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モブNo.87:『おのれ星王国(ネキレルマ)の腰抜けどもめ!約定を無視しおって!バーレントンの奴も何がおまかせくださいだ役立たずが!』

 僕が危険信号(アラート)の情報をアーリーヘンジ少将閣下に伝えるより早く、反乱軍からのオープンチャンネルでの一斉通信が行われた。

『はっはっはっ!ついに我らの援軍が到着した!建造途中の機動要塞を占拠し、我らの槍として放ちに来たのだ!』

 画面に現れたフィルデルド・ヴァストーグ侯爵の表情は実に晴れやかで、こちらを嘲笑し、勝利を確信したものだった。

 まさか少将閣下が見逃していた?

 いや、戦場では信じられないことが起こるものだからね、少将閣下といえど見逃していたのだろう。

 ヤバいかな?

 そう覚悟を決めた瞬間、その言葉どおり機動要塞のある方向から何かがやって来た。

 だが不思議な事に、ヴァストーグ侯爵の話の内容からすると機動要塞が来るはずなのだけれど、やってきたのは船団のようで、浮かれているヴァストーグ侯爵はそれに気がついていないようだ。

 そして機動要塞のある方向からやってきた船団から、ビームの雨が降り注いだ。

 反乱軍に向かって。

『なっなんだっ?!なぜ我々の援軍が我々を攻撃する!?』

 ヴァストーグ侯爵はさっきまでの余裕の表情とはうって変わり、焦りと驚愕の表情をしていた。

 するとそこに第7艦隊司令官であるトーンチード准将が画面に現れた。

『残念だがヴァストーグ侯爵。貴殿の期待していた援軍は私の部隊の別動隊が偵察に向かったところ、撤収の最中だったという報告をうけた。おそらく貴殿等が押され気味なのを見て怖じ気づいたのだろう。もちろん逃がすわけには行かないので殲滅させてもらった。

 それともう一つ、そちらが密かに進行させていた首都惑星ハインへの襲撃部隊はオーヴォールス公爵閣下の手により壊滅したぞ!』

 そのトーンチード准将の報告に、味方は活気づき、敵は意気消沈し始めた。

『おのれ星王国(ネキレルマ)の腰抜けどもめ!約定を無視しおって!バーレントンの奴も何がおまかせくださいだ役立たずが!』

 ヴァストーグ侯爵は、怒りのあまり自分がネキレルマ星王国と繋がっていたことをあっさりばらしてしまっていた。


 そんな上の人のやり取りを余所に、僕は自分の目に映ったものに驚愕していた。

 船団から降り注ぐビームの中に紅い極太のビームがあり、他のビームが戦艦の装甲表面に小爆発ぐらいの損害しか与えてないなか、そのビームは戦艦を軽々と貫き、撃沈させていく。

 そして僕は、そのビームを放った機体を見て更なる驚愕をしたが、成る程と納得してしまった

「あれ…ゲルヒルデさんじゃん…。そういえばロスヴァイゼさんに会うっていってたけど…あの後どうなったんだ?」

 実は今回の作戦中、王階級(キングランク)は当然として、ランベルト君・ロスヴァイゼさん組やアーサー君・セイラ嬢組といった有望株の傭兵は、皇帝陛下の護衛部隊に振り分けられたらしい。

 親衛隊長のキーレクト・エルンディバー大将閣下はロスヴァイゼさんを知っている上に、戦績も知っているだろうから、古代兵器であるかどうかの真偽に関係なく、利用しようとするのは当然といえば当然だ。

 それからは反乱軍にとっては悪夢の時間だった。

 ゲルヒルデさんから放たれるあの紅い極太のビームが何十隻もの敵艦を轟沈させ、戦意を喪失した連中は早々に降伏していき、ゲルヒルデさんが参戦してから僅か2時間足らずで決着がついてしまった。

 それからは、降伏者の捕縛を傭兵と軍の総出でおこなった。

 ちなみに首謀者のヴァストーグ侯爵は、兵士に変装して側近と一緒に逃げようとした所を、味方のはずの兵士に側近と一緒に捕縛された。


 反乱軍全員の捕縛が終了すると、僕達傭兵はコロニーでの補給と12時間の休息の許可をもらったが、軍の人達はこれから捕縛者を首都まで護送するそうだ。宮仕えって大変だよねえ…お疲れ様です。

 コロニーでは勝利に酔いしれ、早々にバカ騒ぎが始まっていたので、燃料の補給と機体の点検(チェック)をしてから購入できる飲食物を購入し、風呂だけ使わせてもらってから自分の船で一眠りすることにした。

