お別れ
マルク様
長い間、連絡もせずに申し訳ありませんでした。
心の整理がつかずなかなかお手紙を書けなかったことをお詫びいたします。
私はマルク様と出会い、楽しい時間を過ごせて幸せでした。
この度は私の呪いともいえる問題に巻き込んでしまい申し訳ありませんでした。マルク様は私にひどいことをしたと謝ってくださいましたがご自分を責めないでください。常人には運命という力には抗えないのですから。結果的にマルク様自身が傷ついたのではないかと心配しております。
私はこれからも平民として一人で生きていきます。マルク様が立派な騎士となり、奥様を迎えられ幸せになられることを心から願っております。
シル
セシルからの手紙。ところどころ涙でインクがにじんだその手紙を読んでマルクは手紙を握りしめて泣いた。
ルルと話してからずっとセシルからの連絡を待っていた。
謝罪の手紙を一度だけセシルに送った。
返事が来ず、会いたくて何度も店の前まで行った。それでもシルが自分から連絡をくれるまで会ってはいけないと扉を開けることは出来なかった。
そしてそんな中、総団長とその補佐が何度も食堂に足を運んでいるのを目撃した。一体何があったのかといぶかしんでいると、自分も総団長から呼び出しを受け、事情を知った。
総団長も、団長補佐もマルクを責めることはなかった。ただ淡々と事実確認をしていく。
アナベルと関係したのが事実かどうか聞かれ、頷いた時の絶望感。
聴取が終わり、戻るように言われた時、
「あの・・・シルは・・・俺のこと何か言っていませんでしたか?」
総団長はじろっと俺を見ると
「事件に関係のないことは話すつもりはない。」
「は・・・はい、申し訳ありません。」
「下がれ。」
そう言って俺を追い出した。
聴取の中でアナベルが平民の罪人として処罰されると聞いた。
セシルを二度も殺そうとし、嘘をついて家族ぐるみで虐げてきた女。そんな家を出てようやく自分の居場所を作って頑張っていたシル。
そんなシルを自分はずたずたに傷つけてしまった。
会いたくて店の前まで行ったけれど、合わせる顔がなかった。自分の顔を見たらシルがまた苦しむのではないかと思えば扉を開けることが出来なかった。
ルルさんの言う通り、シルからの連絡を待つしかないとすごすごと家に戻った。
そしてようやく待ち望んでいたシルからの連絡。
それは別れの手紙。
一言も自分を責める言葉はなかった。それが余計に辛く、涙が止まらなかった。