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モブNo.93:「すみませんねウーゾスさん。買い物に付き合わせちゃって」

 警察に連行される間、夫人が寝たままだったのはありがたかった。起きてたら、それはそれは(やかま)しかったにちがいないからね。

 手続きを終えたあとはとりあえず中心街区画(メインエリア)にもどり、屋台の焼肉屋で食事をしてから、船で一泊してから帰路につき、時間がかかったけれど、なんとか無事にイッツに帰って来ることができた。

 帰ったその日はそのまま家に帰って眠り、翌日になってから傭兵ギルドに報告に向かった。

「帰ってきたか」

「ただいま…。戦闘はなかったけど、移動でどっと疲れたよ…」

 何しろ片道最低5日もかかるわけで、その間警戒をしないといけないわけだから、精神的な疲労が溜まってしまっている。

「いいじゃねえか。『海賊ホチコルド親子の捕縛』の賞金が親子合わせて160万。親子が持ってた駆逐艦を売り払った代金が1640万。総額1800万だぞ?少しこっちに寄越してほしいぜ」

 ローンズのおっちゃんは羨ましそうにしながらも、受け取りの処理を進めていく。

 そうして、額が額なので情報(データマネー)で報酬をうけとると、

「で、次はどうする?」

 ローンズのおっちゃんが次の元貴族(かいぞく)のリストを見せてきたけれど、

「今日明日は休むよ。精神的にも疲れちゃったし」

 さすがにすぐは嫌すぎるのでことわった。

 おっちゃんもそれ以上仕事の話は進めず、別の話をふってきた。

「だったら、気分転換にショッピングモールにでもいってみたらどうだ?今、セール中らしいぞ?」

 と、チラシを渡してきた。

 そうして、チラシをみながらギルドをでると、おっちゃんの助言にしたがい、ショッピングモールにいってみることにした。


 ショッピングモール『ロックバード』は都市部から離れたところにある、かなりの広さを誇るショッピングモールでテナントもかなりの数が軒を連ねている。

 自然公園やスパなどのリラックス施設や、ゲームセンターや映画館や室内アスレチックなどのアミューズメント施設も数多くあり、一日中楽しめる所だ。

 直通の公共交通機関に、最寄駅からのシャトルバスもあるためアクセスも簡単だ。

 来客数も多く、僕みたいなのが居ても目立つ事もなく、のんびりとした時間を過ごせるところだ。…った筈だったのだが。

「すみませんねウーゾスさん。買い物に付き合わせちゃって」

「あ…いえいえ…」

「お礼はちゃんとさせてもらいますからね」

 近く親戚の集まりがあり、そこにもっていくものを選びに来ていたアルフォンス・ゼイストール氏に出くわしてしまったのだ。

 ()は傭兵ギルドの()()()のなかでは、仕事での信用度やその美貌から、No.1の人気を誇っている。

 そんな美人()()()()()と、僕なんかが一緒にあるいていたりしたら目立つこと限りない!

 事実チラチラこちらを見ている人が増えてる気がする。

 ゼイストール氏はちゃんとズボンを履いているし、服装だって男性の物だ。

 それでも女性にしか見えないのは、生まれ持った美貌(さいのう)のせいだろう。

 そしてこういう時は必ず、絡んでくるヤカラが必ずいる。

「うむ…やはりなかなかの美形じゃないか」

 今までは、傭兵や元同級生なんかだったが、今回は明らかに貴族な感じのヤカラだった。

 先の反乱で、皇帝陛下に不満を持つ全ての貴族が反乱に参加したわけではなく、全体の約3割は反乱に参加しなかった。

 その理由は、反乱に参加して、戦死または敗北して処罰を受けた貴族の領地を合法的に手に入れたり、反乱軍が敗北したとしても、目をつけられない範囲で『貴族の正しい権利』を享受しつづけるためといわれていた。

