モブNo.90:『これによりお前達は自由の身だ!恋人・家族の元に帰るが良い!』
イッツに帰ってきた翌日から今日で6日目。
5日間の休暇を楽しんだのでそろそろ仕事を再開しないといけない。
だかその前にやらないといけないのは、部屋の掃除と洗濯・船に載せる洋服やタオルや衛生用品をトランクに詰める・溜まったゴミを分別してからマンションのごみ捨て場に捨てる・昼食は残っている食材を全部使いきって食べきるようにし、もし食べ切れなかったらパッケージして船に持ち込めるようにするといった、長期間留守にする時の対処だ。
この日の昼食はハム・キュウリ・レタスのサンドイッチ。インスタントのコーンスープ。卵を3つ使った、じゃがいも・ニンジン・タマネギの入ったオムレツに、残ったチルド餃子とカレールゥのご飯なしだ。
仕事中は外食や船の中でのレトルトやインスタントが多くなるので、自宅では出来るだけ自炊をしている。
そして昼食が済めば、トランクを持ってギルドに向かうわけだけど、このときはマンションで貸し出してくれるバイクは借りず、公共交通サービスを使用するようにしている。
そうしてギルドに到着してまずするのは、トランクを船に積み込む事と、燃料のチェック。そして船にある食料のチェックと、水の補充と汚水の廃棄だ。
当然だが、水は飲用・シャワー・洗面・手洗い・食器洗い・トイレ洗浄などに使用される。
食器洗いとトイレ洗浄の水はそのまま汚水タンクに溜められ、それ以外は船内に設置している浄化循環システムで浄化され、食器洗いとトイレ洗浄に利用されている。
駐艇場には汚水処理場へ直通のパイプラインがあり、そこに船舶の汚水を廃棄し、同時に船舶の汚水タンクの洗浄。貯水タンクへの給水所が設置してある。
本来は帰ったら直ぐにやらないといけないのだけれど、僕は休むのを優先して出発前にするようにしている。
その作業を終わらせてからカウンターロビーに向かうと、かなり人が増えていた。
「ういっす。お久し振りっす」
「よう。休暇はどうだった?」
「久しぶりにネットとゲームとアニメをたっぷり楽しんだよ」
いつも通りローンズのおっちゃんの所に座り、下らない話をしながら、
「俺はその辺は良く分からんが、それで癒されたんならいいことだ。それより公開判決は見たか?」
「見たよ。びっくりしたねえあれは」
それは休暇中の3日目にあった緊急放送だ。
今回の反乱において、強制参加させられたもの達に対しての、皇帝陛下からの直接判決があるというものだった。
その公開判決の内容はこんな感じだ。
画面には銀河大帝国第38代皇帝アーミリア・フランノードル・オーヴォールス陛下の姿が映し出され、画面端のテロップには『反乱者に対する公開判決』とあった。
そうして帝国国歌が流れた後、皇帝陛下による公開判決が始まった。
『余は銀河大帝国第38代皇帝アーミリア・フランノードル・オーヴォールスである。いまここには、愚かにも余に弓引いた愚か者共の一部が集まっておる。
そのなかで、愚かにも余に弓引いた平民共は、過去の銀河大帝国の規範からすれば死罪が相応しい。
しかし今ここにいる平民共は自分の意思で余に弓引いた訳ではない。よって罪を減じ、罰金1200万クレジット、もしくは最大2年の禁固刑に処する事とする!
次に、上位の寄り親貴族によって蜂起に強制参加させられた貴族共には、罰金5億4000万クレジット、もしくは最大5年の懲役刑に処する事とする!
