モブNo.62:『そいつらは一刻も早く英雄になりたいんだろうよ』
『私はノーバンドル侯爵家の警備責任者であるドータス・ツイルという。
今回我が主人、シビルス・ノーバンドル侯爵家主催の社交パーティーの警備に参加協力してくれて嬉しく思う。
期間は3日あるが、パーティー本番は明日のみ。
本日は集合日、パーティー本番後は解散日となっている。
そこで本日君達傭兵にお願いするのは、コロニー周辺の警備と、いらっしゃるお客様がたのコロニー入り口までの誘導だ。
なお会場となるコロニー内部には、緊急時以外は開催期間中全面立ち入り禁止だ。
これは君達の潔白・安全を確保するためだと理解して欲しい。
貴族の方は
シフト表はすぐに送信するが、今から名前を呼ばれた者は
ではシフト表を確認の後、各自持ち場に向かってくれ』
そうして僕が配置された場所は、コロニーの胴体部分の一角だった。
シフトは2隻1組で、食事・トイレはお互いでカバーする形になっている。
僕は最初のシフトで休みにならなくてよかったけど、となりにいるバーナードのおっさんは先に休みがいいと愚痴っていた。
とはいえ、はっきりいってやることはない。
貴族達はきちんとコロニーの入り口に向かってくれるし、僕の居る位置は入り口から距離があるので絡んでくることもない。
そして名前を呼ばれた連中だけど、彼等は貴族達の交通整理とその案内をする係に選ばれた。
選考基準は
僕の知り合いで呼ばれたのはアーサー君とセイラ嬢と、なんとロスヴァイゼさんとランベルト君だった。
いつのまにこの仕事に参加していたんだろう。
とりあえずロスヴァイゼさんが話しかけてこなくてよかった。
その事にほっとしていると、
『それにしても、お前さんはなんでこの仕事に参加したんだ?
楽そうな仕事はこの仕事ぐらいだったとはいえ、戦闘にはあまり関係ない貴族絡みの仕事は嫌がりそうだったのによ』
バーナードのおっさんが、暇潰しとばかりに話しかけてきた。
が、その内容は元警官だからなのか、なかなか鋭い内容だった。
僕はラノベを読んでいるので暇ではないし、その辺りは踏み込んで欲しくはないけれど、仕事上のコミニュケーションは大事なので返答をする。
「ちょっと疲れましてね。ローンズのおっさんに見繕ってもらったんです」
そう。普段なら掲示板に張り出してあるのを自分で探して受けるのだけれど、公爵領関連の襲撃と、ピンク頭の襲撃で、アニメやマンガを観たり読んだりしてもなかなかテンションが上がらなかった。
こんな状態で戦闘が確実な依頼は危ないので、ローンズのおっさんに「戦闘の起きなそうな依頼」を見繕ってもらったのだ。
『なる程な。戦闘でのリスク回避か』
「有能で勇猛な傭兵からは腰抜けとか臆病者扱いですけどね」
『そいつらは一刻も早く英雄になりたいんだろうよ』
バーナードのおっさんは、くっくっと笑いながら禁煙パイプらしきものを口から放した。
『それにしても暇だな。ちょっと寝ていいか?歳だからな、ちっと辛いんだ』
「大音量で起こしていいなら2時間ぐらいいいっすよ」
『それでもいいから頼むわ』
大音量がなにかは知っているだろうに、それでも寝たいというのはかなり辛いんだろう。
それから2時間後。
そろそろ起こさないといけないなと、大音量の準備をしていると、
『うーん…あんまり寝た気がしねえな…』
バーナードのおっさんが目を覚ましたらしく
「あ、起きたんすか」
せっかく大音量を流せると思ったのに残念だ。
『なんだか残念そうだなおい』
「いえいえ」
『しかし、パイロットシートのリクライニング倒した状態だとよく眠れんな』
「身体が固まりますよね」
バーナードのおっさんは、身体を伸ばしながら関節をほぐしつつ、眠りが快適でなかったのを嘆いていた。
『次はお前さんが休んでくれていいぞ』
自分が休んだのだから、次はそちらだと言ってくれるあたり、まともな感性の持ち主だ。
以前にこういった警備の仕事を受けた時には、自分は休んでもこっちには休ませなかった奴に何度も出くわしたからね。
「あ、じゃあちょっとベッドで横になってきます」
ならばとお言葉に甘えて一眠りしようとすると、
『ちょっとまて。ベッドってどういうことだ?』
ベッドという言葉に、バーナードのおっさんが食いついてきた。
「僕の船には、簡易極小型ですがベッドとトイレとシャワーとレンジと冷蔵庫があるんですよ。言ってませんでした?」
以前のイコライ伯爵領でのテロリスト退治の時に、提供された宿泊テントに行ってなかったんだから、推測できそうなもんだと思うんだけど?
