モブNo.96:「子供の頃から躾(しつけ)てきたから使い勝手がよかったのよね。壊れてないならまた使えるかしら?」
船を停泊させてた後に一休みしようとした時、集団全体に連絡が入った。
『新たに配下に加わった者達は、いますぐ中央の船に集合するように。繰り返す。新たに配下に加わった者達は、いますぐ中央の船に集合するように』
連絡というよりは放送だなこりゃ。
その放送に従い、中央の船に集まると、船内のホールに案内された。
そのホールにはステージのようなものがあり。その上には数人の人影があった。
するとその中の若い男性が前に出てきて、
『よく集まった!俺が大海賊エンリケだ!今は海賊だが、いずれ俺は皇帝になる男だ!俺についてくれば栄耀栄華は思いのまま!お前らの将来は薔薇色だ!』
と、大きな声を上げた。
その若い男性の顔をよく見ると、あれは間違いなくヴァストーグ元侯爵子息のエイブルス・ヴァストーグに間違いなかった。
あれは間違いなくルーナ・エリーラ嬢(仮名)こと、ファディルナ・プリリエラ嬢にろう絡されたね。
あとあの後ろにいるのはヴァストーグ元侯爵夫人のクローネリア・ヴァストーグ夫人かな?
そしてそのとなりに居る人物を見て、僕は思わず二度見をしてしまった。
ヴァストーグ夫人の横にいたのは、ルーナ・エリーラ嬢(仮名)こと、ファディルナ・プリリエラ嬢の弟であり、彼女に裏切られた、ヒーロー君ことユーリィ・プリリエラ君だった。
彼は先だっての事件が原因で色々あって、お姉さんとは絶縁したって話だったんだけど…。もしかしたら彼以外にも弟か兄がいたのかな?
まあこれでルーナ・エリーラ嬢(仮名)は、ファディルナ・プリリエラ嬢である可能性が跳ね上がったお。
その夜は何故か盛大な宴会が行われることになったので、適当に抜け出してローンズのおっちゃんにメールで連絡することにした。
見られた時の事を考えて用意されていた文章は『
だけど、手に入った情報を加算して、
『
という内容にした。
するとおっちゃんからの返しも、本来は『なん日の○○時には連絡着くぞ』だけだったけど、
『現在別宙域で海賊退治にいってる。明日の昼1時には連絡つくぞ』
と、ユーリィ君の居場所を教える内容になっていた。
ちなみにユーリィ君の情報を省くと、明日の昼には警察と軍隊がくるということになる。
それにしてもあのユーリィ君はどういう事だろう?
まあ普通に考えればユーリィ君以外の兄弟。もしくはただ似てる人。別人の整形手術。顔をそっくりにした
意外なところとしては、姉本人、もしくはユーリィ君のクローンなんてのがあるが、クローンは法律によって禁止されている。しかし裏の業者に依頼すれば製作してもらえるので、有り得ない話ではない。
もしかしてユーリィ君自身彼女の性別変更したクローンじゃないだろうな…。
ともかく今晩は大人しくしておこう。
と、思っていたのに、夜のうちにとんでもない事件が起こってしまった。
この前の反乱軍鎮圧で戦果を挙げれず祝勝会に呼ばれなかったものの、傲慢貴族許すまじといった主人公君気質な人達が、全員が寝静まった時間を見計らって、首謀者を捕縛するべく潜入したは良いものの、発見されて
知らなかった事にして寝ていたかったけど、奥の船が脱出しようとエンジンを回し始めたので、慌てて僕も船を発進させた。
もちろん僕以外の連中も慌てて船を発進させて、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
そして僕と同じように入り込んでいた傭兵は暴れ始めた彼等に便乗し、ヴァストーグの主力部隊との戦闘を開始していた。
本来なら僕も参加するべきだけど、一つだけ懸念があったので、少し離れたところから現場をみつめていた。
