モブNo.1:『ふはははははははははははは!圧倒的だな我が軍は!愚かな男爵風情が、さっさと娘を差し出せばよかったのだ!ここまで抵抗してくれたのだ。捕らえた上にはたっぷりと可愛がってやる!』
意外にも好評だったので連載の運びになりました。
2話までは読み切りとほぼ同じです
御指摘いただき、再編集いたしました
僕の名前はジョン・ウーゾス。
傭兵をやってる。
傭兵って言うとカッコいいイメージがあるけど、そんなのは一握りの連中だけ。
創作の題材になるようなのは、
美男美女で。
乗ってる船は、試験的に製作されたものの、誰1人乗りこなせなかった超最新鋭のやつか、遺跡から発掘された意思のある超兵器とかで。
そんな船を華麗にのりこなし、たった1隻で敵の連合艦隊を壊滅させたとか。
たった1人で惑星型要塞に潜入して全滅させたとか。
どんな国家にも属さない巨大な傭兵組織をつくったとか。
本当かどうか怪しい話ばかり飛び交う連中のことだ。
僕のような、小太り眼鏡のオタクで、船も改造しているとはいえ中古品なんていう、やられ役の雑魚モブ傭兵とは住む次元がちがう。
そんな僕は今、銀河大帝国国内のフイガ宙域で、バッカホア伯爵の陣営に列席し、敵であるジーマス男爵の陣営との戦闘を開始しようとしていた。
現在、銀河大帝国は内ゲバの真っ最中だ。
同じ爵位の貴族同士で、どっちの格式が上か?とか。
古くさい骨董品を寄越すの寄越さないのとか。
そういう下らない理由で戦争をしている。
アホ臭くてしょうがない。
そしてそれに漏れず、このバッカホア伯爵は、ジーマス男爵の1人娘、(ちなみに親子くらい年齢がはなれている)を気に入り、自分の情婦にしたいから寄越せって言ったらしい。
いますぐ回頭して、旗艦のブリッジブチ抜いたらあのおっさん死ぬかなあ?
ま、その辺りを確認せずに仕事をえらんだのは僕のミスだ。
ちなみに今、バッカホア伯爵は全艦に向けて演説を打ち、ジーマス男爵が自分を侮辱した報復だと言っているが、全員真実しってるお!
さて、そろそろ演説も終るだろうから、戦闘準備をしておこう。
戦闘が始まったら、戦闘領域の隅っこで、ほどほどに攻撃して、全力で逃げ回る。
これが生き残る戦略だ。
「よーし!4機目撃墜!」
開戦してから既に1時間。
僕は戦闘領域の端っこでなんとか生き延びていた。
「この辺はもう制圧したかな?」
フラグ間違いなしのセリフだが、どうやら心配はなかった。
するとそこに、一斉通信がはいった。
『左翼支援部隊に通達!中央の支援に向かってくれ!押され気味なんだ!』
イイ人だが、どうせなら可愛い女性兵士に出てきて貰いたい。
もしくは本人が美人女性士官なら無問題。
しかし現実はくたびれかけたおっさんだ。
「ええー?!中央部隊にいた連中はどうしたんだ?確か『はっ!あんな雑魚の群れなんざ俺様1人で十分だぜ!邪魔すんじゃねえぞモブ共!』とかイキってたのがいたよな?」
『支援部隊はまだもってるが、正規部隊がガタガタなんだ。あと、そいつは1隻も撃墜してない』
僕の独り言にガルベン中尉は律儀に答えてくれた。
それにしても、戦闘で1機も撃墜してないのはさして珍しくないが、あれだけイキっててそれではなかなかダサい。
ともかく中央に向かうことにした。
おっとり刀で駆けつけると、中央はなかなか大変なことになっていた。
支援部隊はそこそこ拮抗しているけど、正規部隊はガタガタ。
つか、支援部隊が居なかったらヤバイんじゃないか?
そして例のイキリ君は、数十機もの敵機を引き付け、戦場を飛び回っていた。
「あーありゃすごいわ!たしかに反撃をしてる暇はないわな」
イキリ君が大量の敵機を引き付けているため、味方機の安全マージンがたっぷりとれている。
しかし、あれだけの数に追いかけられて、落とされていないのは、船の性能もあるのだろう。
流石は主人公のイキリ君。やることが派手だ。
ちなみにおっとり刀と聞くと、急ぎもせずにダラダラと移動してきたように聞こえるが、文字にすると『押っ取り刀』と書き、急な出来事で、刀を腰に差す暇もなく、手に持ったままであることを表す言葉で、急いでやってきたって意味が正しい。
それはとにかく、あのイキリ君にへばりついたのを仕留めるお!
僕以外にも、支援部隊の連中が、イキリ君にへばりついてるのを打ち落としていく。
でもそれで油断したのが良くなかった。
後ろに食いつかれてしまったのだ。
攻撃はなんとかかわせているけど、このままだとヤバイ。
機体に負担がかかるけどやるしかないお!
先ずはスロットル全開で飛ばしながら相手を自分の真後ろに誘導する。
相手が真後ろにきたら、機首をあげる・機体下部にある姿勢制御用のスラスターを一瞬だけ全力噴射・メインブースター停止を、タイミングを合わせて同時に行う。
すると、機体は回転しながら相手の機体を飛び越す形になり、そのタイミングでビームを放てば、相手は確実に蜂の巣だ。
つまりは宙返りして敵の背後をとる基本的な戦法だが、機首がいきなり上がる様子が、攻撃されて胴体が折れたように見えるので、『撃墜騙し』と呼んでいる。
そして相手は見事にハマってくれた。
そんなことをしているうちに、右翼の支援部隊も到着した。
すると、中央はバッカホア伯爵軍が俄然有利になった。
ジーマス男爵軍は、両翼の戦力がなくなったということであり、士気も下がるだろう。
そうして、イキリ君にへばりついた残りが十機を下回り、戦場全体がバッカホア伯爵軍優勢になった時に、信じられない事が起こった。
バッカホア伯爵軍の旗艦が、主砲を撃ちながら前に出てきたのだ。
しかも、敵味方全体への一斉通信で、馬鹿な事を叫びながら。
『ふはははははははははははは!圧倒的だな我が軍は!愚かな男爵風情が、さっさと娘を差し出せばよかったのだ!ここまで抵抗してくれたのだ。捕らえた上にはたっぷりと可愛がってやる!』
あ、それ死亡フラグ。
そう思った瞬間に、イキリ君の船に貼り付いていた船の1隻が、一直線に旗艦のブリッジに特攻した。
あまりの素早さに、味方は誰一人として反応出来なかった。
もちろん敵側も。
まさかあんなことをするとは思っていなかったのだろう。
多分、男爵令嬢に思いを寄せていた少年兵とかだったんかね。
その特攻を食らっても船は沈まなかったが、ブリッジは原型をわずかに保った状態で大破していた。
もし調子こいて宇宙服を着ていなかったら、伯爵とその取り巻きは確実にあの世行きだろう。
すると、
『あー、現在最高責任者になったガルベン中尉だ。バッカホア伯爵とスカンタン中佐が死亡し、戦闘が継続不可能になった。全将兵に告ぐ。即座に戦闘を中止してくれ!こんな馬鹿げた殺しあいは無駄の一言だ!』
と、別の船から一斉通信を飛ばしたそのガルベン中尉の言葉に、全員が戦闘を中止した。
基本的には、主人公属性の人に迷惑をかけられたり、主人公属性の人に絡まれたりします。
迷惑なお願いを一蹴したり、困ってる人を見捨てたりします。
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