<< 前へ次へ >>  更新
28/43

モブNo.28:『それは困る!今回の新製品発表会は我が社の社運がかかってるんだ!遅れるのはダメだ!』

レーダーの有効距離について再度ご指摘をいただきましたので、改訂いたしました。

依頼開始の当日。

さすがに全員遅刻することはなく、出発地であるギルドの駐艇場(ちゅうていじょう)に揃っていた。

「初めまして。私が責任者のリーガス・バンドルバンです。今回の新製品発表会は我が社にとって大切な発表会です。迅速かつ安全にお願いしますよ」

生まれつきらしい(こわ)ばった顔で挨拶をしてきたのが、今回の依頼の責任者である、ネイマ商会営業部部長のリーガス・バンドルバン氏だ。

その後ろでは、中型の輸送船『ランオイタン号』に、社員さん達が商品や食料などを運び入れている。

なんでもこの輸送船は自社のもので、船を動かす乗組員も社員さんらしい。

僕たちの仕事は、この中型の輸送船一隻を、惑星ガライフまで無事に届けることだ。

現在時間は午前6時55分。

出発時間は午前7時。

24時間かけて惑星ガライフ行きのゲートに移動する。(到着予想・翌日午前7時)

夜間時(午後10時から翌朝午前6時まで)は、自動航行装置(オートドライブ)に移行しての、3人づつの4時間交代制の仮眠時間。

ゲートを通過したら、惑星ガライフまで14時間の移動。(到着予想・当日午後9時)

特に問題がなければ、38時間で到着・終了となる。

そのうちに、積み込みが終了し、出発とあいなった。


出発してからは実に順調だった。

機械のトラブルもなく。

元警官のバーナードのおっさんのくだらない話に多少うんざりし。

モリーゼさんのいじりにセイラ嬢が真っ赤になったりと。

和を乱すような馬鹿もおらず。

実に平和な時間が過ぎていった。

しかし、8時間ほど経過した頃に、レーダーに反応があった。

僕は、チェックをした後にアーサー君に報告をいれた。

「あーちょっといいかな?」

『なんですか?』

「2時と3時の間の方向16億㎞の所に、船籍不明の船団を発見。多分海賊じゃないかな」

『こちらも確認しました。このままのコースだと接触する可能性があります。コースを変更するなり、一旦停止してやり過ごすなりした方がよろしいかと』

セイラ嬢の方も船籍不明の船団を捉えたらしく、アーサー君に報告を入れていた。

『アタシは異論はないよ』

『面倒は少ねえ方がいいやな』

『判断はまかせる』

残りの3人も、セイラ嬢の意見に賛成する。

安全を優先し、迅速に移動するためには最適だろう。

『わかった。依頼人に許可をもらおう。バンドルバンさん。ちょっとよろしいですか?』

『なんでしょう?』

『実は海賊らしい船団を発見しました。向こうはこちらに気がついていないようですが、このままだと接触する可能性があります。なので、コースを変更するなり、速度を落としてやり過ごすなりしようと思うのですが』

