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モブNo.67:「嫌になったら、戻って来なさい。しかしそれまでは、立派に仕事をやりとげるんだぞ」

よく考えれば、自分で警察に連絡すればいいのに、何で店員さんに期待したかな。

父さんと母さんがいるから焦ったかな。

ともかくアコ・シャンデラ(ピンクあたま)の注意を引き付けないと。

「僕が目当てなら場所を移動しませんか?店に迷惑ですよ」

「ここに居るのなんかどうせ全員下民でしょ?どうなろうが知ったことじゃないわ。なんなら何人か殺してもいいわね。それが嫌だったら今すぐ殺されなさい!」

これは不味いなぁ。

警察が到着するまでは時間稼ぎしなきゃって思ったけど無理っぽい。

でも多少はこっちにヘイトが向いたおかげで、お客さん達が少しずつ店の外に脱出できている。

とはいえ、いつお客さん達に向かって銃をぶっぱなすかわからない。

僕はたまたま落ちていた銀のトレイを手に持ち、角から出ると同時にピンク頭に投げつけて視界を奪い、右太股を狙って引き金を引いた。

銃を持ってる手を狙えばいいのだろうけれど、僕にそんな腕はない。

ならば胴体をと思うけど、ピンク頭が熱光線反射防護服(リフレックスジャケット)を着ていた場合、ビームが反射して周りに被害がでる。

熱光線反射防護服(リフレックスジャケット)は首と手以外の上半身全体をカバーしているので、顔を狙えば眼も潰れるし気絶も期待できるし当たらなくても十分怯むだろうが、両親や子供達も居るから狙うのは止めておいた。

ピンク頭はトレイを銃の台尻で叩き落とす。

その瞬間に、僕の熱線銃(ブラスター)が無事に右足太股に着弾し、

「ぐあっ!」

と、悲鳴をあげて体勢を崩した。

もちろんそれだけでは駄目なので、体勢を崩した瞬間を狙ってピンク頭に接近しつつ、更に足のどちらかを撃って転ばせてから銃を弾き飛ばしてやろうと思っていたが、ピンク頭が悲鳴をあげて体勢を崩したと同時に、ピンク頭の頭部になにかのビームが着弾した。