すると案の定、混乱する現場から、一機の戦闘艇が逃げだした。
僕はそれが宇宙空間にでるまでこっそりと後をつけ、宇宙空間に出て重力から離れたのを確認してから、その戦闘艇のノズルとエンジンを軽く撃ち、機体を停止させようとしたのだけれど、さすがに気が付かれてしまった。
『私になにか用かしら?』
「傭兵ギルドの者です。貴女にも、ヴァストーグ元侯爵親子の配下という事で逮捕・勾留の必要性がありますからね」
という僕の言葉に、
『私は脅されていたの!従わないと弟を殺すって!』
彼女は直ぐ様悲しそうな表情を作り、『私も被害者なの!』ムーブをかましてきた。僕をろう絡して逃げ仰せるか、同情させて味方にしたいんだろうね。
「にしては…弟さんの姿がみえませんね?脱出するならチャンスだったでしょうに」
『弟は…私を逃がすために囮になってくれたのよ…』
彼女は目を伏せて悲しそうに話すけれど、胡散臭さしか感じない。
「なるほど。とはいえ海賊行為に協力していたのは事実ですから、大人しく逮捕されれば、脅されていたことからも罪は軽くなると思いますよ」
よしんば彼女が本当に脅されていたなら、情状酌量は考えてもらえるかもしれない。なので大人しく逮捕された方が、嫌な言い方だけど『得』だ。
『でも…もう1人の弟は今の医学でも治療が難しい病気にかかってるの!その子のためにも捕まるわけにはいかないの!お願い!見逃して!』
しかし彼女はそれも嫌らしい。
「残念ですが。そうはいかないんですよ。関係者は全員捕縛しないといけないので」
全員は嘘だが、中心人物は確実に捕縛しないとだめだろう。
すると彼女は深くため息をつき、
「どうしても見逃してはくれないってのね…。普通私みたいな美人が懇願すれば、見逃したりかばったりするのか当たり前でしょう?あんたみたいな不細工はブヒブヒ言いながら私の為に全てを差し出して絶対服従する事でようやく1クレジットくらいの価値がでてくるのに、断るってどういうこと?意味わかんない!」
顔つきも口調も変わり、僕に対して苛立ちをぶつけてきた。まあ本性はこんなものだろうと推測はしていたので驚いたりはしなかった。
「犯罪者を庇ったら罪になりますからね。普通はやりませんよ」
「私は犯罪者じゃないわ。海賊をしていたのはあの貴族の坊っちゃんと母親よ!私はあの惑星で待ってただけだもの!」
彼女は悪びれる素振りもなく、自分は無罪だと言いきった。
たしかにヴァストーグ元侯爵母子は違法行為をやりそうではあったけど、知恵を貸したり人員を集めたりしたのは貴女ですよね?
「そう言えば夫人の横にいたのは弟さんですか?」
「あああれ。アンドロイドよ。私の弟に似せて作ったね」
「ユーリィ・プリリエラ君にですか?」
「弟を知ってるのね」
「有名になっちゃいましたからね」
なるほど。それなら納得できる。
そしてその姉、ファディルナ・プリリエラ嬢からは信じられないセリフが飛び出した。
「子供の頃から
どうやらユーリィ君は、この姉の弟に生まれた事自体が災難だったみたいだね。今は弟に見限られてるのを教えても面倒臭いし信じないだろうから言わなくていいかな。
「ともかく大人しく逮捕された方がいいと思いますよ?」
無駄だとは思いながらも、最後通告をしてみた。
「笑わせないで。私はこう見えても
が、もちろん無駄に終わり、彼女は急旋回をして僕に襲いかかってきた。
彼女は
でも焦りがあるのか、動きがすごく読みやすくなってしまっている。
そして隙をついてノズルを破壊して大人しくさせようとした時に、別方向からビームが走り、彼女の船に直撃した。
書籍化にあたり色々悩み中です
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします