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モブNo.48:「ま。派手な空中戦は派手な連中にまかせて、俺達は地上部隊の航空支援任務という、地味な仕事をするだけだな」

ロスヴァイゼさんの身体が出来上がった事に恐怖しているうちに、地上への降下許可の順番がまわってきた。

僕の船『パッチワーク号』は旧式で、色々手を加えているが、基本的に宇宙・地上の両方で使用できる汎用型(マルチタイプ)で、武装も付け替えが可能だ。

今回僕が、仕事を受ける際に希望したのは、地上部隊の航空支援任務だ。

理由は、イコライ伯爵領で大量に補充がきくことがわかっている、小型空対地ミサイルポッド『スローイングナッツ(投げる木の実)』を2機搭載する予定だからだ。

威力はまあまあだけど、小型なだけあって、ポッド一つの装弾数が9発もある。

名前の由来は、ミサイルのサイズが他の空対地ミサイルより小さいからという事からだそうだ。

ミサイルなので、宇宙空間でも使えないことはないが、当てるのは大変だろう。

もちろん量産品で、惑星大気内の哨戒機や爆撃機の補助兵装として採用されている。

つまり、トライダム鉱石の鉱山や、エネルギープラントの警備の為の哨戒機に使われているため、予備弾薬が豊富にあるわけだ。

地上部隊の航空支援の他には、敵航空隊の排除任務もあったが、ロスヴァイゼさんがいるなら必要はないだろう。

まあ、ロスヴァイゼさんがいなくても敵航空隊の排除任務は受けなかったけどね。

目立ちたくないから。

『『パッチワーク号』は降下を開始してください。着地ポイントを間違えないように』

「了解です」

遥か昔には、大気圏突入は大変な苦労があったらしいが、今では全ての船、どんな小型船であろうと、熱の壁による空力加熱(断熱圧縮)の心配はしなくていいような素材で出来ているから、簡単に惑星表面に降りることができる。

とはいえ大気圏突入時には注意を怠ってはいけない。

熱の壁は大丈夫でも、身動き?が、取りづらくなるのだけは解消出来ていない。

もしこの時なにか起こってしまったら、さすがにどうにもならないからね。

無事に大気圏を突破して見えてきたのは、茶色くだだっ広い、砂と岩の続く荒野だった。


着地ポイントを間違える事なく地上に降りると、かなりの数の戦車や装甲車、大気圏内用の戦闘機や汎用型の戦闘艇がひしめいていた。

自分の船を所定の位置に置くと、直ぐ様数人の整備兵が近寄ってきた。

「希望の兵装に変更はあるかい?」

リーダーらしい人が僕に質問してくる間にも、部下の人達は燃料の補給や点検を開始していた。

「いや。要望どおり小型空対地ミサイルポッドの『スローイングナッツ(投げる木の実)』を2機よろしく」

「わかった。今ぶら下がってる陽子魚雷は預かっとくぜ」

「よろしくっす」

そう返答すると、『スローイングナッツ』2機が直ぐ様運ばれてきて、あっという間に換装が終了した。

ここの整備兵の人達は優秀みたいだ。

事前に要望書を提出しておいて正解だった。

それが終わると、傭兵達がならんでいるテントのところに行き、チェックをすました。

そのまわりでは、宿泊用のテントの貸し出しや、簡易シャワーのテントが並んでいたり、食事の炊き出しやなんかが行われていたりする。

さらには、かなりの数の露店商がズラリと並んでいたりして、まるでどこかの市場のようだ。

その光景をぼんやり見ていると、

「よう!あんたも来てたのかい!」

「ぐふっ!」

背中を思い切り叩かれた。

痛みに耐えながらも振り返ってみると、僕の背中を叩いたのは、以前ネイマ商会の護衛の仕事でいっしょになったモリーゼ・ロトルアだった。

「お…お久しぶりです…」

がさつで男勝り、サボり癖や人をからかったりする悪癖はあるものの、美人で高身長。筋肉質ではあるが均整のとれたプロポーションをしている彼女は中々に人気者だ。

彼女には失礼だけど、あまり近寄りたくない。

もちろん向こうはそんなことを気にするはずもなく、

「向こうでアーサー達を見たよ。やっぱり戦闘は、仲間内が別れる事がある貴族同士の嫌がらせみたいなのより、こういう仲間内で分かれる必要のない、ぶちのめす相手がわかりやすい方がいいね!」

