モブNo.70:「しかし、プロのパイロットというのは凄いな。こんな雨と風と雷のなかでこんなに安定して飛行させられるとは。素人の私達ではこうは行かない。やはりコツなどあるのかね?」
惑星トスレ。
宇宙空間から見たこの星は、海の青・木々の緑・雲の白で彩られた美しい星である。
大気は人類が生息できる成分で、水が豊富で緑がたっぷりだが、地面の100%が固い岩盤な上に、平たい場所が1%程しかなく、そこを除けば、海上か空中に拠点を製作しないと十分な住居を確保できない星だ。
その固い岩盤に根を生やすこの星の植物は本当に力強いと思う。
その僅かな平地を開発していた最中に、古代遺跡が発見され開発は中止になったが、今度は遺跡を中心にした観光惑星にする計画が持ち上がった。
今現在はその発掘調査の真っ最中だ。
同時に、この惑星の平地がどうしてこんなに少ないのかについては、初めからこうだったとか災害とか戦争の結果だとか色々な推測がされているらしい。
そんな惑星トスレの現在の惑星環境が、古代の一部の特権階級が
そんな惑星トスレの玄関口は、惑星トスレの洋上において、深さ160mの大陸棚の上に、直径100m・長さ20000mの杭を、六角形とその中心という形で7本、海上部分を150m・海中部分を160mの合計310mを残して海底に突き刺し、その海上部分の海面から30m離れた箇所に、直径50㎞の円形のプレートの7ヶ所を貫通させる形で固定する。
そのプレートを1階層として、50m間隔で3階層まで設置する事によって完成した超巨大人工海上都市『オーシャン・パレス』だ。
その中央には、宇宙港行きの軌道エレベーターがある。
当初は数少ない平地にあるリゾート地への出発基地として作られたが、各地で古代遺跡が発見されると、すぐに発掘調査隊の基地兼臨時研究所になった。
そのため、発掘用工具やその部品・各種端末用バッテリー・食糧・衣服・日用品・医療品などの店舗や、飲食店・入浴施設・宿泊施設・クリーニング店・コインランドリーなどの施設は充実しているが、それ以外の娯楽施設、書店・
臨時の図書館はあるけど、歴史の資料ばかりらしい。
まあ
研究者にとっては遺跡全てがアクティビティだから良いのかもかもしれないけれど、作業員として働いている人達は退屈極まりないだろう。
その
遺跡1か所を1つのチームが調べ、その遺跡で発掘されたものをここに持ち帰り、様々な計測・考察をするのが目的だ。
僕が今回雇われたのはそんな調査チームの一つである帝都大学の考古学教授フロリナ・テーズ氏のチームだ。
「いやあ、よく来てくれた。私たちも
僕と握手をするテーズ教授は30代半ばの美女で、身体を鍛えているのが背も高くてスタイルもよく、発掘・探索用の作業着にブーツという格好をしていても、一見大学教授には見えない。
「じゃあ、この船で現場に送り迎えすればいいんですね。そして皆さんを現場に運んだ後は、現場にいてもいいし、
操縦を頼まれた
これなら
「そのかわり、連絡があったらすぐにこられるようにはしておいてくれ。地図と発掘場所は船にインプットしてある。明朝からよろしくたのむよ」
「わかりました。よろしくおねがいします」
まず最初の仕事は
翌日からの仕事は実に平和だった。
朝6時に起きたら、直ぐに
それが終われば朝食。
その後、教授たち発掘チームを発掘現場に送迎。
僕の仕事は基本この送り迎えだけで、発掘作業の手伝いはなし。
発掘に行かない人は、発掘品の復元や分析などをやっている。
発掘チームを現場で下ろしたら
呼び出しがないかぎり、迎えに行く時間までは自由だけど、ときどき発掘に必要な機械やバッテリーのデリバリーを頼まれることはあったし、発掘現場を見学させてももらった。
夕方5時には向こうに到着するように発掘チームを迎えに行き、帰って来たら直ぐに機体の点検と燃料補給を済ませておく。
その後はまた自由時間だ。
一度教授から研究者達の飲みに誘われて、一応行ってはみたけれど、話の内容は専門用語が飛び交い、まったくわからなかったので、あれ以降は翌日の運転があるからというのを理由に断っている。
