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モブNo.60:「当たり前でしょう?それぐらいの事も理解出来ないなんて、揺るぎない馬鹿の確かな証拠よね」

伯爵令息の倒れる場面をちょっと修正しました

襲撃された日の夜は、新刊を心行くまで楽しんだ。

もうあの非常識女(ピンクあたま)に悩まされることがないと思うと実に晴れやかだ。

そんな晴れやかな気分でギルドに来たのだけれど、ローンズのおっさんからの話で一気に嫌な気分になってしまった。


「傭兵ギルド・イッツ支部の上層部から、アコ・シャンデラから受けた事の被害届を取り下げろって話が来た」

「いやだけど?」

「実際に買わされてないし、ちょっとした行き違いって事にしてくれだと」

「銃を突きつけられて威嚇射撃されたのに?」

「当たってないだろ?傭兵ならそれぐらい日常茶飯事だろ?だとさ」

「そういう問題じゃないっしょ…」

「色々不祥事があったからな、これ以上印象を悪くしたくないんだとよ」

「だったら不祥事を揉み消さない方がいいと思うんだけど?」

話をしているローンズのおっさんも、呆れ顔全開だった。

はっきりいって意味がわからない。

不祥事は、発覚したときにきちんと公表するよりも、隠したり揉み消したりしたほうが印象が悪くなるものだ。

案外上層部にアコ・シャンデラさん(ピンクあたま)の下僕でもいるんじゃないだろうか?

2人で呆れ返っているとゼイストール氏がやってきて、

「ですので対処しておきました」

と、言ってきた。

「「え?」」

「帝都にある本部に、ここの上層部の汚職の可能性を通報したところ、アコ・シャンデラへの被害届の取り下げを強制するなら全員を解任するという指示が下りましたので、心配しなくて大丈夫ですよ。

それにもしアコ・シャンデラ(かのじょ)が不起訴になって出てきたとしても、彼女を別の支部に追いやれますよ」

僕とローンズのおっさんが驚きの声をあげると、ゼイストール氏が説明をしてくれた。

その内容はいち()()()の行動力ではない気がする。

ゼイストールさんって何者なの…?


そんな疑問を考えていたその時、ロビーが騒がしくなった。

そこにいたのは、以前ここにいた、現在は帝都のギルドに籍を移した()()()()()()()だった。

相変わらず取り巻きを引き連れ、彼に媚びを売っていた受付嬢達が、前と同じように彼に媚びを売りはじめていた。

何で戻ってきてるんだ?

連中は帝都で好き勝手やってるはずだ。

貴族はロビー内を見渡し、ゼイストール氏を発見すると、ニヤニヤしながらゼイストール氏に近付いてきた。

「へー。こんな可愛い子が配属されてるなんて知らなかったぜ」

幸い、ゼイストール氏に気を取られているせいで、僕には気付いていないようだ。

「何の御用でしょう?」

「『羽兜(フェーダーヘルム)』って奴、呼び出してもらおうか」

「ランベルト・リアグラズさんの事ですか?どのような御用件でしょう?」

「俺が呼んでるって言え」

「申し訳ありませんが、どこのどなたかわからないような方の要請には従えません」

貴族の命令に、ゼイストール氏は毅然とした態度で反抗していた。

すると当然、貴族は腹を立てる。

「ビッセン伯爵令息であり、イッツ支部で最も優秀だった女王階級(クイーンランク)のストライダム・ビッセンを知らないだと?!ふざけるな!」

「私が配属された時点では、貴方はイッツ支部(ここ)の所属ではありませんでしたよね?それなら私は知らなくて当たり前です。貴方は帝都のギルドに所属しているのですからね」

「だがこの俺の噂ぐらいは聞いただろうが!」

「いいえまったく」

「女ぁ…見てくれが良いからと調子に乗るなよ?」

ビッセン伯爵令息は、ゼイストール氏が自分の名前を知らない事に対してさらに腹を立てる。

そうして空気が張りつめているところに、呑気そうな声が聞こえてきた。

「あのー俺に用事ってなに?だれなわけ?」

「それは今から説明していただけますよ」

どうやら、ビッセンのシンパらしい受付嬢が、勝手にイキリ君ことランベルト・リアグラズ君を呼んできたらしい。

そのイキリ君だが、色々経験を積んだからなのか、それともロスヴァイゼさんの教育が良かったのか、以前のようなイキっている様子は微塵もなく、彼本来の姿であろう、真面目そうな雰囲気に変わっていた。

まあ、毎度戦闘時に失神してればプライドもへし折れるよね…。

ビッセン伯爵令息はランベルト君を確認すると、

「お前が『羽兜(フェーダーヘルム)』か。喜べ。お前を俺が率いる傭兵チーム『煉獄(プルガトリオ)』のメンバーにしてやる。以降は俺に絶対の忠誠を誓い、身を粉にして働けよ」

