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モブNo.86:『やれやれ。これで裁判の手間がひとつ省けたな。さて、残った君達はどうするかね?こちらとしては裁判の手間が省ける方がありがたいのだが?』

反乱軍別動隊サイド:第三者(かみの)視点・継続


 公爵の言葉にレビルトス・バーレントン伯爵は驚愕の表情を浮かべた。

 ヴァストーグ侯爵は『自分達には公爵閣下がついているから、改革は必ず成功する』といっていた。

 なのになぜ。公爵閣下は冷徹な目で自分を見ているのかが理解出来なかった。

「閣下!それはどういう事です?!貴方は我々の賛同者!いや、指導者だったはずです!」

 そうして思わず発した言葉に、公爵は冷静に返答した。

『私は君達の(リーダー)であるフィルデルド・ヴァストーグ侯爵の話を聞き、たしかにゆゆしき事態だとは言った。しかしそれは、君達のような国の発展を阻害する思想を持ち、国力を衰退させる行動を取っている連中があまりにも多かったからだ。私は別に君達の指導者になったつもりはないし、何も指示はしていない。(しか)るに、君達はフィルデルド・ヴァストーグ侯爵の話に乗り、戦力を揃えてここまでやってきた。現皇帝を廃し、より一層の権力を手にするためにな』

 その公爵の返答に、伯爵は震えるだけで反応が出来なかった。

 すると、バーレントン伯爵と(こころざし)を共にする、20代後半ぐらいの若い貴族であるスカド伯爵が、果敢にも公爵に反論を試みた。

『ですが我々は貴族らしい生活を維持出来なくなっているのですよ!?領民共(しげんども)からの税金(くもつ)は月々下がっていくし、あげく我々の目を盗んで領地から逃げ出す領民(しげん)までいるのです!

 公爵閣下も先ほどおっしゃいましたよね?『本来帝国民や植民地民というものは、勤勉に働き、身分の高い者を敬い、その富を喜んで献上するのが当然の(ことわり)だ』と!公爵閣下はご自身のお言葉を否定なさるのですか?』

 若いスカド伯爵はやり込めたという表情を浮かべ、公爵を見つめる。

 しかしその返答は、違う人物から帰ってきた。

『オーヴォールス公爵の言葉の意味も解らぬ小僧が調子に乗るな!』

 立体映像(ホログラム)に現れたのは、厳つい顔にたっぷりの髭を蓄えた、惑星防衛艦隊総司令官ソーロック・マウストン中将であった。

『国民・領民が勤勉に働き、統治するものを敬い、正しく税を納めるのが当然。これは即ち、国民・領民が正しく税を納められるほどに豊かに、そして安全に生活出来るようにすれば、統治するものは自然と敬われると言うことだ!

 しかし貴様らは、国民・領民の生活を豊かにすることもなく、さらには配下の者達の領地の富を吸い尽くして贅沢の限りをつくし、些細な事や自分の気分次第で簡単に領民を殺害するなどの愚行を平然と行っている!その様な領主を誰が敬うか!お前達はさしずめ害虫だ!人の生き血を(すす)る蚊と同じだ!』

 マウストン中将は物凄い怒りの表情を浮かべ、スカド伯爵を、反乱軍の者達を怒鳴り付けた。

 そこに、マウストン中将とは対照的に冷静な表情の公爵が割って入ってきた。

『ソーロック。それは失礼な発言だぞ。

 蚊の主食は基本的に花の蜜や果汁であり、血を吸うのは卵を産む前のメスの蚊だけ。それに彼等のお陰で危険な一部の生物が駆逐されていたりするし、蚊をエサにする生き物だっている。彼等は食物連鎖と自然界のバランスを保つ役割を担っているんだ。

 ここにいる者達のように、自分に与えられた役割すらこなさず、他者が汗水垂らして築き上げた富を四六時中吸っているだけではない』

『そうか。それは失礼なことを言ってしまった様だな。蚊には後で謝罪をしておかないといかんようだ』

 公爵の発言は、長年の友人でもあるマウストン中将が比喩に使用した、蚊に対しての失礼な言動を(いさ)めるものだった。

 そして公爵はさらに話をつづける。

『しかしだ。今日ここまでやってきた者達のなかには、自分より上位の貴族に逆らえないために、来たくもないのに来た者達がいるだろう。その者達に告ぐ。今すぐ降伏信号を発信し(しろはたをあげ)、己の指揮下の全艦船を完全停止したまえ。そうすれば寛大な処置を約束しよう。

 今この場において、君達から搾取を繰り返し、望まぬ事を強要していた者達の命令を順守する必要はない。自分が蚊以下の存在ではないと証明したまえ』

 その公爵の言葉に、反乱軍の約6割が降伏信号を発信し(しろはたをあげ)、己の指揮下の全艦船を停止させた。

『ふむ。どうやらかなりの者達が今回のことは不本意だったようだな』

 その結果に公爵は満足そうに顎を撫でる。

 そして、自分達の下僕であった貧乏下級貴族共が自分達を裏切った事実に、バーレントン伯爵は驚愕の表情を浮かべ、膝から崩れ落ちた。

 しかしそれとは対照的に、怒りを露にした人物がいた。

「忠義の欠片もない裏切り者に、臆病風に吹かれた軟弱者など捨て置け!この状態なら奴らが盾になる!そして前方には何もないのだ!このまま前進しながら首都惑星ハインを砲撃する!」

 20代後半ぐらいの若い貴族であるスカド伯爵である。

 不敵な笑みを浮かべ、部下に進軍の指示を出す。

 その命令通りに、スカド伯爵の艦隊が前進を始め、船の砲塔が照準を付けるべく動いた瞬間、その伯爵の乗船している旗艦に小さな爆発が連続して発生し、そして最終的にはブリッジに大きな爆発が起こり、他の船の画面上(ディスプレイ)から、悲鳴と共に若い伯爵の姿が消えた。

 その衝撃により、巨大な宇宙塵(デブリ)と化した船から、赤と青の小型戦闘艇が離れていく事には、反乱軍の者は誰も気がつかなかった。

『やれやれ。これで裁判の手間がひとつ省けたな。さて、残った君達はどうするかね?こちらとしては裁判の手間が省ける方がありがたいのだが?』

 公爵は平然と。まるでお茶のおかわりを尋ねる様な口調と表情で『皇帝の座を我々正統な貴族の手に取り戻す(こころざし)の貴族達』に返答を求めた。

「投降…致します…」

 膝をついたままのバーレントン伯爵を始めとした反乱軍はおとなしく投降した。


反乱軍別動隊サイド:第三者(かみの)視点・終了



 戦闘が開始されてから約1時間。

 はっきり言って反乱軍の士気はそれほど高くない。

 地位=自分の実力と勘違いしているうえ、他人の功績を奪おうと虎視眈々と狙っているためか攻勢が弱いんだよね。

 あと、一部の部隊が何かを待っているような様子が伺えた。

 それでもこちらが押しているのは間違いないので、このまま戦線を維持出来れば負けることはないだろう。

 でもだからといって油断をしていいわけはないので、手を抜かない様に気を付けないとね。

 アーリーヘンジ少将閣下は当然理解しているようで、油断しないようにと軍や傭兵達に指示を飛ばしている。

 ラノベなんかでは、こんな時には絶対になにかが起きるものだけれど、現実にはそんなことはまず起こらない。

 でもその時僕は、『好事、魔多し』という(ことわざ)を思い出してしまった。

 それが原因ではないだろうけれど、惑星ガトハガから18億㎞ほど離れた位置にある、地図に記載されていない衛星型の機動要塞のような物があった方向で動きがあったら鳴るように設定していた危険信号(アラート)が鳴り響いた。

今回はこちらが先になりました


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