モブNo.11:『にいちゃん。今度は2時方向・下降(ダウントリム)20度・距離500だ』
潜水艦用語が間違っていたらしいので訂正します
昨日は友人との有意義な邂逅を楽しみ、仕事を受けるべくやってきた傭兵ギルドは、本日も満員御礼だ。
そして美人受付嬢の処は長蛇の列になっているのが日常の光景だ。
なので僕は、誰も並んでいないローンズのおっさんのところに向かう。
「ちわっす」
「おう。休日は楽しめたか?」
「ぼちぼちっすかね」
向こうの喧騒がうっすらと聞こえてくる。
それをBGMに、仕事の話を進めるのが、僕とローンズのおっさんの日常だ。
「ところでさ。ゲート関連の依頼が妙に多いのは気のせいじゃないよね」
掲示板を見てきたのだけれど、殆どがゲート関連の依頼になっているという異常事態が起きていた。
「ああ。ほら、例のデモ。あれきっかけにいろんなとこのゲート管理支部から依頼が殺到してな。うちの色んな支部に拡散依頼されてるんだ」
ローンズのおっさんは頭を抱えながらため息をついた。
「で、一番の急務は警備。筆頭はデモの起こっているところで」
「行かないよ?」
ローンズのおっさんの言葉を断ち切って、お断りをする。
「だよなあ」
ローンズのおっさんも僕の返答は予想の範囲内だったようだ。
「受けたいのはこっち」
なので、遠慮なく僕自身が選んだ依頼を差し出す。
「例の場所から一番遠いサーダル宙域の、老朽化したゲート安定装置の交換作業中の警備か。まあ、お前ならその依頼を選ぶよな」
ローンズのおっさんは諦めた表情で、手続きを始めた。
余談だが、実はこの受付をする人にもポイントがあり、傭兵が仕事をうけたり、成功させたりすればポイントがはいり、出世や昇給の判断材料になる。
聞いた話だが、悪どい受付嬢は、間違えたふりをして難度の高いクエストを手続きし、無理矢理に向かわせて自分の為のポイント稼ぎをしているらしい。
ローンズのおっさんは、それだけは絶対にやらないと豪語している。
だから僕は、ローンズのおっさんがいない時には依頼は受けない。
仮にうけるとしたら、ローンズのおっさんが太鼓判を押した奴からだけだ。
いまのところはいないが。
そうして手続きが終了すると、美人受付嬢の処の長蛇の列の喧騒を尻目に受付のあるロビーを後にし、その足で
ゲートは、自然の状態では円形をしているが、ゆらゆらと形が安定しない。
そこで、安定盤を使って安定させるわけだが、花弁のような形の安定盤をいくつも配置しているため、別名を『サンフラワー=
その近くには、必ず管理用の
今回の通行料は
進入の順番は到着順。
もちろん貴族が横入りする場合もあるが、今回はそんなこともなく、すんなりと移動できた。
ちなみに僕の仕事場になるのは、来る時に使用したものとはちがう奴だ。
そして仕事の内容はこんな感じ。
業務内容:ワームホール安定盤取り替え作業時の護衛。
業務期間:銀河標準時間で48時間。
3交代制の8時間連続勤務で16時間の待機休憩。
業務環境:管理コロニー内にある宿泊施設(カプセルホテル式)の無料使用・食事の無料支給。
宇宙船の燃料支給。
業務条件:宇宙船の持ち込み必須。
持ち込み宇宙船が破損した場合の修理費は自腹。
緊急時には、待機休憩時でも対処・出撃すること。
上記理由により、待機休憩時のコロニー外への外出不可
報酬: 24万クレジット・固定
はっきりいって地味な上に、微妙にケチなのか太っ腹なのか分かりにくい。
さらには、3交代制の最後になった場合、いまから16時間もの自由時間になる。
まあ、48時間拘束にしては報酬が安いし、待機休憩の時間は管理コロニー内から出ては行けないから、それなりに退屈だろう。
もちろん僕以外にも、色んな所から集まった40人
主人公属性の連中だったら、
『こんな地味な仕事なんかできるか!』
『これは傭兵のするべき仕事じゃない!』
とかいってぶちきれて、勝手に海賊退治にいったりするんだろう。
さらにはそれが原因で、トラブルが起きたりして、僕のようなモブが後始末をするはめになるのが定番だ。
だけど仕事ってのは、999の地味な仕事があるから、1の派手な仕事を支えることが出来るって事を理解しないといけない。
って言った所で、わっかんねぇだろうなぁ…。
ともかく説明をうけてからのシフト配置で、幸いにも最初のシフトになった。
しかし警備といっても、こんな田舎ばかりと繋がっているゲートしかないところに、海賊なんかはきやしない。
その代わり、急遽発生したのが、デブリ屋の作業の手伝いだ。
その理由として、
今回の換装作業は、施設の性質上どうしても突貫作業になる。
元々のデブリ対策として、安定盤には対物バリアが展開されているが、交換作業中に張っておく事はできない。
安定盤はもちろん、僕の船を始めとした全ての船やコロニーなどは、極小デブリ位では傷もつかないが、それでも回収しておくのが安全のためらしい。
その範囲が広いため回収船の追加を用意しておいたのだが、例のデモのせいで、急遽都合がつかなくなり、僕らが移動している間に傭兵ギルドに連絡し、追加の依頼として要請したらしい。
もちろん、作業の補助が出来る船をもっている者への、任意の並行依頼にはなったけど。
幸い僕の『パッチワーク号』は、それができる船だった。
そのためまずやることになったのは、船を特殊なポリマーでコーティングすることと、デブリ回収用のコンテナを船体下部に取り付けることだった。
コンテナは言わずもがなだが、ポリマーコーティングは、
もちろん
それをきっちり終わらせてから、ようやく安定盤の警備兼デブリ屋の手伝いの依頼を開始できる。
『にいちゃん。今度は2時方向・
「了解」
僕は、着陸寸前のような超低速度で、おっちゃんの指示通りに移動する。
その場所には、大きな金属片=多分船体の一部。と、細かい破片がゆらゆらと漂っていた。
『じゃあ、回収してくるから、流れた時は頼む』
「了解」
そういうと、デブリ屋のおっちゃんは、コンテナから飛び出し、バーニアを噴射させ、デブリに近づいていく。
そして勢いを殺すようにゆっくりと、ネジや破片といった極小デブリを収容しながら、一番大きい船体の一部に近付いていく。
さっき言った船や建築物はともかく、宇宙服ぐらいなら簡単に貫通する。
なので回収には細心の注意が必要だ。
『掴みづらいな…。少しそっちに流していいか?』
「アイアイサー!」
前方から流れてきた極小デブリを、ポリマーコーティングした船体でうけとめる。
『よし!掴んだぞ!』
おっちゃんは船体の一部をしっかりと掴んだまま、バーニアを一瞬だけ吹かし、器用にコンテナに戻ってきた。
この作業を始めてから既に3時間、なかなかに順調だし、作業にもなれてきた。
なにより、このデブリ屋のおっちゃんと息が合う。
もちろん、警備の方も、それなりに自慢のレーダーを駆使してバッチリだ。
これなら終了までの2日間、楽しく仕事ができそうだ。
何にも起こらなければだけど。
平凡な仕事の回。
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