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モブNo.74:「では私はここを放棄して愚妹に会いにいく。調査は勝手にするといい」

 本当なら、どうして貴女はこんなところにいるんですかとか、ロスヴァイゼさんは人間形態がなかったのになんで貴女は持ってるんですかとか、なんでいま動き出したんですかとか、他の出入口を教えてくださいとか色々聞きたかったが、身体を休める方が優先だし、聞いたら絶対に厄介になると思ったので聞くのをやめることにした。

 しかしこれだけは聞いておかないといけなかった。

「あの、このエレベーター内で休憩してかまいませんか?ここには休憩するために戻ってきたので…」

「エレベーターが戻ってきたら好きにしろ。下には降りるなよ」

 そう冷静に許可をくれてから、ゲルヒルデさんは下に帰っていき、放り出したスコップと銃を回収しているうちにエレベーターが無人で戻って来た。

 そこでようやく、パイロットスーツを脱ぐことができるようになった。

 船を動かす時は必ずパイロットスーツを着る。

 この癖をつけておいたお陰で、豪雨の中でも顔以外が濡れず、風邪をひくような心配もなかった。

 しかし穴掘りをしていたのだから当然汗をかくわけで、雨に濡れてなくとも自分の汗で風邪を引いてしまう。

 なのでパイロットスーツを脱ぐ前に、乾燥機能を作動させる。

 これをつかえば、内部・外部ともに水分を完璧に蒸発させ、消臭もしてくれる(すぐ)れものだ。

 ちなみにパイロットスーツの下は、動きやすさと吸湿性を考えてジャージにしてある。

 そういえば、プラ・ペーパーの書類や記録媒体(メモリー)が地下から見付かったっていってたけどもしかしてここにあったのかな?

 部屋サイズのエレベーターの内部に書類って、そういえばなんかの漫画だか映画だかで、オフィスごとエレベーターになってるってのがあったようななかったような。

 ともかく、パイロットスーツをテーブルに置き、簡易トイレで用をたし、椅子を並べてベッドにして横になると、疲れもあったのかすぐに意識は途切れていった。


 翌朝の目覚めはあんまり良くなかった。

 やっぱり椅子を並べたベッドはよくない。

 まだ地面のほうがいい気がしてくる。

 まずはウォーターサーバーの水を満足するまで飲み、掘削機のバッテリーをチェックし、トイレにいって用をたし、安全のためにパイロットスーツを身に付け、必要な道具を反重力ホバー式の手押し車に乗せて入り口に移動する。

 ちなみに返してもらった僕の銃で入り口を撃たなかったのは、撃ったところで穴は開かないだろうし、何より着弾の爆発の震動でヒビに影響がでて洞窟内部が崩れたら命が危うい。

 それからは昨日の繰り返し、掘削機で2時間掘り、10分休憩して土砂よけ20分、それを4セット繰り返し、ようやく入り口が開通した。

 時間は午後6時すぎ。外はまだ雨と風が暴れていた。

 その遠目からでも、僕の船が完全に破壊されているのがわかり、さらには小屋まで破壊され、通信手段もつかえないようだ。

 当然僕の大事な書籍やアニメデータカードは、リストコムに入ってるやつ以外は全て灰塵と化していた。

 命には代えられないとはいえ、大切な大切なラノベや漫画やアニメデータカードを消し炭にされたことだけは絶対にゆるさない!

