モブNo.54:「さてと。軽く昼食でも食べてから、『アニメンバー』にいくとしますか!」
昨日は結局、1時間たっぷりとゴンザレスの愚痴を聞かされた。
まあ、普段愚痴を聞く方だろうから、たまには聞いてやるのもいいだろう。
幸い僕もゴンザレスも酒は飲まないので、早めに切り上げられた。
そして翌朝の午前9時55分。
駅前の『プレイスターハウス』の前で、僕はゴンザレスとクルス氏を待っていた。
それから3分しないうちに、
「よう」
「おう」
ゴンザレスがやって来た。
黒のパンプスに赤系のぴったりしたパンツ、白のブラウスという、いつも白衣の下に着ている格好の上に、ブラウンのコートを羽織っていた。
「クルスの奴はまだみたいだな」
そして10時になる寸前に、
「よし。時間ぴったり」
クルス氏がやってきた。
こちらはスニーカーにジーンズにポロシャツ。明るい白系のジャンパーという格好だった。
金属のマスクとグローブは赤と黄色という、どこかで見たことのあるデザインだった。
「じゃあまずは、『鬼殺しの
「いきなりかよ!」
「あとは『こんすば』のマイヤ様の
店内に入るやいなや、そう宣言しながら、ゴンザレスの突っ込みを無視して、クルス氏はクレーンゲームに突進していった。
それから50分後。
結局クルス氏は、総額17000クレジットをつぎこんで、
そして、ソーシャル育成シミュレーションゲーム『SpeedQueenスピードクイーン!ザ・プラネットレース』のキャラクターで、近々放映されるアニメでの主人公に抜擢された、マローナ・グリシアの祝勝会ドレスバージョンを手にいれた。
その後は、久しぶりの対戦ゲームやレースゲーム。メダルゲームなんかを楽しんで、昼食の時間を多少過ぎてから店をでた。
「くっそー!あそこで回避さえできてれば…」
「ゴン氏はターンのタイミングが甘い。その点ウーゾス氏はさすがですな」
「生死に関わるからね。しかし、クラッシュや撃墜されても怪我ひとつしないのはありがたいね」
最後にやったドッグファイトのゲームは、クルス氏からの提案だった。
「さてと。軽く昼食でも食べてから、『アニメンバー』にいくとしますか!」
ゲームセンターでは正午を過ぎてからも遊び、食事の時間をずらして、混雑に出くわさないようにするのが、学生時代からのパターンで、いまでもなんとなくやってしまっている。
「じゃあどこか適当に…」
その時、有名なお洒落なカフェチェーンが視界に入った。
その瞬間、僕を含めた3人は表情が固まった。
「あそこはないかな」
「ないな」
「ないねえ」
学生時代に、このお洒落なカフェチェーンに3人で入ったことがあった。
その時、店員や店内の客達が、僕達を睨み付けた気がしたのだ。
『お前らみたいなオタクが、こんなお洒落カフェに入ってくるんじゃねえよ!』と。
もちろん店員も客も何も言わないし、僕達の方を見てもいなかった。
いま考えると、僕達がただ気後れしていただけなのだろうけれど、その時は本当にそう思ったのだ。
さらに、早く品物を受け取って帰りたいと思っていたところに、
コーヒーは美味しかったんだけどね。
そんな理由もあり、僕達は馴染みのファーストフード店にはいることにした。
端からみれば、明らかにオタクな僕に、金属の頭と腕の男に、眼鏡美人という異色の取り合わせだから、さぞかし目立つだろう。
特にゴンザレスが。
元の身体なら目立つことはないだろうけれど、今の奴は非常に目立つ。
まあ、それが原因で友人を辞めるなんて事は絶対に無いけどね。
そうしてそれぞれ、バーガーやドリンクを注文して席に座ると、クルス氏が僕に声をかけてきた。
「そういえばウーゾス氏。この前の惑星テウラのテロリスト鎮圧には参加したので?」
「ああ。なんとか生き延びてきたよ」
帝国中に報道されたニュースだから知っていて当然だし、僕が傭兵なのだから参加したと考えても当然だ。
「じゃあ、『
てっきり、報酬はいくらぐらい?とか聞かれるかと思ったけど、興奮気味に聞いてくる内容が、美人と噂の女傭兵の話とは、流石僕の友人だ。
「通信で姿を見たり声を聞いたりはしたけど、個人的に話したりはしてないよ。てかできるわけ無いじゃん」
「だよなー」
僕が正直に事実だけを話すと、クルス氏も簡単に納得した。
クルス氏も僕と同類なので、あんなキラキラした人に話しかけられるわけはない。
その事はお互いによく理解している。
僕とクルス氏がうなだれると、ゴンザレスがクルス氏に話をふってきて、
「そういえば、治療の方はどんな具合なんだ?」
クルス氏の怪我の状態を尋ねた。
医療に携わる人間としては、何かと気になるらしく、
するとクルス氏は真剣な顔になり、
「実はさ」
左腕のグローブを外す。
そこには、
「
嬉しそうな声を出しながら、右腕のグローブも外した。
そこにも同じように綺麗な右腕があらわれた。
その両方の腕は、今まで何年間も日の光にあてられていないために真っ白ではあったけれど。
「それはよかった!おめでとう!」
「なんで隠してたんだよ!」
僕もゴンザレスも、友人の怪我の完治を喜んだ。
「いやー。まだ顔のほうが完治してないから、もしかしたら再発する可能性があるんだよ。それに、なんか
着けてないと落ち着かなくて」
どうやらまだ完全ではなく、通過地点だったらしい。
それでも、友人の傷痕が少しでもなくなるのは嬉しい事だ。
「そういえばゴン氏はいつ身体を元にもどすので?」
自分の心配をしてくれたお返し?とばかりに、クルス氏がゴンザレスに尋ねたところ、
「戻す場合は元の身体の証明とか、色々必要だし、何より費用がな…」
クルス氏の質問に、ゴンザレスはポテトをくわえながらそう呟く。
そうは言うが、完全に自業自得だ。
「自業自得。というか、戻りたくないから専用の滅菌洗浄カプセルを買ったんじゃないの?それに、司会の仕事が初めてじゃなくて、嫌な目にあったんだったら、なんで元の身体に戻さずに、専用の滅菌洗浄カプセルなんか買ったんだよ?」
僕は、以前に聞いた元の身体に戻れない理由を突きつけた。
「計算違いがあったんだよ。会合自体は月1で、勉強会も兼ねてる。司会は資格取得から10年内の若手が務める事になってるから、俺が次にやるまでには後1年はあったんだけど、何人かが辞めたり亡くなったり10年経過したりとかで、順番が早まったんだよ」
ゴンザレスは、本気で嫌がっているようで、以前まで 戻る気0だったとは思えない感じだった。
友人との、ゲーセンめぐりとちょっとした報告と気遣いと下らない無駄話の会です。
明日は所用で時間が取れないので、早めに投稿しました。
マイヤ:アラビア語で水。
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