばす。いとも簡単に握ると、シャツをめくり、腹に銃を押し込んだ。
流れる動作で、所有者ですら気付かない。
今の動きを終始見ていた鈴でさえ、一連の動きに声を上げる暇もない。馨は鈴の手を握り直すと、逃げるように現場を離れた。手首が痛い、興奮気味に引っ張られる。
足早の馨は、「今、方法を手に入れた」と、人混みの隙間を探すように視線を左右に振る。
鈴は、「それで、何をするの?」と背中に問うが、肩は怒りながら、再度、建物の内部へ突っ込んで行く。
何が起こったのか理解に至らない鈴は、自身の拳銃を盗まれても感じない未熟な若輩へ、視線を投げる。落ち着かない目線は、馨との間を交互に行き交う。心許ない口調の警官は、無線を片手に、未だ大わらわだ。申し訳ないが、始末書は確実だろう。心で謝り「ちょっと……」と背中を追う。
程なく詫びる姿が見えなくなり、本馬場とは建物を挟んで反対、パドックへと向かう。一体、馨は何を考えているのか、少なくともマトモではない。
だ が、パドックに近付くと、別な想いが鈴に擡げる。姿を現わすサイレンススズカを恋い焦がれるように、歩みを速めた。
メインスタンド屋内の右、外へ出て柱の脇に寄り、馨が止まる。ふたりで話は出来そうな場所だ。少し先には楕円形したパドック。中央の低い部分がコロシアムのような空間で、馬が姿を現す地点だ。すり鉢状の周囲では、サイレンススズカの勇姿を一目観ようと、黒山の人だかりだ。人混みが得意でない鈴が躊躇し、何か言いたい口を開け閉めする。
「サイレンススズカ、勝つちゃうのかな?……」
その瞬間、パドックに歓喜の響めきが広がった。サイレンススズカが現れ、闊歩し始めたのか。人々の血気が一頭の馬に集中して、勝利の期待が満ちていく。歓声に誘われ、鈴と馨は前へ向かうも、押し寄せる熱狂が津波として、小さい円形劇場を飲み込んで隠す。
人の群れを必死に掻き分けて来たのに、希望の星を見失った気がした。どうにもならない波濤を前にし、焦りを覚える。否が応でも「今の世界」、すぐ先にいるスズカに会えない現実が、挫折として迫る。思い通りにならない状況から、忌避したい想像が浮かぶ。
本体は嬉しいサイレンススズカの勝利、結果、陽子と恭一が結ばれたら、鈴と馨の未来は繋がらない。今まで、一緒に歩んだのにと、鈴が悲嘆を告げる。
「付き合って楽しいこと、一杯あった。消えちゃうのかな、足跡」
馨も物思いに耽る沈黙を携え、耳を傾ける。
「ケンカも一杯したよね。その時は、悲しくて苦しかった……」
「……でも。楽しみや苦しみを含めて、今がある」
苛立ちをぶり返す鈴は、波打つ人々を一瞥し、「みんな、なくなっちゃうのかな?」と、目を熱くして肩を振るわせる。
「いつまでも一緒にいたいよ。「ウマ娘」と週末競馬、馬鹿みたいに、ふたりで騒いで……」
鈴は小さな拳を作り、「何でなの?」と嘆き、彼の胸を何度も叩く。
「……普通の生活と未来が、なくなっちゃうの?」
「嫌だよ。みんな消えちゃうなんて、そんなの嘘!」
馨は痛みを堪えて口を閉じていたが、意を決して、宣言する。
「だから、何とかしなきゃならない」
馨は激白する。サイレンススズカの「事件」発生と、陽子と恭一のプロポーズ成立阻止、両方だと。
「陽子サンと恭一を別れさせる」
哀切以外に感じない顔を見て、馨は重い口で再び宣した。
「でも、どうすれば?」
鈴は子どもが親に縋る泣き顔で、見上げた。
人垣で見えない先では、様々な蹄の闊歩が増えつつある。次々と出走馬が現わし、周回を始めたようだ。ただ、パドック最後尾では、馬の歩みを聞いているだけだ。
