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モブNo.18:「これは間違いなくロセロ伯爵側の言いがかりよ!か弱い女性から国宝を奪おうとする悪のロセロ伯爵に正義の鉄槌を!」

ゲート警備の仕事から帰ってきてからは、まずは部屋の中や身の回りを整えた。

掃除に洗濯にゴミ出し。

部屋の換気に消耗品の補充など様々だ。

それが終了したらネットの閲覧だ。

動画に趣味の同志とのチャットなど、たっぷりと楽しんだ。

翌日は『アニメンバー』に行っての新刊購入からの古本屋巡りと、充実した休日を過ごすことができた。


そして、ゲート警備の仕事から帰ってきて3日目。

仕事を受けるべく傭兵ギルドにやってきたのだが、妙にざわついていた。

僕はローンズのおっちゃんの姿を見つけると、まっすぐそこに向かった。

「なんかあったの?」

「貴族同士の利権戦争(もめごと)だ」

「ああ…。理由はなんなん?」

ローンズのおっちゃんが、ため息混じりに話してくれた情報をまとめると、


◯対立しているのはロセロ家とグリエント家

利権戦争(もめごと)の原因は、少し前に人間国宝に指定された絵師の油絵

◯絵師は先月他界

◯ロセロ家は伯爵で、当主は小太りのおっさん

◯グリエント家は男爵で、当主は夫に先立たれた美しき男爵夫人

◯どちらも、これは作者が若い頃に、当家の先代当主に厄介になった時に、お礼としておいていったもの。書き付けもあると主張

◯絵画の本体はグリエント家が所有

◯ロセロ家は盗まれたと主張


「これはロセロ伯爵は不利っぽいね。見た目的に」

「明らかに爵位を笠に着て取り上げようって構図にしか見えんな」

ヒーロー君なら迷う事無く男爵側だな。

ちなみに、傭兵ギルドはこういった場合、依頼があったらどちらからの依頼も受け、傭兵達自身に、受けるか受けないか、受けるならどちらに付くかを決めさせる。

これは、傭兵ギルドがどちらか一方について、恨まれるのを防ぎ、中立を保つシステムだ。

『ギルドはちゃんと依頼を出しましたよ。恨むなら、依頼を受けなかったり、そっちに付かなかった傭兵達を恨んで下さいね』

ということだ。

さらに、傭兵同士の戦闘は、死んでも恨みっこなしが当たり前だ。

なので、仲のよい傭兵同士は同じ陣営につく事が多い。

ちなみに傭兵ギルドの規定の一つに、

『傭兵ギルドの傭兵は、1年の間に最低4回は、確実に戦闘が伴う(勢力同士の武力衝突・海賊退治など)依頼を受けなければならない。

突発的に発生した場合も換算する。

ただし、確実に戦闘が伴う依頼(勢力同士の武力衝突・海賊退治など)・突発的な戦闘が発生しなかった場合はこの限りではない』

というのがある。

その規定でいうと、僕はもう受けなくて良いのだが、大きな海賊団が立て続けに壊滅したことで、海賊の活動が減少し、海賊退治や護衛の依頼が減少している。また海賊達が活発になるまでなにもしないわけにもいかないので、どちらかというと受けるつもりだ。

貴族同士の利権戦争(もめごと)は、現在の状況から考えると、なかなか無くならないだろうしね。

とはいえどちらを受けるにしても、情報が足りない。

期限に余裕があるなら、返答は保留しようと考えていると、向こうから大声が聞こえてきた。

声の主は、黄緑の髪に白い肌の女性で、軍服のような服を身につけていた。

「これは間違いなくロセロ伯爵側の言いがかりよ!か弱い女性から国宝を奪おうとする悪のロセロ伯爵に正義の鉄槌を!」

そしてその主張は、明らかにロセロ伯爵を悪と決めつけていた。

まあ、分からなくはない。

僕もローンズのおっちゃんも、その可能性を考えたからね。

確かに構図的にはそうだけど、情報はちゃんと集め…てないよなあれは。

それに、雰囲気がまるでヒーロー君の女バージョンにしか見えない。

その僕の疑問に、ローンズのおっちゃんが答えてくれた。

「あいつは、この前司教(ビショップ)階級(ランク)になったファディルナ・プリリエラってやつだ。前にお前ぶん殴ったのがいたろ?あれの姉だ」

「げえっ!」

マジで?最悪じゃんか!

