<< 前へ次へ >>  更新
82/116

モブNo.80:「ありゃまたやらかすな。焦ってやがる」

 おそらく僕が犯罪者で、それをバーンネクストが説得なり逮捕なりをしようとしていた場合は、閣下一行は間違いなく僕を捕縛の方向に向かうだろう。

「彼とは高校時代の知人でして、軍に入れとしつこく勧誘されていたんですよ」

 なので、まごうことない真実を話す事にした。

 すると、大将閣下は僕の発言を信じてくれたのか、バーンネクストに視線を向け、

「昔は徴兵制だったが今では志願制だ。嫌がる奴を無理やり入れたところで戦果を上げてはくれんぞ?」

 諭すように声をかけた。

「それを何度も言ってるのに聞いてくれないんですよ」

「おいおい。しつこい男は男女関係なく嫌われるぞ?」

 それに乗っかってさらに発言すると、大将閣下は『どうしようもない奴だな』という視線をバーンネクストに向ける。

「しかしそれは「てめえの立身出世のために他者の生命を平気で使い捨てる奴も、男女関係なく嫌われるぜ?」」

 その発言に対してバーンネクストが反論しようとするのを(さえぎ)り、大将閣下が強めの言葉を向ける。

 バーンネクスト本人にそのつもりはなくても、他人から見れば自分の利益の為に、強引に入隊させようとしているようにしか見えないだろう。

 そう言われて、バーンネクストは下を向いて黙ってしまった。

「じゃあ私はこれで失礼します」

 これはチャンスだと思い、大将閣下に挨拶をしてその場を離れようとした。

「おう。部署違いとはいえ部下が迷惑をかけたな」

「いえいえ。では…」

 やった、たすかった!

 てっきり止められるかと思ったけど、あっさり帰してくれたのは有難いお!

 しかしあれが『猛毒の牙(ヴェノムタスク)』の異名で有名なジャック・バルドー・ブレスキン大将かあ。

 お近づきにはなりたくないね。



別サイド:ジャック・バルドー・ブレスキン


 俺は目の前にいる若い佐官を()め付ける。

 プロバガンダ部隊を率いるだけあって見た目は良い。

 たしか戦闘技術(うでまえ)の方もなかなかに悪くなかったはずだ。

 だが人材スカウトには不得手だったらしいな。

「バーンネクスト少佐。強引な勧誘は敵を作る。あの民間人の敵意がお前にだけならともかく、軍全体に向いた場合、面倒なのはわかるな?」

「はい…」

 自分でも下手をうったのは理解しているのか、余計な言い訳はしなかった。

 この辺りは、自分のミスを認めなかったり他人に擦り付けたりする奴よりはマシだな。

「ならば金輪際ああいった勧誘は止めておけ。所属は違うが、上官からのアドバイスだ」

「承知いたしました…」

「よし。行っていいぞ」

「失礼いたします…」

バーンネクスト少佐(若いの)は不請不請ながら頭を下げてその場を後にした。

「ありゃまたやらかすな。焦ってやがる」

 こっちの忠告を一応は受け入れたみたいだが、あの分だとまたやるなあれは。

「理由の一つとして考えられるのは、リオル・バーンネクスト少佐はアーミリア・フランノードル・オーヴォールス女帝陛下の幼馴染みというやつです」

 俺の副官のシュネーラ・フロス中佐が、少佐(やつ)の情報を報告してきたことで、ある程度の推測はできた。

「なるほどな。手柄を立てて王配(おうはい)にってやつか。あの民間人は?」

「ちょっとお待ちを」

 中佐(シュネーラ)薄型端末(タブレット)を操作すると、すぐに情報がきた。

「名前はジョン・ウーゾス。傭兵ギルドの騎士階級(ナイトランク)傭兵です。バーンネクスト少佐と同じ高校に通っていたようです。そして、バーンネクスト少佐と同じく『教員による傭兵斡旋事件』の生き残りです」