人混みの中に、麗しき馬体が見え隠れするが一瞬垣間見ると、隠すように隙間が閉じられた。パドック最前列で勇姿を観たい欲望に駆られるが、人が固まり密着している。お目当てのスズカがよく見える、前方特等席への移動は、不可能だ。残念だと左右に首を振る馨が、仕方ないを零し、これからの説明を始める。
「『老欅』の『お導き』かは、分からないけど」と評し、「何にしても『史実』と違う結果を出して、未来へ戻る端緒を掴みたい」と、説示する。
「異世界でも何でも、『今の世界』からタイムスリップを起こしたいんだ」
熱い息吹が、降りかかる。
「サイレンススズカに何かするの?」
心配そうな鈴に、恭一と陽子のプロポーズ阻止が、優先事項だと言う。腹の異物を大事に押さえる馨が、パドックの人だかりへ目を注ぐ。
「心配しないで。スズカが、走り続けるためだから」
鈴は黙って息を飲む。確かに馨は必死だが、パドックで目標が見えない状況でも冷静に努めている。そして、サイレンススズカの「事件」を知る馨は、作戦と実行する覚悟があるという。
「決して、スズカを殺しはしない」
「断じて、誓う!」馨は約束を違えたら「命だって、差し出してもいいんだ」真剣な声。
「そして、俺たちの親はあるべき所に納まって、鈴と一緒に『元の世界』へ戻るんだ」
その発端だよと、握り拳を二つ作り、上下に振った。横顔を見る鈴に、真摯が現れる。
『お前たちがいた世界は、いるべき場所だ』
鈴の脳裏に『老欅』の励ましが響き、『そして、いるべき場所は、変わりはしない』
声音は一度途切れ、鈴の意思を確かめるようだ。
「信じて、みます」に『それでいい』が響いた。そして、鈴は真顔の男を、捉えた。
「分かったよ。馨」
「史実を変えるは心配なんだけど……」と口ごもるも、「信じてみるよ」と、呈した。
「鈴……」
馨は恋人の名を告げ、絶句した。あれだけ史実への介入を嫌がる鈴の変貌が、胸に響いたのか。彼の顔色が上気した。確かに「今の世界」の流れに抗い、自らの手で運命を切り開くのだ。史実への介入が、「元の世界」への道筋かも知れない。
迫り来る「事件」、変えるのも、『お導き』なのか? 『お導き』だとすれば、『老欅』の目的は何なのか? 果たされるのか? 達成した時、鈴たちは本当に「元の世界」へ戻れるのか? 正直、疑問は湧く。しかし、銃の入手が偶然とは思えない。
今まさに、方法を手にした状況。少々、乱暴になるかも知れない、が。馨は「スズカが将来も走り続ける」と言明した。
馨の決意とは裏腹に、パドックでは馬が一頭、また一頭と本馬場へ向かい、去っていく。気が付けば、無情にも近付けなかったスズカも消えていた。何かをしようとするアプローチも終了か。
ただ、今の状況も『老欅』の『お導き』と思い、鈴は従い、受け入れる。しかし、スズカはパドックにはもういない。一体、馨はどうするつもりなのか? これがどのような結果なのか、今は、誰にも分からない。
「第一コーナーに、行こうか」
悩む鈴の肩が軽く叩かれ、現実へと意識が戻る。
「第一コーナー?……」
葛藤のなかで、反芻する鈴。これから行く場所は、最後の直線、決勝ゴールの激闘が終わった先だと、馨が言う。
なぜ、そこへ移動するのか? 観戦するなら恭一のいる第四コーナーで、直線入口での攻防がよく見える一般席に戻らないのか? 次々と疑問が口から衝いて出るが、馨は無言で鈴の手を引き、人の間を縫って、混雑する場内を強引に進む。
天皇賞秋は、東京競馬場の芝二〇〇〇メートルだ。奥ポケットから発走の左回り、第二コーナーを経て向こう正面へ至る。競馬としては、直線のゴールを過ぎた場所だ。
走る馬の姿がよく観える訳でもない。そのせいか、人混みは緩和され、狭間を少しは楽に歩めるが。レースとは直接、縁の薄い場所への疑問が、鈴の後ろ髪を引く。
「何しに行くの?」
