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モブNo.92:「やっぱりこうなるか…」

 ラブホテルの通りに面した窓のある部屋をとり、カーテンを少しだけ開けてターゲットが入った店を見張る。

 お姉さんには先に料金を渡して、好きに過ごしてもらう事にした。

 しかしお姉さんは、

「ねえ。ターゲットの人は多分2時間は出てこないと思うわよ?せっかくなら楽しまない?」

 そう言って僕に近寄ってくる。

 しかし僕はきっぱりと、

「結構です。ターゲットがいつ出てくるかわからないんで」

 と、断った。

「つまんないの。じゃあちょっと休ませてね」

 そういうとお姉さんは、呆れた表情をしながらもベッドに横になると、直ぐに寝息をたて始めた。疲れてたんだろうな…。


 それから2時間。お姉さんは寝たままでなにもなく。ターゲットのホチコルド元伯爵子息は満足そうな顔で店からでてきた。

 僕は、悪いとは思ったけど、お姉さんを起こしてホテル代を渡すと、直ぐにターゲットを尾行するためにホテルを飛び出した。

 僕はそこまで尾行は得意ではないので、多めに距離をとって、ターゲットであるエリック・ホチコルド元伯爵子息の後をゆっくりとついていった。

 どこかにあるアジトに向かうのかと思ったのだけれど、意外にも駐艇場(ちゅうていじょう)に向かっていた。

 そうして駐艇場(ちゅうていじょう)に到着すると、地味な外見の中型戦闘艇(駆逐艦)に入って行った。

 元伯爵子息(ターゲット)が船内に入りきったのを確認してからこっそり船の扉に近付いていく。

 船の扉には鍵がかかっていると思ったのだけれど、船の扉は開いてしまった。

 普通こういう船は、認識票解錠式の自動施錠(オートロック)にしておくものだけど、そうではなかったらしい。無用心(ぶようじん)だなあ。

 なのでこっそり中に入ってみると、船の中がやけに寂しかった。

 普通、船室には着替えがあったり私物があったりするものだけどそれがなく、ゴミだけが散らかっている。

 厨房の冷蔵庫や棚には、食材や調味料が入っているはずだがそれもない。

 銃座や砲座もみてみたが、ブラスター用エネルギーの予備すら見当たらなかった。

 通路や船室そのものにはかなり年期がはいっているし、最近まで使用した形跡もあった。

 なのに人もドロイドもまったく見当たらない。

 これくらいの船でも、動かすだけなら一人でもできなくはない。

 しかしそれは本当に航行するだけで、戦闘ができるというわけではない。完全運用するには人間の乗組員やドロイドが必要だ。

 休暇やメンテナンスにしても、最低限の人間は残っているはずだ。

 しかしこの船には一切の気配がない。

 ドロイドの電源を切っているわけではなく、ドロイドそのものがない。まるで幽霊船だ。

 そうして船内を回りながらブリッジに向かうと、艦長席(キャプテンシート)に座っている人物がいた。

 それは間違いなく、エリック・ホチコルド元伯爵子息本人だった。

 足音を立てないように近付いていくと、僕の存在に気がついていないのか、ぼんやりと空中をながめながら、独り言を呟いていた。

「やっぱり、楽しんだあとに1人になるのはいいなあ…。母上はうるさい上に何も考えてないからなあ…。使用人達を早い段階で解雇しておいてよかったよ。もしまだ雇ってたら殺されてたね」

