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モブNo.42:「かなり昔はそれが横行してたってんだから、先代と今代の皇帝陛下には感謝だな」

少年を撃った時の表現を少し変えました

ノスワイルさんと出くわした後も、いきなり部屋に警官が来て逮捕されることもなかったので、翌日には傭兵ギルドに仕事を探しにきた。

依頼ボードには意外にも海賊討伐の依頼が多かった。

たしか軍が気合い入れて討伐をしているはずだと思っていたのだけれど、その内容を見て納得した。

大きな海賊団が相次いで討伐されたせいで、小物の動きが目立つようになったからだ。

僕はそのなかでも、被害額のショボい、多分あまり凶悪ではなさそうな海賊の討伐依頼を選んでローンズのおっちゃんに差し出した。

「ちわっす。これの詳細よろしく」

「その様子だと、依頼料の返還だの、窃盗の嫌疑だのは来なかったみたいだな」

おっちゃんはにやにやしながら詳細な情報(データ)を渡してくる。

どうやら近くのボシラス宙域に出没しているらしく、被害額は今のところ360万クレジットほど、2人組の海賊らしい。

乗員を殺害していないのはプラスポイントといったところだろう。

「現場にいないのに逮捕されちゃたまらないよ。それに依頼料返還しろってのも非常識な話っしょ」

「かなり昔はそれが横行してたってんだから、先代と今代の皇帝陛下には感謝だな」

ローンズのおっちゃんは本気でそう言っているようだった。

『美女すぐる皇帝陛下』こと、38代皇帝アーミリア・フランノードル・オーヴォールス陛下は、ただ美人だからというだけで人気があるわけではないのだ。


そうして情報をもらった僕は、さらなる情報を得るために色々準備をしてから、ボシラス宙域にむかった。

このボシラス宙域には、大気が有毒ガスだったり、溶けた鉛の雨が降っていたり、常に音速の嵐が吹き荒れていたりと人類が居住するには適さない星が多い。

そのためその惑星の衛星軌道上には、別名・サービスエリアと呼ばれる、古いコロニーや元・軍事基地、巨大な小惑星などを改造した補給施設がある。

真っ当な配達業者の長距離運行の休憩所はもちろん、傭兵くずれや犯罪者の潜伏先としてもよく利用されるところだ。

その中の惑星リフスは、そのほとんどが岩石で出来ていて、大気の(ほとん)どはメタンガス。その惑星表面の温度は-200℃にもなり、常に時速600㎞の暴風が吹き荒れている。

