モブNo.94:「年寄りの人生経験と女の勘さね。入れ知恵したやつは、息子になら女。母親なら男だね。息子の方は簡単だろうし、母親のほうはいくつになっても女だからね。いけめんには弱いもんさ」
ゼイストール氏の買い物に付き合った翌日。僕は傭兵ギルドに来ていた。
本当ならもう1日くらいは休みたかったのだけど、時間をもて余してしまう感じがしたので、依頼だけでも見るつもりでやって来た。
「なんだ。もうすこし休むんじゃなかったのか?」
ローンズのおっちゃんは本当に意外そうな表情で、カウンターに座った僕を見つめてきた。
「なんか時間もて余しちゃってさ。依頼は何かある?」
「あるぜ。というかギルド全体に捜索強化の指示が出てるのがいる」
「なんなのそれ?」
「先だっての反乱の首謀者、フィルデルド・ヴァストーグ元侯爵の妻子が、かなり派手に暴れていてな。かなりの戦力を持ってるらしい。下手すれば惑星一つ奪いかねんらしい」
おっちゃんは資料を提示しながら、捜索強化の内容を話してくれた。
「なんで処罰を受けた没落貴族にそんなに戦力があるわけ?」
まあ、財産を没収される前に離婚して分配しておけば出来なくはないのか。
「予備戦力として領地に残していたらしい。まあ、呼び寄せる前に、第7艦隊の虎の子に壊滅させられたんだろ?」
おっちゃんは資料を見ながら、ざまあみろという表情をしていた。
その虎の子は、意思のある古代兵器のゲルヒルデさんに間違いなく、これで第7艦隊に敵はなくなったね。
それにしても誰がゲルヒルデさんを射止めたんだろうか?出会った時の雰囲気から考えると、気に入られるのはなかなか難しそうに思うんだけど。
「ともかくこいつは目撃情報だけでも協力金がでるから積極的に頼むぜ」
周りを見渡すと、他にも大勢が捜索に向かうらしく、軽く盛り上がっていた。
じゃあ僕も行くだけいってみますか。目撃情報だけで協力金がいただけるならありがたいことだからね。
とはいえそれなら長丁場になる。一旦自宅に戻って食料や着替えやラノベやアニメのデータカードを用意しないとね。後はゴンザレスや占いの婆さんに情報を貰っておかないとね。
普通の商店街は、皇帝陛下の勝利を称えて浮かれているのに対して、闇市商店街はいつもの雰囲気を保っていた。
ちなみに
その匂いに耐えつつも、
そしていつも通り1時間ほど待ったあと、ゴンザレスからでたのは意外な言葉だった。
「使用しているらしい艦船の制御関連を探ってみたけど、詳しい場所は分からなかった。取り敢えず判明したのは大体の出現場所と、その周囲の潜伏場所になりそうなところだけだ。かなり強力なプロテクトをかけているか、そういうのに頼らずに船を動かしているか。だな」
なんと、
とはいえ何にもない状態よりはマシなので、料金を払い、店を後にした。
そうして次は占いの婆さんに聞いてみたところ、
「残念だけどわからないね」
と、ばっさり返されてしまった。
「そもそもヴァストーグ元侯爵母子に、こんなに高度な隠蔽手段なんか分かるはずもないし、できるわけもないさ。多分入れ知恵したのがいるよ。そうだね、恒星オデュドの
そういって手を出して見料を要求してきた。
「確実な情報じゃないよねそれ」
「年寄りの人生経験と女の勘さね。入れ知恵したやつは、息子になら女。母親なら男だね。息子の方は簡単だろうし、母親のほうはいくつになっても女だからね。いけめんには弱いもんさ」
そう笑う婆さんの表情は、やっぱり童話にでてくる 魔女にしか見えなかった。
翌日僕は、海賊となったヴァストーグ元侯爵母子を探すべく、惑星イッツを出発した。
まず僕が向かったのが、占いの婆さんの話とゴンザレスの情報にもあった恒星オデュドの惑星軌道上にある
以前の惑星ネゴラの『採掘基地』は船とコロニーが主体だったけど、ここは改造小惑星が主体で、規模は10倍くらいになっているし、様々な船舶も数多く停泊しているため、潜伏先としては理想的なところであり、数ある目撃地点から一番近い所だった。
まずはここで一番巨大な小惑星に向かうことにした。
この巨大な小惑星は『中央岩』と呼ばれる
ここ以外にも、そういう場所は沢山あり、人が生活するところには必ずこういった店はついてまわるものだ。
ちなみにここは、昔は違法だったが今は合法になったためにちゃんと住所が存在する。が、それでも犯罪者の潜伏場所としては理想的なスポットだ。
僕は『中央岩』の
前回は風俗関係を探って見つけることができたけど、占いの婆さんの言っていたことをふまえると、息子の方には女性がついているかもしれないから期待は薄い。
まずはどこから探していこうと考えた結果、取り敢えず向かったのは、情報収集のための定番、酒場だ。
とはいえここは公共機関がある場所なのもあってか、ヤバそうな雰囲気はなかった。
しかも僕がここに到着した時間が夕方を少し過ぎた時間だったために、街中は肉体労働のおっちゃん達やサラリーマンの兄さん達、OLさんや学生さんたちがいっぱい行き交っていた。
しかたない。今日はここでなんか食べて、本格的な捜索は明日からにすることにしよう。
そうして僕が向かったのは、いわゆる居酒屋だ。
普段からアルコールをあまり飲まないので利用することはないけど、普通に食事ができるメニューもあるからありがたい。
そうして食事をしながら、明日からの捜索プランを練り始める。
こういった潜伏場所でああいった貴族を見つけ出すヒントとしては、派手な生活をおくっている人物を探ることだ。
前回のホチコルド元伯爵母子はまさにそうだったけど、今回もそうとは限らない。が、捜索しておく意味はある。
なのでまずは高級な宿泊施設を回ってみる事にする。
とはいえ、そういったところは
取れる手段としては、ゴンザレスに連絡をとって宿泊者名簿を調べてもらうくらいか。金はかかるけどそれがベストかな。元侯爵が選びそうなところをチョイスしてから頼んでみよう。
それがダメだったら、次は住宅かな?かなり広そうな
主人公だったら、向こうから都合よくターゲットがやって来て1日で解決して傭兵ギルドから大喝采でも受けるんだろうな。
そんな事を考えながら注文した焼き鳥を食べ、烏龍茶を傾けた。
明けましておめでとうございます。
この度、皆様からのご支持のお陰もありまして、オーバーラップ文庫様から書籍化のお話をいただきました。
現在書籍化作業中のため、更新が滞ると思います。
これからもよろしくお願いいたします。
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