 その呟きの内容が気になり、

「解雇した理由は?」

 と、尋ねてしまった。

 しかし僕が質問したにも関わらず、

「海賊行為7件ぐらいやって、その全額が2億くらいになったんだ。その中には燃料や弾薬・食料なんかもあったから、それをそのまま使えばいいのにそれも売り払ったんだ」

 と、答えてくれたが、流石に違和感に気がついて、

「…って誰だ!?」

 と、反応したが、僕が銃を突き付けていたからか、そのまま艦長席(キャプテンシート)に座り直した。

「エリック・ホチコルド元伯爵子息ですね?傭兵ギルドの者です」

 僕がそういうと、元伯爵子息は大きくため息をついた。

「やっぱりこうなるか…」

「船にドロイドの1体もいなければこうなるのは当然ですかね」

 エリック・ホチコルド元伯爵子息に抵抗する様子はなく、

「それで、こうなった原因はなんなんです?」

「母上が、燃料・弾薬・食料なんかをそのまま使えばいいのにそれを売り払った。それだけならいい。使用人達にたっぷり報酬をやって、その残りで色々揃えればいい。ところが母上はその全てを自分の贅沢の為に使うと決めて、上流階級区画(ハイソサエティエリア )の高級ホテルにこもってしまったんだ」

「それで使用人を解雇したんですか」

「船の中の物を全部売り払って、少ないけど退職金を渡して辞めてもらったんだ」

「店に通う金は?」

「家を出た時に持ってた奴。まあ、半分以上は使用人達に渡したよ。でもお陰で静かな時間がすごせたかな…」

「お母上はどちらに?」

上流階級区画(ハイソサエティエリア )の高級ホテル・デラッピンホテルのインペリアルスイートに泊まってるよ」

 質問をしたら素直に答えてくれた。

 ホチコルド元伯爵子息の見た目から考えると、多分高校生か大学生ぐらい。

 その年齢で風俗店の常連なのはどうかと思うが、顔には苦労が滲み出まくっていた。

「心中御察しします…」

 僕が手錠をかけると、どこか安堵した表情になった。

 その表情は、これ以上罪を犯さなくて良いという安堵なのか、母親にから解放されることの安堵なのかは、僕には判別が付かなかった。


 警察を呼んで元伯爵子息を引き渡す時に、持っていた汎用端末(ツール)を渡してもらった。

 ちゃんとした高級ホテルでは、無関係の人間が呼び出したりしても取り次いではくれないし、訪問しようとしても中にすら入れて貰えないだろう。

 なので、この汎用端末(ツール)で母親に手紙(メール)を出して呼び出す作戦だ。

 ちなみにセキュリティは解除してもらった。

 そして僕が送ったメールはこんな内容だ。

『母上。こんな船を2隻も献上したいと言う奴がきました。何でも1隻2億にはなるという船らしいです。

 同時に貴金属や宝飾品も献上したいとのこと。

 献上するにあたり、ぜひ母上にお目通りしたいのと、船に案内したいとのこと。出来れば今すぐ。お手数とは思いますが、取り急ぎ船までおいで下さるよう』

 はっきりいって引っ掛かるとは思ってない。

 怪しんで、護衛と一緒か、護衛が来るだけでも御の字と思っていた。

 ちなみに船の写真は、ロスヴァイゼさんとゲルヒルデさんの船体の写真を送ってみた。

 そして手紙(メール)を送ってから20分後、母親が1人で船までやってきた。

 僕は、献上する人間の使用人としてホチコルド元伯爵夫人を迎えたのだけれど、

「お待ちしておりました。ロッターナ・ホチコルド伯爵夫人。私は…」

「エリックはどこ?それと私に献上するという船と宝飾品はどこなの?綺麗な船だったから、片方は私専用の船にして、もう片方は私のための資金にするわ。すぐに手続きなさい」

 こちらの話を聞く様子はなく、他人の使用人だろうと命令する。

 あーうん。これが貴族だよね。平民は全て召し使い。虐げても罪悪感は一切無し。あのピンク頭(アコ・シャンデラ)とおんなじだ。まさか親戚じゃないよね?

 このままうろうろさせてもなんなので、捕獲用の麻酔銃を向けると、息子がいないために不機嫌そうにうろうろしているロッターナ・ホチコルド元伯爵夫人の、首筋に打ち込んでやった。

子息は、父親がいた頃からかなり疲れてました


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