モブNo.63:「ですが、犯人が逮捕されるまではここを出ないようにしてください。下手に出ようとすると共犯者の疑いがかかりますからね」
最初の12時間の休憩は、幸いな事にロスヴァイゼさんに話しかけられた事で絡まれたりする事なく終了した。
翌日のシフトも前日同様に退屈だった。
招待状を送った客は全員出席。
パーティーに必要なものは前日に全て揃えているため業者の出入りもない。
パーティー会場は大忙しだろうけど、コロニー周辺の警備は非常に暇になる。
もちろんなにがあるかはわからないので警戒は怠るわけにはいかないけれど。
しかし少しだけ変化があった。
それは、行列整理をしていた連中だけがパーティー会場の警備に参加させられた事だ。
彼等をパーティー会場の警備に参加させた理由は、たぶん『囲い込み』をするためだろう。
まあ、見た目がよくて行動もまともなら貴族連中なら囲い込みたくなるよね。
特に『
アーサー君とセイラ嬢も有望株だから大変だろうな…。
多分最初からこれが目的だったんだろうね。
知り合いが無事に帰還してくるのを祈るだけだ。
そうして時間は過ぎていき、2日目のシフトがおわり、宿泊施設コロニーにもどると、パーティー会場の警備に駆り出されていた人達が戻ってきていた。
喜んでいたり、残念そうだったり、そして憤慨している人と様々だったわけだが、僕の知人である女性2人はとてつもなく激怒していた。
「まったく冗談じゃありませんよ!『私の護衛になれ』はともかく『私の愛人になれ』って頭おかしいでしょう!」
セイラ嬢は頭に鬼の角を生やさんばかりの様子で、ジュースの缶を握りつぶし、
「どうして貴族というのはああも気持ち悪いのしか居ないんでしょうか…。あのコロニーごと宇宙の
ロスヴァイゼさんはぶつぶつとヤバいことを呟いてるお!
貴女はマジでそれができるんだから止めて欲しい。
そしてそれぞれのパートナー?であるアーサー君とランベルト君の2人は、対照的にぐったりとしていた。
たぶん女性貴族に取り囲まれたりしたんだろうな。
まあそのへんは主人公の宿命だね。
そうして彼等の愚痴を暫く聞いた後。
食事も風呂も済まし、あとは休むだけとのんびりしていたところに
『緊急警報!緊急警報!現在未確認船団が接近中。船体コード確認を拒否していることから海賊もしくは襲撃者と判断。戦闘要員は直ちに出撃準備。非戦闘員は退避後脱出準備をしてください。繰り返します…』
緊急時の定番の放送がながれた。
僕はすぐに服を着替えて船に向かい、
襲撃してきたのは小型艇や無人機ばかりだったが、その数が異常だった。
ざっと見た感じ7~800機はありそうだった。
はっきりいって、パーティー会場のコロニーと宿泊施設コロニーには、コロニー自体以外は金目のものがない。
解体して売るにしても、コロニーは解体に時間がかかるしそのまま売るにしても足がつきやすいしコストもかかる。
となれば、パーティーに参加している貴族を人質にしての身代金目当てということになる。
と、なれば、この連中を通すわけにはいかない、
『こちら
それを合図に、
しかしすぐに違和感を感じた。
『なんなんだいこいつら!手応えがないじゃないか!』
『俺の腕のふるいがいがねえぜ!』
まったく手応えがないのだ。
一応攻撃はしてくるし、追いかけてもくるが、動きに精彩がない。
無人機だからといってしまえばそれだけだけど、有人機にもそれがない。
そのため、運動ができると喜んでいたモリーゼとレビン君が不満の声を上げる。
ひょっとしてパーティー主催者がイベントとして用意していたとか?
だとしたらたまったものじゃないんだけど。
『いいじゃねえか。楽チンなんだからよ。それにほれ。あの2人が張り切ってるからまかせときゃいい』
バーナードのおっさんの言うとおり、目の前の戦場では、セイラ嬢とロスヴァイゼさんが大暴れしていた。
『私はアーサー様一筋だってんですよー!そのアーサー様にべたべたべたべた纏わり付くなクソメスどもーっ!』
『お前たちみたいな気持ち悪い生物が私に近寄るなー!』
怒りの言葉と共に、無人機や小型機が凄まじい勢いで爆散していく。
そのまま全滅させかねない勢いだ。
下手に近寄ると巻き添えくうお。
他の傭兵達もそれがわかっているためにかなり距離をおいていた。
『しかし…ランベルトの奴はマジでスゲエな。俺と魂の対話をしてるときはそんな感じ全然ねえのに…』
レビン君は、ものすごい勢いで無人機を撃破していくロスヴァイゼさんを見て、そんなことを呟いていた。
それはそうだろうね。
いま暴れてるのはロスヴァイゼさん本人。
でも周りからは、ランベルト君が操縦し、サポートをしているロスヴァイゼさんが大声をだしていると認識されているのだろう。
その怒れる乙女2人の活躍により、襲撃から46分ほどで、全ての襲撃者は沈黙した。
そしてそれにより、発生した残骸デブリを清掃するという新たなミッションが発生してしまった。
そしてそのミッションは、休憩中だったほうに回される事になった。
早めに寝ておけばよかった。
デブリ掃除が終わった頃には交代の時間まで2時間を切っていた。
僕は90分だけ仮眠をとって駐艇場に向かったところ、交代する時は現場で交代のはずなのに、なぜか全員が戻ってきていた。
何事だろうと思っていると、
『総員に通達。全従業員・全傭兵は自分の宿泊している部屋にもどり、許可があるまでは決して部屋から出ないように。これを破った場合、殺人犯として逮捕される可能性がある。詳細はあとから説明がある。いまはおとなしく指示に従うように。繰り返す。総員に…』
異様な通達がながれてきた。
多分パーティー会場のコロニーで何かあったらしい。
そして通達の内容から考えると、あのパーティー会場には名探偵がいたって事かな。
どれくらい拘束されるか分からないのなら、この時間を利用して仮眠をとることにした。
それから4時間は経過したころ、
『お待たせしたしました。現在この宿泊施設コロニーにいる全ての職員・傭兵は中央ホールに集合してください。繰り返します。現在…』
呼び出しの放送で目を覚ました。
放送に従って最初の説明会の時に使用していたホールに向かったところ、警備隊の隊長と一緒に刑事らしき人物がいた。
「えーどうも。ここから一番近い惑星タムオ首都警察捜査課のウィボイド・ロイマンといいます。本当は連絡を受けた襲撃者の調査の予定だったのですが、急遽殺人事件の捜査になってしまいました…」
くたびれたスーツ姿の若い男性で、ちょっと疲れている感じだった。
「えー被害者はパーティー参加者のベーダズ・チラルギス・ガイザム伯爵。死因は刺殺。胸部に何回も刺した跡がありました。現場は伯爵が宿泊していた部屋の内部。犯人は鋭意捜査中。いま向こうじゃあ、知恵者として有名だった男爵のお孫さんが推理劇でも披露してるんじゃないですかね」
やっぱりいたのか!探偵という名の死神が。
それにしても、何回も刺したってことは相当に恨みをかってたらしいねその伯爵様は。
「あーそれとですねえ。いまこの宿泊施設コロニーにいる方々は全員シロです。向こうの方々の証言で、襲撃があった時間は、まだ御存命でしたのでね」
ロイマン刑事はやれやれといった様子で、僕達が事件とは無関係だと宣言してくれた。
しかし次の瞬間、緊張する言葉を投げ掛けてきた。
「ですが、犯人が逮捕されるまではここを出ないようにしてください。下手に出ようとすると共犯者の疑いがかかりますからね」
その時のロイマン刑事の眼は実に鋭かった。
推理ものは、物語上仕方ないとはいえ、あれだけ行く先々で○人がでると、こいつが黒幕だったりするのか?
とか、思ってしまいますね
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたしま