モブNo.50:『射的ですかね。伸るか反るかですけど』
地上部隊の進行具合にあわせてゆっくりと飛んでいると、次第にエネルギープラントのあるエリアが見えてきた。
『こちら航空部隊。敵航空部隊を発見。これより交戦を開始する』
先行した航空部隊は、さっそく敵航空部隊と接触したらしい。
『おっぱじまったみてえだな。よし。本隊より地上支援部隊。それぞれ各地上部隊に何機か専属で付いてくれ』
『こちら本部。その際は報告を忘れんなよ!』
航空部隊の戦闘を皮切りに、伯爵から僕達地上支援部隊に指示が飛んできた。
そして本部からは、伯爵子息から注意が飛んできた。
ちなみに、本隊に本部とややこしいので、こちらの指揮系統を説明しておこう。
本隊…伯爵がいる全体の司令塔となる地上部隊。
本部…伯爵子息がいる、最初に停泊したところ。
いわゆる本陣。地上支援部隊の本部でもある。
地上部隊…施設奪還部隊。今回の作戦の要。
航空部隊…敵航空戦力排除部隊。
ロスヴァイゼさんやアーサー君がいる。
地上支援部隊…施設奪還部隊のサポート。
つまり僕の所属部隊だ。
ちなみに、地上支援部隊を希望した傭兵は少なく、伯爵の私兵を含めても、35機しかいない。
この理由としては、『敵は航空部隊を大量に投入して、地上部隊を叩きにくる』という、事前情報があったからだ。
事実、レーダーにはかなりの航空機の反応があった。
そして、作戦の要である地上部隊は、本隊を含めて9部隊。
それぞれに4機づつで付くことになったが、数の問題で、僕とバーナードのおっさんとモリーゼの3人は8番めのホテル(H)中隊の護衛につくことになった。
リーダーは年功序列でバーナードのおっさんにまかせ、僕はレーダーを睨みつつ進軍していった。
DQN達のせいで船に戻れなかった時間に、色々聞いていたことが、それなりに役に立った。
昔盗賊団がいた頃のアジトだとか。
飲める地下水のある洞窟とか。
テロリスト達の隠れられそうな場所に当たりをつけ、そこの近くにビームを撃ちこんで様子見をするという方法で、隠れていたテロリスト達を炙り出していった。
幸いなことに、ホテル中隊の進軍ルートには、敵の地上支援部隊がおらず、時折潜伏した戦車隊がいたぐらいで、モリーゼの落下式の爆弾で吹き飛ばしたり、バーナードのおっさんのビーム掃射で蜂の巣にしたりと簡単な対処で済んでいた。
ちなみに航空部隊の方は相当派手にやらかしている。
報告によると、向こうも爆撃機を、しかもどうやって用意したのかわからないが、かなりデカイ奴を出してきたらしい。しかも5機。
だがそれは、王階級の『漆黒の悪魔』とアーサー君の2人であっという間に撃墜したらしい。
アーサー君の船は白地に銀の縁取りがされているから、白と黒のコントラストはそりゃあ見栄えのするものだったろう。
他にもロスヴァイゼさんや中二病のレビン君。『深紅の女神』なんかは、以前のノスワイルさんの如く、その光跡には敵機体の爆発が伴っているらしい。
そのおかげで、地上部隊を狙ってくる敵航空部隊はほとんどいなかった。
ありがたやありがたや。
ともかく、僕らとホテル中隊は、着実にエネルギープラントに近づいていた。
が、その途中には、地元の人達から話に聞いていた、なんでもネキレルマ星王国建国時に、惑星上だけで戦争をやってたころに作られたという大型トーチカ・別名『ネイムス砦』が立ちはだかっていた。
高さ30m・幅80mの円形で、10tクラスの爆弾でもびくともしない上に、表面にはリフレックス処理がなされていて、ビームを弾いてしまうらしい。
今現在では、元軍事施設なのもあって立ち入り禁止になっているらしい。
そして当然、テロリスト達はそれをトーチカとして使用していた。
『ネイムス砦から銃撃!ありゃあビームガトリングか?骨董品遣いやがって!』
『あそこ、兵士の幽霊が出るって噂あったよな…。そいつらが制圧してくれねえかな?』
地上部隊の連中が愚痴を飛ばしているところに、
『こちらホテルリーダー!ネイムス砦からの攻撃苛烈!援護を!』
地上部隊のリーダーから支援要請がきた。
『了解。本部への報告は頼むぜ』
