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モブNo.64:「すみませんね。僕も一応傭兵なんで、こういう基本的な対処くらいは出来るんですよ」

ロイマン刑事は全員シロと言っていたけれど、それは殺害をしていないというだけで、共犯者の可能性は怪しんでいるということだろう。

もし船を動かそうものなら、即座に逮捕されるに違いない。

警備の仕事も当然中止。

報酬がどうなるか心配だけど、殺人犯にされる事にくらべれば些細なことだ。

科学捜査か名探偵の推理かは知らないけど、早いとこ犯人を逮捕して欲しいもんだね。

とはいえ暇には違いないので、談話室的なところで炭酸飲料を飲みながらぼんやりとテレビをみていると、見知らぬ女の人が声をかけてきた。

「隣、いいかしら?」

「…どうぞ」

セクシーな感じの美人で、傭兵ではない感じだった。

僕は瞬間的に警戒モードに入った。

こんな美人が僕に近寄ってくるなんて、セールスか美人局(つつもたせ)ぐらいしかあるわけがない。

すると女の人はいきなり僕に話しかけてきた。

「ねえ。船を貸してくれないかしら?」

「…嫌ですよ。今どういう状況かご存知でしょう」

僕は一瞬彼女が何を言っているのか理解が出来なかったが、なんとか返答できた。

「だってぇ。向こうでやってるはずの推理ショー見たいんだもん。探偵さんがイケメンかもしれないし?」

彼女は媚びる様な表情をうかべていた。

見に行く=このコロニーを出る=共犯者と疑われるって構図が解ってないのかな?