『なに?おい!ちょっとコロニーに戻って船かせ!』
「いやですよ!」
どうやら2時間の仮眠に納得がいっていなかったらしく、食い下がろうとしたが無視して仮眠を取ることにした。
そうして最初の12時間が終了すると、交代して宿泊施設コロニーに向かった。
バーナードのおっさんはしつこく船を貸せと言ってきていたが、流石にあきらめて、何処で手に入れたかを聞いてきたが、知り合いの整備工場に協力してもらって自作したといったら、
『俺も作って…いやいやまだこの船のローンが…』
と、ぶつぶつ言い始めてしまった。
ともかく食事を終わらせた後に風呂に入り、さっさと寝てしまおうと考えながら食堂で食事をしていると、一番来て欲しくない人がきてしまった。
「お久しぶりですねキャプテン・ウーゾス」
「あ、どうも…」
僕の一番の懸念事項。
ロスヴァイゼさんのバイオロイド分体だ。
画面で見ただけでもわかる金髪碧眼の美女が、僕みたいなのに話しかけてくるだけで、僕にとっては災害だ。
「こうなってから会うのは初めてですね」
実はすでに遭遇しているわけだが、別に言わなくていいだろう。
「行列整理お疲れ様です…」
「大変でしたよ。貴族の馬鹿息子達がことあるごとにナンパナンパナンパ!色惚けが酷すぎます!」
取り敢えず当たり障りのない会話をしつつ、彼女にはパートナーが居ることを周囲に知らせないとね。
「パートナーのランベルト君は、なにか対処はしてくれたんですか?」
そう考えて、こんな質問をしたところ、
「まあ毎回、『すみません。他の方の案内もしなければなりませんので』っていってくれましたけど…」
ロスヴァイゼさんはまんざらでもない様子でもじもじし始めた。
どうやら彼女はもう新しいパイロットを探す気はなさそうだ。
これでロスヴァイゼさんにはパートナーがいると周囲が理解したと思った瞬間、
「なんだい。アンタの彼女かい?」
モリーゼが人の苦労をぶち壊す発言をしてきた。
しかしここで慌てたりすれば大変なことになる。
落ち着いて事実だけを話せばいいんだ。
「彼女はロスヴァイゼさん。あの『
「へえ…あの『
モリーゼは興味深そうにロスヴァイゼさんを見つめてから、こちらに視線を向けてきた。
「その『
「たまたま『
モリーゼの野次馬根性丸出しの質問に、事実だけを返答した。
「そこでその…ランベルトとの事で相談に乗ってもらいまして」
そこにロスヴァイゼさんがフォローを入れてくれた。
たしかにランベルト君の事だけど、最初とは随分態度と反応が違うなあ。
いわゆるデレ期だねこれは。
つまりは正しいツンデレだ。
「なるほどねー」
モリーゼはにやにやしながらロスヴァイゼさんを見つめている。
これはからかう気まんまんだな。
しかしそこに救いの手が現れた。
「年寄りが若けぇ
ノンアルコールビールの缶とイカの足の醤油漬けを串に刺した奴を手にしたバーナードのおっさんが、モリーゼをたしなめたのだ。
モリーゼは、僕よりは年上だろうが年寄りではない。
当然その部分には噛みつくわけで。
「アタシはまだ20代なんだけど?」
「そっちのお嬢さんからすりゃ立派な年増だな」
「リアルにジジイのクセに…」
「まあまあ。お二人とも落ち着いて…」
「他の方の迷惑ですよ」
モリーゼがバーナードのおっさんの襟首を掴んだところで、いつの間にかやってきていたアーサー君とセイラ嬢が2人の間に入ってくれた。
そのお陰で双方が少しは収まったようだった。
それにしても、ロスヴァイゼさんがいるのにランベルト君はどこに行ったのだろう?
ミーハーな傭兵達に囲まれたりしているのだろうか?
「そういえばランベルト君はどうしたんです?」
「あそこです」
僕の質問に、ロスヴァイゼさんは食堂の端の席を指差した。
そこでは、ランベルト君とレビン君が顔を突き合わせ、熱心に話をしている。
「何でもなんとかいう商店街がどうとか…」
あ、なるほど。
イキル感じは失くなったけど、ロスヴァイゼさんからの話や、今まで見てきたランベルト君の言動なんかをみる限り、好きそうな感じはするよね。
まあ、友達ができたのは良いことじゃないかな。
○戦闘艇の種類
戦闘艇には、
長時間活動を想定し、トイレ・調理器具・ベッド・シャワーなどを備えたた汎用艇と。
戦闘行為だけに特化した専門艇があります。
傭兵は基本汎用艇を、軍や警察は専門艇を使用しています。
性能的に殆ど差はありませんが、汎用艇のほうが僅かに重いです。
モブの船はちょっと四角くてずんぐりしていますが、汎用艇なので、戦闘艇のフォルムは逸脱していません。
バーナードのおっさんは元警察なので、専門艇をチョイスしてしまったわけです。
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