 何年か前に起きた有名な事件だから良く覚えている。

 バーンネクスト少佐の顔を見てどこかでと思い、名前を聞いた瞬間に、目の前の佐官(わかいの)があの事件の被害者(いきのこり)なのを思い出したぐらいだ。

 俺が被害者遺族だったら犯人のクソ教師は絶対に殴り殺してやったところだ。

「その事件は俺もよく覚えてるが、たしか生き残りもう1人は女だったよな?」

 俺の記憶では生き残りは2人で、1人はあのバーンネクスト少佐。もう1人は女子生徒で有名人だったはずだ。

「はい。プラネットレーサーのスクーナ・ノスワイルです。今年度もプラネットレースでの賞金ランキングチャンピオンが期待されていますね」

「しかし、そのジョン・ウーゾスという名前は聞いたことがないな」

 事件は良く覚えているが、その名前に聞き覚えがない。俺がボケていなければ、だが。

「当時のマスコミは、美形男子高校生(リオル・バーンネクスト)美人女子高校生(スクーナ・ノスワイル)だけ取り上げて、不細工(ジョン・ヴーゾス)は居ないもののように報道していたみたいですね。新聞記事の大半は『生存生徒はリオル・バーンネクスト君(17歳)、スクーナ・ノスワイルさん(17歳)他1名』となっていて、彼の名前は帝国日報の掲載初日分と警察の調書にしかありませんでした」

 マスコミって奴はなんともエグい事をするもんだな。

 つまり、あいつの腕を知ってるのは傭兵の仲間とその2人だけってやつか。

 傭兵としての名前は売れてはいないが、勧誘する価値があるって訳か。

「軽く調べてくれ。勧誘(ミス)はするなよ?」

「承知いたしました」

 おそらく勧誘は無駄だろうから、仕事を頼む形にしてみるか。


別サイド:終了



 嫌なやつと出くわしてから3日後。

 ついにおやっさんから電話があった。

『届いたぜ』

 その一言に僕は歓喜に震え、翌日に喜び勇んでおやっさんの店に向かった。

 そこにあった新造艇(しんしゃ)以前の船(パッチワーク号)より少し大きく、サイズ以外のシルエットはそのままな感じだった。

「まずは操縦関係の手直しだな」

「はい。場所お借り出来ますか?」

「おう」

 以前の『パッチワーク号』は、イオフス社の『スリッツ』の中古をベースに様々な安い部品を探しだし、自分で7割ほど組み上げたときに行き詰まってしまった時におやっさんに出会い、色々教えてもらいながら組み上げたものだった。

 そのとき僕がこだわったのは操縦系統だ。

 自分の操縦の癖を把握し、僕が一番のパフォーマンスをできるように調整する。レーダー・防御面以上にこだわっている部分だ。

 そしていま目の前にあるイオフス社の『ノルテゲレーム』は新品なので部品を調達して交換する必要はないけれど、操縦系統の改造・調整はしないといけない。

 これをしないと僕の船ではない。

 おやっさんに場所を借り、その作業を1人で黙々とこなしていく。もちろんおやっさんにチェックをしてもらうのは忘れない。

 調整しては試験飛行、調整しては試験飛行を繰り返して、一番しっくりくるまで5日もかかってしまった。

 その作業が終了してから、ようやく以前購入した高性能レーダーのフォログ社製『PKRE-88』の搭載や、追加武装の搭載、内装の設置なんかを開始する。

 そうして3日かけて搭載や設置が終わっても、まだ使用する事は出来ない。

 食料や寝具や救急箱や工具箱、パイロットスーツの予備に武器の予備、簡単な調理器具に食器、トイレットペーパーや歯磨き・石鹸などの衛生用品なんかも買い揃える必要がある、

 それらがそろってようやく運用開始をする事ができるわけだ。

今回はこっちが先になりました


ようやく船が復活です!


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします

<< 前へ次へ >>目次  更新