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モブNo.98:「ありがとうございます大叔父様」

 ギルドで情報料と懸賞金を貰った後は、その足でいつもの銀行、父さんの借金のことでもお世話になったラセアーケ銀行のパルベア支店に向かい、今回の410万クレジットの1/3である137万クレジットを仕送りしておいた。

 そしてそのまま、占い屋の婆さんの勘が当たった事の報告とお礼がてら、繁華街にある占いビルに向かった。

 幸いにしてたむろしている女性客の姿も無かったので、気まずい思いをすることなく婆さんの店に入ることができた。

「おや。生きて帰ってきたみたいだね」

「まあなんとかね。年寄りの勘ってやつに感謝してるよ」

 実際、見つからないだろうと思っていたので本気で感謝している。

 すると婆さんは、

「だったらその感謝のしるしってやつを示して貰おうじゃないか?」

 と、掌を差し出してきたので、警察からの情報料にもらったのと同額の10万クレジットを渡した。

「おや、気前が良いね。よし。ついでに占ってやるよ。今後の仕事運でどうだい?」

「止めとくよ。当たったら怖いからさ」

 勘働きが強い人の占いはあたりそうなので、聞くのが怖すぎる。

 

 次のゴンザレスのところに向かう途中では、例の肉屋で『脂泥に浸かりし死肉を纏いし醍醐』という新作を買っていった。

「本当にお前の仕事にはよく邪魔がはいるな。最初の頃から考えると随分へったけど」

 横取り事件を聞いたゴンザレスは『脂泥に浸かりし死肉を纏いし醍醐』を食べながら、珍しく大型端末(ノートPC)投影型入力鍵盤(ホロ・ボード)を叩いていた。どうやら患者さんの処方箋の記入と見直しをしているらしい。

 設置型端末で(PCに)電脳侵入するの(プラグでつなぐの)は情報屋の仕事の時だけと決めていて、患者さんの処方箋は手打ちするのがこだわりらしい。

「いままで死ななかったのだけはありがたいね」

 傭兵を始めたばかりの頃はよく邪魔がはいったものだった。

 心が折れかけた事もあったが、今はわりと平気だ。

「そういえば、陛下主催の慰労会は終了したぞ」

「ああ、ニュースでみたよ」

 軍の将兵たちと、特に活躍貢献した傭兵たちを招待した皇帝陛下主催の慰労会は盛大におこなわれ、その様子は写真のみが公開された。

 その中には、アーサー君やセイラ嬢。ランベルト君やロスヴァイゼさんなんかが写った写真もあった。

 ちなみに後日に話を聞いたところ、


○アーサー君いわく

「陛下にお声がけいただいたのは光栄でしたが、その後女性達に囲まれてしまって…。大変でした…」


○セイラ嬢いわく

「陛下は素晴らしい方でしたよ。私達にも(ねぎら)いと感謝のお言葉を賜りましたし、これからも協力して欲しいともお願いされました。それに引き換え周りの貴族女共ときたら。『黒い悪魔』やアーサー様を自分の子飼いにしようとしてたかってくるんですよ!『羽兜』は上手く逃げたみたいですが…」


○ランベルト君いわく

「陛下にお言葉を貰ったら、速攻でトイレに逃げた。あんなところ長時間いられないよ…」


○ロスヴァイゼさんいわく

「ゲルヒルデ姉さんは参加してなかったですね。だったら参加しなければよかったですよ。戦勝での慰労会なのに、家柄だの資産額がどれだけだのと言ってくるのがいるんですよ?」

 と、かなり大変だったらしい。

 いやー招待されない立場の人間でよかった。



第三者サイド:神の視点


 王宮の会議室で、皇帝を始めとした高官達が顔を付き合わせて真剣に会議をしていた。

 開始から既に2時間は経っており、最初の方の議題は迅速に終了したが、最後の議題に時間がかかっていた。

 その議題は『反乱制圧後の帝国の指針』であった。

「まず早急に取り掛かるべきは、ネキレルマ星王国への報復だ!奴らは此度の反乱の裏で動いていた確たる証拠もある!」

 武闘派で有名な環境大臣が声を荒げれば、

「何をいうか!今必要なのは国内安定だ!大勢の愚かな貴族は、爵位剥奪・投獄・処刑により数を減らした。そして奴らが食い荒らした様々なものを回復させるべきだ!さらには反乱に参加した者達の家族の一部が海賊に成り下がって治安を悪化させているのだぞ!」

