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モブNo.27:「では皆様。2日間よろしくお願いいたします!」

傭兵だけでのミーティングが終了した後には、依頼主とのミーティングがある。

このミーティングには、必ずギルド職員が立ち会う事になっている。

さらには、依頼主からの要請がなければ、基本的に護衛のリーダーだけが参加というシステムになっている。

これは、過去に傭兵が依頼主を脅して不当な報酬を要求したことがあり、その対策として、対面はリーダーだけ、そのうえギルド職員が立ち会うという形になった。

傭兵だけでのミーティングは、このときの報告をやり易くするためのものなわけだ。

しかし今回は、全員の参加を依頼主側が要請してきていた。

はっきり言うと面倒臭いのだが、やっておいた方がいいことではある。

そうして僕たちは、依頼人とミーティングをするために、依頼人がいるミーティングルームへ向かった。


そのミーティングルームには、立ち会いの職員と、スーツをビシッと着こなした、新人キャリアウーマンな感じの女性がいた。

彼女は僕たちの姿を見るとさっと立ち上がり、

「初めまして!ネイマ商会営業部のローヌ・ノストゥと申します。

本来なら責任者の部長がくるのが筋なのですが、以前から決まっていた会合参加者の重役がこれなくなったために、出る予定のなかった部長が代理として急遽駆り出されてしまいました。

ですので急遽、副責任者の私が代理で(まか)()しました」

申し訳なさそうに謝罪をしてきた。

ノストゥさんは、20代半ばくらいだろうか、ショートヘアに整ったスタイルをした、元気な感じの美人さんだ。

「初めまして。私が今回の護衛のリーダーを勤めます

アーサー・リンガードと申します」

流石はアーサー君。

爽やかな笑顔を浮かべながら、早々に握手の手を差しのべている。

そうして握手をかわすと、僕ら5人も自己紹介をした後、さっそくミーティングが開始された。

とはいえさっきの話し合いでこちらの方針は決まっているので、話し合うのは職員・ノストゥさん・アーサー君の3人がメインだ。

僕らはそれを黙って見守ることになる。

そしてそのなかの1人であるセイラ嬢は、てっきり歯ぎしりをしながら人を殺せそうな視線を依頼人であるノストゥさんに向けるものだと、僕を含めた4人ともがそう思っていたが、そんなことは全くなく、真剣な表情で依頼人とアーサー君の会話を聞いていた。


ちなみに今回の依頼内容は、

惑星ガライフで開催される新製品発表会への出展する新商品の輸送。

業務内容:ネイマ商会の大型輸送船1隻の護衛

業務期間:惑星イッツから惑星ガライフでの受け渡し完了までの、約48時間

業務環境:宇宙船の燃料支給。ゲート使用料金は依頼主持ち

業務条件:宇宙船の所持。

宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。

報酬: 1人130万クレジット・支払いは到着後。戦闘が発生した場合は、危険手当が回数分支払われる。

と、いうものだ。

そうしてスムーズに話が進み、

「では皆様。2日間よろしくお願いいたします!」

本日のミーティングのすべてが終了した。


ちなみに、ミーティングルームをでた後、モリーゼさんがセイラ嬢に、

「あんたの事だから、てっきり歯ぎしりをしながらあの依頼人を殺しそうな視線を向けるもんだと思ってたけど、よく我慢できたねぇ」

と、笑いながら爆弾を投下したが、

「おそらく、私がアーサー様といちゃついて仕事をしないのではと危惧したのでしょうけど、プライベートや傭兵仲間(なかまうち)ならともかく、仕事の最中に恋人といちゃついて仕事を疎かにしたり、アーサー様と話しているからといって、睨み付けたり威嚇などしたりしたら、アーサー様の評判まで落ちてしまうじゃないですか!」

と、冷静に返してきた。

それにしては、探査距離で名乗りを上げた時、ものすごい形相で睨んできたよね。

まあ、そのあたりはあんまり気にしない方がいいかな。


ともかく、依頼主とのミーティングが終了したので、そのまま闇市商店街の、パットソン調剤薬局に向かうことにした。

目的は言わずもがなだ。

するとなぜか、中二病君ことレビン君も闇市商店街に向かっていくのが見えた。

まあ、明らかな中二病患者の彼が闇市商店街にくるのはおかしくない。

むしろ溶け込みすぎだ。

それにしても、ここは何時(いつ)来ても怪しい。

休憩用のベンチすら怪しい。

お。あの肉屋さん、

『煮え滾たぎる油泥(ゆでい)から産まれし、辛酸たる暗黒の黄金』=『イカ墨を練り込んだ衣を使ったスパイシーカレーコロッケ』

(のぼり)がまだ立ってる。

この前食べてみたけど、辛いけどなかなか美味しかったから人気商品になったんだろう。

その肉屋をすぎると、一つの店の前に、レビン君と同じく中二病を患った女性たちが群がっていた。

どうやら御菓子の店が、店前で屋台をだしているらしい。

そして立てられていた看板には、

『樹木の命を宿す、虹色の(はらわた)をもつ海の祝福』

と、書いてあった。

また訳のわからないものを…ってこれはあれだな。

フルーツフレーバーの餡子とフルーツソースが入った鯛焼きだ。

言葉はともかく、イラストがあったのでわかりやすかった。

しかも物凄くファンシーなイラストが。

闇市商店街(ここ)設定(コンセプト)の真逆だけどいいのかなあ?

