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モブNo.81:「後顧之憂(こうこのうれい)を断つためじゃよ」

 こうして出来上がった僕の新しい船だけど、問題は名前だ。

 前の船は色々寄せ集めてつくったから、『ハッチポッチ(寄せ集め)』と『パッチワーク(継ぎ接ぎ)』と『フランケン』で迷った結果、語呂的にまだスマートかな?という理由で『パッチワーク』に決まった。

 しかし今回は操縦系統をいじったとはいえ完全な新品なので別の名前に、と思うのだが、船の名前を変えるということは新しく船を買ったということであり、それなりの金銭を使ったということだ。

 そういう情報は、ギルドのATMの近くをうろついている金の亡者どもは目敏(めざと)くキャッチし、知り合いですらないのに金の無心をしてくる。

 実際、本体価格385万・改造費42万・作業場レンタル代・作業補助代込み4万9千の、計431万9千クレジットになった。

 これにレーダー230万と内装費合計93万1千クレジットを足して計745万クレジットが僕が新しく船を手に入れるためにかかった金額だ。

 名前の候補としては、保険金で買ったから『インシュアランス号』とか、試作機のコードネームらしい『サ号』とか考えたけど、前者は保険金が手に入ったと丸わかりだし、後者だと「試作機って事は超高性能ってことだろ?そういうものはお前みたいなキモオタには相応しくないから俺が使う!」とか喚きながら銃をむけてくる俺様系主人公(バカ)が湧く可能性があるので却下した。

 なので、今までの印象にしておいた方がいいだろうと考えて、敢えて名前を変えないことにした。

 武装は注文の時に以前と同じ量子ビームと陽子魚雷(プロトントーピード)をチョイスしたから印象も変わらないだろう。

 僕はおやっさんや奥さんや工場の人達にお礼をいい、最後の支払いとなる、レンタル代・作業補助代込み4万9千クレジットを支払った。


 早速ギルドの駐艇場に向かう前に、水や食料を大型の業務用のマーケットで大量に買い込んだ。

 すぐに出発なんて事態になる場合もあるし、備えあれば憂いなしって奴だ。

 もちろん『アニメンバー』と『せいざばん』にも向かい、『アルティメットロード』の新刊とアニメ第4期のデータカードや、各種同人誌を手にいれた。

 そして以前の悲劇を教訓に、『ガードボックス』という、ブラックボックス並みに頑丈な保管容器を購入し、その中に収納しておくことにした。


 ギルドの駐艇場に船を停泊させ、受付にいってローンズのおっちゃんに話しかける。

「お久し振りっす」

「おう。船は出来たらしいな。名前はどうするんだ?」

「そのまま『パッチワーク号』にしますよ」

「せっかくなのにといいたいが、ライオンが寄ってくるか…」

 普通はここはハイエナと言うところだけど、ローンズのおっちゃんいわく、『実はハイエナは狩りが上手で、チームを組んで獲物を仕留める。それをライオンが横取りする。ライオンには勝てないからハイエナ達は仕方なくライオンの食べ残しを食ってるんだ。だから俺は、他人の利益を横から奪うような奴はライオンと呼ぶ事にしている』のだそうだ。

「じゃあ名前の登録はよろしく」

「ほいよ」

 ローンズのおっちゃんが登録手続きをはじめ、僕が依頼のリストを眺めていると、緊急事態宣言のメール着信音が、自分のも含め周囲の全ての人達の端末(ツール)から一斉に鳴り響いた。

 その内容は、反皇帝派がクーデターを起こし、サキスイヨ男爵領の惑星ガトハガを襲撃・占領。

 サキスイヨ男爵は最初の襲撃から生き残った領民を逃がすために必死の抵抗をし、領民全員を乗せた大型輸送船を3隻脱出させた。

 が、反皇帝派は追跡して撃沈しようとした。

 そこに、たまたま近くに居てサキスイヨ男爵領からのSOSを受け取った中央艦隊討伐部隊第7艦隊が間に合い救出。

 今回の詳細が、生き残ったサキスイヨ男爵夫人から知らされた。

 サキスイヨ男爵には、己の命をかけて領民を守った事から、皇帝から伯爵の位と、勇敢に戦い素晴らしい功績を残したものに贈られる『輝刃爪牙竜章(こうじんそうがりゅうしょう)』を叙勲された。

 同時に、一緒に戦った私兵・駐屯兵・義勇兵には『竜牙兵』の称号が与えられた。

 そしてこの瞬間から、4時間後には帝国内部の全てに戒厳令が敷かれることになるらしい。

 それを読み終わった僕とローンズのおっちゃんは一瞬言葉を失った。

「これはえらい事になったな。間違いなく傭兵ギルド(うち)に要請がくるぞ」

「街中もパニックになるんじゃない?買い物を先にしといて良かったなあ…」

 周囲の傭兵は稼ぎ時だと騒ぎ始め、職員達は生活をどうしたものかと慌て始めた。

 それにしても、なんで緊急事態宣言を出したんだろう?

