モブNo.25:「わかった。説明してやる」
ロセロ伯爵家対グリエント男爵家の
本来ならその日の内に報酬が支払われるのだが、今回は色々処理が大変になったため、2日後ということになった。
そしてその
「ちわっす。報酬いただきにきました」
僕は、傭兵ギルドに報酬を受け取りにやって来た。
僕以外にも、何百という傭兵が、受付に群がっていた。
僕が行くのは、もちろんローンズのおっさんのところだ。
人数が多いせいもあってか、珍しく人が並んでいたので、静かにその列に並ぶ。
「よう。戻ったな」
「何とかですよ」
そして僕の番になると、ローンズのおっさんは、寝不足気味の顔で普段どおりの手続きを始めた。
「今回は本当に面倒臭いぜ。潜入工作なんざやりやがって…」
どうやらその辺りの処理で、色々手間が面倒臭かったらしい。
「ほれ。終わったぞ」
おっさんは、疲労困憊の状態で報酬を渡してきた。
「大丈夫?休んだ方がいいんじゃね?」
「今日の仕事が終わったらたっぷり休みはとる」
そうはいうが、かなりやばそうだ。
幸い僕以降は客が並んでいないので、ちょっと提案をしてみた。
「そうだ。今回の仕事に関しての
「出来るが…なんでだ?」
「その分休めるじゃん。色々聞きたいのも事実だしさ」
「わかった。説明してやる」
急にキリッとした表情になったおっさんは、プラボックスのコーヒーを取り出した。
こうして、ローンズのおっさんから説明をしてもらったわけだが、色々面倒臭い状態らしい。
まず、手続きが面倒になった原因である、ロセロ伯爵側を裏切り、男爵夫人側についた連中に関してだが、
『傭兵の戦場での行動は、ギルドは関知しない。
両方から依頼を受け、どちらにも傭兵を派遣したのだから問題はない。
傭兵が裏切ったのは、依頼主の責任』
という、あまりにも身勝手な理屈を掲げ、依頼主からの抗議は受け付けないことになっているらしい。
もちろん抗議が来ないわけではないけど。
さらには、
『敵陣に忍び込んで行動して、味方を勝利に導く潜入工作も立派な戦術。
しかし傭兵としては、最初の依頼人を裏切る形になるので、昇級のためのポイントは半減。
報酬は裏切ってついた方からもらう事』
という、ギルドからはポイント半減以外のペナルティは一切ないのである。
しかし、傭兵達からはかなり白い眼で見られる事になるし、指名依頼などをされる場合の判断材料にはなるため、依頼主からの裏切り行為なんかがないかぎり、実行する傭兵はまずいない。
今回の状況が異常なのだそうだ。
そのため、伯爵側から離反し、グリエント男爵夫人側についた連中は、かなり肩身が狭そうにしていた。
最初からグリエント男爵夫人側にいた連中は一切問題はないが、エリザリア・グリエント男爵夫人が、レジスタンスに捕らえられ、彼等が実権を握ったために、報酬が消滅してしまった。
本来は最初に依頼を受けた人達の分だけでも報酬をギルドに預けておくのだけれど、男爵夫人はしていなかったらしい。
しかし、あの迎撃部隊の人達が、
「彼等は依頼を受けただけなのだから、さすがにそれは可哀想だ」と訴えたため、
男爵夫人のせいで色々と破綻・不足しているところからの、一律50万クレジットという報酬をひねり出してくれたらしい。
最初の提示額が500万クレジットだったことを考えると、10分の1になってしまったことになる。
対して、ロセロ伯爵についた側の報酬は、基本の 300万クレジットに加え、参戦した全員に50万クレジットのボーナスがでて、合計350万クレジットになった。
さらにこっそり聞いてみたところ、イキリ君ことロスヴァイゼさんには、さらにもう50万クレジット、合計400万クレジットが入るらしい。
そして、戦死した者達に対しては、家族・恋人・遺言書において指定されている人物に、今回の報酬、本人の所持していたものの全てを引き渡す。
