モブNo.61:「俺はダン・ビルトロップ。騎士階級(ナイトランク)だ。人は俺を『無敵のタフガイ』と呼ぶぜ!」
ビッセン伯爵令息ひきいる傭兵チーム『
それにしても昨日から続けざまに頭のおかしいのに遭遇するなんて運が悪すぎる。
そして僕とは関係ないところで、ゼイストール氏とロスヴァイゼさんが挨拶を交わしている。
その光景を、ランベルト君を勝手に連れてきた受付嬢が悔しそうに睨み付けていた。
たしかあの人、僕が初めて傭兵ギルドに来たときに話しかけた受付嬢じゃないか?
まあ、向こうは僕の事は記憶の片隅にもないだろう。
「上層部も
「そうすね」
目の前で行われていたテンプレートな退治劇に呆然としていた僕に、ローンズのおっさんが気を取り直すように話しかけてきた。
おっさんも呆然としていたが、僕より早く復帰したのは流石だ。
「今募集があるなかで比較的平和なのは、コロニーでやる社交パーティーの警備だな」
渡してきた依頼書の詳細はこうだ。
業務内容:ノーバンドル侯爵家主催の社交パーティー会場である、コロニー周辺の警備及び来客者の交通整理。
業務期間:銀河標準時間で72時間(3日間)。
業務開始前に説明会をするので、業務開始1時間前までの集合必須。
それ以降は2交代制の12時間連続勤務で12時間の待機休憩。
勤務中の休憩は任意。現場を離れる場合は必ず報告をすること。
業務環境:随伴する宿泊施設コロニー内にある宿泊施設(カプセルホテル式)の無料使用・食事の無料支給。
宇宙船の燃料支給。
業務条件:宇宙船の持ち込み必須。
持ち込み宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。
緊急時には、待機休憩時でも対処・出撃すること。
上記理由により、待機休憩時のコロニー外への外出不可。
緊急事態時を除いて、会場コロニーへの立ち入り禁止。
報酬: 36万クレジット・固定
なかなかに良い条件だけど、気になる点がある。
「警備そのものはおかしくはないけど、こういう場合は普通侯爵家の警備隊なんかが張り切るもんなんじゃないの?」
「侯爵家の警備隊はコロニー内部警備で大変なので、傭兵に外部をお願いしたいらしい。来客の交通整理も含めてな」
「まあ、僕らにお貴族様の相手ができるわけないからね。その方がありがたいよ」
社交パーティーともなれば沢山の貴族がやってくる。
その警備となれば人数が多い方がいいし、コロニー内の警備なら貴族の対応になれた彼等の方が適任だろう。
「じゃあうけるんだな。指定の時間までには向こうについておけよ」
「了解」
仕事を受けた後は、そそくさとギルドを後にする
そのあとは、ゴンザレスから情報を買ったり、暇潰しのためのラノベや漫画をかったりして出発にそなえ、指定の時間に間に合うように惑星イッツを出発した。
その会場となるコロニーは、ノーバンドル侯爵家領にある惑星ラタカサの衛星軌道上にあった。
惑星ラタカサは基本的には岩と氷の惑星で、恒星の光がわずかではあるが届くために、昼夜があり、植物があり、人間が呼吸可能な成分・配合の大気まで存在している。
しかし、その大気の平均温度は、恒星の光に照らされていたとしても、常にマイナス120度を上回ることはなく、呼吸すれば肺が1発でやられて即死するレベルだ。
その極低温のなかでしっかりとそびえ立つ樹木は『ソイビス』と呼ばれ、常に緑の針葉を繁らせ、数百㎞に渡って列を成すように群生し、その幹はダイヤモンドより硬いと言われている。
そのため惑星ラタカサは白地に緑の筋がいくつもある、美しい惑星の一つと言われている。
色々開発すれば人類が住めなくはないのだろうけれど、ノーバンドル侯爵家ではこの惑星ラタカサの開発は行っておらず、特別に作らせたノーバンドル侯爵家の別荘兼観測所があるだけで、関係者以外は上陸を禁止しているらしい。
おそらく、何かあったときの避難所みたいなものなのかもしれない。
ともかく傭兵は、用意された宿泊施設コロニーに船を留め、説明会の会場にむかった。
そこには、色々な支部からやってきた傭兵達200人程がひしめいていた。
用意されていた椅子の端っこに座った瞬間、
「よう!あんたも来てたのかい!」
「ぐふっ!」
突然何者かに背中を思い切り叩かれた。
声のした方向を向くと、知った顔が僕の横に立っていた。
「あんたか…」
「なんだい。シケた
「あんたに背中叩かれたからだよ…」
犯人はがさつ女傭兵のモリーゼだった。
相変わらずデリカシーを忘却したままのようだ。
「やっぱりお前さんも受けてたか。やっぱりこういう警備の仕事は楽でいいぜ」
肩やら腰やらをほぐしながら、バーナードのおっさんが僕の前の席に座った。
「皆さんお久し振りです!」
「よく一緒になりますね」
「こういうのをしっかり受けるのが、一流の傭兵なんだ。当然だろ」
アーサー君とセイラ嬢、さらにはレビン君までもがこの会場にいた。
レビン君は相変わらずの中二チックな服装だが、矜持は立派になっていっているようだ。
計らずもいつぞやの仕事の時のメンバーが集まってしまったが、そこに違う顔がやってきた。
「ようテメエら。シケタ面してんな」
年齢は僕より少し上で、身長185㎝程の引き締まった身体をしており、オールバックの髪型ににやけ面の男だった。
その男の姿を見て、モリーゼは嫌そうな顔をする。
「あんたのそのにやけた面よりはマシさ」
「へっ。相変わらず口の減らねえ女だ」
2人ともちょっとピリつく会話をするも、その表情は笑いを含んでいて、本気でない事はわかる。
「誰だあんた?」
「おっと。そっちのルーキー3人とじいさんは初対面だな」
レビン君が男を警戒しながら質問すると、その男は片手を腰に当て、親指で自分を指すという、どこかのアニメのヒーローのようなポーズをとると、
「俺はダン・ビルトロップ。
恥ずかしいセリフを恥ずかしがる事なく口にした。
このダン・ビルトロップは会話や態度こそウザいが、信用できる腕の良い傭兵であることに間違いはない人物だ。
さらには、一度は
彼の名前を知らなくても、『以前に
まあ終始あのノリでは、周りからウザがられるのも無理はないが。
僕も初見の時は、外見や雰囲気から近寄りたくなかったけれど、
大規模な戦闘の時に何人もの味方を助けていて、
状況打開のために先頭切って敵陣に突っ込んだり、
貴族に絡まれた奴を助けたり、
仕事に失敗して落ち込んでいる奴を励ましてくれたりと、勇敢で面倒見がよい人物なのがわかると、その見方は変わっていった。
「ダンさんお久し振りです」
「ようジョン!相変わらずオタってんな!」
ちなみに仲良くなったきっかけは、彼が探していた古い漫画を探してあげたことだ。
ちなみにレビン君たちは終始呆然としていた。
まあ初見ではそうなるよね。
そうして少しくだらない話をしていると、
『これより説明会を開始するので、着席をするように』
という放送がながれた。
さて、仕事の時間だ。
リーゼントかオールバックかで悩みました。
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