 しかし、食事も終わって寝ようとした時に、ロスヴァイゼさんから通信(でんわ)がきた。

「あーもしもし」

『お久し振りですキャプテンウーゾス。ちょっとお時間よろしいですか?』

 立体映像(ホログラム)に映ったロスヴァイゼさんは、なんとなく疲れている感じがした。

「もしかしてゲルヒルデさんの事ですか?」

『やっぱりゲルヒルデ姉様に私の事を教えたのは貴方でしたか』

 僕の返答を聞いたロスヴァイゼさんは、深くため息をついた。

 そういえば僕はゲルヒルデさんに名乗ってなかったや。

「あー不味かったですかね?」

『いえ。むしろ可愛がってくれる機体(ひと)ですし、久しぶりに会えたので嬉しかったですよ』

 嬉しいのにどうしてため息をついているのかは謎だが、取り敢えず聞きたい話題をふってみた。

「それにしてもゲルヒルデさんは凄かったですね。ロスヴァイゼさんもあの紅い極太のビームは使えるんですか?使ってるの見たことないですけど」

『紅い…ああ『プロミネンス・アロー』ですか。私には搭載されていませんよ』

「ああ、そうなんですね」

『ゲルヒルデ姉様は用途別の種類で言えば、基地を攻撃に来た敵機を迎撃する要撃戦闘機。偵察兼電子戦機の私の方が若干速力は速いですが、火力はゲルヒルデ姉様の足元にも及びません。私達は姉妹によって役割が異なり、船体の大きさも異なります。対戦闘艇・対艦船・対要塞・輸送・補給に修理。対惑星兵器までありますよ。ちなみにあの紅いビーム『プロミネンス・アロー』は対戦闘艇用の兵装です』

 ロスヴァイゼさんの返答に、僕は思わず言葉をうしなった。

 ロスヴァイゼさんに姉妹がいるであろうことは、WVSー09というロスヴァイゼさんの名前から推測できていたし、ゲルヒルデさんの本体がロスヴァイゼさんの本体より大きかったので、搭載兵器の違いで機体の大小はあれど姉妹機なんだし基本スペックは変わらないのだろうなと思っていた。

 なのにロスヴァイゼさんが偵察兼電子戦機でゲルヒルデさんが要撃戦闘機だって?

 つまり、偵察兼電子戦機でありながらもこの時代で無敵最強だったのに、戦闘に適した機体であるゲルヒルデさんならどうなるわけ?!想像すると身震いがするお!

 そして僕はあることに気がつき、質問をしてみた。

「あの、ロスヴァイゼさんは電子戦機でもあるんならなんでそれを使わないんです?なんか凄いことできそうな気がしますけど」

 そう、古代兵器の電子戦機であるなら、敵艦のコントロールを奪うくらいは楽勝なはずだ。

『そうですね。この時代の船なら、その気になればこの戦場にいた敵味方全ての船をハッキングして操ることもできます。ですが使う必要がありますか?。さっきの程度なら偵察兼電子戦機(わたし)1人でも時間はかかりますが無傷で殲滅できるんですよ?。さっきのゲルヒルデ姉様も、プロミネンス・アローをこちらに当たらないようにだけ気を付けて、適当に撃ってただけですからね』

 しかしロスヴァイゼさんからは、なんでそんな事を聞くんですか?といった感じの返答が返ってきた。

 ロスヴァイゼさんたちが作られた時代は、いったいどれだけとんでもなかったんだ?!

 そんなロスヴァイゼさんと上手くパートナーをやっていて、変な野望も抱いてないランベルト君はマジ尊敬するね!流石は主人公!

『そんなことより聞いてくださいよ!軍人だから規律正しいのかと思えば、『部下になれ』『恋人になれ』『愛人になれ』と何人も何人も!さらには休憩時間ならまだしも戦闘中って頭おかしいでしょう!たしかに皇帝の護衛だからほとんど動いてないですけども!』

「ランベルト君はどうしてたの?」

『何回も何十回もお断りの対応をしてくれました。でも途中から彼自身への女軍人からのアピールが増えてしまって余計につかれたらしく、軍が居なくなったあとに倒れるように寝てしまいました』

「災難でしたね…」

 ランベルト君はそれなりにイケメンだからなぁ…。狙い目なんだろうね。

『さらにはあのあざとい女までがでてきてですね…』

 この時僕は悟った。長くなる…と。

 しかしたとえここで電話を切ったところで、無理やり繋ぎ直されるだけ、逃げられはしないのだと…。

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