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モブNo.16:「私はもう貴方の従者ではありません。貴方の御父上の子爵様に御願いし、貴方の従者を止めさせて貰いました」

今回、モブ(ジョン)の出番は極少です

ですが、これぞモブの真髄です!

ゲート管理コロニーに帰ってまずやることは、燃料と弾薬の補給・各部のチェック。

その時に破損箇所があった場合、自分で直せるか、それともドックに入れた方がいいか判断する。

それが終わったら、記録装置(レコーダー)提出による戦果(ウォーリザルト)のチェックだ。

これをやっておかないと報酬が貰えなくなるので、きちんと報告しておくのがいい傭兵だ。

ありがたいことに、いまから交換作業終了までの約4時間の警備は、第7艦隊が代わってくれるらしいので、補給・チェック・提出が終わったらゆっくりしよう。

と、思っていたのだけど、傭兵ギルドから、今回の戦闘に対する論功行賞を行うので、コロニーにあるホールに集まるようにとの指示があった。


ホールには今回参加した傭兵だけではなく、管理コロニーの職員達や、救援にきた傭兵達、この場に居合わせた『クリスタルウィード』の人達、部下を数人引き連れた第7艦隊の(サラマス・トー)偉いさん(ンチード准将)までが集まっていた。

並べられている椅子に座っていると、ゲート管理の責任者をはじめとした数人が壇上にあがり、

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。これより今回の突発的な海賊団の襲撃に対して、尽力頂いた皆様に、厚く御礼を申し上げます」

ゲート管理の責任者が、僕達に対してお礼をいってきた。

すると次に、眼鏡にスーツのイケオジが前にでてきた。

「どうも。傭兵ギルド・カッザク支部・支部長のウォルバレイともうします。今回の皆様の働きに対して、傭兵ギルド全体から特別手当てが支給されます。そのなかでも一番活躍した人物に対しては、特別賞と感謝状を贈呈いたします」

ギルドマスターのウォルバレイさんがそう言った瞬間、俺様君が自信満々に立ち上がった。

しかしギルドマスターのウォルバレイさんは、

「スクーナ・ノスワイルさん。前にどうぞ」

と、発表した。

そしてノスワイルさんが、壇上にあがると、

「貴女は傭兵でないにもかかわらず出撃し、そのなかでもトップの撃墜数(スコア)記録(レコード)しています。その功績に対し、特別賞与と感謝状を贈答いたします。どうぞお受け取りを」

「あ、ありがとうございます」

ノスワイルさんが特別賞与と感謝状を受けとると、万雷の拍手が鳴り響いた。

しかしその光景に異を唱える奴がいた。

「おい待て!おかしいだろう?!どうしてそいつがエースなんだよ!?」

そう、俺様君だ。

どうやら自分がエースではなかったことに納得が行かないらしい。

「君ですか…なぜ君は、自分がエースだと思うのです?」

いきり立つ俺様君とは対照的に、ウォルバレイさんは冷静だった。

「俺が一番撃墜数(スコア)を稼いでいるからだ!」

俺様君がそう主張すると、ウォルバレイさんは汎用端末(ツール)を開き、俺様君の撃墜数(スコア)を発表する。

「君の撃墜数(スコア)は、無人機89機・小型艇77機ですね」

「見ろ!間違いなくエースだろうが!」

俺様君はドヤ顔を浮かべる。

「対してスクーナ・ノスワイルさんの撃墜数(スコア)は無人機182機・小型艇146機・中型戦闘艇(駆逐艦)2隻・大型戦闘艇(巡洋艦)4隻。

無人機・小型艇は君の撃墜数(スコア)の倍。

その上、中型戦闘艇(駆逐艦)2隻・大型戦闘艇(巡洋艦)も撃沈させています。確実に君より撃墜数(スコア)は上ですね」

しかし、ウォルバレイさんが発表したノスワイルさんの撃墜数(スコア)は桁が違っていた。

「嘘だ!」

俺様君は間髪を容れずにその事実を否定する。

「残念ですが真実です。記録装置(レコーダー)は事実しか記録しません」

「違う!なにか細工したんだ!」

「それに、君には海賊団をここに誘導したという事実があります。そのことについての追求があることもわかっているのでしょうね?」

「それは俺の責任じゃねえ!」

ウォルバレイさんの指摘に、彼は怒鳴り返すことしか出来ないでいる。

ウォルバレイさんは汎用端末(ツール)をしまうと、俺様君に視線をむける。

「傭兵ギルドの限定ルールのひとつに、

『グリムリープ海賊団を発見した場合、本拠地(アジト)発見のためにむやみに攻撃をしないで尾行・もしくは報告。ただし、攻撃を受けたり・略奪現場に遭遇した場合はその限りではない』というものがあります。

君はこれを無視してグリムリープ海賊団を攻撃した。

襲われたとか、略奪現場だったというのは通用しませんよ?