『わかった!早いとこたのむ!これじゃ進軍できない!』
地上部隊との会話が終ると、バーナードのおっさんが、仲間内の回線で話しかけてきた。
『了解。とは言ったものの、どうする?』
『あたしの爆弾落としてみるかい?』
『弾の無駄だ。止めておけ』
ちなみにモリーゼが積んでいる爆弾は、自然落下式で500kg級のやつだが、多分効果はないだろう。
となれば、どうやってあのトーチカを黙らせるか。
多分今の装備ならできなくはないだろうけど、一か八かになる。
とはいえ、やらないよりはいい。
『じゃあ、2人で銃眼のガトリングの注意を引いてくれますか?』
『何をする気なんだ?』
『射的ですかね。
それを聞いて、バーナードのおっさんとモリーゼは、結構なスピードでネイムス砦の前を、右から左に左から右にと飛び回った。
もちろん向こうからの攻撃もあるが、2人は華麗にかわしていく。
そうして連中の注意が2人に集中したころに、僕は2kmほどの距離から、砦の正面、銃眼の高さにスローイングナッツがくるように調整し、2人が通りすぎる寸前に、2発発射した。
そしてタイミングよく、2人が通った後に、スローイングナッツが銃眼に飛び込み、爆音が響いた。
トーチカには傷ひとつつかないだろうが、中にあるビームガトリングやそれを扱う人間はたまったものではないだろう。
案の定、ネイムス砦からの銃撃は止んだ。
とりあえず地上部隊に制圧をお願いしておこう。
「いつ復活するかわからないんで、今のうちに制圧をお願いします」
『了解!トーチカ背後に回り込んで制圧する!』
ホテル中隊は迅速にトーチカに近づいていく。
内部の制圧は彼等の仕事だ。
おっと、この事を本部報告しておかないと。
「本部。こちらホテル中隊付きの地上支援部隊。現在ネイムス砦は沈黙。ホテル中隊が内部を制圧中です」
『了解。よく沈黙させられたな。制圧が困難なら近い部隊を回すが?』
「そのへんはホテル中隊に直接聞いてください。私では判断ができませんので」
『わかった。続けて頼むぞ』
これで報告は完了。あとは制圧を待つだけだ。
ちなみに、本部の受け答えをしているのは、何人もいる
まあ、あの伯爵子息に
少し落ち着けるかなと思ったところに、モリーゼから大声での通信が入ってきた。
『あんたやるじゃないか!船での戦闘だけなら
「そりゃどうも…」
認めてくれるのは嬉しいけど、
『あんた、やっぱりいい腕してたんだな。手柄を取った記念に一杯おごってもらわねえとな』
バーナードのおっさんは、にやにやしながらたかりを予告してきた。
生き残れたあとの祝勝会が気が重い。
◇ランダムな敵の無線集◇
『くそっ!爆撃機が全部墜ちた!全滅だ!』
『『赤』と『黒』は知ってるが、『黄緑』と『白』と『青』は知らねえぞ?』
『知ってるか?『黄緑』は『羽兜』ともいうらしい。そういうマークがついてるんだとさ』
『潜んでいた戦車隊はなにやってんだよ?!』
『何べん呼んでも応答がないらしいぜ』
『ようし!敵戦車破壊確認!いけいけ!』
『このバルカン当たらねえ!どうなってんだ!』
『大変だ!ネイムス砦が陥落!したらしいぞ!』
『くそっ!本国からの増援はまだなのか?!上は私という優秀な人材を遣い潰すつもりなのか?』
『ヤバい!『黒』に食いつかれうわあっ!』
『こちらプラント班!敵地上部隊接近中!早いとこ護衛機を寄越してくれ!』
『ムチャ言うな!こっちは『白』から逃げるのに必死なんだ!』
『聞いたか?『赤』は女だって話だ!』
『美人か?美人なのか?!』
『アホか!それ聞いてなんになるんだよ!』
『ヤバいぞ!『黄緑の羽兜』が俺たちの真上を飛んでる!』
『いいか?こういう時は落ち着いて数をかぞえるんだ』
『頼む!だれかあの『青い雀蜂』を追い払ってくれ!』
『この作戦が終わったら、彼女にプロポーズするんだ!』
『こんなことなら秘蔵のウィスキーを飲んでおくんだったぜ…』
『任務とはいえ来たくなかったよなあ…』
◇以上抜粋◇
人物表と設定の簡単なものを掲載しました。
ご要望・御指摘があれば追記いたします
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