いや違う。

この人は向こうにいる殺人犯の共犯者(おなかま)の可能性が高い。

多分襲撃のタイミングか、それより前から何らかの手段で潜り込んで、襲撃でバタバタしている時にターゲットの部屋に忍び込んだかしたんだろう。

そして何らかの理由で自分の船が使えなくなったので、適当な人間、自分の様な美人が頼めば、直ぐにでも貸してくれる相手。を選んで声をかけてきたんだろう。

「ともかく船は貸しませんよ。どうしても行きたいなら刑事さんに頼んでみればよろしいのでは?」

僕が否を突き付けると、彼女は不機嫌な表情になり、

「…もういいわ。女の可愛い我が儘を叶えようとしないなんてクズでしかないわ!あーキモッ!」

と、大声で吐き捨てていった。

周りの連中は、

遠くにいて最後のセリフしか聞いておらず、やっぱりキモヲタはああなるのが当然だよな。とくすくす笑ってる派と、

近くにいて女の話が耳に入り、あの女頭おかしいだろうと眉を潜めている派と、

我関せずとばかりにノンアルコールの缶ビールを傾けている派に別れていた。

缶ビール派は主にバーナードのおっさんとモリーゼとダンさんだけど。

「あの女頭おかしいんじゃない?アタシはミーハーじゃないから興味ないけど」

「かなり黒いな。実行犯ではないだろうけどよ」

「傭兵がほいほい船をかすわけはない。あのお嬢さんは傭兵を知らないな」

ノンアルビールにイカの足の醤油漬け串にピーナッツを楽しみながら、3人は呑気に談笑をつづけた。

とりあえず刑事さんに報告しておこう。

後から何かあった時に気まずくなるからね。


職員に尋ねたところ、ロイマン刑事は直ぐに見つかった。

「なるほど。怪しいですね。貴方を(たぶら)かそうとしたのは、おそらく脱出手段になんらかの、トラブルがあったんでしょうね…」

こっちは缶コーヒーを手に、何かの映像書類(ホロ・ペーパー)と格闘していた。

「でもそれなら僕を(たぶら)かしたりせずに、黙って盗んで行けばいいんじゃないんですかね?」

「船の(セキュリティ)を外す技術をもってなかったとしたら、(たぶら)かしたほうが確実です」

盗むなら僕を(たぶら)かしたりする必要はないはずだけど、船の(セキュリティ)が外せないなら納得だ。

「とにかく情報ありがとうございます。そろそろ犯人もわかるとおもいますからもう少しご辛抱ください」

ロイマン刑事は頭をかきながら申し訳なさそうに頭を下げた。


それから部屋に戻ると、部屋に持ってきたラノベを読み終わってしまったのを思いだした。

船で宿泊すればそんな煩わしいことはないのだけれど、逃げ出すんじゃないかと疑われかねないので止めている。

とはいえ、取りに行くだけでも怪しまれるのは間違いないので、駐艇場管理の職員さんに声をかけてから船に向かった。

するとさっきの女性がいて、僕に銃を突き付けてきた。

なんだって最近は銃を向けられる事が続くんだろう。

「なんのご用ですか?現金はあんまりないんですけど」

「船を寄越しなさい」

僕は手を上げて現金を持ってない事を告げるけれど、もちろん向こうはそんなものはいらないだろう。

「無理だっていったじゃないですか」

一応さっきも言ったことを返してみたところ、

「ねえ。今の世の中は不公平だとおもわない?」

こんどはなにか語り始めた。

「帝国はその武力で色んな国家を併合して力を付けた。その結果、王族・貴族・帝国民・植民地民という明確な差別階級ができてしまったわ。

特に貴族・王族は最悪。様々な胸くそが悪くなるような事を平気でやってきたわ。

貴方もヒドイ目に遭ってきたんじゃなくて?

あの連中は美女や美形となると下半身でしかお話ができなくなるし。

今回殺された貴族、反皇帝派のなかでもそうとう過激な人物だったそうよ。

そんな奴を葬り去ることができたのよ!偉大な戦果だと思わない?その英雄を助けるために手を貸して!

私達を苦しめている王族と貴族と帝国民に正義の鉄槌を振り下ろしましょう!」

かなり自分のセリフに酔っている感じだけど、やっぱりあの独立運動の関係者かあ。

「貴族に嫌な目にあわされたってのはわかりますよ。僕自身色々嫌な目にあってますからね。

父なんかは貴族の坊っちゃんに使い込みの濡れ衣を着せられて、借金まで背負わされましたから。

それでもいまのところ今代の皇帝陛下に不満はないですから、船を貸すわけにはいきません」

その完全に酔ったセリフに対して、僕の正直な意見を述べると、彼女は信じられないという表情を浮かべた。

「どうしてよ!?王族と貴族と帝国民を排除すれば、嫌な思いをしなくてよくなるのよ!?」

「王族・貴族・帝国民がいなくなったとしても、似たようなのがでてくるだけですよ」

例えば、貧富の差とか革命の志士だったか否かとかでね。

もちろんこれは彼女の望んだ回答ではないので、

「そう。じゃあ仕方ないわね。まあ私としても、あんたみたいなキモヲタと同志になんかなりたくないもの」

彼女は汚い物を見るような眼をし、銃を向けている手に力が入ったのがわかった。

「でも死ぬのは嫌ですからね。どうぞ。僕の船の鍵ですよ!」

そういって僕は船の駆動キーを彼女に向かって放り投げた。

そうして彼女がそれに気を取られた瞬間に、僕は彼女の銃を持った手を狙って熱線銃(ブラスター)のトリガーを絞りこんだ。

「きゃあっ!」

彼女が銃を手放した隙をついて、駆動キーを回収しながら彼女にかけより、さらに彼女の脚を狙ってまたトリガーを絞りこむ。

「うぎゃあっ!」

僕の熱線銃(ブラスター)は威力は小さめにしてあるので、手が吹き飛んだり脚が吹き飛んだりはしていない。

それでもかなり痛いだろうから、傭兵でも工作員(エージェント)でもなさそうな彼女は床に倒れこんで動けなくなっている。

そうして彼女の銃を回収してから、彼女に熱線銃(ブラスター)の銃口を向けた。

「すみませんね。僕も一応傭兵なんで、こういう基本的な対処くらいは出来るんですよ」

今後モブに何をやらせようか本気で悩み中…


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