 普通なら解決するまで一般人には秘匿しておいて、解決してから報道するのがセオリーのはずだ。

「今のところギルドに命令は来てない。今のうちに行けるところに行っておいた方がいいんじゃないか?」

 ローンズのおっちゃんがそういうので、

「じゃあ、一回家とか戻ってくるよ」

 お言葉に甘えてギルドを後にした。



 女皇帝・権力者サイド:第三者(かみの)視点 


 緊急事態宣言が発令される数時間前。

 帝国の首都惑星ハインにある皇城(こうじょう)内にある広い会議室に、若い女の怒声が響き渡る。

「おのれ!まさかこのような暴挙にでるとはな。余に恨みがあるなら余だけを狙えば良いものをっ!」

 青銀の髪に漆黒の瞳に白い肌のその若い女は、目の前に置かれてある報告書を睨み付け、テーブルをバシンと叩いた。

「現在反皇帝派は、現場に最初に駆け付けた中央艦隊討伐部隊第7艦隊によりそれ以上の侵攻は出来ていないようです」

 怒りを露にする彼女に、宰相の地位にいる男が情報を伝える。

「流石は海賊達に『鬼神』と恐れられたトーンチード准将だな」

「押さえてもらっている間に援軍を送り込みましょう!」

「国民には解決までは秘匿にして置く方がよかろう」

 会議に出席している者達は、それぞれが対策を口にする。

「押さえ込む為の時間を稼ぎ、領民を命懸けで逃がしたサキスイヨ男爵には感謝をせねばな」

 若き女皇帝、アーミリア・フランノードル・オーヴォールスは眼を閉じ、軽く黙祷をする。

 そこに、この会議室に対して通信(でんわ)が入った。

 全員が、誰なのだろうかと怪しみつつも、宰相が通信(でんわ)にでる。

「こちらは銀河大帝国の首都惑星ハインにある皇城(こうじょう)内の会議室だ。何者だ!?」

 しかし、立体映像(ホログラム)に現れた通信(でんわ)をしてきたトゥースブラッシュ(ちょび髭)を蓄えた細身の中年男は、宰相を無視して女皇帝に話しかけた。

『お久し振りで御座いますなアーミリア陛下』

 その顔を見た瞬間、女皇帝の顔が歪んだ。

「フィルデルド・ヴァストーグ侯爵!貴様が首謀者か!」

『いかにも。しかし私のこの行動は帝国のためなのですよ。貴女の父上である先代の皇帝陛下が行使した『貴族から権限を取り上げるだけの愚法』のせいで我々正統な貴族は不利益を被っております』

 口調は丁寧だが、その表情と声のトーンが明らかに女皇帝を見下していた。

「『帝域改善法』だ!」

 女皇帝は、自分の父が考え行使した法案を貶され、声を荒げながら訂正する。

 侯爵はそれを気にすることなく自分の話を始める。

『その事を何度も進言したにも関わらず、一向に改善の兆しが見られない。

 ですので我々は、正常で正統な貴族の威厳を取り戻すべく行動を開始し、賛同を得られなかった下位貴族とその領地を粛正いたしました。これからも続けていく予定です』

 侯爵は満足そうにちょび髭を撫でる。

『未だに正統な貴族というものを良く御理解いただけてない陛下に取っては、領地にいる国民(しげん)をこれ以上殺戮(しょうひ)されたくないでしょうな?』

 国民の事を資源と言い切った侯爵に、会議室にいた全員が呆れ返り、同時に激しい怒りを覚えた。

『私としてもこれ以上は国民(しげん)虐殺(しょうひ)するのは不本意です。

 ですが、我々の意思を無視するのであればさらなる虐殺(しょうひ)をしなければなりません。

 我々の意思を理解していただけたなら、今まで正統な貴族である我々を(ないがし)ろにしてきた報いをうけていただく。

 我々の意思を理解していただけたなら、陛下には皇帝の座を退いていただき、この私を次期皇帝に指名していただく!

 それが行われないのなら、我々は更なる国民(しげん)虐殺(しょうひ)をさせていただく。まあ、ゆっくりお考えください』

 侯爵はにやにやと笑いながら通信(でんわ)を切った。

 そのあまりの傲慢な発言に、全員が暫く声を出すことが出来なかった。

「やはり不穏分子は徹底的に排除しておくべきだったのです!」

 そしてその沈黙を破ったのは、惑星防衛艦隊総司令官ソーロック・マウストン中将であった。

「今すぐ討伐部隊を編成し、あの愚か者共を根絶やしにしてやらねば!」

 老年に足を踏み入れたばかりの老将は、顔を真っ赤にして鼻息を荒くしていた。

「落ち着けよじいさん。あれが全部とは限らねえんだ。背後を探ってからじゃねえとな」

「それに、この裏にはネキレルマ星王国が絡んでいるようです」

「あの図々しい臆病者共かっ?!」

「臆病者は追い詰めるとなにするかわからないからな。だからこそ落ち着かねえと」

 中央艦隊討伐部隊総司令官兼第1艦隊司令官ジャック・バルドー・ブレスキン大将と、宰相であるテリー・ランゲイス・オーヴォールス侯爵が、興奮する老将をなだめにかかる。

 すると今まで沈黙していた女皇帝が口を開いた。

「前線には私が向かう」

「ひめさ…陛下!なりませんぞ!」

 女皇帝の幼少期には守り役でもあった老将は、慌てて止めようとするが、

「案ずるな。親衛隊や他の艦隊も連れて行くし、後ろはオーヴォールス公爵にまかせる」

「む…確かに公爵閣下なら…」

「大叔父様。お願い出来ますか?」

 女皇帝は、会議室で自分の後方に控えていた老人に声をかける。

 その老人は一歩前にでると、

「お任せを陛下。この老骨が留守をしっかりと守りましょう。それならまず全国に戒厳令を出しましょうかな。国民だけではなく貴族にも。動いて良いのは軍人と傭兵のみに」

 (うやうや)しく一礼し、早速やるべき事を提案した。

「国民に事態を教えるのですか?しかも貴族にまで…」

 明らかに通常の対応とは違う提案に、全員が首を(かし)げる。

 しかし公爵はにこにことした笑みを浮かべてこう言った。

後顧之憂(こうこのうれい)を断つためじゃよ」


 女皇帝・権力者サイド:終了

切れずに長くなってしまいました


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