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モブNo.68:「お?なんだあ?キモデブがいるぜ!前に身の程って奴を教えてやったはずなのによぉ」

ピンク頭の襲撃事件に関する事情聴取が終了・解放され、父さんも母さんも怪我はなく、そのまま帰っていいことになった。

久しぶりに会ったのだからと思い、

「父さん達はどうするの?買い物とか行きたい所があれば荷物持ちくらいは付き合うけど」

同時に財布ぐらいにはなろうかと提案したのだけれど、

「けっこうよ。お父さんと久し振りのお出かけだもの。2人でゆっくりしたいわ。貴方から軍資金もたっぷりもらったしね」

と、母さんからやんわりと断られた。

まあ確かに夫婦の時間を邪魔するのは悪いかな。

「わかった。楽しんでおいでよ」

そうして両親は、繁華街に向かっていった。

もしかして、この歳になって弟か妹が出来やしないだろうな…。

ともかく今日は帰って寝よう。疲れた。


そうしてよく眠った翌日訪れた傭兵ギルドは、いつもと変わらない様子だった。

「お前は不幸の星の元に生まれているらしいな」

「そういうのはアーサー君やランベルト君の専売特許ですよ」

ローンズのおっさんは、笑いながらからかってくるが、はっきりいって冗談じゃない。

僕をからかったことに満足した後、ローンズのおっさんは急に真剣な表情になると、

「あのピンク頭だがな、脱走を手引きした奴がいたらしい」

ピンク頭に遭遇した瞬間に理解出来た事を話してくれた。

「ですよねぇ」

「で、本人はお前に撃たれた傷と少将閣下に撃たれた麻痺銃(パラライザー)の治療のために収容されていたカプセルで、治癒中に心臓発作で死んだらしい」

そのおっさんの報告に僕は恐怖を覚えた。

「明らかに処理されてんじゃん…」

「あの性格だからな。脱獄させて駒に使うつもりが、勝手をするんでってとこだな」

おっさんもなんとなく嫌そうな顔をしていた。

こうなったら、いや、ならなくてもこれ以上あのピンク頭についてはなにもしない方がいいだろう。

それにしてもこう心労が続くと、はっきりいって労働意欲がなくなる。

かといって仕事を、しないわけにもいかない。

「戦闘のない依頼が受けたい…」

となれば、妥協してこんなところだろう。

「それなら、1ヶ月拘束で依頼料はまあまあ。戦闘は皆無な依頼があるぞ。掲示板(ボード)に掲載されてない奴なんだがな」

ローンズのおっさんは掲示板(ボード)に掲載される前の依頼書を見せてくれた。

その依頼は、惑星トスレの遺跡発掘の現場で、ベースキャンプから発掘現場までの人員の移動や発掘用機材・発掘品の運搬用のコンテナ船の運転がメインで、あとはベースキャンプで待機。時折雑用というものだ。

専属の人がいたらしいのだが怪我をしてしまい、現在は不馴れなスタッフが運転しているらしい。

「拘束時間が1ヶ月かあ…」

「だが戦闘は間違いなく皆無だぞ。景色もいいし、水も空気もいい」

掲示板(ボード)の方の依頼を見てみるけれど、海賊退治や護衛の仕事がほとんどだった。

「まあ確かに、他の仕事は戦闘が発生しそうだしね。今日はあれだから明日出発でいい?」

「おう。準備もあるだろうしな」

そうして依頼を受け、傭兵ギルドを後にした。

それにしても、1か月も拘束されるなら読んだことのないラノベや漫画やアニメデータカードをまとめて買ってもいいよな。

あ、昔の作品や、今連載中のバックナンバーを読み返すのもいいかな。

『僕の姉がこんなに可愛いのは間違ってる』とか、『俺に友達はいない』とか、『限界超越ガロンバロン』とか久し振りに見てみたいかもしれない。

取り敢えず『アニメンバー』に行くことにしよう。


『アニメンバー』では『Assassin(アサシン)×Family(ファミリー)』の新刊を買い、『せいざばん』では『カウガールスウィング』のアニメデータカードがセットであったのでこの際買っておいた。