するとピンク頭は白目を剥き、そのまま地面に倒れ込んだ。

「ジョン!大丈夫か?」

ピンク頭が倒れたのを見て、父さんが心配そうに近寄ってくる。

「大丈夫だよ!それより、現場保存しないといけないし、その女が起きたら危ないから近寄っちゃだめだよ!」

が、父さんだけじゃなく他のお客さんにも、現場保存のために近寄らないようにお願いした。

ピンク頭が意識を取り戻す可能性もあるからね。

それからテーブルの上のナプキンを使ってピンク頭の銃を確保する。

それからビームの飛んできた方向に視線を向けると、タイトスカートのスーツ姿の女性が、銃をジャケットのホルスターにしまいながらこちらに歩いてきた。

「対処が遅れてすまないな。私が最初にいた位置からは射撃が難しく、移動をしていたのでな」

歩いてきた人は、ブルーの瞳に金に近い栗色の癖毛の長い髪を首の辺りで縛っていたかなりの美人だった。

「いえ、助かりました。ありがとうございます」

僕も銃をしまい、女性にお礼を言う。

そこにサイレンが鳴り響き、警察と救急車がやってきた。

ピンク頭は拘束されつつ担架に乗せられ、運び出されていった。

鑑識作業が始まると、刑事さんが話しかけてきた。

「どうも。関係者はどちらで?」

「私です」

「お名前とご職業は?」

「ジョン・ウーゾス。傭兵です」

警察としては、僕の方になにか原因があるのではと疑っているのだろう。

まあ当然だね。疑わない方がおかしい。

「こちらは?」

そうして、僕のとなりにいた女性にも話を聞いた。

「私はルナリィス・ブルッドウェル。帝国軍少将と伯爵の位をいただき、中央艦隊討伐部隊第5艦隊司令官を勤めている。今日は非番で、友人との食事中だった」

それを聞いて、僕も刑事さんも眼を丸くした。

この人が()()第5艦隊司令官のルナリィス・ブルッドウェル少将とはね。

「では、皆さんには少々のお時間をいただき、お話しを聞かせていただきます」

僕と少将閣下に話しかけてきた、責任者らしい刑事さんの指示で、何人かの刑事さんや警官が、お客さんや店員さん達に事情聴取を始めた。

そうしてようやく両親と話せる時間ができた。

「大丈夫だったジョン?」

「お前、あの女性に何かしたのか?」

「僕の方が仕事の報酬が多かった事に対しての八つ当たりだよ」

心配する両親に事実を伝える。

「それは災難だったな…」

「非常識な人がいたものね」

両親は僕の話を信用してくれたらしい。

傭兵ギルドでは、人の話を聞かずに思い込みでしか話をしないのが多いから、両親の対応は本当にありがたい。

「普段は(ふね)での仕事がメインで、生身でのこんな事はまずないよ」

「いますぐやめて欲しい気もするけど、そうはいかないんでしょう?」

「僕には…これしかできそうにないからね」

母さんが心配そうな顔をするが、今この仕事を辞めるわけにはいかない。

心配をかけてしまうが、こればかりは譲れない。

「嫌になったら戻って来なさい。しかしそれまでは、立派に仕事をやりとげるんだぞ」

そう言ってくれた父さんの表情は、なんとなく嬉しそうだった。


そうして、お客さんと店員さん全員に対して行われた事情聴取では、僕の両親を始めとした全ての人が、

○ピンク頭が先に銃を抜いた。

○自分達(客)を下民と呼び、「何人か殺してもいいわね」と発言した。

という内容で一致した。

さらには店の防犯カメラにも一部始終が録画・録音されていたらしい。

そしてなにより、帝国軍中央艦隊討伐部隊第5艦隊司令官ルナリィス・ブルッドウェル少将閣下の証言と、警察内部にピンク頭の捜索命令が出ていたおかげで、僕の正当防衛及び無罪が確定した。

ちなみに少将閣下が所持していた銃は、ネオサウス社の『トライショット』という、光線銃(レイ・ガン)熱線銃(ブラスター)麻痺銃(パラライザー)を切り替えられる銃で、帝国軍は緊急時の逮捕権も有しているので、状況によって切り替えのできる『トライショット』を正式採用しているそうだ。

とはいえほとんどの人は『トライショット』は予備に回し、自分の好みの銃を携帯しているらしい。

少将閣下が『トライショット』の麻痺銃(パラライザー)を使用したのは、子供がいたからという理由らしい。

そして今回の事件の現場になってしまったファミリーレストラン『ペガサスメテオ』パルベア駅前店の店長さんは、今回の事に巻き込まれたお客さん全員の代金を無料にし、今後は店舗建物と防犯体制の強化を約束し、今後もご愛顧を頂きたく思いますと、丁寧に説明と謝罪と決意を述べた。

そうして全ての事態が終了し、ようやく解放される運びとなった。



自称悲劇のヒロインサイド:アコ・シャンデラ


私が意識を取り戻したのは水の中だった。

口には呼吸用のマスクが付けられている

どうやら、再生治療用のカプセルに入れられているらしい。

下民に撃たれた脚の治療のためだろう。

それぐらいでカプセルは大げさだけど、貴族である私に最高位の治療は当たり前よね。

あの下民のせいで私は犯罪者扱いをされた。

しかし私が収監された直後に、何者かが私を脱出させてくれて、服と資金と銃と熱光線反射防護服(リフレックスジャケット)を献上してきたわ。

私に献上をしてきた下民が自分達のリーダーに会ってくれといってきたけど、下民なら自分から挨拶に来なさいよね。

ともかく、救いの手が差し伸べられるということは、やっぱり私は神に選ばれた者なのね!

男爵の位を持ち、シャンデラ商会という優秀な会社を所持している御父様が冤罪により逮捕され、爵位も商会もとりあげられた。

そのために屋敷を売り、みすぼらしい集合住宅なんかに住まなくてはならなくなったし、生活も貧しいものになってしまった。

私は幸い銃と戦闘艇の操縦の腕は自信があったので、傭兵として身を立てる事にした。

私の実力なら、1年も立たない内に最高位の王階級(キングランク)になれる。

そして最高位になった時に、御父様を冤罪で追い落とした皇帝陛下(あのおんな)を地べたに這いつくばらせてやる!

なのに傭兵ギルドは私を騎士階級(ナイトランク)から上げようとしない。

試験をうけるための条件?

この私がどうしてそんな条件を飲まないといけないのよ!

あの受付の女は皇帝陛下(あのおんな)の手先だったから、私に昇級試験を受けさせないのよ!

この治療が終了したら、即座に襲撃に向かわないとね。

そういえば『羽兜(フェーダーヘルム)』って私を差し置いて昇級した下民がいたわね。

あれに私の配下になることを許可してやりましょう。

泣いて喜ぶでしょうからね。

悲劇のヒロインの華麗な復讐劇はこれからよ!

すると、カプセルの外から声が聞こえてきた。

以前私に色々献上してきた下民の声だった。

すぐに私のためにやってくるのは素晴らしい忠誠心ね。褒めてあげる。

何?何をいってるの!?

あれ?おかしい?動悸が…はげしく…

なんか…目の前が…まっ…く…ら…に…


自称悲劇のヒロインサイド:終了



UNKNOWNサイド:怪しい男達


「いいんですか?せっかくの使い捨てを潰して」

「こっちの命令を聞かないんだ。使えない道具は潰すしかないだろ。おまけに第5艦隊の司令官に顔まで見られたからな。自爆のために潜り込ませることも出来なくなったんだぞ?」

「そりゃ捨てるしかないですね。で、それが例のやつですか?」

「ああ。これを治療液に注入すれば、心臓発作で死んだようにしか見えないし、薬が混入した形跡も発見されない。…注入完了。さ、戻って一杯やろうぜ」

「そうっすね」


UNKNOWNサイド:終了

ピンク退場

司令官は部下には滅茶苦茶厳しいですが、民間人(犯罪者やゴミ以外)には丁寧で優しいです


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