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モブNo.69:「安全装置(セーフティー)がかかっているとはいえ、こんな町中で銃を抜くものではないわ」

僕の学生時代。

通っている学校で、一部の生徒達から蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われていた男 、アロディッヒ・イレブルガスが、僕の目の前にいた。

高級品らしいスーツや靴や時計を見せびらかすように身に付けていた。

イケメンで金持ちなので尻の軽い女の子は寄ってくるし、金とおこぼれ目当ての取り巻きもいた。

そして今現在も、数人の女性をつれ、学生時代のメンツはいないが取り巻きもつれていた。

蛇蝎(だかつ)のごとくといったが、蛇や(さそり)の方がまだ好感が持てるだろう。

「ここはキモデブがくる店じゃねえって言ったよな?なんで来てんだよ?」

学生時代同様に、明らかにこちらを見下した様子で話しかけてきた。

「仕事関係の人に誘われたのでね」

その質問にはこう答えるしかない。

同行しているロスヴァイゼさんがここでと言って来たのだしね。

プライベートなら今でも使わないが、仕事なら仕方ないだろう。

しかしながらイレブルガス(こいつ)はそんなことは理解しておらず、

「仕事だあ?関係ねえよ。『自分にはこの店は相応しく無いです』って相手にいえよ」

と、僕を嘲笑しながら不躾にロスヴァイゼさんの顔を覗き込んだ。

「おい!お前みたいなのがなんでこんな上玉と一緒なんだよ?」

そのことに、さらに腹を立てたらしく、僕の足を蹴りつけてきた。

そうしてロスヴァイゼさんに詰め寄ると、

「ねえ彼女。こんなキモデブなんかじゃなくて俺達と一緒にこいよ」

さっそくナンパをしていた。

ロスヴァイゼさんはイレブルガスに視線すら向けず、

「邪魔よ。いま仕事に関係する話をしているの」

と、言い捨てた。

仕事というよりはプライベートに近いが、イレブルガス(こいつ)を邪魔に感じたのか話を合わせてくれた。

「仕事関係なら俺の方が有意義だぜ。何しろ俺はイレブルガス商事の次期社長だからな。商売の上でも付き合った方が得だぜ?」

しかし、イレブルガス(こいつ)は気にする事なくロスヴァイゼさんに声をかけ続ける。

それに苛立ったロスヴァイゼさんは、司教(ビショップ)のマークが入った傭兵の登録証明書(バッジ)をイレブルガスに見せつけ、

「私の仕事に貴方は不要なの。邪魔だから消えなさい」

と、イレブルガスを睨み付けた。

するとイレブルガスは何故か僕を睨み付け、

「ふざけんなよこのキモデブ!てめえがなんか吹き込んだな?!」

と、理不尽な主張をしてきた。

「いや、そんな暇なかったでしょう」

イレブルガス(こいつ)が話しかけてくる前にはイレブルガス(こいつ)の話はしていないし、話しかけてきてからはロスヴァイゼさんとは会話をしていない。

まあ、イレブルガス(こいつ)がそんなことに気がつくわけはない。

「てめえがデタラメ吹き込まなきゃ、俺が女に拒否されるわけねぇだろうが!」

そうブチ切れていきなり銃を抜いた。

イレブルガス(こいつ)がもっていたのは、ラエミテッドインダストリアル社製の大口径拳銃(ハンドガン)の『サンドホーク』だった。

とにかく威力の馬鹿でかい熱線銃(ブラスター)で、戦場や未開惑星での探索に使用することが大半だ。

登録をすれば違法ではないけれど、民間人がこんな町中で携帯するのには向かないものだ。

「ビビったか?こいつは車ぐらい簡単にぶち壊せるんだ!お前みたいな貧乏人には手に入らねえだろうがな!」

確かになかなか高価な銃だけど、扱えるんだろうか?