配下からは、強制的に招集させられた者に対しては厳しいとの声があった。
だが余に、つまりは帝国に弓引くということは大罪であるということを広く理解させるために、今回の刑を執行する!思い知るがよい!』
皇帝陛下は厳しい表情で言いはなつと、全員が絶望の表情を浮かべて
すると皇帝陛下が再度口を開いた。
『だが、此度は帝国に巣くう愚か者共を大量に排除できたことで、余の支配がより磐石になるという慶事があった。
故に、強制的に今回の反乱に参加させられた平民及び貴族達全員に執行した刑に対し、恩赦による釈放を与える!これは余の勅令である!』
その皇帝陛下の言葉に、全員の顔に生気が戻っていく。
今の話はつまり、罰を与えたって事実は残るけど、刑を執行した瞬間に恩赦によって釈放したって事だ。
裁判もやらずにかなり無理やりだけど、絶対君主制の最高権力者である皇帝陛下の勅令ともなれば従わざるを得ない。
つまり今代の皇帝陛下は、今までの帝国がやってきた事を尊重しながらも、今までの皇帝とは違うってことを見せつけたことになる。
これ多分誰かがシナリオを書いたんだろうなあ。例えば壇上の脇に控えている人達の中に居る陛下の『大叔父様』とかね。
『これによりお前達は自由の身だ!恋人・家族の元に帰るが良い!』
画面からは、割れんばかりの歓声と喜びの嗚咽が鳴り響いた。
これが3日前にあった公開判決の内容だ。
「あれで皇帝陛下の支持率はさらに上がったな」
「そうなると、反乱に参加しなかった反皇帝派が歯軋りしそうだよね」
今回の反乱軍に参加していない反皇帝派は、結構多いんじゃないかと
きちんと頭を働かせて回避した人もいるだろうけど、そもそも
「それに、望んで参加した貴族の家族が、戦争の直前に離婚して責任を逃れたせいで海賊や強盗も増えるし、新人の傭兵も増える。で、ああいうのが出てくるわけだ」
そういったローンズのおっちゃんの視線の先では、
「なんだと?!俺は伯爵子息で国立ルトーラム学院高等部での宇宙船戦闘学の実技でトップだったのだぞ!その俺がなぜ最下位の
「ですから、傭兵ギルドの階級は貢献度で昇級するんです。戦闘の実力だけで階級は決まらないんです!」
アルフォンス・ゼイストール氏が、新人らしい貴族の少年に、強い口調で説明をしていた。
彼は多分、ローンズのおっちゃんが言った通り、親が反乱軍に自ら志願した貴族の息子で、父親が出陣の際に、失敗した時に家族に塁が及ばないように離婚と絶縁をしていた。
そして反乱は失敗。父親は投獄されることになり財産も身分も没収。彼自身で稼がねばならなくなったんだろう。
ちなみに、爵位を剥奪された貴族の妻や子供の取る行動はいくつかにわけられる。
①平民になったことを自覚し、真面目に仕事をしようとする。これが一番だけど、ものすごく少ないだろうね。
②貴族気分が抜けないが、真面目に仕事をしようとする。今カウンターにいる彼がこれ。自活をしようとしているだけマシだね。
③貴族のプライドを捨てられない上に労働をする気がない。これが一番タチが悪く、海賊になって略奪行為を平気でやり始めるのはこのタイプ。
④母親の実家・懇意な貴族・懇意な平民の家に転がりこむ。この場合は①か②をするために一時的に世話になるか、③の状態で完全寄生をするかで評価が変わってくる。
⑤こうなっては生きてはいられないと自刃する。大昔は居たのかも知れないけど、今はいるのかどうかは不明だね。
そうして①や②を選んだ人達の選択肢の一つに傭兵があるわけだ。
そして、さっきローンズのおっちゃんが出してくれた
「ある程度予測はしてたけど…多いね」
「先代の皇帝陛下の時代から抑圧されてたわけだからな。そりゃストレスも溜まろうってもんだ」
「そのストレスの解消方法が、無礼打ちって名前の殺人や、献上って名前の強奪や、奉公って名前の誘拐・拉致・監禁なんだからたまったものじゃないよ」
報告された分だけでこれだから、実際はもっと多いんだろう。
僕はそのなかでも、惑星イッツのあるポウト宙域と、惑星タブルのあるサネカ宙域付近での報告例を探した。
惑星タブルにだって傭兵ギルドはあるが、両親の生まれ故郷となれば気にして当然だろう。
さいわいサネカ宙域には報告例はなかったが、ポウト宙域には多数の目撃があった。
「じゃあこれがいいかな?」
「ホチコルド元伯爵夫人とその息子だな。ポウト宙域にある惑星ネゴラ付近での目撃例が多いな」
その中でも、一番被害が少なそうな規模の
今後の展開を悩み中…
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