モブNo.55:「ウーゾス氏らしい答えですな」
昼食を食べ終われば次に行くところは決まっている。
「『ノイジープラネット』のリメイク版のデータカードが早く出ないかなー」
「いや、放映始まったばっかりだからまだ無理だって。『鬼殺しの
「『パイレーツ・ストローハット』の新刊はいつだっけ?」
アニメショップ『アニメンバー』を始めとした様々なショップがひしめき合うこの星のオタクの聖地・マシトモビルに向かい、漫画・小説・アニメ・同人誌の購入だ。
3人で好きなアニメや漫画の話を取り留めなく話し合う時間は堪らなく楽しい。
社会人としてはダメなのかもしれないが、止められない。
今、『アニメンバー』ではコミックフェスティバルの新刊同人誌の委託販売が始まっているため、その辺りの購入がメインの目的だ。
さらには併設するリサイクルショップ『せいざばん』にも脚を運び、掘り出し物の同人誌を探し回る。
他にも様々な店をハシゴし、基本的に買い物だけなのに4時間は
おかげで全員の欲しいものが手に入り、にこにこしながらマシトモビルを後にした時にはすでに夕方になっており、仕事帰りの人達が、帰路についたり飲みに行ったりする時間になっていた。
僕らは3人ともアルコールは飲まないし、買った漫画や小説を早く読みたいのもあって、帰路につくべく最寄駅に向かっている時に大きな声が響いてきた。
見ると、逆さにしたビールケースの上に40代ぐらいの男性が立っていて、肩掛けのスピーカーを手にして街頭演説をやっていた。
そしてその後ろのパーティションには、勇ましい感じのポスターが何枚も張ってあり、何人かの男女がチラシを配っていた。
「なんだあれ?」
以前には見たことのない光景に、思わず声が出た。
「侵略された祖国を独立させようとしてる集団だよ。皇帝陛下が弱腰の今こそ独立して、あわよくば帝国を滅ぼそうとしてるらしい」
クルス氏がそう説明するので、演説の内容を聞いてみると、確かに間違いなく、『今代の皇帝は弱腰だから、今のうちに植民地になっていた国は決起して独立しよう』というような内容だった。
「クーデターとか起こしそうだな…」
「傭兵としては稼ぎ時になるのでは?」
演説を聞いて、ぽつりと漏らした一言に、クルス氏が真剣な雰囲気を醸し出しながらそう尋ねてきた。
たしかに、あの内容を聞く限り、クーデターが起きる可能性は非常に高い。
傭兵の僕としては稼ぎ時だ。
しかし僕の答えは決まっている。
「ごめん
「ウーゾス氏らしい答えですな」
僕は職業上強制的に徴兵される可能性もあるだけに、クルス氏なりに心配してくれたのだろう。
そこに、落ちていたチラシをみつめながらゴンザレスが驚愕の一言を放ってきた。
「うちの近所にもこのポスターはってたな…」
「あそこに?」
「なんと無謀な!」
僕とクルス氏は思わず声を上げてしまった。
ゴンザレスの近所、すなわち『闇市商店街』は
有名企業や政府関連のポスターを張ったとしても、翌日には、この方が格好いいだろうとばかりに、剥がされたりビリビリになっていたりするのは日常茶飯事。
場合によっては、より
しかし最近は企業側も考えたもので、この商店街に張るポスターだけ、初めから中二病チックなものを使用しているらしい。
例:栄養ドリンク剤→肉体の限界を越えさせる魔獣の体液
その闇市商店街にポスターを張るとはなかなかに度胸がある人達だ。
「まあ翌日には、例の肉屋の『白濁に溺れし海獣の繭・降臨!『沈黙を生みし紅殻』と『無限にて永遠なる紅殻』!』の張り紙に侵略されてたけど」
やっぱりだお。
しかもその内容から察するに、カニとエビのクリームコロッケだな。
相変わらずあの肉屋さんは攻めてるね。
今度ゴンザレスのところにいくときは試しに買ってみよう。
ネーミングはともかく、あそこのコロッケ類は本当に美味しいからね。
そんな楽しい休日を楽しんだ翌日。
僕は傭兵ギルドにむかい、先日のテロリスト退治の報酬を受取りにいった。
普段は報酬の3分の1を
それにより、父さんが不当に背負わされた借金は元金利息含めて全額の返済が終了する。
これでやっと肩の荷が降りるというものだ。
「今回の報酬は400万クレジット。受け取りはいつものでいいか?」
しかしそのいただくはずの報酬がなんだかおかしなことになってる。
普通なら250~350万クレジットほどなのに、ずいぶんと割り増しになっている。
「なんか額が違う気がするんだけど?」
不安になったのでローンズのおっさんに尋ねたところ、
「派遣だか駐屯だかの兵隊が迷惑かけたんだろ?その辺の詫びって言うか、あんまり騒がないでくれっていう賄賂みたいなもんだろ」
「軍法会議になったんだから、騒がないでくれって言われても無理があると思うけど」
「くれるってんだから貰っとけ。1人2人じゃねえんだから
不安なような納得できるような曖昧な答えが返ってきた。
まああのイコライ伯爵だから、傭兵の僕らを罠に嵌めるようなことはしないだろう。
「じゃあ今回は全部
そういって、さっき見つけておいたショボい海賊退治の依頼書を提示した。
「大金が入っても労働か。頭が下がるよ」
「いつお金がいるかわかんないからね」
「それで、安全第一のショボい海賊退治か」
報酬をうけとり、依頼の手続きと必要な情報を受け取ると、ギルドを後にしていつもの銀行に行き、受け取った報酬の半分を父さんの口座に振り込んだ。
実は傭兵ギルドの建物内にもATMぐらいはあるのだけれど、ATMを使うということは金があるという事なので、金に困ってる連中が
現在は撤去が提案されているらしい。
そうしてまたギルドに戻ると、そのまま『パッチワーク号』自分の船に乗り込み海賊退治に出発した。
ちなみにそいつらの情報は、多分ゴンザレスに聞いたとしても情報がでてこないぐらいの雑魚なのでギルドからもらった情報だけで十分だ。
でも、油断だけは絶対にしないようにしないとね。
演説の内容(一部)
「道行く皆々様。ここは、この惑星は、本来は何と言う惑星かご存知だろうか?
銀河大帝国ポウト宙域にある惑星イッツ?
違う!
銀河民主国首都惑星イッツだ!
銀河大帝国は、長い期間に何度も何度も侵略戦争を繰り返し、現在人類を始めとした知的生命体が生息している領域の80%を支配下に置いた。
今現在、その侵略戦争が行われていないのは、先代の皇帝が停止させ、今代の皇帝がそれを存続しているからだ。
だが!
次代や未来の皇帝が、また侵略戦争を始めないとも限らない!その愚かな戦争を回避するにはどうすればよいか?!
それは、過去に侵略され、植民地となった国々が独立し、誇りを取り戻すことで、帝国の力を削ぎ落とし、帝国を弱体化させることである!
帝国が振るう様々な力は、本来は帝国の物ではなく、我々の物なのである!
横暴で傲慢な貴族共や、それに追従し、自らを『純血民』などと称している帝国市民を、我々の星・国から排除し、銀河民主国を取り戻そうではありませんか!」
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