もしくは遺言書に書かれているとおりに処理をする。
同時にギルドからは慰労金がでる(額は様々)。
という処理が、ついた陣営に関係なく実行され、葬儀は遺族が行う。
遺族がいない上に、遺言書もなかった場合は、報酬や所持品はギルドが接収。
葬儀は無しで書類上の処理だけ行われる。
そのため、ほとんどの傭兵が遺言書を書き、ギルドに納めている。
そしてあのプリリエラ姉弟だが、
弟のユーリィ・プリリエラは、僕を殴った事以外は、清廉潔白なため、おとがめはなかった。
しかし姉のファディルナ・プリリエラは、ギルドの幹部職員を誘惑・懐柔して、昇格試験を受けずに
それ以外にも、様々なことをやらかしていたらしく、ギルドに戻ったところを逮捕しようとしたが、駐艇場の船を一部破壊して障害物にし、ギルドの船を盗んで、まんまと逃げおおせたらしい。
ちなみに弟のユーリィ・プリリエラは、船を破壊された上に、それが原因で周りから白い眼で見られる事になってしまった。
どうやら姉の不正は知らなかったらしい。
ちなみに男爵夫人は近日には処刑されるらしいが、中央はなんにもいってこないらしい。
なんでも、男爵夫人が何人も旦那を取っ換え引っ換えしているため、金目当ての結婚をしたのちに旦那を殺害したのだろうと判断して、犯罪者扱いになったそうだ。
多分被害者がいっぱいいたんだろうな…。
あとは、ロセロ伯爵を味方にしておこうって考えたんだろう。
ちなみに男爵側にいた、犯罪者や海賊は、そのまま捕縛され、警察につき出された。
「とまあ、こんなとこだな」
ローンズのおっさんは、プラボックスのコーヒーを飲み干すと、盛大にゲップをした。
ついでに気になった事を聞いてみることにした。
「そういえばさ、雀蜂のエンブレムつけてる海賊なり傭兵団なりを知らないかな?」
「
「そっか、あれだけ凄い海賊なり傭兵団なら名前が売れてると思ったんだけどな」
なんとなくなんだけど、ロセロ伯爵を撃破するつもりがなかったように思うんだよね。
だって、あれだけの強さがあるなら、迎撃部隊と一緒に初めから攻勢をかけ、造反部隊とタイミングを合わせれば、ロスヴァイゼさんが援軍に行くまでに本隊を制圧できたはずだからだ。
まあ、これ以上は考えても仕方がない。
報酬をいつものように処理して、『アニメンバー』に新刊でも探しにいく事にするお。
別サイド:UNKNOWN
某所。
「申し訳ございません!」
広い空間に声が響く。
その声は若く、悔しさが滲み出ていた。
「謝る必要はない。お前はあの薄茶色の機体の足止めに成功しておるのだからな」
若い声に対し、野太い声が若い声の功績を称える。
「しかし、せっかくの機体を損傷させてしまいました…」
「機体は所詮消耗品。パイロットが生きて帰る方が重要だ」
野太い声は、近くにあった酒の入ったグラスを取り、琥珀色の液体を喉に流し込む。
「それにしても、あの『羽兜』といい薄茶色といい、在野にはまだまだ強者は多いな」
野太い声は、実に楽しそうに、猛獣のような笑みを浮かべる。
「兄上。あの薄茶色の機体は、グリエント男爵領の精鋭からは『
そこに、また別の声が響く。
「『
その言葉に、若い声は悔しそうな声をだす。
その様子に、野太い声は諭すように話しかける。
「雪辱は果たしたいだろうが、我々の目的はエリザリア・グリエント男爵夫人の失脚。
それを達成してからの、ロセロ伯爵家との友誼。
その後の勢力拡大が目的だ。
それに、敗北したのはお前の未熟であり、相手が上手であったからだ。
恨むのではなく、相手を師と思い、己を精進することだ」
「はいっ!」
野太い声の言葉に、若い声は身を引き締めた。
別サイド:終了
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