『それは困る!今回の新製品発表会は我が社の社運がかかってるんだ!遅れるのはダメだ!』

アーサー君が、海賊の発見と、それの回避方法を提案するが、部長さんは(けわ)しい顔でアーサー君の提案を拒否する。

元々強面なためか、なかなかの迫力だ。

『しかし、海賊と接触した場合、戦闘になって余計に時間がかかりますし、場合によっては、ご自身と社員の方に危険が伴いますよ?』

だがアーサー君は、その迫力に負けずに、提案を実行しなかった場合のデメリットを提示する。

事実、戦闘は時間もかかれば依頼人自身の身も危なくなる。

『部長!安全のためにもプロの指示に従いましょう!』

ノストゥさんを始めとした社員さん達が、後ろから部長さんに思いとどまるように説得を試みているが、

『ダメだ!少しでも早く会場に到着しないとダメなんだ!』

部長さんは、何をそんなに切羽詰まっているのか分からないが、これはなかなかに面倒だ。

『仕方ない。セイラはそのまま海賊の監視を。ウーゾスさんは引き続き周囲のチェックを』

アーサー君が、仕方なくその指示に従おうとした時、『ランオイタン号』の通信の方から、バチッという音が響き、部長さんが画面から消え、

『申し訳ありません。コースを変更する方法をお願いしてよろしいですか?』

その代わりにノストゥさんが現れ、美しい笑顔でアーサー君の提案を受け入れた。

意外に怖いなこの人…。


そして提案どおりコースを変更して進んでいると、セイラ嬢から通信が入った。

『ちょっとよろしいですか?』

「はいはい。何事です?」

何か見つかったのかと思い、慌てレーダーを見直すが、変わったところはなかった。

すると、セイラ嬢は意外なことを言ってきた。

『まずは、先日睨み付けてしまってすみませんでした。貴方の船が本当に20億㎞の探査が出来るとは思ってなかったものですから』

セイラ嬢が真剣な表情で謝罪をしてきたのだ。

「あー。あの時の。別に気にしてないから」

特に気にはしていなかったのだが、彼女は気にしていたらしい。

『以前、20億㎞の探査ができるといったのに、実際は5億㎞しか出来なかった人がいて、その人のせいで色々不幸なことがあったので…』

なるほど、あの時の視線は疑いの視線というわけか。

いるよね。出来もしないのに大口叩いて、結局迷惑かける奴が…。

『そのあたりは見抜けるようにならねえとな。彼氏の尻ばっか追っかけんなよ?』

『なっ!なにをいってるんですかっ!』

そこに、モリーゼさんがちゃちゃをいれてくると、セイラ嬢は真っ赤になって反応する。

完全におもちゃにされてるなあれは…。

雰囲気を変えてくれたのはありがたいけどね。


それから3時間後。

幸いにも、海賊とおぼしき船籍不明の船団が、こちらの進路とはまったくの逆方向に進路を変更をし、姿を消していった。

海賊だとしたら、近くに別の獲物を見つけたからということだから、厳密には喜んで良いことではない。


それからさらに4時間が経過し、夜間の交代仮眠の時間がきた。

最初の仮眠はアーサー君・セイラ嬢・バーナードのおっさんの3人だ。

強力なレーダー持ちの僕とセイラ嬢が同時に休憩は出来ないし、セイラ嬢の希望を叶えてやろうとすれば、こういう形になるのは必然だ。

『ランオイタン号』の方も交代睡眠の時間になったらしく、当直らしい人が軽くあいさつをしてきたりした。

実際のところ、護衛の仕事で一番辛いのは、なにもない時間だ。

何も起こらない方がいいが、何もないと退屈になり、眠くなってくる。

さらには、僕やセイラ嬢のように、強力な探査装置(レーダー)をもっている場合レーダーの変化を見逃すわけにもいかないから、どんな退屈で眠くなっても眠ってはいけない。

そういう時にありがたいのは、無駄におしゃべりをしてくる奴なのだが、一番しゃべりそうなモリーゼさん。いや、モリーゼは。しっかりと眠りこけていやがった。

いびきもしっかり聞こえるので間違いない。

とりあえずあいつの回線だけに繋いで、大音量の警告音(アラート)でも流してやろうと思っていたところ、

『よう。ちょっといいか?』

レビン君が話しかけてきた。

彼から僕に話しかける話題は無いように思えるが、いったいなんなのだろう?

『あんた、情報屋のパットソンとは長いのか?』

すると会話に出てきたのは、情報屋の友人(パットソン)の話だった。

「高校からの友人だからね」

それを聞くと、レビン君はちょっとだけ驚き、

『だったら、好きなものとか知らないか?食べ物でもアクセサリーでもなんでも良いからさ!』

熱のこもった質問を投げ掛けてきた。

なんだろう。

これはあれか。

もしかしてレビン君はゴンザレスに惚れてるってやつなのか!?

それを考えるとゴンザレスは正体を話してないのだろう。

まあ、聞かれない限り答えないとおもうけどね。

あいつの性格からすると。

だとすると、早めに真実を話してあげた方がいいのか?

それとも、自分ではないが、恋人がいるはずだよと、真実を知らないうちに失恋させてやり、前を向かせた方がいいのか?

「こ…高校の時はアニメやラノベが好きだったし、今でも好きだと思うよ…」

僕はどちらも告げる勇気がないので逃げに走った。

ちなみにゴンザレスは僕のオタク仲間でもあるので、アニメやラノベが好きなのは真実だ。

『そ、そうなのか…』

微妙な顔をするレビン君。

まあ、いまのゴンザレスの、キャリアウーマンみたいな外見からは想像しづらいよな。

それから彼は、なんかの、まあ間違いなくその手のサイトだろう。を、交代の時間になるまで検索していた。


なお、モリーゼがずっと寝ていたことは報告させてもらい、彼女を起こす時は大音量の警告音(アラート)をリクエストしていたと連絡しておいた。

平穏な仕事風景です、


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします

<< 前へ次へ >>目次  更新