宿泊は都市にあるホテルで、僕も1部屋あてがってもらった。
退屈と言えば退屈だけど、命の危機のない日々は本当に有難い。
その平和な仕事を始めてから3週間たった今日。
朝から雲行きが怪しかった。
といっても人間関係とかではなく天候の方だ。
この惑星に来てから初めての曇天で、今にも降り出しそうな感じだった。
いつもの時間に教授達を現場に送り届けて、
洋上なのもあるだろうけれど、風もかなり強かった。
そして昼食を取る寸前に、危険かも知れないので早めに帰りたいと連絡があり迎えに行くと、発掘現場も相当な雨が降っていた。
船を休憩用の小屋の近くに停めると、教授達が急いで乗り込んできた。
「いやあ。何度体験してもここの雨は凄まじいな」
「そうなんですか?」
この惑星に来て長い教授達は、この雨を何度も体験しているらしい。
「降らない時は
教授は発掘品の積み込みの間に、この惑星の気候について講義してくれた。
「積み込み終了しました!」
「よし。やってくれ」
その間に積み込みが完了したので、扉を閉めて船を発進させた。
風も強く雷も鳴っているので、発掘現場を離れたら出来るだけ低めに飛ぶことに決めた。
いくら対策をしてあっても落雷はヤバイからね。
海面近くを、出来るだけ安定するように神経を使いながら飛ぶのはなかなか大変だ。
なのに教授が話しかけてきた。
「しかし、プロのパイロットというのは凄いな。こんな雨と風と雷のなかでこんなに安定して飛行させられるとは。素人の私達ではこうは行かない。やはりコツなどあるのかね?」
おそらく本気で気になって覗き込んできたのだろうけれど、神経を使う操縦をしている時に、呑気に、かつ計器を覗き込むようにしてくるのは、操縦的にも理性的にも非常に困る。
「だめですよ教授。話しかけちゃ。この天候でこれだけ安定して飛行させるためには集中しないといけないんですから」
「おお、そうか。すまなかった」
その時、助手の学生さんが教授をたしなめてくれたお陰で教授が離れてくれた。
その瞬間、船体が激しい光に包まれた。
「雷が落ちたらしいな」
「海の上ですからね。上空よりはマシですけど」
どうやら船が雷に撃たれたらしい。
対策があるから大丈夫とはいえ、食らわない方がいいのは間違いないので、
「出来るだけ急ぎます」
慎重を期しながらも迅速に海上都市に戻るためにスロットルを開いた。
用語説明
巨大洋上人工都市『オーシャン・パレス』:
惑星トスレの洋上において、深さ160mの大陸棚の上に、直径100m・長さ20000mの杭を、六角形とその中心という形で7本、海上部分を150m・海中部分を160mの合計310mを残して海底に突き刺し、その海上部分の海面から30m離れた箇所に、直径50㎞の円形のプレートの7ヶ所を貫通させる形で固定する。
そのプレートを1階層として、50m間隔で3階層まで設置する。
中央には、宇宙港行きの軌道エレベーターがある。
本来は
1階層:核融合発電所・上下水道管理局・緊急脱出用救命艇格納庫・ごみ処理施設・都市機能管理センター・各種倉庫・各種工場・観光用潜水艇発着場・住民居住区・学校・病院
といったインフラや都市で働く人達のための区画。
2階層:商店街・ショッピングモール・飲食店・入浴施設・宿泊施設・図書館・スポーツ施設・
といったリゾート客のための区画。
3階層:軌道エレベーター発着場・惑星内専用空港・宇宙船発着場・巨大公園・農場・惑星官庁庁舎・高級別荘地
といったアクセス及び屋外施設や特別領域の区画。
と、なっている。
当初は数少ない平地にあるリゾート地への出発基地として作られたが、各地で古代遺跡が発見されると、すぐに発掘調査隊の基地兼臨時研究所になった。
そのため現在は、3階層はエレベーター発着場以外は全て研究エリアに。
2階層は発掘に関係する用品店・飲食店・入浴施設・宿泊施設・総合病院以外は完全凍結。
1階層は各種工場・住民居住区・学校・病院以外は全て稼働中。
食糧は、現状では他の惑星から運んで来ている。
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