ともかくその鯛焼きは、あんこの種類が、イチゴ・バナナ・ミカン・ブドウ・モモ・メロン・マンゴーの7つがあり、

ほかにも、定番(レギュラー)として黒餡・白餡・抹茶餡・チョコ・カスタード・キャラメルクリームなんてのが並んでいた。

興味はわいたが、あの女の子の集団に入って買い物はできないので、取り敢えずスルーだ。


ほかにも、『禁書入荷』の張り紙がしてある本屋。

『魔剣・妖刀・封魔の縛鎖(ばくさ)半額セール中』の看板が立ててある金物屋。

『宵闇の布。在庫あります』の張り紙がしてある洋服屋などをスルーし、パットソン調剤薬局にたどり着くと、なぜか中二病君ことレビン君もそこにいた。

彼は驚いた様子もなく、

「あんたも裏取りか?」

と、尋ねてきた。

どうやら彼も、情報屋の友人(ゴンザレス)の客のようだ。

僕は「まあね」とだけ答えて、扉を開けて店内に入った。

「いらっしゃい…意外な組み合わせだ…」

ゴンザレスの口振りから察するに、レビン君がここの常連なのが察することができた。

レビン君は現金をカウンターに置くと

「ネイマ商会の情報と、バーナード・ザグって元警官のおっさんの情報が欲しい」

と、ストレートに情報を要求した。

「わかった。そっちは」

「僕も同じかな。同じ依頼をうけたんでね」

「わかった。1時間ぐらいかな。ブラついてきていいぞ」

ゴンザレスは新聞を置いて現金を回収すると、首の辺りで縛っている髪を前にもってきて首の後ろを露にし、うなじにあるコネクターを開け、PCにつながっているコードを取り出した。

「わかった。銃のメンテにでもいってくる」

レビン君はそういうと外にでていった。

「前から客だったの?」

レビン君の姿が消えてから、僕も現金を渡しながらそう尋ねてみた。

「最近かな。御菓子屋のおじさんから聞いてきたらしいよ。今フルーツ鯛焼き売ってる」

「肉屋の方が似合う気がするけど」

レビン君は意外と甘党らしい。

案外、銃のメンテナンスついでに、あのフルーツ鯛焼きを買いにいったのかもしれない。

さて、僕はいつも通り読書の時間だ。


それからきっかり1時間後。

情報屋の友人(ゴンザレス)はきっちりと情報を集めてきてくれた。

ちなみにレビン君は、あの女性の集団に混じって、フルーツ鯛焼きを買ってきたらしい。

「ネイマ商会は特に目立った事柄はないかな。家電全般にオーディオなんかを製造販売してる真っ当な家電メーカーだね。今回の依頼は、間違いなく惑星ガライフである新製品発表会への出展する新商品の輸送だね。依頼の時も説明はされたとは思うけど」

ゴンザレスはコードをしまうと、ミネラルウォーターを流しこんだ。

「次にバーナード・ザグって元警官の人だけど、正式な記録だと懲戒免職って事になってる。でも、どうやらキャリアがしでかした失態を押し付けられたらしいね」

「キャリア…つまりはお貴族様って訳か」

「同僚や後輩、一部の上司や世話になったキャリア組なんかが事実無根を訴えたけど、聞き入れられなかったらしい。警察内ではそのキャリアはずいぶん嫌われてるらしい」

「当然じゃん。すると恨みの方向はあっちか」

それなら、こっちに対して攻撃をしてくることは無いだろうから大丈夫かな。

ともあれ安全な依頼なのがわかったのはありがたい。

あとは本番をきっちりこなすだけだ。


あとは、レビン君の視線が、ちょいちょい情報屋の友人(ゴンザレス)の方に向けられていたのが少し気になったぐらいだ。

『禁書入荷』=『新刊入荷』

『魔剣・妖刀・封魔の縛鎖(ばくさ)半額セール中』=『和・洋包丁・ロックチェーン半額セール』

『宵闇の布。在庫あります』=『黒の布。在庫あります』

に、なります。


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