 しかしこのままでは、海上都市(オーシャン・パレス)に帰ることが出来ない。

 仕方ない。ゲルヒルデさんに相談…は、無理かな。降りてくるなっていってたからね。

 でもヒビ割れはどうするつもりだろう?修復しない限り、調査の手が入れば確実にばれるだろうに。

「おい」

「うわあっ!」

 雨の中そんなことを考えていた僕の後ろから、ゲルヒルデさんが不意に声をかけてきた。

「出られたのに帰らないのか?」

「びっくりさせないでください。でもちょうどよかった。船か飛行機かボートはありませんか?僕の船はこの通りなので」

 僕の船だったものを見たゲルヒルデさんは、少し思案した後にありがたいお言葉をくれた。

「そうだな…。たしか格納庫の(すみ)に釣りのための水上船(ボート)があったな」

「それ!貸してもらえませんか?」

 ボートがあれば海上都市(オーシャン・パレス)まで戻る事ができる。

 ここでじっとしていてあの博士(クソきぞく)に殺されるよりは遥かにマシだ。

「かまわん。それより愚妹を知っているのだったな。どこにいる?」

「ポウト宙域・惑星イッツを拠点にして、僕と同じく傭兵をしていますよ。パートナーと一緒に」

宙行地図(ちゅうこうちず)をくれないか?私のだと古いからな」

「わかりました」

 そうして腕輪型端末(リスト・コム)宙行地図(ちゅうこうちず)複写(コピー)していると、いつの間にか雨が止んでいた。

 でも視界には雨が降っている。

 そう思って上を向くと、銀地に黒のラインと黒の弓と矢のマークがあり、シルエットがロスヴァイゼさんににているが一回り大きい感じの流線型の戦闘艇が浮かんでいた。

 暴風の中でも微震動することもなく空中停止(ホバリング)していた。

 それがゲルヒルデさんの本体だというのはすぐにわかった。

 そして人間形態のゲルヒルデさんは、

「では私はここを放棄して愚妹に会いにいく。調査は勝手にするといい」

 すごい跳躍をして自分自身に乗り込み、あっという間にその場から去っていった。

 まあ、見付かったら色々ヤバそうだし、良い判断なんだろう。

 それより、下にある水上船(ボート)を早速探しにいって見つけておこう。

 壊れていたりしたら修理をしないといけないしね。


 エレベーターで下に降りた先はきちんと明かりが点いていて、左は壁、右は通路になっていて、目の前には革製の長椅子がおかれた、狭いエレベーターホールだった。

 その右の通路を曲がった先の格納庫はかなり広く、海上都市(オーシャン・パレス)のスタジアムがすっぽり収まるくらいだった。

 しかし船はもちろん、作業用の機械や工具の(たぐ)いも残っておらず、ゲルヒルデさんが出るときにつかったらしい入り口が開いていて、雨風(あめかぜ)が入り込んでいた。

 ゲルヒルデさんが嘘を言うとは思わないので、どこかには水上船(ボート)があるのだろう。

 そう思って良く周りを見ていると、壁に四角い穴があり、そこには登り階段があった。

 その上にはガラス窓があったのでそこに向かい、階段を登ってみた。

 そこはいわゆる管制塔のようなところで、この格納庫内部のあらゆるものがコントロールできるように思えた。

 すると次の瞬間、ゲルヒルデさんが出るときにつかったらしい入り口が閉じ始めた。

 おそらく自動的に閉まるようになっていたんだろう、コンソールの一部が光っていた。

 他にも色々興味深いものはあったけれど触らない方がいいだろう。

 幸い格納庫内部の見取図らしいものがあり、文字はよめないけど水上船(ボート)が置いてあるらしい場所はわかった。

 早速水上船(ボート)を見に行ってみると、そこは海と繋がっていて、ありがたいことに3隻もの水上船(ボート)があり、その一つがエンジン付きの奴だった。

 文字が読めなくとも操縦出来る簡単なシステムだったし壊れてもなく、燃料もかなりはいっていたので、なんとか脱出できそうだ。

 しかし疲労困憊の現状では危ないし、雨が凄いとはいえ昼間の方がいいだろう。

 さらに万が一のときのために、手漕ぎ船の(オール)をエンジン付きの船に乗せておいた。

 それからエレベーターホールに戻ると、エレベーター内部のトイレで用をたし、エレベーターホールの革製の長椅子に寝転んだ。

 やっぱり固い椅子3つ繋げた奴よりは格段に寝心地がいい。

 穴掘りは完全に無駄になったなあ…。

 ゲルヒルデさんも教えて…くれるはずはないよねあの雰囲気では。

 まあ、ダイエットになったと思うしかないかな。

今回はこっちが先になりました。

パイロットスーツの乾燥機能は、

映画『バック○ゥザフュー○ャー2』に出てきたジャンパー?の機能見たいなものです。


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