と、言い放った。

つまりはスカウトだけど、内容は奴隷契約だね。

仕事をランベルト君にやらせて、報酬と成果だけをむしり取るつもりなんだろう。

ランベルト君なら、ロスヴァイゼさんの力だけど、直ぐに自分と同格になるからその前に仲間に引き込んで(どれいにして)おこうというところだろう。

「いや。俺はチームに入るつもりはないんで…」

ランベルト君の返事は当然の事だろう。

なによりロスヴァイゼさん関連の事は、出来るだけ秘密にしておきたいだろうしね。

そしてその返答に、ビッセン伯爵令息が納得するわけはない。

「あ?お前、俺のチームに入って俺の為に働くのが嬉しくないってのか?」

名前も名乗らず、奴隷になれと言ってくる奴に従うはず無いのに…。

ランベルト君が困った顔をしていると、その後ろから見覚えのある人が姿を現した。

「当たり前でしょう?それぐらいの事も理解出来ないなんて、揺るぎない馬鹿の確かな証拠よね」

「なんだと貴様!」

「私はロスヴァイゼ。『羽兜(フェーダーヘルム)』ランベルト・リアグラズのパートナーよ。貴様なんて名前じゃないわ」

以前から画面上だけで拝見していた、意思のある古代兵器・ロスヴァイゼさんだ。

ついにバイオロイド体を手に入れたのか。

極力関わりたくないなぁ…。

とはいえ金髪碧眼の美女に間違いはないのだから、ビッセン伯爵令息にとってはたまらない獲物だろう。

「ほう…。なら今日からは俺の女だ。『羽兜(そいつ)』は俺の部下になるからな。部下の女は俺の女だ」

そしてやっぱりなセリフを吐く。

ロスヴァイゼさんは大きくため息をつくと、可哀想なものをみる目でビッセン伯爵令息をみつめる。

「ここまで馬鹿だといっそ感心するわね。戦闘の実力も作戦立案も戦術眼も統率力もカリスマも気品も礼儀も常識も無いクセに、家柄と腐敗しつくしたプライドだけでそこまで大口を叩けるなんて」

まさに正鵠を射た感じだが、ビッセン伯爵令息が激怒しないわけはない。

「てめえ…誰に向かって口を利いてると思ってるんだ?!」

「ゴミでしょう?あ、その言い方はゴミに失礼よね。ゴミはゴミになる前はきちんと役に立っていたもの。産まれた瞬間からなんの役にも立っていない貴方と違って」

ロスヴァイゼさんキツイなー。

あんなこと言われたら、ああいうタイプは絶対ブチ切れるのに。

まあ僕もそう思うけど。

「殺されたいらしいな…」

ビッセン伯爵令息は、ロスヴァイゼさんに向けて銃を突きつける。

ロスヴァイゼさんには通用しないだろうけど、ほっとくのも不味いよなあ。一応知り合いだし。

そうして僕が意を決して銃に手を伸ばそうとしたとき、

「銃をしまってください」

ゼイストール氏が伯爵令息の前に立った。

「なんださっきの受付か。そういやお前も俺に生意気な口を利いてたよな平民風情が」

ビッセン伯爵令息はゼイストール氏に銃を向ける。

「全裸で土下座でもすれば許してやらなくもないぞ?」

ビッセン伯爵令息のセリフに反応し、取り巻きが下品に笑う。

その光景を、ランベルト君を連れてきたビッセンのシンパらしい受付嬢が、にやにやしながらゼイストール氏を見つめていた。

なんだかゼイストール氏を逆恨みしてそうな雰囲気だな。

やっぱり自分より美人で人気がある()()()は気に入らない感じだろうか?

そんなことを考えているうちに、ゼイストール氏とビッセン伯爵令息の対立?はヒートアップしていた。

「銃をしまってくださいと言ったんですが、聞いて下さるつもりは無いようですね」

「全裸で土下座でもすれば許してやらなくもないって言ったのが聞こえなかったのか?」

「街中はもちろん、ギルド支部であっても、護身以外に銃を抜くのは犯罪ですよ」

「それは平民だけだ。貴族は許可されている」

「先代の皇帝陛下の御代(みよ)にその許可が廃止されたのを知らないのですか?」

「じゃあこれは護身のためだ。襲われそうなんでな」

「先に銃を向けたのはそちらですが?」

「知らんな。襲われそうなのはこちらだ。まあ、お前に俺を襲えるはずはないがな?」

売り言葉に買い言葉?の応酬で埒が明かなそうだったが、「お前に俺を襲えるはずはない」というビッセン伯爵令息の言葉に、ゼイストール氏はついに我慢が限界に来たらしい。

「そうですか。では襲わせてもらいましょう」

そう言った次の瞬間、ビッセン伯爵令息の(あご)の先にゼイストール氏の拳が振り抜かれた。

ゴッ!という鈍い音がして、ビッセン伯爵令息がふらついたところに、今度は首に上段蹴りが叩き込まれた。

そこからさらに、前のめりに倒れかけたビッセン伯爵令息の(あご)先を、足を真っ直ぐに頭の上まで振り上げる感じの蹴りで下から蹴り上げると、不思議と後ろに倒れることなく、ビッセン伯爵令息は膝をつきながらうつ伏せに倒れていった。

ちなみにゼイストール氏は()()()()なので、ちゃんとズボンを履いている。

ゼイストール氏は残った取り巻きに視線をむけ、

「『煉獄(プルガトリオ)』とやらのチームリーダーがやられましたが、敵討ちにはこないんですか?」

と、言い放った。

当然だけどああいう連中が進んで敵討ちなんかするわけないよね。

ゼイストール氏には敵うわけ無いし、下手すればアーサー君の彼女のセイラ嬢にだって負けるだろう。

「では全員恐喝罪で逮捕ということで」

いつの間にか警備員と警備用ドロイドがやってきていて、ビッセン伯爵令息とその取り巻きは連行されていった。

一件落着だが、ビッセン伯爵令息は腐っても貴族だし、傭兵ギルド・イッツ支部の上層部も黙っていないだろう。

実際どうするのだろうと不安になる。

だがまあ一つ言えることは、

『ゼイストール氏かっけえ!』だ。

伯爵令息は、「うまい!」とかは言いません。

バカかつづきましたが、こんなのは全体の10%以下ですが、その10%が上位に多かったりします


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