モブNo.47:「せいぜいくたばらない程度に励(はげ)んでくるんだね」
相変わらず迷路のようなビルの
そこには、足音を消すための毛足の長い深緑の
そしてその向こうに、少々鷲鼻で、まさに魔女といった風貌をした、灰色のフード付きのローブを着た老婆が居て、にやりと笑っていた。
「おやいらっしゃい。久しぶりだねえ」
婆さんからすれば営業スマイルな感じなのだろうが、こっちにとっては恐怖にしかならない。
それをおし殺してとりあえず挨拶をする。
「相変わらず元気だねえ」
「これでも美容には気を遣ってるんだ。とはいえ、この歳になりゃあガタの一つもでてくるからね。今度全身儀体にでもして、若返ってやるつもりさね」
「全身儀体は、事故なんかで生命危機があるとか、身体に重大な疾患があるとかじゃないとしてくれないっしょ?」
「そこは抜け道があるのさ。
にやりと笑う婆さんの、ロスヴァイゼさんみたいな野望を止めようとしたけど、どうにもならないという事がわかっただけだった。
「とりあえず情報ちょうだい…」
なので、本来の用件をすませるべく、封筒をテーブルに置いた。
「イコライ伯爵領惑星テウラでのテロ関連だね。ちょいとお待ち…」
何の情報だと言ってないのに、よくわかるなあ。
まあ、僕がわかりやすいだけなのかも知れないけど。
婆さんは封筒を
「ふむ…。イコライ伯爵にもその息子にも、あまり悪い噂はないね。まあ、息子は少々態度が大きいのと、伯爵本人の人相が悪いくらいかね」
「癖があるって聞いたんだけど?」
ゼイストール氏が言っていたことが気になって尋ねたが、
「きちんとした貴族の血筋なのに、そう見えないところさね」
「だからどんな感じなの?」
「知りたきゃ仕事を受けるんだね」
軽くかわされてしまった。
「わかったよ。で、テロリストのほうは?」
「主な主張としては、『重要なエネルギー資源を皇帝が独占して、利益を貪るのは間違っている』てのを掲げてるらしいね」
「
さらにいえば、惑星テウラでトライダム鉱石が発見されたのは先代の皇帝陛下の
裏に回ればわからないけどね。
「多分、連中の正体はネキレルマ星王国の連中だね」
ネキレルマ星王国というのは、帝国の隣国であり、
「惑星テウラは、ネキレルマ星王国統治下の時には、開発もされず、資金援助もせずに放置されていた。
さらには他の星の連中からは、田舎者だの原始人だのと差別されていた。
さらに、帝国に侵略された時は、守りもせずに放棄された上に、帝国への停戦条約の手土産としてあっさりと引き渡された。
いらないものを押し付けるようにね。
にもかかわらず、開発されて莫大な金が手に入るとわかったとたん、『あの惑星は本来、ネキレルマ星王国のものなんだから取り返す』てな事になったんだろうさ」
婆さんは、淡々とした口調で、惑星テウラの歴史を語ってくれた。
その表情には、怒りが込められていたような気がしたが、聞かないようにした。
「てことは、惑星テウラの人達がテロリストに協力は…」
「するわけないじゃろう。
開発もされず、差別されて、おまけに生け贄みたいな扱いをしてきたネキレルマ星王国と、
開発に力をいれて生活を向上させてくれて、裕福な生活をさせてくれている帝国貴族のイコライ伯爵のどちらを取るかは明白さね。
それに、先代・今代の皇帝陛下の尽力で貴族や生粋の帝国民の意識も少しずつ改善している今の帝国と違って、ネキレルマ星王国は過去の帝国と同じぐらい貴族共が馬鹿だからね。テウラの人達は財産を全部奪われたうえに奴隷同然の扱いをされるだろうさ。まあそのお陰で、今の帝国がマシに見えるんじゃがな」
なかなかハードな状況だけど、地元民が敵に回ることはなさそうだ。
「まあ。エネルギーの供給元が減るのはヤバいからなあ…」
頭の悪い僕でも、惑星テウラがこのまま
「せいぜいくたばらない程度に
婆さんがにたりと笑いかけてきた。
とりあえずこわいから止めて欲しい。
とにかくその日は家にかえり、ゆっくり休む事にした。
夜のニュースでは、早速イコライ伯爵領でのテロの事が報道されていた。
これだけ騒がれているのだから反皇帝派も表だって邪魔ができないのではとおもうのだけれど、そこまではわからない。
テレビでは、今回のテロによるエネルギー供給への影響だの、テロリストたちの正体だのといった話題を、文化人という人達が熱心に推理を披露しあっていた。
翌日。
僕は依頼を受けると、その足でイコライ伯爵領である惑星テウラに向かった。
その宇宙港には、かなりの船が集まり、地上への降下許可をまっていた。
データで整理券を受け取るも、かなり待たされそうなので、用意してきたラノベを読むことにした。
この間新刊がでたやつで、『転生したらキャンピングカーでしたがなにか文句ある?』だ。
プラボックスのコーヒーも準備して早速と思った時に
その相手は、出来ればかかってきてほしくない相手だった。
「はいもしもし…」
『お久しぶりですねキャプテンウーゾス♪』
「なんか用ですかロスヴァイゼさん」
『同じ戦地にいくのですからご挨拶をと思って』
その原因がなんとなく想像出来てしまうのが悔しい。
とはいえ、ロスヴァイゼさんがいるなら、勝ちは決まったようなものだけど、油断は禁物だな。
「やけに機嫌がいいみたいですけど、なにか良い事でもあったんですか?」
『はい!ついに私の分体となるアンドロイドが完成したんですよ!』
多分そうだろうとは思っていたが、それははっきり言って最悪の情報だ。
『アンドロイドといっても、機械と生体をミックスしたハイブリッドで、見た目は生身の人間と見分けがつかないレベルなんですよ!食事も出来るしアッチのほうも可能な超ハイスペック仕様!これで停泊中も退屈しなくてすむようになります!まあ受け取りはまだなんですけどね』
彼女は嬉しそうに、自分の分体のスペックを説明し、
「それは…おめでとうございます」
『ありがとうございます♪この仕事が終わったら、晴れて受け取りなんですよ!』
人間なら間違いなく死亡フラグなセリフを並べてくれた。
それにしても、元々船の彼女に食事やらアッチやらが必要なものなのかは謎だ。
それだけ、古代文明の
ところで、ロスヴァイゼさんの分体が出来たとなれば、イキリ君ことランベルト・リアグラズ君はどうなってしまうのだろうか?
「そういえば、それを受け取ったら、ランベルト・リアグラズ君はどうするんです?」
前々から、優秀な人間を乗せたがっていたけれど、これで彼は用済みになる。
気になって尋ねたところ、彼女は急にあらぬ方向を向き、
『い…今のところは乗せておいてあげます。有名になってしまいましたし、色々気遣いはできる人なので』
恥ずかしそうに彼への対応を述べてくれた。
はい。ツンデレ古代兵器の爆誕だお。
出会いは最悪っていうのはお約束だからね。
ついに恐れていた事が、始動寸前になりました。
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