モブNo.13:「私のチームにスタッフとして来てくれないかな?」
管理コロニーに連絡したあとは、直ぐに作業に戻ったために、どんな話し合いが行われたかはしらないが、彼らは管理コロニーにとどまることになったらしい。
どうやら迂回路は時間がかかるようだ。
そのうちに仕事が終了し、僕もコロニーに戻ってきた。
もちろんコロニーはかなり浮き足だっていた。
なにしろ帝国内でも屈指の人気レーシングチームが居るのだから当然だ。
その理由として、スクーナ・ノスワイル以外にもチームのパイロット達が、美形や美人で固められているからだ。
もちろん見た目だけではなく、実力も十分に備わっている。
人気がでないわけがない。
まあ僕は興味がないし、関わりたくもないので、早々に風呂に行き、食事を済ませることにした。
風呂も食事も終わり、
「はあ?なんで俺達が無報酬な上に、宿泊費と飲み食いと燃料の支払いをしないといけない上に、帰りのチケットの返却までしないといけないんだよ?!」
「君は、待機休憩時のコロニー外への外出不可を破り、2回目のシフトの護衛の仕事を行わなかった。つまり君は仕事を放棄したということなのだから当然の処置だ。置いていかれた彼女の事を考慮し、罰金を課さなかっただけ恩情と思いたまえ!」
どうやらあの俺様君が戻ってきたらしく、さっそくお叱りを受けているらしい。
まあ、彼に反省の色は全く見えないけど。
「そのフィノの奴がいたじゃねえか!警備につくぐらい出来ただろ!」
フィノっていうのは、あの置き去りにされた女の子のことだろう。
「君が船を持っていったせいで彼女は警備の仕事ができなかった。なんとか仕事を遂行しようと、休憩中の人に船を借りようとしていたようだけど、貸してはもらえなかった様だ」
「はあ?だったら貸さなかったそいつらのせいじゃねえか!」
おいおい…とんでも理論ぶちまけてるぞあの俺様君。
「それになんの緊急事態もなかったんだから別に問題ねえだろうが!」
『警備というのは、何にも無かったとしてもその場に居ることが大事なんだ!』
俺様君は納得がいってないみたいだが、どうやらここの職員と、モニター向こうの傭兵ギルドの職員に、容赦なく責め立てられているようだ。
何しろ向こうは当たり前の正論しか言ってない。
俺様君は自業自得なため分が悪い。
しかしそこに、意外な一言が上がった。
「くそっ!俺は子爵令息だぞ!」
どうやら俺様君は帝国貴族だったらしく、それを盾に押しきろうと考えたようだ。
もしかして、あのフィノって女の子は使用人なのかな?
『残念ですがそんなものは通用しませんよ?貴方が傭兵として契約するときに、ご実家からは縁を切ってもらっていますからね』
しかし、傭兵ギルドの職員はその盾を冷徹に切り捨てた。
「俺は子爵令息なのに…」
俺様君は納得していないようで、恨みがましい声をあげている。
そこに、別人の声が聞こえてきた。
「貴族なんて所詮あんなものよね…。自分がしでかしたのに責任を取るつもりが全く無い…」
それは、出来る事なら会いたくなかった、あの事件の生き残り。
プラネットレースのチーム『クリスタルウィード』のエースパイロット、スクーナ・ノスワイル嬢だった。
「久し振りね。ウーゾスくん」
「お久し振りですね。ノスワイルさん」
ショートにした藍色の髪に180㎝という長身。
女性らしいボディラインを誇りつつも、イケメンの雰囲気が漂う整った顔立ち。
ファンクラブの会員はその80%が女性で、その人気は下手なアイドルよりすごい。
はっきりいって、僕とは別次元の住人だ。
その彼女の口から
「ちょっと時間ある?」
という言葉がでた時には、どんなドッキリか嫌がらせだと、本気で思ってしまった。
それから僕とノスワイルさんは、建物の外にある庭に向かった。
建物の外の一部は、樹木や芝生が植えられ、噴水もあるリラックス空間になっている。
昼寝?やおしゃべりをしている女性の職員さんなんかもいたりしている。
その隅にあるベンチに向かうと、彼女が立ち止まったので思わず声をかけた。
「それで、どの様な御用件ですか?」
その質問に対して、
「なんで敬語なの?」
彼女は質問で返してきた。
その質問に対する答えは一つしかない。
身の安全の為だお!
あんたに砕けた口調なんかで話しかけたら、ファンに殺されるかもしれないからね!
「癖なので気にしないで下さい。それで御用件は?」
彼女はちょっと納得いってないようだったが、要件を話し始めた。
「君のお父さんって、君が高3の時に脱サラして、そのせいで君は大学に行けなくなって、そのために君は傭兵になったんだよね?」
「はい。そうですが?」
「お父さん、本当は脱サラしたわけじゃないよね?貴族の上司のミスを
僕は軽くため息をついた。
まあちょっと調べれは分かるし、なんなら調べなくても推理するのも簡単だ。
だが問題は、なぜ彼女がその事を調べたのかということだ。
「それが事実だとしても、うちの父には良いことでしたね。やめる前はかなり疲れた顔をしてたし。今は故郷で健康に過ごしてますよ」
事実、会社を辞める前の父さんは、かなりギリギリの表情をしていたが、会社をクビになり、生まれ故郷に帰ってからは、憑き物が落ちたように穏やかな表情になっていた。
「悔しくはない?」
「絶対に悔しくないと言えば嘘になりますかね。でも今更です。借金は利息ふくめて完済間近。その金融機関もまともな所なので問題はありません。何より両親が、サラリーマン時代と比べて楽しそうですからね」
「貴方自身はどうなの?大学にも行けず、命懸けの傭兵しか選べなかったんでしょう?」
彼女はやけに突っ込んだ、煽るような質問をしてくる。
なのでちょっと反撃をしてみた。
「今では天職だと思っていますよ。煩わしい人間関係を考えなくて良いし、自分の成果を正しく評価してくれますしね。そういう貴女はどうなんですか?」
「レースは楽しいわ。でも、レセプションやパーティーは嫌い。頭の悪そうな貴族の息子が群がってくるから」
「レースの妨害もあるしって所ですか?」
「ええ。そんなとこ」
しかし彼女は、表情を変えることなく、しかし不快そうに、質問に答えてくれた。
なので僕は、切り込んで見ることにした。
「それで?本題はなんでしょう?」
すると彼女はしっかりとこちらをみつめ、
「私のチームにスタッフとして来てくれないかな?」
しっかりとそう言いきった。
僕は困惑したが、答えは決まっている。
彼女の勧誘で入ったりしたら、チーム全員・全てのファンから睨み付けられて、嫌がらせはもちろん、場合によっては殺される。
傭兵の中にも彼女のファンはいるだろうから、より現実的だ。
もしくは、『美形ばかり揃えていますが、私達チームは見た目で差別はしませんよ』というアピールの為なのかもしれない。
彼女自身ではなく、運営の人間がそういうイメージ戦略のために考えて、僕みたいなのを勧誘しろといわれたのかもしれない。
まあどんな理由にせよ、僕を勧誘するなんて物好きなことだし、絶対お断りするけどね。
しかし、何故勧誘したかぐらいは聞いてもいいだろう。
「貴女のチームには優秀なスタッフが沢山いるでしょう?なのに何故私をチームに誘うんです?」
自分の船の整備・点検・改造ぐらいはできるが、高速で過酷な環境を疾走するプラネットレースの繊細な機体の整備点検なんか出来る訳がない。
しかし彼女からでたのは意外な言葉だった。
「欲しいのは、君の状況判断の早さと正確さ。その能力があれば、いろんな状況でも的確な判断ができるでしょう?」
僕としては、安全マージンを取っているだけで、そういうことに自信があるわけではない。
評価されるのは悪い気はしないが、彼女のいる世界は僕が居るべきではない。
「ありがたい話だけどお断りする。私はそういう華やかな世界は、たとえ裏方でも向かないので」
「そう…残念だわ」
僕の答えに、彼女は寂しそうに笑うと、
「でも。出来れば考えておいてね」
そういって建物のほうに歩いていった
彼女は、バーンネクストの奴のようにもめているわけではないので、ちょっと申し訳ない気もするが、僕にも断る権利ぐらいはあるだろう。
さあ、さっさと
3人目の登場です。
俺様君は貴族でした。
もちろんまともな貴族もいるんですよ?
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