鈴は、素朴な不安を握る手へ投げる。
「返し馬、だよ」
本馬場入場後に馬や走路の確認を含めた、出走直前のウオーミングアップだ。馨は、コースに入った馬を見る絶好ポイントへ行くと、誘う。レースに挑む馬が、周回と同じ左へ返し馬をするなら、第一コーナーへ向かう。そのコーナーで左へカーブする手前、ターフとスタンドが接近する所があり、外ラチ沿いの馬がよく見える。
そう評する馨は背中を見せ、急ぐ。腕時計は十五時二十五分、天皇賞秋の出走十分前だ。第一コーナー手前の外ラチ近くへ、何とか到達する。最前列まであと僅か。
だが、そんな特等席が空くとは鈴には思えない。芝コースを直接観る絶好ポイントを確保する競馬ファン、徹夜組に違いない。しかも、後十分もすれば苦労が報われ、勝利馬のウイニングランを遮るものなく迎えられる。絶対に離れたくないポジションだ。
その最前列にいるカップルが、口論を始める。感情の投げ合いを何事かと、様子を伺うと、目を吊り上げて赤鬼になる女性が、不意に反対を向き、歩き始めた。焦りを叫ぶ男が後を追う。馨と鈴は空いた場所に、パズルのピースの如く、すっぽりと納まる。少し高い位置にある平たい手すりが鈴の胸に当たると、言い争う男女の声が消えていく。まさに、絶妙なタイミングだった。
馨が手を欄干越しに示すと、鈴も目を遣る。
真っ直ぐな直線に、緑の絨毯が敷かれていた。左手の柵がストレートに地平線を突き刺し、競馬ファンの雄叫びと熱気を押し留めていた。柵を境として右側、東京競馬場の芝コースが主役たちを待ち焦がれて静かに佇んでいる。直線は五〇〇メートル超の存在感が、レースを今は未だかと、迫っていた。
熱戦の最終舞台、サイレンススズカはどのように駆け抜けるのか? この素晴らしいターフ、四コーナーまで遠望する鈴に、期待が浮かぶ。だが、馨は厳しい表情だ。この直線を嫌う、苦々しさを湛えていた。今いる第一コーナー、口を固く噤み、何かを待ち構える。鈴は、返し馬を見て、何をするのか? 怪訝そうな顔を覗かせた。覚った馨が口を切る。
「サイレンススズカを銃で、撃つ」
「えっ!?」
息を詰まらせる驚きは想定済みと、説明を続ける。
「この拳銃で、蹄へ発砲する!」
馨は、海外で実銃を撃った経験があると、自身を奮起させる。Tシャツの下で隠し持つ、拳銃を握る手が汗ばむのが伝わる、固い声だ。
「この第一コーナー手前」でと、馨は作戦を披露する。
「スズカが外ラチ沿いで、返し馬をする。大歓声のなかで、だ……」
出走馬を待つ時でさえ、叫びが飛び交う状況だ。馬が、スズカがターフに姿を現わしたら、そして目の前を通り過ぎたら、興奮は絶頂を迎えると予測した。
固唾を飲む鈴が次を待つと、「……地響きが続く、そのタイミングだ」が耳に触れる。
「前脚を狙撃する。蹄を傷付ける、」
スタンド最前列で陣取る馨、通り過ぎる時がチャンスだと、明言する。出走馬を迎える大歓声が味方し、喧騒が全てをかき消す。銃声は聞えず、コトを荒立てても逃げられると、値打ちを踏んだ。
装鞍所やスタート地点での襲撃も考えた。だが、関係者でない人間が、狙撃地点を探すのは不可能で、陽子を巻き込むのは、躊躇した。説明し、納得して貰う時間が短か過ぎる。仮に装鞍所やスタート地点へ行き狙撃しても、逃げられない。武道に通じる馨の身体能力を持っても、警察官や警備員、柔道の段を有するJRA職員らには、多勢に無勢だ。
異世界の人間として、警察に捕まったら面倒だ。来歴を正直に説明しても、狂人の扱いを受けるだろう。そんな屈辱は避けたいのが、馨の本音だ。レースに関係の薄い第一コーナーなら、警備員らに見咎められるリスクはあるが、出走馬と関係者が集う装鞍所などに比べれば監視は緩い。一気に説明した馨に、鈴が問う。「それは、どういう……」意図なのか? との質疑を封じ込めるように、言葉を重ねる。
