モブNo.20:「そのあたりをちゃんと調べるのも傭兵だ。違うか?」
僕が登録すると、ちょうど締め切り時間になり、その時には周りの傭兵達は、現場に行くために、大半が既にロビーを離れていた。
ありがたい事にプリリエラ姉弟の姿もなかった。
その事にほっとしている僕に、ローンズのおっちゃんが声をかけてきた。
「あの姉弟が頑張ってた割には、伯爵側が多かったな。しっかりした判断をするやつがいてよかったぜ」
「もしかして、色々情報知ってたの?」
「そのあたりをちゃんと調べるのも傭兵だ。違うか?」
「たしかにごもっとも…」
依頼をだすほうが、それぐらい調べてあるはずだよな。
ずいぶん意地の悪い事だが、これも傭兵の意思を尊重し、ギルドが中立を保つためのやり方なのだろう。
まあ、それでも情報屋(友人と老婆の所)にいっただろうけど。
ともかく、手続きも終わり、準備も終わっているのだから、早速
今回の戦闘宙域であるナガン宙域は、ロセロ伯爵領とグリエント男爵領があるちょうど中間だ。
現在は敵勢力は確認できず、チェックや燃料補給を受けている状態だ。
その伯爵家の陣営には、彼=正確にはロスヴァイゼさん。の活躍を聞いた傭兵や伯爵の私兵達が、オープン回線でイキリ君こと、ランベルト・リアグラズ君をヒーロー扱いしていた。
ちなみに階級は
本当なら彼の方から船を降りていてもおかしくはなさそうなのだが、
「私に相応しい方が見つかるまでは、あれに
気絶したら超覚醒してるんですよ~凄いですね~って言っておだててるんです。
失禁は初回以外はしていませんしね」
というロスヴァイゼさんの言葉に乗せられているため、いまだに船を降りていないという状態だ。
つまりは操り人形みたいなものじゃないか、おっかないなあ。
「そう言えば、
僕はこっそりと、プリリエラ姉弟の事を聞いてみた。
見た目や能力なら、ロスヴァイゼさんの希望にそうはずだ。
するとロスヴァイゼさんは明らかに不快な表情になった。
『だめですよ、あんな女尊男卑の権化。多分あの女の周りはシンパみたいなのしか居ません。あんなのには関わらない方がいいですよ。
弟はフェミニストにも程があるし、自己中心的すぎます!
私にふさわしいのは能力と人格を兼ね備えた人物じゃないと』
最後の部分以外は同感かな。
多分2人とも、間違い無く向こうにいるだろうしね。
出くわさないといいなあ…。
そこに、オープン回線で、モニターに小太りの中年男性の姿が現れた。
『あー、今回の
私が君達の領主であり、雇い主のトラダム・ロセロだ。伯爵の地位をいただいている。
皆も知っていると思うが、この戦の原因は1枚の油絵だ。
元々は私の屋敷にあったものだが、それを何者かに盗まれた。
それをあのグリエント男爵夫人がたまたま手に入れたのであれば、買った時の同額、もしくは割り増しで買い取るつもりだった。
もしくは、これは国立美術館に寄付するべきだと言うなら、それでもよかった。
または、純粋にその絵を気に入って購入したというなら、なにかしら落としどころがあったはずだ。
しかしそれを、初めから当家にあった物だと主張し、さらには
ならば古ぼけた油絵の1枚などくれてやるといったら、疑いをかけたのだから、名誉のために絶対に引かない。
さらには、疑った詫びに領地を含めた全てを寄越せといってきた。
男爵夫人には良くない噂もある。
それだけは許すわけにはいかない!
将兵・傭兵の諸君。我が領民のため、全力を尽くして欲しい!諸君らの活躍と生還を期待する!』
見た目はたしかに、僕同様に女性にはもてない感じだ。
しかし、戦争を回避しようとしたり、傭兵にも生還を希望するなど、どうやら評判は間違っていなかったらしい。
そうして、伯爵の私兵の司令官らしい人物から、配置の指示と、指揮系統の確認の終了ののち、全軍に前進の指示が出る。
こうして、一枚の油絵から始まった
男爵夫人サイド:第三者視点
惑星ヤビョンにある、グリエント男爵の屋敷。
その一室に、グリエント男爵夫人こと、エリザリア・グリエントはいた。
執務用の椅子に、きちんと足を揃えて浅く座り、背筋をしっかりと伸ばしている。
そしてその心配そうな表情は、貞淑な男爵夫人の見本のようだった。
そして夫人、は
「本当に大丈夫なんですか?」
『はい。か弱い女性から国宝を取り上げようとする邪悪な伯爵軍など、恐れるものではないわ!』
「そうですか…では、お願いしますね」
『おまかせください!』
男爵夫人は申し訳なさそうに頭を下げ、プリリエラは自信満々に返事をした。
そうして会話が終わると、男爵夫人は頭を上げ、
すると今までの落ち着いた様子から、ガラリと雰囲気がかわった。
執務用の椅子から立ち上がると、豪奢なソファーにどっかりと座って足を組み、肘掛けに寄りかかる。
「本当にああいう単純なのは扱い易いわね。
ヒロイン気取りだから、こちらがしおらしく見せれば簡単に勘違いしてくれるし。
このまま、あの油絵だけじゃなく領地もいただけば、もっともっと贅沢が出来るわね。
いままでいただいた財産も目減りしてきちゃったし、やっぱり早い内に惑星を封鎖して、領民が他の星に逃げられないようにすればよかったわ…」
さっきまでの姿は欠片もなく、傲慢で軽薄な本来の姿を表した。
「ワインをお持ちしました」
そこにメイドが現れ、手を差し出してそのまま指を閉じればいいだけの位置に、トレイに乗せられた、赤ワインが入ったグラスが用意される。
男爵夫人はグラスを手に持って中身を見ると、トレイを持っていたメイドにワイングラスを投げつけた。
ワイングラスは割れ、メイドは頬から血が流れ、服はワインまみれになった。
「誰が赤を持ってこいって言ったのよ!」
「しかし、先ほどは赤を用意しろと…」
「気が変わったのよ!そんなことも分からないなんて、本当にクズね!」
「申し訳御座いません…」
メイドはただただ頭を下げて謝罪をする。
ここでこれ以上言い訳をすれば、私兵という役職のチンピラに、なにをされるか分からないからだ。
男爵夫人はそれを理解しているのか、優越感に満ちた笑みを浮かべていた。
「私は少し休むわ。その間にカーペットを新しいのに張り替えておきなさい。貴女1人でね」
「はい…」
男爵夫人は、力無く返事をするメイドをせせらわらいながら、名ばかりの執務室を後にし、
「(後数時間もすれば、あの裕福な伯爵領が手に入るのね!本当に楽しみだわ!新しい宝石に毛皮にコスメに…。そうだわ!
住民は全員売り飛ばして小銭にしておけばいいわね」)
寝室に向かいながら、いずれ手に入る
男爵夫人サイド:終了
まだ戦闘が開始されない事実…
男爵夫人はモデルがいるのは内緒です
ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします