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モブNo.:95「よお。割りのいい仕事があるんだけど…やってみる気ねえか?報酬はがっぽり!将来も安泰だぜ?」

 小惑星帯都市(アステロイドシティ)でフィルデルド・ヴァストーグ元侯爵の妻子の情報を集めるために、高級ホテルや大きな小惑星を探し回ってみたり、怪しげな酒場を回ったけど微塵も情報がなかった。

 これは、ここには潜伏していないんだろうな。

 潜伏しているなら部下も一緒だろうから、そいつらの痕跡だって必ずある筈なのにそれすらない。

 それなのにこの近くでよく目撃されているのは何故なんだろう?

 もしかしたらこの近くに基地でもあるのかなあ?

 そんなことを考えながら、成果のなかった小惑星帯都市(ここ)から離れるために、駐艇場(ちゅうていじょう)に向かっていた時に、怪しい男に声をかけられた。

 その男は明らかにチンピラという風体だったが、武器だけは妙に高額(たか)そうなものだった。

「よお。割りのいい仕事があるんだけど…やってみる気ねえか?報酬はがっぽり!将来も安泰だぜ?」

 男は爽やかな笑顔を浮かべているけど、胡散臭いの極みでしかない。

「いやいや怪しいでしょそんな話」

「大丈夫だって。自分の船があれば簡単だって。お前も職にあぶれてかつかつなんだろ?わかるぜ」

 ナイスガイみたいなこといってるけど、怪しすぎでしょう。

「まあ…芳しくはないですね…」

 と、神妙な顔をして話に乗ってみた。

「じゃあ決まりだ!明日の朝6時にこのポイントにきな。遅刻は厳禁だぜ!」

 男は僕の腕輪型端末(リスト・コム)に宇宙空間の座標を送ってきてすぐに立ち去っていった。

 その時「よし!ノルマまであと3人!」とか言いながら足早にさっていった。

 僕は船に戻ると、ローンズのおっちゃんを通じて警察・軍隊に連絡をいれてもらった。

 すると警察と軍隊から、腕輪型端末(リストコム)にGPSのアプリケーションを入れて、その連中と接触することを指示される。監視されているようで嫌だけど、ことわると怖いので了承した。終わったら買い換えかな。


 そうして翌日、指定のポイントに向かうと、そこにはかなりの数の船があった。ざっと見て中型以上は100隻、小型は200機はありそうだ。昨日の男1人では集めるのは無理っぽい数なので、どうやら勧誘員はあの男以外にもかなりいっぱいいたらしい。

 すると一隻の船があらわれ、一斉通信が入った。

『おまたせしたわね』

 画面(モニター)に現れたのは若い女性で、よくいる『超有能女性ビジネスウーマン』といった格好をしていた。

『集まってくれてありがとうございます。私はルーナ・エリーラ。ある貴族様の依頼で人材を集めています。今回の募集でこれだけの人数が集まってくださったのは嬉しく思います』

 ルーナ・エリーラ嬢は満足げな笑みを浮かべていたのだけれど、僕はその顔に見覚えがあった。

 最初は髪型や化粧や服装で分からなかったけど、あれはヒーロー君ことユーリィ・プリリエラの姉、ファディルナ・プリリエラ嬢ではないだろうか。

 そう思ったのは、本人を見た事があったのと、手配書にある顔の造りが一緒だったからだ。

 しかし他人の空似ということもある。

 過去の事例に、捕らえて調べてみたら、似ていただけのまったくの別人だったという話もあるから慎重にいかないといけない。

 まあそもそもこの状態では手は出せないけどね。

『それでは皆様。今から仕事の拠点に向かいます。私の船に付いてきてくださいね』

 そういって集まった連中を従え、小惑星帯都市(アステロイドシティ)から5億㎞ほど離れた、なにもないエリアにやってきた。

 何をするのだろうと考えていると、

『では、このまま真っ直ぐ進んでくださいね』

 と、言うと同時に彼女の船が進んでいくと、円形の光が現れ、彼女の船の先端部分から少しづつ消え始めた。

 これは、いわゆるゲートを通るときの現象だ。

 通常ゲートは自然の状態では円形をしているが、ゆらゆらと形が安定しないし、場合によっては閉じてしまうことがある。そこで安定盤を使って安定させるわけだが、このゲートには安定盤がない。

 安定盤は政府が管理するゲートには必ず設置されている。つまり、このゲートは政府が存在を知らない、もしくは政府が管理していないゲートということだ。

 そのことから考えると、ルーナ・エリーラ嬢(仮名)なりヴァストーグ元侯爵母子なりが、ゲートを発見したということになる。

 しかも目撃情報などを考えると、ここ以外にももうひとつ、向こうからこちらにくるゲートがある筈だ。

 通常ゲートをひとつでも発見して政府に報告すれば、莫大な褒賞金がいただける。

 貴族なら陞爵(しょうしゃく)する場合だってある。

 それを報告しなかった場合、犯罪に使用される恐れがあるとされ、罪に問われて場合によっては逮捕されてしまう。

 また、褒賞金をもらう事で身の危険を感じ、報告はしても褒賞金を受け取らない人もいる。

 そんなことを考えているあいだに、ルーナ・エリーラ嬢(仮名)がゲートの向こうに消えていった。

 集められた連中も、その後を追って次々とゲートに突入していく。

 僕はGPSを起動している腕輪型端末(リスト・コム)をチラリと眺めてから、ゲートに飛び込んでいった。


 惑星ラシルバート。

 惑星の約8割を占める陸地のほぼ全てを、高さ60mを越える高木(こうぼく)や一面に生い茂る低木(ていぼく)などが密集している熱帯雨林(ジャングル)に覆われ、平原は極端に少ないものの、大気成分・重力・自転公転の周期・先住知的生命体の不在などの点もクリアしている居住可能惑星である。

 しかし、この惑星の原生生物は巨大で獰猛なものが多い上に、繁殖力も高くその数もあまりに多く、対策して生活するにしても殲滅するにしてもコストが凄い事になるため、完全に放置されている惑星だ。

 ちなみにハンターアクションゲーム『クリーチャーハンターシリーズ』の世界観のモデルといわれている。


 小惑星帯都市(アステロイドシティ)近くにあるゲートの先は、この惑星ラシルバートだった。


 ゲートからラシルバートに向かう彼女と、彼女を追走していた連中は、ゆっくりとした速度で海の方に向かっていた。

 そうして海岸線に到着すると、

『ここから海面スレスレまで下降してください』

 と、指示がでたのでその通りにすると、上から見た時は熱帯雨林(ジャングル)だったのに、海面からみると巨大な天井があり、その下に100隻以上の中型以上の船が停泊していた。

 どうやら海の上に艦隊を停泊させ、天井に熱帯雨林(ジャングル)立体影像(ホログラム)を投影してカムフラージュしていたらしい。

 たしかにこれだけ熱帯雨林(ジャングル)があれば、違和感なく増えていれば誰も怪しまないだろう。

 水上なら原生生物の襲来も少なくなるしね。

 まあここには水棲の巨大原生生物もいるから油断は出来ないけど。

 僕達はその空いている所に誘導され、浮くものはそのまま、難しいものはフロートを装着して停泊していく。

 僕の『パッチワーク号(ふね)』は幸い浮くことができたので、すぐに出発できる端っこに停泊させた。

主人公みたいな潜入になってしまいましたが、モブは派手な活躍はしません。


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