「目指すは、発走除外だ」
スタートする前、蹄を傷付ける。ひび割れた爪なら走れない、蹄は時が経てば伸びると、評した。除外なら、四コーナーでの「事件」も避けられる。
「今さっき、方法を手に入れたしな」
馨は右手で銃を隠し持つ腹部を触った。
「ねぇ、馨。銃でスズカを撃つの?」恐々とした鈴は、馨の瞳を覗き込む。
「今のスズカにとって、ベストな選択さ」
銃撃を否定しない馨に、口を曲げる鈴は黙り込む。
「もちろん、俺たちにもと、考えている」
「本当に大丈夫なの?」
鈴は人込みを厭わず、背伸びして迫る。身を乗り出す彼女に、落ち着いてと両手を向けて、説明を続ける。
「サイレンススズカの天皇賞制覇。興奮と高揚がなければ、プロポーズは成立しない」
成就には優勝という勢いが必須と、馨は評した。プロポーズに躊躇する恭一は、勝利に酔う驚喜が必要と、若き日の父親を想定した。男性として、些か線が細い性格からと、推し当てる。仮に勢いがない状況で告白しても、冷静な陽子は受託しないと、馨は顔に力を込めた。
今日が何事もなく終わったら、僕は父さんに「現実を直視しろって、母さん、由美サンと結婚しろ」と進言する。笑みを浮かべる馨が、ウインクをくれた。
銃で蹄を傷付けての発走除外、偶然に銃を入手した時に閃いた、と、振り返った。実際、銃を使うのは周囲を巻き添えにし、命に関わる危険を孕む。
都合良く蹄を傷付け出走回避など、果たせるのか? 鈴が疑念と懸念を示しても、運命の歯車が回っているのか。馨の顔と意志は固そうだった。
「発走除外。『史実』と異なる結果で、未来へ戻る契機を創り出したい」
緊張の面持ちで、銃を秘めて時を待つ。まさか、周囲に銃声が聞こえないとは思えないが、これも『お導き』と、鈴は黙り込む。ただ、鈴は「史実」を未だ知らない、ネガティブなのは感取しているが。
各馬が本馬場に姿を見せると、オクターブ高い嬌声が沸き上がる。熱望の嵐が吹くなか、ある馬は走り始め、別の馬はゆっくりと歩み、各馬が思い思いの返し馬を始めた。ゴール付近から、並足で馬場を確かめて歩む栗色の馬が、目に入る。
サイレンススズカは、日を浴びて黄金色に輝く鬣を振り、気合いを押し留め、首を胸に打ち付ける。鶴のように首を下げ、優美な馬体を誇示し、外ラチ一杯をゆっくりと歩む。段々と鮮やかな山吹色が、鈴の瞳で大きくなる。
もう少しで、狙撃だ。Tシャツの中に隠した銃の撃鉄を引き上げる音が、軋む。過去に射撃の経験がある程度で、的確に蹄を撃ち抜くのは困難が、口から落ちる。
「ねぇ、馨。蹄なんか、体良く狙えるの?……」
心配そうに眉を歪めた鈴が、本心から訊く。
「さあな」と口ずさむ馨は、「違和感を覚えさせる目的もある」とも、淡々と添えた。
繊細なサラブレッド、少し怯むだけでいい。鞍上の騎手が何か緊張を感じるのでもいい。要は違和感を覚えさせ、結果、レースでスピートを少しは抑えればいい。
スズカ一番の武器にして、「ガラスの脚」と称されるサラブレットの爆弾ともなる諸刃の剣、スピード。走る速度が遅くなれば、「事件」が発生する確率も低くなる、が、馨の読みだ。影響が有るのか無いのか、分からないし、どうなるのも、定かでない。馨の行為は、素人の自己満足かも知れない。「大丈夫なの?」と心配を向けると、「やらないよりましだ」と、馨が遠くの栗毛馬を見据える。
サイレンススズカが返し馬を開始する。観客に近い外ラチ沿いを確かめ、並足よりゆっくりと、歩み、止まる。まるで今を名残惜しみ、緩やかに歩む。異郷に赴く旅人が、親友と最後の別れを告げるべく、競馬ファン一人一人への挨拶のようだった。スタンド前に一番人気の出走馬がいるためか、観衆の声援は響き続ける。
再び、スズカが脚を運び、直線を第一コーナーへと向かう。彼が通り過ぎる場所ごとで、大歓声が沸き起こる。
「手元の五発で決めるしか、ない」
躊躇の唾を呑み込み、他に考え付く方法がないと、馨は銃を握り直し、吐露した。
少し先の直線コースが、ざわつき始めた。サイレンススズカが第一コーナーに近付くと、周囲のボルテージが一気に上がる。隣の馨、心音が速く大きくなるのが息遣いで、分かる。ここまで緊張した馨は初めてだ。
芝を蹴る蹄の音が徐々に迫る。姿が大きくなる栗毛馬、右の前脚の蹄を馨が狙う。栗色の美しい馬体が徐々に接近すると、ほんの前に位置する競馬ファンの歓声と嬌声が混じり合う。黄金を纏う秀麗な馬体が全容を現わした、その瞬間。皆は目した馬の勝利を確信し、祝福する歓呼の暴風が沸き起こる。
馨は銃を取り出し、蹄へ照準を合わせ、引き金に指を掛けた。
サイレンススズカ。
素晴らしい栗色の曲線を輝かせ、悠然と歩む。優美な背中が、神々しい。
「美しい」
その形容しか、思い付かないと、鈴は感動を溜息に変えた。
馨は銃を握り締め、強ばる。大きく息を吸い込み、何かを振り切るように目を見開く。右腕を伸ばして照準する。鈴は固まって、動けない。
黒鉄が光を放ち、反動で銃口が上下に震えた。一回、二回、三回と腕が蠢き、発砲音は観衆の歓喜に飲み込まれ、消えて行った。鉛玉は螺旋を描き、次々と右前脚の蹄と向かう。
時が止まる寸前のように、鈴は間延びを感じる。だが、銃弾は次々と、ターフに突き刺さり、土となる。素人の当てずっぽうな射撃など、命中しない。無念にも地面にめり込むのに、鈴は不思議と安堵を覚えた。
だが、四発目でスズカが少し怯み、一瞬立ち止まる。鈴の目前で、麗しき馬体を自慢し佇む。見せびらかすように、栗毛馬は頭を一、二度左右に揺らし、鈴へ向く。
サイレンススズカと鈴、初めて出会った両者は一目で恋に落ちた。
彼我の差は、二メーター。見詰め合う一頭と一人。
「魂が、奪われる……」
最高の賛辞を口にすると、魔法が解けたサイレンススズカが歩き出した。歩みを進め、彼は栗色の四股を繰り出すと、悠然と加速し、駆け足で第一コーナーから第二コーナーへと消え去った。
終わったとばかりに、馨は銃を腹とズボンの間に、急ぎ隠す。周囲からは、カメラを構えていたとしか、思われていないだろう。誰も見咎める者は、いなかった。失敗しても、彼は努めて冷静だった。
鈴の胸に『老欅』への疑問が湧く。蹄を傷付けて、ゲートインの阻止は叶わなかった。『老欅』は、サイレンススズカの出走を選んだのか? 出走するなら、なぜ、失敗する襲撃を馨にさせたのか? 得体の知れない不思議が、鈴の顎を突き上げる。『老欅』は何を考え、鈴と馨に、何をさせるのか?
晴天を恨めしく見上げる鈴の胸に、疑問の雲が厚く渦を巻き、蠢く。
「行くぞ、鈴!」馨が踵を返し、鈴の手を誘う。
「どこへ行くの?」には「四コーナーの一般席だ」が返る。
こんな大混雑、身動きが取れないと思っても、馨が強引に突進する。不思議な状況で、馨と鈴が通ると、人の塊に隙間が出来る。ある者は背を向け、ある者は横を向く。馨は、僅かに発生した間を縫い、前へ前へと器用に進んで行く。鈴が一歩後に通り過ぎると、傷口を塞ぐように通り抜けた間隔が、埋まる。
馨に、いや『老欅』に導かれ、競馬場のスタンド前を通り抜ける。目指すは天皇賞秋、クライマックスを迎える四コーナーだ。何もかもが、自然な流れだ。誰からも非難はなく、奇跡的に目的地へ歩みが進んでいた。
この物語は空想のもので、登場人物・組織・事件等はすべて架空のもの(フィクション)です