宇宙空間から見ている分には青くて綺麗な星だが、そこに人類が降り立つことはない。

その衛星軌道上にあるサービスエリア『ドミルサ』は、比較的真っ当な連中が利用するサービスエリアだ。

こういったところで情報を手に入れる場合、配達業者に話を聞くのが一番効率が良いし安全だ。

もちろん状況によりけりだが、バーのマスターや傭兵なんかに情報を聞いた場合、ターゲットに情報が流れて逃げられたり、酷い時には殺しにくる事だってある。

もちろん配達業者から流れる事もあるけれど、確率はずっと低い。

僕は『ドミルサ』の駐艇場に船を泊めると、プラボトルのコーヒーを持って、配達業者達が集まっている駐艇場の角にあった自販機の所に向かった。

そこでは、ベテランらしいおっちゃん3人がのんびりとタバコを楽しんでいた。

「こんちわっす」

「おう。おつかれ」

僕は配達業者(どうぎょうしゃ)のような雰囲気をだしながら、こっそりとその輪に加わると、コーヒーを一口飲み、大きくため息をついた。

さてどうやって話を聞こうかと考えている内に、おっちゃん達はなにやら愚痴を言い始めた。

「最近よぉ…ほら…軍隊が気合い入れて海賊退治してるじゃねえか」

「ありがたいことだろ。お陰で安全に仕事ができるんだからよ」

「それがよぉ…また最近増えてるらしいぜぇ…規模はちっちぇえみたいだけどな」

「退治された連中の残りカスが、自分たちで一旗揚げようって考えてんだろ?」

「この辺にもいるんだよな~一匹。タッシアだっけ?あの毒塩の惑星。あの辺で出るんだよ」

「あんなとこでか?」

「近くにアジトがあるんだろうよ」

「俺が聞いたのは、タッシアの辺りでかなりデカイ海賊団に襲われたって聞いたぜ」

「軍隊が潰して回ってるのにか?」

「潰して回ってるからじゃねえのか?ほら、逃げ回る的な」

「どちらにしても物騒なことだよな…」

今話に出た惑星タッシアというのは、別名『毒塩の惑星』と言い、海はあるが、その塩分濃度は55%という驚異的なものだ。

おまけに大気は水素と酸素と塩化ナトリウムで、大地は塩で真っ白になっている。

しかもその塩には未知の毒性があり、使い道がないのが現状だ。

酸素があるから呼吸が出来るのではと思われがちだが、窒素がない上に、酸素の割合が40%もあるので凄い勢いで身体が酸化していくらしい。

ともかく今の話で大体の位置が判明したので、今度はどうやって離れようか考えていると、

「お、こんな時間か。兄ちゃんお前はもう少し休んでいけよ。長距離は休憩が大事だからな」

おっちゃん達は休憩が終わったのか、タバコを消して、自分たちの船に帰っていった。


さっきの話だけでも十分な情報だったので、配達業者のおっちゃん達を見送った後、自分の船にかえる途中に強盗に絡まれた。

「おい!金だせ!」

見た目の年齢からして12~3歳ぐらいの線の細い少年だった。

電磁ナイフ片手にこちらを威嚇してきた。

こういった場合、反撃出来るならしてかまわないというのが世間の常識だ。

金だけならいいが命まで奪われてはたまらない。

「金だせっていってんだろうが!殺されたいのか?」

わめき散らす少年の様子に、手慣れた感じがないのが見てとれた。

なので僕は、慣れない早撃ちを披露し、強盗少年の腹を撃った。

「ぐあっ!」

威力は小さめにしていたが、爆発の威力もあるからかなり痛いはずだ。

案の定、強盗少年はあまりの痛みに声も出せないでいた。

皮膚は確実に焼けただれているだろう。

「もしもし警察ですか?惑星リフスのサービスエリア『ドミルサ』で強盗に遭いまして。…はい…あ、そうですか。では、動けなくしておきますのでよろしくお願いします」

僕は強盗少年の電磁ナイフを踏みつけ、銃を強盗少年に向けたまま警察に連絡した。

幸いこの『ドミルサ』には警察の船が停泊していたらしく、すぐに引き取りに来るそうだ。

「うう…」

「動かないでね。動いたら撃つからね」

強盗少年がようやく声を出せるようになったらしい。

もちろん油断なく銃をむける。

強盗少年は忌々しそうにこちらを睨むけど、悪いことをしたのはそちらが先だからね?

「くそっ…なんでお前みたいなキモデブに…」

「一応傭兵だからね。護身の方法はそれなりに身につけてるよ。

銃の腕はあんまり良くないんで、外した時に大変だから威力は絞ってるんだ。

だからそれぐらいですんでるんだ。

容赦のない人なら君もう死んでるからね?」

そういった瞬間、電磁ナイフを踏みつけていた足に飛びかかってきたので、電磁ナイフから足を外して右に避けて距離を取り、強盗少年の側面から、腕の辺りに3発ほど撃ち込んだ。

「ぎゃあぁぁぁぁぁっ!」

その3発は、電磁ナイフを拾おうとした右腕・左肩・床に当たった。

「動いたら撃つからねって、言ったでしょ?」

僕は電磁ナイフを拾い上げ、うずくまる強盗少年に再度油断なく銃を向け、警察の到着を待った。

アーサー君みたいな主人公なら、この後に会話をして改心させたり、孤児だったら身元を引き受けたりするのだろうけど、僕はそういう事はやらないししたくもない。

するとようやく警官と捕縛ドロイドがやってきた。

当然だけど、こんな子供に賞金なんかはかかっていないしターゲットの海賊でもない。

まったく。銃の手入れをしてもらったとたんにこれなんだものなぁ。

ついてない。

ワクチンの副作用も微熱と関節痛だけですみました。

ご心配おかけしました


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