 しかし僕としては、戦闘で死にたくなかったというのが大半の理由だと思っている。

 まあ戦争に参加しない理由なんてそんなものでいいとは思う。

 そんな貴族の子息らしい年齢の人物は、僕などは眼中になく、

「お前は今から俺のそばで(はべ)る事を許可してやるぞ!泣いて喜ぶがいい!」

 などとかなり鼻息を荒くしながら、ゼイストール氏の(あご)に手をかけてクイッとやった。

 しかしつぎの瞬間には、ゼイストールさんはその貴族の腕を掴んで捻り挙げた。

「いたたたたたたたた!いきなりなにをする!?」

「いきなり人に失礼な発言をした上に、キスまでしようとしたでしょう?こうなって当然です!」

 ゼイストール氏は貴族の腕を捻り挙げたまま不愉快そうに言い捨てる。

「おっ…俺は男爵子息だぞ!こんなことをしてただですむと思ってるのかっ!?」

「そのような身分を利用した脅迫行為の正当化は、先代の皇帝陛下が廃止を決め、今代の皇帝陛下もそれを施行しています。それを行うということは、皇帝陛下に逆らうということになりますが?」

 当然貴族の青年は身分を利用した脅迫をしてくる。

 しかしゼイストール氏は臆することなく、現状を淡々と説明した。

「それに貴方が貴族だというなら、どうして庶民が買い物をするショッピングモールにいるんですか?貴族なら高級な専門店を屋敷に呼びつけるぐらいするべきなのでは?」

「ぐっ…」

 そして流れるように、庶民の店にわざわざやってきた男爵子息にチクリと嫌味をはなった。

 多分この男爵子息の家は法衣貴族で、領地はもってないんだろうね。領地のある無しは収入にかなりの差があるから…うん。触れないでおくかな。

 そしてゼイストール氏は、

「後もう一つ、私は男です。女性でなくて残念でしたね」

 ギルドのカウンターでみせるスマイルを浮かべながら、伝家の宝刀で男爵子息に止めを差しに来た。

「そんなことは知っている!最初にお前をみたのは、男性トイレからでてくるところで、その後すぐ見失ったから探していたんだ!」

 が、相手は見事なカウンターを返してきた。

「もう一度いうぞ!今から俺のそばで(はべ)る事を許可してやる!今すぐ手を離して俺に忠誠を誓え!そうすればたっぷりと可愛がってやるぞ!」

 男爵子息は自信満々でそういった。

 昔は貴族の間で美少年を愛でる(そういう)趣味が普通に存在していたというのは聞いたことがある。

 が、ゼイストール氏がそんな事を了承するわけがなく、

「だとしても貴方みたいなヤカラはお断りです!」

「ぐえっ!」

 すぐさま体勢を入れ替え、チョークスリーパーで相手を気絶させてしまった。

 前から思ってたけど、戦闘能力凄いなこの人!

 すると、誰かが通報したらしく、ショッピングモールの警備員がやってきたので、

「この人がいきなり襲ってきたので撃退しました」

 と、ゼイストール氏が男爵子息を指差すと、警備員はデレデレしながら男爵子息を連行していった。

「すみません。お騒がせしました」

「あ、いえいえ…災難でしたね。すみません、助けられずに」

「あれぐらい大したことはありませんよ。お礼とお詫びを兼ねてお食事御馳走しますよ」

 そういって、ゼイストール氏は何事も無かったように、ショッピングモール内のレストラン街に向かっていった。

 取り敢えずゼイストール氏には喧嘩を売らないようにしよう。

 売る理由も勇気もないけどね。

隙間話になってしまいました。


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします


お詫び

来週から年末年始にかけて色々な予定や仕事がたてこみ、執筆時間が取りづらくなり、投稿ができなさそうなので、年明けまで投稿を休止したく思います。

御理解のほどよろしくお願いいたします。


感想の返答くらいはなんとかします!



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