<< 前へ次へ >>  更新
85/116

モブNo.83:「馬鹿言え!代金は戻ってからだ!」

 傭兵ギルドの内部は、かなりの人数の傭兵がひしめきあっていた。

 まるで年2回ある催し物の会場だ。

 おそらく僕の知り合いも居るだろうけど、この人数では探し出すのは不可能だね。

 どうしたら良いものだろうかと考えていると、拡声器(スピーカー)を持った職員が現れ、

『傭兵の皆様!このまま速やかにメインホールに向かって下さい!繰り返します!このまま速やかにメインホールに向かって下さい!』

 という指示を出してきた。

 メインホールは、以前のカイデス海賊団討伐の前にも使われた、式典なんかに使うところだ。

 そんなメインホールに入ると、壇上に軍服を着た人物が何人か立っており、傭兵がいる壁の周囲にも何人か待機していた。

 そうして傭兵が全員入室すると、軍人の1人が汎用端末(ツール)で連絡をした後、マイクを要求した。

『あー。只今より、第38代皇帝アーミリア・フランノードル・オーヴォールス陛下よりお言葉を賜る。心して耳を傾けるように』

 その軍人がそういうと、目の前に青銀の髪に漆黒の瞳に白い肌の美女が投影された。

 言わずと知れた『美女すぐる皇帝陛下』こと第38代皇帝アーミリア・フランノードル・オーヴォールス陛下のお姿だった。

 どうやら国内全ての傭兵ギルドに生中継されているようだ。

『将兵、傭兵の諸君。よく集まってくれた。

 すでに聞いていると思うが、一部の貴族達が私に対しての不満をつのらせ、ついには真っ正面からクーデターを起こした。

 これは私の不徳に他ならない。

 しかも彼等は、私に帝位を明け渡せともいってきた。

 そうしなければまた惑星を襲撃するとも言ってきた。

 だが!国民を資源だと言いきり、殺害し虐げる事を消費と言いきるような連中に帝位を明け渡すことはできない!』

 テレビで何度か声を聞いたことはあるが、やっぱり美しい声だね。

 不敬極まりないが、これで演技を身に付ければ声優としてもやって行けそうだ。

『幸い第7艦隊が睨みを効かせてくれているお陰で、新たなる侵攻は始まっていない。この隙に奴等を包囲し、これ以上の被害をなんとしても食い止める!

 今回は親衛隊と共に私も前線にむかう。指揮は、ブレスキン中央艦隊討伐部隊総司令官にまかせる。私のような戦闘経験のない小娘が指揮をすることはないから安心してほしい。

 将兵及び傭兵の諸君!私に力を貸して欲しい!』

 そういいつつ、皇帝陛下は頭を下げた。

 その行動には、この中継を見ていた全員が驚いただろうね。

 銀河大帝国皇帝が(こうべ)を垂れ、『命令』ではなく『懇願』したわけだからね。

 権威とかそういう観点から見ればヤバいんだろうね。でも、『美女すぐる皇帝陛下』から『お願い』されるのは悪い気はしないため、軍人や傭兵たちはテンションが爆上がりした。

 そしてその勢いに乗じて、

『貴殿ら惑星イッツ支部の諸君は一部を除いて全員第11艦隊の指揮下に入ってもらう。ただいまより72時間後までには、現場である惑星ガトハガに到着するように!では出発せよ!』

