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モブNo.40:「大抵は久しぶりに友達に会いたいからいくものだけど、頻繁に会ってるからなあ」

そのニュースを聞いた僕とローンズのおっさんは、思わず固まってしまった。

なにしろ僕を含めた大勢の人達の努力の結果が、無残にも奪われてしまったのだから。

「大胆な事をする奴がいたもんだな」

「まさか収集作業をしてた僕達が疑われないよねえ」

「惑星上での窃盗だからな。ずっと宇宙にいた連中を疑うほど馬鹿じゃないだろ」

「だといいけど」

正直かなり不安だ。

希少金属(レアメタル)の儲けを期待していた貴族連中(えらいさんたち)が、苛立ちの矛先を傭兵や作業員といった現場の人間に向けるのはよくあることだ。

場合によっては真犯人を自分の手で捜さないといけないかもしれない。

て、そんなことは僕がやることじゃない。

「警察に任しとけばいいんだよ。首を突っ込んでもいいことはないぞ」

その僕の考えを読んだのか、ローンズのおっさんが軽く釘を刺してくる。

「そうだね。じゃあ今日はもう退散するよ。報酬返せとか言われないうちに」

「さすがにそれは…あるかもしれんな…」

冗談のつもりで言ったのだけど、まさか心配事になるとは思わなかった。

なのでさっさと出ていくことにしよう。


僕はその足でゴンザレスのところに行くことにした。

今回の怪盗事件の情報をもらうためだ。

途中、あの肉屋の商品を買っていって見ようと思って、初めて店に入ってみた。

すると、店長さんは普通に愛想のいい感じのおじさんだったが、商品のラインナップ全てが、

牛肉=ミノタウロス肉・豚肉=オーク肉・鶏肉=コカトリス肉・ハム=死肉の膜・コロッケ=至福の黄金といったような感じだった。

どこまで拗らせてるお、このおじさん…。

ともかくそこでコロッケを4つほど購入してから、パットソン調剤薬局に向かった。

「ちーっす」

そしていつもの感じで店に入ると、

「例のレアメタルの窃盗か?」

と、いつもの挨拶をすることなく、いきなりこっちが聞きたい事をズバリといってきた

「なんか情報あるの?」

僕はコロッケとお茶のプラボトルをカウンターに置くと、ゴンザレスに差し出した。

「ほとんどはマンガ展開か隠謀論かな」

ゴンザレスがコロッケをつまんだので、僕もコロッケを食べる。

初めて食べたけれどけっこう美味しい。

「マンガ展開っていうと、大怪盗による華麗なイリュージョンな感じ?。美少女怪盗かイケメン怪盗かで戦争が始まってるってところか」

「そんなとこかな」

ゴンザレスはコロッケを食べ終わると、お茶に手を伸ばした。

「真面目なところは?」

「一切不明。まあ内部の人間が手引きしたのは間違いないかな」

「それくらいはだれでも思い付くか…」

どうやら彼の情報網でも詳しいことはわからないらしい。

まあ、首を突っ込まないのが一番だからこれ以上話す事はない。

するとゴンザレスが2個目のコロッケに手を伸ばしつつ、

「ところで、明日の合同同窓会はどうするんだ?」

と、尋ねてきた。

実は収集作業の初日に傭兵ギルド経由で合同同窓会の招待状が届いていた。

合同とあるのは、例の傭兵団に無理矢理入団させられた事件で、僕のいた世代の生徒が激減し同窓会がなかなか開けない連中のためにという趣旨で開催されるらしい。

なんていっているが、つまりはリオル・(イケメ)バーンネクスト(ン少佐殿)スクーナ・ノスワイル(人気美人レーサー)とお近づきになるための方便なのが丸分かりだ。

「貰った時は収集の仕事中でいつ終わるかわからなかったし、いく気は無かったから即断った」

「俺も。会いたい友人には会えてるからな。それに、絶対()()()に絡まれるからな」

ゴンザレスが忌々(いまいま)しそうな顔をする。

「だよなー。多分変わって無いだろうなー」