そうしてアニメンバーから出てきた時に、意外な人から声をかけられた。

「奇遇ですねキャプテン・ウーゾス」

それは、先日バイオロイドの身体を手に入れた、意思のある古代兵器の小型戦闘艇WVSー09・ロスヴァイゼさんだった。

「やあどうも。じゃあ僕はこれで…」

恐れていた事態が起きてしまった。

なので僕は即座に離れようとした。

が、ロスヴァイゼさんに捕まってしまった。

「ちょっと。どうして避けるんですか?」

「今話題の『羽兜』の相方と一緒にいたら変な噂を立てられかねませんからね。今日はランベルト君はいないんですか?」

ロスヴァイゼさんと2人きりなんか、本当に危ない。

せめてランベルトくんがいるなら安全弁になってくれるんだけど、

「少し前に知り合ったレビン・グリセルって人と一緒にどっかの商店街へ行くって…」

どうやらそれは期待できそうにない。

となれば、大人しく話をするしかないだろう。

無理に断ったりすると、そっちの方が危ない。

「それで僕に何かしら用があるんですか?」

「ちょっと聞きたいことがあったんですよ。立ち話もなんですからあそこで話しませんか?」

そうして彼女が指差したのは、僕の苦手な有名お洒落カフェチェーンだった。

店員や客の視線に耐えつつ、ロスヴァイゼさんはストロベリーなんちゃらフラペチーノを注文し、僕はMサイズであるトールサイズのブレンドコーヒーを頼んだ。

そうして席に座ると、さっそくロスヴァイゼさんが話しかけてきた。

「キャプテン・ウーゾス。貴方に単刀直入に伺いたいのですが、私が最初に貴方に接触した時、貴方はなぜ私を拒否したんですか?」

僕はその質問に驚いた。

何人かに頼んで断られているのだから、わかっているものだと思っていたからだ。

そして彼女の話は続く。

「『黒い悪魔』ことアルベルト・サークルートは自分専用のハイスペックな機体を持っていました。私の劣化版といった感じの。

親衛隊長のキーレクト・エルンディバー将軍は私が必要ないほどの部下がいました。

これなら確かに私は必要ないでしょうし、断られた理由も、不愉快ですが理解しました。

でも貴方だけは、優れた機体があるわけではなく、優秀な部下がいるわけでもない上に、理由も言わずに断りました。その理由を聞きたいんです」

確かにあの時、頭では断る理由を考えてたけど、口に出してはいない。

本人が聞きたいというなら話しても構わないだろうが、不愉快になったりしないだろうか?

「聞いても怒らないなら」

「冷静に判断しますので」

なので予防線を張ったところ、ロスヴァイゼさんからはGOサインがでた。

なので、断った理由を話すことにした。

「ギルドを見たならわかると思いますけど、僕は一部の職員・傭兵から蔑まれています」

「そんな感じがありましたね。まあ、貴方の実力を見抜けないバカな人間共ですよ」

ロスヴァイゼさんは吐き捨てるようにそう言った。

「で、その人達は僕が貴女みたいな綺麗で性能のいい船を持っていると強奪しようとしてくるんですよ」

「暴力的な事なら十分対処できるのでは?」

「数で囲まれたら勝ち目はないですね。連中は数で押してくるのは得意だから」

それに僕は主人公(ヒーロー)じゃないから救いの手も現れないしね。

「もう一つの手段は権力ですね。貴族が『アレは元々俺の物だ』って主張して、警察と司法の偉い人に()()()を渡せば晴れてそいつのもの。捕まった僕は謎の獄中死を()げるわけです」

「それを回避するために拒否したと?」

「そういうことです」

「なるほどわかりました」

ロスヴァイゼさんは宣言どおり怒る事はなかった。

「私の性能が気に入らないとかではなかったのですね」

それどころか安堵したような様子だった。

まあ戦闘艇(ほんにん)としては、『使えないからいらない』と、いわれるのが一番辛いのかもしれない。

まあ断った理由の一番は、搭乗員をあっさり乗り換えようとするところなんだけどね。

「そうだ。僕からもちょっと聞きたいことがあるんですが」

「なんでしょう?」

「実は依頼で惑星トスレの遺跡に向かうんですが、そこの遺跡についてなんか知りませんか?」

ロスヴァイゼさんが古代兵器なら、惑星トスレの遺跡の事を知っているかもと思い、好奇心から尋ねてみた。

「私もくわしくはしりませんね。一部の特権階級が、美的景観保護の名目で、自分達の別荘と防衛基地の土地以外の平坦な土地を、全て山岳地帯に作り替えたぐらいですか。要は選ばれた者しか別荘を立てられないようにしたというぐらいしか…」

いや、それは十分な情報でしょう。

今度の仕事場になる発掘現場の惑星トスレ。

大気は人類が生息できる成分で、水が豊富で緑がたっぷりだが、地面の100%が固い岩石な上に、平たい場所が1%しかなく、そこを除けば、海上か空中にしか住めない星だ。

そこの僅かな平地を開発していた最中に古代遺跡が発見され、開発は中止になったが、今度は観光地にする計画が持ち上がったらしい。

そんな惑星トスレの現在の惑星環境が、権力者のわがままによって作られたとは、学者の人たちが知ったらどうなるんだろう?

そんなことを考えていた時に、聞きたくもない奴の声が聞こえてきた。

「お?なんだあ?キモデブがいるぜ!前に身の程って奴を教えてやったはずなのによぉ」

それは、イレブルガス商事の社長子息で、現在は親の会社を継ぐために遊学中という、それはそれはスタイリッシュな生活をしているアロディッヒ・イレブルガスだった。

モブにとって、一番嫌な敵の登場です


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