楽しそうに僕の肩をバンバン叩いてくる。

「まあ…そうっすね…アーサー君達もいるなら頼もしいですしね」

僕がその痛みに耐えていると、

「おまけに『羽兜』と『漆黒の悪魔』と『深紅の女神』までいたからな。俺はテロリスト共が可哀想になってきたぜ」

僕とモリーゼとの会話に割り込んできた人がいた。

それは、モリーゼ同様に、ネイマ商会の護衛で一緒になった、元警官のバーナード・ザグ氏だった。

そしてその手には、露店で買ったらしい串焼きと缶ビールがあった。

予定では作戦開始は明日の朝だけど、昼過ぎの今から飲んでて大丈夫なんだろうか?

いや、『昼過ぎだから』かな。

「そりゃ本当かい?だとしたらこっちの勝利は確実だね!」

モリーゼは、バーナードのおっさんからの情報に、楽しそうに反応していた。

「だからといって、油断はしねえほうがいいぜ」

「当たり前だね!」

バーナードのおっさんは注意をするが、その手に缶ビールと串焼きがあっては説得力がない。

しかし今の話が事実なら、敵航空隊の排除任務は受けなくて正解だった。

降下の時に、マスコミの船を見かけたので、多分彼等の近くには取材クルーがうろついているに違いない。

「ま。派手な空中戦は派手な連中にまかせて、俺達は地上部隊の航空支援任務という、地味な仕事をするだけだな」

そういって、バーナードのおっさんは串焼きにかじりついた。

いや。地味派手関係なく全部大事な仕事でしょうに。

まあ、理解した上での軽口だから問題はないからね。

2人との会話を終えると、炊き出しのパンと具だくさんのスープ、露店の串焼きと果物を買ってから

自分の船に帰ろうとしたその途中に、ヒーロー君ことユーリィ・プリリエラ君の姿を見つけた。

幸いこっちには気がついていないので、僕から声をかける事なくスルーし、その場を離れることに成功した。

そうして船に戻ってくると、とんでもない事になっていた。

船が壊されたりしているわけでない。

僕の船の横で、いわゆる陽キャな感じの傭兵達がBBQ(バーベキュー)をしていたからだ。

BBQ(バーベキュー)自体は別にいい。

あちこちで似たような事をしているわけだし。

問題は、僕の船の入り口を、彼等の荷物が塞いでいたことだ。

こちらとしては、荷物を移動してもらう権利があるわけだけど、彼等が素直に応じるとは思えない。

しかし、船に戻らないと寝ることができない。

こうなったら彼等のBBQ(バーベキュー)がお開きになるまで、時間を潰すしかない。

なので、チェックをしたテントの近くに行って、戦場になるであろう場所の情報や地図を見せてもらったり、地元の人達にその場所にある建物や施設の場所や、天候の移り変わり。断片的ではあるものの、テロリスト達の情報を聞いたり、奪還目標であるエネルギープラントの詳細を聞いたりと役に立つかもしれない情報を集めることで、時間を潰してみた。

そうして5時間ほど経過してから、自分の船を置いてある所に帰ってみると、彼等の荷物が崩れていて、中に入れるようになっていた。

しかも彼等は酔い潰れて眠っているため、船に戻るなら今のうちだ。

音を立てないように荷物を避け、中に入る事ができた。

僕はほっと息を吐くと、しっかり鍵を閉め、シャワーを浴び、着替えをしてから簡易ベッドに倒れ込んだ。

つくづく、極小ながらもシャワー・ベッド・トイレ・レンジ・冷蔵庫をおくスペースのある戦闘艇にしておいてよかったと、心から思いながら、目覚ましをセットし、ベッドでラノベを読みながら、眠くなるのをまった。

急用で遅くなってしまいました


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします


船内の施設の『コンロ』を『レンジ』に変更しました。

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