あいつとは、2年生のときに僕とゴンザレスのクラスメイトだった、スクールカースト上位のアロディッヒ・イレブルガスのことだ。

貴族ではないが、イレブルガス商事の社長子息で、もちろんイケメンだ。

いつも取り巻きをつれ、エリート意識全開・ノリ重視・遊び大好き・ナンパ大好き・マウント大好きの、クズ陽キャの見本みたいな奴だ。

そのため僕たちだけでなく、クラス中の陰キャが迷惑を被っていた。

そいつと会いたくないという気持ちは、あのリオル・バーンネクストの方がマシだといえばわかってもらえるだろうか。

少なくともバーンネクスト(少佐殿)は、ちょっとしたギャグとかいいながら、暴力をふるってくる人間ではないからだ。

ゴンザレスの情報だと、現在は親の会社を継ぐために遊学中といった、それはそれはスタイリッシュな生活をしているらしい。

「大抵は久しぶりに友達に会いたいからいくものだけど、頻繁に会ってるからなあ」

ゴンザレスは新聞を広げながら、3つ目のコロッケに手を伸ばした。

「まあそうだねえ」

その言葉に、僕はお茶を飲みながら同意し、手に持った食べかけのコロッケを口に入れた。


昨日のうちに、報酬を返還しろという連絡がなくてほっとしたので、昼までに部屋の掃除やらなにやらを済ましたあと、今日は久しぶりに銃のメンテナンスを頼みにいくことにした。

まず撃つことがないから月一か使用した後ぐらいしか手入れはしていない。

なのでたまにはプロに診てもらおうと思ったわけだ。

その店は街中の雑居ビルの地下にある店で『スヴァンソン銃砲店』という。

「こんちわ~」

「いらっしゃい!久しぶりだね」

「銃はあんまり使わないからね」

店の中は、がっしりしたカウンターに分厚い防爆・防レーザー加工のアクリルプレートで守られ、商品は全て展示画面(ディスプレイモニター)で選ぶようになっている。

そして応対をしてくれたのは、この店の店主の娘さんのリンダで、まだ高校生だそうだ。

学校は…サボリ気味なのかも知れない。

店主さんの姿が見えないが、多分店の奥で修理かレストアをやっているんだろう。

僕がカウンターの取り引き口に銃をおくと、彼女はそれを手に取り、

「それなりに手入れはしてるみたいだね」

そういうとカウンターの裏にある作業台に座り、銃の分解を始めた。

ゆっくりやる僕とは違い、あっという間にバラバラになってしまった。

そんな腕前の彼女でもまだまだ半人前だという。

その作業中、彼女が不意に話しかけてきた。

「ねえ。特注品の銃とかは作らないの?」

「下手な人間が特注品使ってどうするの?」

「作ろうよ~。傭兵なら持ちたいっしょ?」

「いらないよ。もったいない」

このやり取りは、この店に彼女が顔を出すようになってからずっと続いている。

彼女は、自分が1から設計した銃を製作したくてたまらないらしい。

それで、特注品を持ってない僕に注文、つまりは資金を提供してくれと頼んでいるわけなのだ。

「特注品なんか渡されたって、銃をめったに使わないんだから量産品で十分だよ」

「ちぇ~。せっかく新素材を試してみたかったのに」

作業をしながらも、ブーたれている顔はなかなか可愛いとは思った。

そうして銃のオーバーホールが終了すると同時に勢いよく店の扉が開き、明らかに面倒臭い客が入ってきた。

流石に惑星上にいない上に別の惑星にいる人を犯人にはできません。

先代・今代の皇帝以前の時代ならあり得たかもしれませんが。

(間違いなくその時間にはアメリカ合衆国ニューヨークにいて証人もいるのに、日本の東京都新宿区での殺人事件の犯人にされる感じ)


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします


副反応は小さくてすみました

が、2回目が怖い

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