しかも依頼先の下調べもしてなさそうなのに、司教(ビショップ)階級(ランク)になってるってヤバすぎ。

絶対に関わらないようにしよう。

あ、ちなみにヒーロー君は、ユーリィ・プリリエラという名前らしい。

「この依頼って締め切りまでの期日はまだあるん?」

「ああ。5日後まで大丈夫だ」

「じゃあ、色々調べてからにするよ」

こういう戦闘は、普通は開始までは秒読みな感じで

慌ただしいものなのだけれど、貴族同士の利権戦争(もめごと)は決闘の意味合いが強く、日にちと時間を決め、両軍が揃ったところで、いざ尋常に!という感じで開戦する。

だからこそ、悠長にしていられる。

以前のバッカホア伯爵とジーマス男爵の時もそうだった。

もちろん事前工作をするのもいるし、卑怯な手段を行使する連中もいるので、油断は禁物だけど。


僕は傭兵ギルドを出たその足で、闇市商店街に向かった。

依頼を受けるか受けないか判断するための判断材料を得るためだ。

それにしても、ここは相変わらず怪しい雰囲気が満載だ。

あの肉屋さんらしい店の(のぼり)に書いてる『煮え(たぎ)油泥(ゆでい)から産まれし、辛酸たる暗黒の黄金』ってなに?!

他にも色々な怪しい看板なんかを見ながら、目当ての店『パットソン調剤薬局』に到着した。

店内は、相変わらず木と土と草の匂いが充満し、カウンターには袋に入った飴がならんでいた。

「いらっしゃい。…なんだ、お前かよ」

以前にきた時と同様に、火の着いていないタバコをくわえ、新聞を読みながら、やる気のない表情を向けてきた。

「お前…前もその挨拶だったよな…」

「うるせえ。で、今日は噂話でも聞きにきたのか?」

タイムスパンが短いのもあって、飴が目的ではないのは察していたらしい。

「ああ。貴族のロセロ伯爵家とグリエント男爵家の評判とか聞いてないか?」

俺の質問に、ゴンザレスはクイッと眼鏡を上げる。

「2時間かな。その辺ぶらついてきていいぞ」

どうやら情報は比較的手に入りやすいようだ。

入手が難しいなら日を跨ぐ事があるからだ。

「ここでラノベでも読んでるよ」

僕は店の中にある、待ち合い用の椅子に座り、ラノベをとりだした。

「じゃあ客きたら教えてくれ」

それだけいうと、ゴンザレスは首の辺りで縛っている髪を前にもってきて首の後ろを露にし、そこにあるコネクターを開け、そこにPCにつながっているコードを差し込み、最初の姿勢になると、ピクリとも動かなくなった。

おそらく、電脳空間に侵入(ダイブ)し、情報を集め始めたのだろう。

それからはお客が来ることは無く、2時間が経過した。

その結果わかった事は、


◯ロセロ伯爵は見た目はあんなのだが、善政をしき、領民に慕われているらしい。

◯税金も真っ当で人柄も温厚。仕事も真面目にこなしている。

◯小太りなのは体質と甘い物が好きなせいらしい。

◯女性にはモテないそうでいまだに独身。

◯向こうからの宣戦布告があり、仕方なく準備を始めたらしい。

◯グリエント男爵夫人は、美人でスタイルもよいが、実年齢は不明

◯贅沢が好きで、自分の好きなブランドを購入するために税金を高くしている。そのため領民の評判も悪い。

◯そのため、他の星に移住するもの達が増えているらしい。

◯男爵と結婚する前に、3人の夫と死別している。

◯男爵は結婚の翌年に病死している。

◯私兵の戦力的には互角


というものだった。

これ確実にグリエント男爵夫人はアウトだろ!

もちろん、ロセロ伯爵が流した偽情報という場合もある。

「なあ。随分簡単に集まった見たいだけど、信憑性ってどうなんだ?」

「ロセロ伯爵の方は、数は少ないが、住民の情報発信はにたようなもんだ。平和だから書くことがないって感じ。街頭カメラから街中覗いてみたけど平和そのものだった。…んっ…!」

ゴンザレスはそう答えながら、変に艶っぽい声を出しながら、うなじからコードを引き抜く。

「グリエント男爵夫人の方は、罵詈雑言に誹謗中傷の雨あられだ。街中もロクに人がいないし、居ても暗い表情しかしてなかったな」

髪を後ろに戻し、再度縛り直してからコードをしまうと、後ろの棚の下にある小さな冷蔵庫からプラボトルの炭酸飲料を取り出した。

なぜ全身が機械のゴンザレスが食事をするのか?

その理由は、人間の本能に関係している。

機械の身体を動かすためには、外部からの蓄電池(バッテリー)への充填でいい。

脳に関しても、特殊な栄養液を月1回のペースで注入すれば事足りるが、食事をしないというのはかなりのストレスになる。

そのため全身儀体には、食事を消化し、脳のための栄養液を生成する機能を搭載することが絶対となっている。

もちろん、外部からの特殊な栄養液の注入も可能だ。

だが、身体は蓄電池(バッテリー)を使用しなければ動かないので注意が必要だ。

ちなみにバイオ体・クローン体の場合は普通の食べ物だけで両方ともOKらしい。

「俺の個人的な意見としては、グリエント男爵領には住みたくないな」

その、炭酸飲料を飲みながら、ゴンザレスはふうとため息をついた。


その情報を聞き、色々考えた結果、ロセロ伯爵の方を受ける事にした。


グリエント男爵夫人は絶対にヤバイだろうからね。

小規模ですが戦争への参加です


ご意見・ご感想・誤字報告よろしくお願いいたします


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