 予算を渋るので有名な財務大臣も声を荒げる。

 それを皮切りに、様々な人間が声を挙げ始めた。

「ではその隙を突かれて侵略されたらどうするのだ!」

「今回の反乱で活躍した帝国軍の戦力は約半分!反乱に参加した部隊もほぼ無傷に近い!」

「しかし将兵は疲労しているし、艦隊も武器弾薬も消耗している!」

「第7艦隊が所有する新兵器があればネキレルマ星王国など物の数ではない!それを恐れて攻めてなど来ぬわ!」

「それを油断というのだ!」

「油断をしているのはネキレルマ星王国の方だろう?こちらは反乱鎮圧の後処理に追われていると思っているだろうからな」

「だからといって攻め込むのは…」

「そこまでにせよ!」

 会議室にいた面々が侃々諤々(かんかんがくがく)としていたところに、皇帝(つる)の一声がかかった。

 それにより、会議室に静寂が訪れる。

 (しば)しの静寂の後、再度皇帝が言葉を発する。

「ネキレルマ星王国への報復、国内の経済回復と治安の維持。どちらも重要だ。蔑ろにするわけには行かぬ。が、内部で争っていてはそれこそ相手がつけいる隙ができる。そこでこういうのはどうだろうか?公爵そなたの案を、再度聞かせてくれ」

 皇帝の視線を受け、今まで沈黙を貫いていた老公爵が立ち上がる。

「諸君らの懸念はどちらも重要だ。どちらも(おろそ)かには出来ない。そこでだ。ネキレルマ星王国を警戒するものは、国境の警備とその周辺の復興を。ただしこちらから攻めてはいけない。待つだけ待って相手に攻めさせ、口実を作ってからだ。それ以外のものは自領地や近隣の復興をする。そしてもしネキレルマ星王国からの侵攻があったら、自領地には最低限の守りを残した全軍で迎え撃つ。こうすればどちらの要望もかなうだろう」

 両方の折衷とも言える案を、公爵が発表する。

 すると、全員がハッとした表情になり、

「「「「「「流石は公爵閣下!素晴らしい案だ!」」」」」」

と、参加していたほとんどの人間が称賛の言葉を発していた。

 そのタイミングを見計らった皇帝が、直ぐ様に畳み掛けた。

「ではこれを全ての貴族に通達せよ。諸君らはそれぞれの準備が済み次第、実行に取り掛かれ!」

「「「「「御意のままに!」」」」」

 そうして、長く続いた会議は終了した。


 会議が終了し、皇帝の執務室に向かう途中の廊下で、

「よろしかったのですかな陛下。此度の案は陛下が考えついたもの。それを私が提案するなど…」

 先ほどの提案を、発案した本人ではなく自分がして良かったのかと、公爵が皇帝に尋ねていた。

「構いません。私が提案すれば『小娘の案など…』となるでしょうが、大叔父様の提案なら皆納得します。国内の安定も外敵への備えも、どちらもおろそかにできませんから。それにこれくらいは誰でも考え付く事ですから」

 皇帝は、公爵の問い掛けに笑顔で返答した。

 その皇帝の表情に、公爵は臣下ではなく、叔祖父としての好好爺の笑みを浮かべる。

「ふむ。陛下の(まつりごと)のためにこの老骨が役に立つなら、もうなにも言いますまい」

「ありがとうございます大叔父様」

 その瞬間は、臣下と主人ではなく、姪孫(てっそん)と大叔父の関係のようであった。


第三者サイド:終了

100話!

と。おもったら98話だった…


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ルビがレイアウトでは反映されていたのに、掲載されたら無効になっていたのは納得いかない…


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