モブNo.65:「お嬢さんがこいつに船を貸せって頼んでいる現場を見たからさ。それと、美人だって事と魅力的だって事が常に同時に存在してる訳じゃないんだぜ?」
彼女が素早くは動けないのを確認してから、聞いておいたロイマン刑事の番号に連絡を入れた。
端から見れば酷い話だけど、先に銃を向けてきて、
『はいもしもしロイマンです』
ロイマン刑事は直ぐに出てくれたので、
「すみません。駐艇場で襲われてしまいました。今は簡単には動けないようにして、そのまま見張ってます」
『なるほど。せっかちな共犯者だったみたいですね。いまから捕縛にいきますから逃がさないで下さいね』
「わかりました」
彼女は痛みに顔を歪めながらも、苦々しく僕を睨み付けている。
しかし急に泣きそうな顔になると、
「助けて!殺される!」
と、いきなり悲鳴を上げた。
やられた。
恐らく駐艇場にやってきた人影をみて悲鳴を上げたのだろう。
ロイマン刑事が早く来てくれていれば良いけれど、ロイマン刑事以外の人間がやってきた場合、この状況では僕が不利になるのは
場合によっては彼女に逃げられてしまう。
それを理解している彼女はにやりと笑い、
「助けて!早く!」
と、さらに悲鳴を上げる。
彼女の声を聞いたらしい誰かは、ゆっくりとこっちに近づいてくると、
「そのキモヲタがいきなり私の船の鍵を渡せっていってきて、拒否したら私を撃ったの!早く捕まえて!」
彼女はここぞとばかりに嘘を並べ立てた。
しかしその人影は、彼女の言葉に驚いて助けに来たりすることはなかった。
「そいつはおかしいな。お嬢さんは船を貸してくれってそいつに頼んでたじゃないか」
「ダンさん!?」
やってきた人影はダンさんだった。
櫛を取り出し、髪型を整えながら、油断なく彼女を見つめていた。
「そのお嬢さんが駐艇場に向かうのをみかけてな。多分、無用心な奴の船を奪うつもりだったんだろうぜ」
ダンさんが自分の期待する行動をとってくれなかった事に、彼女は激怒した。
「なんで私よりそんなキモヲタの味方をするのよ!普通は私みたいな美人で魅力的な女が倒れていたら、無条件に
どうやら自分の美貌に相当な自信があるらしく、ダンさんに噛みついていた。
それにしても、僕に撃たれた箇所が痛い筈なのに、よくまあべらべらと話せるものだ。
やっぱり怒りでアドレナリンが出ているせいで、痛みを感じにくくなっているからなのだろうか?
「お嬢さんがこいつに船を貸せって頼んでいる現場を見たからさ。それと、美人だって事と魅力的だって事が常に同時に存在してる訳じゃないんだぜ?」
憤る彼女に、ダンさんはニヒルな笑みを浮かべ、彼女の
そのダンさんの言葉に彼女はさらに激怒し、
「ふざけないで!私のどこが魅力的じゃないって言うのよ?!」
と、大声で反論した。
貴女たしか痛みで動けないはずですよね?
なんか逃げ出されそうなので警戒しよう。
「お待たせしました。犯人は何処ですか?」
そこに、ロイマン刑事が警官隊を引き連れてやってきた。
それを見た彼女は、チャンスとばかりに悲鳴を上げた。
「助けて!こいつらに撃たれたの!犯人はこいつらよ!」
そう主張する彼女に警官隊が近寄っていくと、彼女は勝ち誇った表情を浮かべた。
しかし、警官隊は彼女を救助するのではなく拘束した。
「ちょっと?!なんで私が拘束されるのよ!撃ったのはそこのキモヲタで、そっちのオールバックも共犯よ!」
当然彼女は抗議をするが、
「残念ですが、逮捕・拘束されるのは貴女ですよ。彼の
ロイマン刑事の薄く笑いながらの淡々とした語り口と、その時の眼の光にビクッと怯えた。
そうして彼女が黙ると、僕の方に視線を向け、
「ご協力ありがとうございました。どうやら向こうでも実行犯が逮捕されましたので、すぐにでも戒厳令は解除になりますから」
共犯者の彼女に向けたのとは違う、疲れた感じの表情で向こうの報告をしてくれた。
こうして彼女、反帝国派思想集団構成員、メイリー・ディリバンという名前だった。は逮捕された。
あと、やっぱり名探偵とやらが解決したのかと思ったのだけれど、どうやら科学捜査の勝利だったらしい。
たまたま現場にいたのは、どうやら迷うほうの探偵だったようだ。
犯人達が逮捕され警察も帰っていき、来客の貴族達も帰っていく事になったのだけれど、くる時と違い蜘蛛の子を散らすように帰っていった。
やっぱり殺人事件なんかがあった所には居たくないものなんだろう。
そうしてお客が全員居なくなった後の説明会で、ありがたいことに、依頼主が満額プラス撃退ボーナスを約束してくれたことを、警備責任者であるドータス・ツイル氏が話してくれた。
そうして全ての仕事が終了し、殆どの傭兵達が出ていった後に、僕はコロニーを出発した。
惑星ラタカサのコロニーからはゲートを乗り継いで18時間余り。
それだけの時間を経て惑星イッツに帰りつくと、受付カウンターには寄らずにギルドの建物から出て、流していたタクシーで家に直帰した。
帰りついた日は、深夜だったのもあってそのまま就寝。
翌日丸1日を掃除や買い出しやアニメ鑑賞に費やし、
そのさらに翌日になってから、手続きをするためにギルドに向かった。
「嫌な事件に巻き込まれたな。貴族が殺されたってなれば、無条件に平民を犯人に仕立て上げる馬鹿貴族が未だに居るからな」
報酬支払いの手続きをしながら、ローンズのおっさんがそう呟いた。
「お祓いでもしてこようかと思ってますよ…」
なにしろ、短期間に何度も銃を突き付けられているのだから、何か悪いものにでも取り憑かれているのかと思い込んでしまうほどだ。
そんなことを考えていると、
「そうそう。あの
ローンズのおっさんがその切っ掛けとなった人物の話を始めた。
ローンズのおっさんの話によると、
彼女は取り調べでも『貴族の私に逆らったあの平民の男が悪い』とか、
『貴族の私が平民に銃を向けたからといってなんの問題があるのか?』
『平民が貴族に自分の財産の全てを献上するのが当たり前』など、正気を疑うような発言ばかりしていたらしい。
しかし、自分がもう貴族ではないと指摘され、
実刑は間違いないらしいが、場合によっては帝都にある精神医療専門病院に収監される可能性も出てきたという話だ。
「で、これが今回の報酬だ。お疲れさん」
その話が終わると同時に、報酬支払いの手続きが終了した。
その金額は約束通り、最初の固定額の36万クレジット
ではなく、45万クレジットになっていた。
危機は回避しました。
主人公なら、逃がしたか逃げられたかの後なら勧誘
捕縛なら監視とかになって同行ですね
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