少なくとも僕は扱えない。

普通、光線銃(レイ・ガン)であれ熱線銃(ブラスター)であれ反動(リコイル)はわずかなものだし、モノによっては反動(リコイル)が皆無なものもある。

しかしこのサンドホークにはかなりの反動(リコイル)がある。

熱線銃(ブラスター)としては欠陥品ともいえるが、『この火力と反動(リコイル)がいい!』というファンも多い。

イレブルガスはそのサンドホークを片手で構え、こちらに突きつけてくる。

「俺はな。傭兵になってないだけで、強さだけなら王階級(キングランク)確定なんだよ!理解できたら土下座だ!さっさとしろやキモデブ!」

なにを基準にそんなことを言っているのかはわからないが、間違いなく現役の王階級(キングランク)には勝てないと思う。

そして多分()()()

やっぱり、射撃訓練や格闘訓練、何よりも、大半が戦闘艇とはいえ実戦を重ねてると、一般の人よりは冷静に戦闘ができるんだなと実感してしまった。

それに、僕はあることに気がついたので、席を立ってイレブルガスの前に立とうとした。

しかし僕が立つ前に、ロスヴァイゼさんがイレブルガスの前に立った。

「ああ?なんだよ?お前が土下座するのか?」

イレブルガスが薄ら笑いを浮かべながらロスヴァイゼさんに銃を向けた瞬間。

ロスヴァイゼさんは銃を持っているイレブルガスの腕の関節を内側から押し、銃を持つ手を外からも押して銃ごと顔面に叩きつけ、そのまま銃をもぎ取りつつ相手の腕を取り、取り巻きのいる方に投げ飛ばした。

イレブルガスは床を転がって取り巻き達の足元に転がった。

その連中に向かって、ロスヴァイゼさんは奪い取ったサンドホークの銃口を向け、躊躇(ちゅうちょ)なく引き金(トリガー)を引いた。

が、カチッという音がしただけだった。

安全装置(セーフティー)がかかっているとはいえ、こんな町中で銃を抜くものではないわ」

ロスヴァイゼさんはそう話しながら、サンドホークをあっという間にメンテナンス用の分解をし、バラバラにしてから、イレブルガスに返却した。

よく扱う人じゃないと戻すのは大変だろうな。

「最後通告よ。邪魔だから失せなさい。まだ居座るようなら、ただでは済まさないわよ?」

そしてロスヴァイゼさんはかなり苛立った様子でイレブルガスを睨み付けた。

どうやら相当気に障っていたらしい。

そのロスヴァイゼさんの眼光にイレブルガスと取り巻き達は怯えた表情をし、

「くそっ!気分が悪りぃから行くぞ!」

分解された銃を拾ってから、負け惜しみを言いつつ店を出ていった。

イレブルガスが退店したのを確認すると、僕に頭を下げてきた。

「申し訳ありませんキャプテン・ウーゾス。ご自分で制裁したかったでしょうに。でもあの生物がどうしても気に障って…」

「こちらこそすみません。僕の事情に巻き込んじゃって」

今回僕の事情に巻き込んでしまったことになるわけだが、ロスヴァイゼさんは申し訳なさそうに僕に謝罪してはいるものの、その表情は実にスッキリとしていた。

あいつがよっぽどウザかったんだろうな…。

その気持ちはよくわかります。

「そもそもあれはなんです?」

「学生時代のクラスメイトって奴です。友人ではありませんけどね」

「厄介なものですね。無力化すればよいのでは?」

「あれであいつが撃ってたら正当防衛が成立してましたよ」

「次に絡まれたら、撃つまで放置して、正当防衛で完全に無力化してしまいましょう!」

そのロスヴァイゼさんの表情は、本気でソレをやる気満々だった。


ロスヴァイゼさんと別れてからはホームセンターに行き、水や食料を買い込み、ギルドに届けてもらうようにお願いした。

それからゴンザレスの所で惑星トスレの情報をもらってから、闇市商店街で昼夜用の食材やお惣菜を買った。

ちなみに例のお肉屋さんで、『新たなる地の底の生命を擂り潰しモノにて顕現する至福の黄金』というネーミングの新じゃがのコロッケ。

『油泥に落ちし貪欲たるオークの死骸』というネーミングのロースとんかつ。

『白濁に溺れし海獣の繭・沈黙を生みし紅殻』というネーミングのカニクリームコロッケを買った。

そして帰る途中のコンビニの駐車場で、両親に長期で離れる事を電話で伝えてから家に戻り、もっていくラノベや漫画やアニメを選ぶことにした。

今回は逮捕にいたりませんでした。


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