斥候部隊を発見・尾行していた傭兵達が、貴方の行動を記録していましたからね」

ギルドマスターのウォルバレイさんは、俺様君の戯れ言を無視し、事実を淡々とつきつける。

「だとしても壊滅できたじゃねーか!」

「それは結果論です。もし負けていた場合、現場にいた傭兵、コロニー関係者、たまたま居合わせた『クリスタルウィード』の皆さん全員の命と、このゲートの安定盤が奪われていたでしょう。部品をバラしてしまえば、色々なところに売ることができます。しかしそれよりも、警備の仕事を請け負い、待機休憩時のコロニー外への外出不可という規約があったにもかかわらず、勝手に海賊探しに出ていったことが問題なのです。以上のことから貴方には多大なペナルティが科されることになります」

ウォルバレイさんの言葉に、俺様君は歯ぎしりをしていたが、横にいた自分のパートナー(召し使い)が黙っているのに気がついた。

なので、自分の擁護をするようにうながす(命令する)が、

「くそっ!ふざけんな!おいフィノ!お前も何か反論しろよ!」

「嫌よ。なんで私が無関係のあんたをかばわないといけないのよ?」

返ってきたのは、冷たい視線と、吐き捨てるような言葉だった。

「はあ?なにいってんだお前?お前は俺の従者だろうが!」

俺様君がはっきりと言いはなった。

身分を考えろと言いたいのだろう。

「私はもう貴方の従者ではありません。貴方の御父上の子爵様に御願いし、貴方の従者を辞めさせて貰いました」

しかしフィノ嬢は態度を変えず、すごく慇懃無礼に事実を突きつけた。

「使用人が主人に逆らうのか?!」

「正確には私の主人は貴方の御父上の子爵様で貴方ではありません。貴方の今までの所業を事細かに伝えてきましたからね、子爵様も快く私のお願いを聞いてくださいました」

「だとしてもお前も傭兵だ!ペナルティは科せられるだろ?お前が代わりになんとかしろ!」

「私はもう傭兵ではありませんから、そんな義務はありませんよ?そもそも私は規約違反をしてないもの」

「はあ?俺はお前と組んでるんだ!その場合、お前にだってペナルティがいくだろうが!」

なんとしても、フィノ嬢に全てのペナルティを押し付けようとする俺様君の言動に、周りの傭兵達の眼に怒りが(とも)り始めた。特に女性に。

その怒りが爆発する直前に、ウォルバレイさんが話に割り込んだ。

「たしかにその通りです。ですが、ペナルティがあるのは君だけなんですよ?」

「なに?」

そのウォルバレイさんの言葉に、全員が困惑した。

「まず、規約違反をしてコロニーから出ていったのは君の独断で、彼女は置いてけぼりだった。

そして君が海賊を探している時、次のシフトの時間が来てしまいました。

しかし宇宙船が無いために警備の仕事はできない。

しかし、最初のシフトでは彼女はきちんと船に乗っていました。彼女が持ち主として登録されている船に。

おそらく君が、様々な面倒くさい手続きを彼女にまかせるために、彼女を登録者にしたんでしょう。

そのため彼女は、所有者ではない何者かに船を盗まれたという形になります。

しかし盗んだのが一緒に組んで仕事をしている君であったために、ペナルティは科される事になります。

そのため彼女は、請け負った警備の仕事を行おうと、シフトの違う傭兵に船を貸してくれと、御願いしにいきました。

しかし残念ながら貸してはもらえなかった。

なので彼女は、自ら無償でデブリ除去の作業に従事することにしました。

デブリ除去は神経を使う仕事です。

宇宙服で宇宙空間にでる危険な作業ですからね。

その時給は1万クレジット。1時間5千クレジットの警備の倍です。この作業を無報酬で行ったのです。

その色々な事を踏まえて、傭兵ギルド・カッザク支部は、フィノ・フォルデップ嬢へ科されたペナルティは遂行されたと判断しました」

ウォルバレイさんはフィノ嬢に視線をむけ、軽く笑みを浮かべる。

「対して君は、勝手に職場を放棄し、仲間とはいえ他人名義の船を盗み、大勢の人間を危険な目にあわせました。しっかりとペナルティは受けていただきますよ」

ウォルバレイさんがそう言った瞬間に、俺様君はギルド職員に取り押さえられた。

しかしそれよりも、俺様君の怒りは、フィノ嬢が自分から離れることに向けられていた。

「ふざけんなフィノ!俺から離れて、お前になにができるんだよ!」

「私、『クリスタルウィード』にメカニックとしてスカウトされたの」

フィノ嬢は、『クリスタルウィード』のメンバーのところに移動する。

その表情は本当に嬉しそうだった。

「はあ?だったら俺も一緒だろうが!」

俺様君は、また謎ワードを口にした。

スカウトされたのはフィノ嬢で、君じゃないでしょうが。

すると、ノスワイルさんが俺様君の前に立ち、

「悪いけど、私達『クリスタルヴィード』には、貴方みたいな傍若無人で、チームワークも出来ないような人はいらないわ」

そう言い放った。

もちろんそれに納得いかない俺様君は、()()()爵位を持ち出す。

「ざけんな!俺は子爵令息「そうそう、君の御父上からは、『あれはもううちの人間ではないから、我が家の家名を出しても無視してくれ』と、お墨付きをいただきました」

が、それは既に通用しなかった。

「そんな…嘘だ…嘘だ!」

職員に引きずられていく俺様君の顔に、おそらく初めての絶望が浮かんでいた。

「大変失礼いたしました。さて皆様ご存知だと思いますが、これから交換作業終了までの約4時間の警備は、残骸の撤去も含めて、軍の第7艦隊が請け負ってくれます。あとは依頼の終了まで、身体を休めてくださいね」

ウォルバレイさんは、笑顔でそう言いながら、その場を締めくくった。


ともあれこうして、色々あったゲート護衛の仕事は、終了に近づいていた。

俺様君=フィディク・ルトンダン君が主人公だと思っていたのですが、

実際には女の子=フィノ・フォルデップ嬢のほうが主人公でした。


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