 壇上にいた軍人(おっさん)の指示が飛んだ。

 すると雪崩れの如く、全員が即座に駐艇場に向かっていった。

 その流れの中僕は、混雑を回避するためにメインホールが誰も居なくなるまで待ち、もう少し情報をいただくため、のんびりとローンズのおっちゃんの所に向かった。

「全員が物凄い勢いで飛び出してるのに余裕だな」

「混雑してる時に飛び出したら危ないでしょ。それより、惑星ガトハガ近辺の情報と地図が欲しいんだけど」

 ゴンザレスにすでにもらってはいるが、別のところからの地図も重ねて比較すれば、より詳細になるからね。

「お前ならそう来るだろうと思ったよ。ほれ。一応軍事機密っぽい物の情報も入ってるからな。経費がかかったんだぞ?」

 そういいながら、おっちゃんは記憶媒体(メモリー)を手渡してきた。

「サンキュー。これはロハでいいよね」

 記憶媒体(メモリー)を受け取りつつ、冗談半分でそういうと、

「馬鹿言え!代金は戻ってからだ!」

 そう不機嫌そうにいいはなった。

「わかったよ。イロもつける」

 そう会話を交わすと、すっかり船の居なくなった駐艇場にポツンと残った『パッチワーク号(ぼくのふね)』に乗り込んだ。

 こうして僕は、第38代皇帝アーミリア・フランノードル・オーヴォールス陛下からの依頼である、『反乱軍鎮圧』の依頼を実行するべく、惑星ガトハガのあるゾン宙域に出発した。


 海賊退治・テロリスト退治と何度か軍隊の側で戦ったけど、今回はかなりの大規模だ。

 皇帝陛下を擁する親衛隊に、12ある中央艦隊討伐部隊の1・2・7・8・11・12の6部隊、しかも普段の巡回警邏(パトロール)の時の1万程度ではなく、非番の人間を動員し、無人機やリモート式の無人砲撃艦などで5万まで増強しているため、約35万の戦闘艦がこの場にいることになる。

 さらに帝国中から集められた傭兵がひしめき合っているため、傭兵だけの総数としては軽く30~40万はいるんじゃないだろうか。

 しかもこれで、残り6つの中央艦隊討伐部隊に味方貴族達の私兵とも言われる惑星防衛艦隊まで加わればさらに増える事になる。

 中央艦隊討伐部隊の半分が首都に残ったのは、何かあった時のためだろう。

 さらにここから離れた宙域には補給艦隊や宿泊用の施設集中型作業基地コロニーがひしめきつつあるらしい。

 幾つものゲートを使用し、9時間ほどかかって現場に到着した早々(そうそう)、僕を含めたイッツ支部他の傭兵部隊に、第11艦隊司令官から指示があった。

『将兵・傭兵の諸君に告ぐ。我々は敵右翼を主に攻撃する。

 個々の戦闘方法にまでは口は出さないが、此方からの指示は絶対に順守しろ。そして何かしらの変化・異変があった場合は必ず報告しろ。たとえ間違いであってもかまわん。恐ろしいのは見逃す事だ。

 味方陣内でも戦場を移動・追撃する際は必ず此方の指示を仰げ。暫くは現状待機だ。以上。諸君らの健闘を祈る』

 この第11艦隊司令官メイリングス・アーリーヘンジ少将閣下は、ファッション雑誌で特集が組まれることもある眼鏡イケメンだ。

『知将』なんて煽り文句もついてた気がする。

 ちなみに夏と年末にある催し物では、

 キーレクト・エルンディバー親衛隊長。

 サラマス・トーンチード第7艦隊司令官。

 メイリングス・アーリーヘンジ第11艦隊司令官

 の3人に良く似た人物を題材にした、バレたらヤバい薄い本が販売されているという噂まである。

 この第11艦隊と第12艦隊は味方左翼に位置しており、中央は親衛隊・第1艦隊・第2艦隊。

 右翼は戦力補充した第7艦隊・第8艦隊になる。

 そして当然だけど、燃料補給や休憩をしてからでなければ満足な戦闘はできない。

 その為、長距離を移動してきたものから補給をすることになったらしい。

 そんな現状待機の最中、味方中央の部隊がある方向に、一部の敵艦隊から火線が走ったのが確認された。

入院中にぼつぼつ書いてたものを何とか編集しました。


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします

<< 前へ次へ >>目次  更新