魔導国の暗躍と懺悔と
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戴冠式も終わり、そのあとはシュヴァルツ皇国の各国代表と今後について話すことになった八雲だが―――
―――戴冠式を終えた後
八雲はジョヴァンニと話すためマドアスに大聖堂の部屋をひとつ借り、そしてそこに聖法王とユリエル、エドワードとアルフォンスにクリストフ、フレデリカ、エミリオにレオンも八雲に声を掛けられて同席していた―――
「―――皆さん、お忙しい中で俺の呼びかけに集まってもらってありがとうございます。今回ここに共和国の為政者の立場にある皆さんと、聖法王猊下に立ち会って頂いたのはレオパール魔導国のことです」
「レオパール?それは、一体?」
エドワードが八雲にそう声を掛ける。
「皆さんレオパール魔導国の三導師についてはご存知ですよね?」
八雲の質問に一同が頷くのを目で追って確認した八雲は次に進める。
「その中のひとり、ルドナ=クレイシアが半年ほど前に『エルフ狩り』と称して東部の村を襲撃した事件も知っていましたか?」
「―――クレイシア導師が!?」
その話しに一番過敏に反応したのはジョヴァンニだった。
「今日、戴冠式で俺達に花束を持ってきてくれた幼いエルフの子供達がいただろう。あの子達はその時に家族を殺された孤児達だ」
「なんと……」
「そんな……そんなことが」
「なんと恐ろしいことを……」
八雲と一緒に子供達から花束を受け取ったエミリオ、フレデリカ、そしてジェローム聖法王の表情が強張っていた。
「あの子達を含めて二十四名の女の子達が、その時に襲撃してきたルドナの兵に連れ去られるところを龍の牙のサジテールがエヴリン=アイネソンの頼みで駆け付けて、兵士達から彼女達を救出した。その子達は今うちで面倒を見ている、というか黒龍城のある土地に入植させるつもりだ」
その言葉を聴いてクリストフは―――
「あの土地は黒神龍様に献上した土地だし、入植者を決めるのも黒帝陛下と黒神龍様の自由にしてもらっていい土地だから。税金もそちらで取るか取らないか決めてくれれば構いません」
―――とあっさり承諾する。
「さっきの話しに戻るけど『エルフ狩り』についてはルドナの独断のようだ」
「―――ということは、エルドナ=フォーリブス導師はエヴリン=アイネソン導師と同じ考えだということですか?」
ジェローム聖法王が確認してくるが、
「直接聴いた話じゃないけれど、少なくともルドナからその提案が出た際にエヴリンとエルドナのふたりは反対だったということは聞いています」
八雲の返事に皆は暗い顔が広がっていった。
「それで、ロッシ評議長にお伺いしたいのは『聖ミニオン女学院』の学院祭の日程がずれたのはレオパールからの品が届かない、と仰っていましたよね?」
「ええ、そうです。学院祭に必要なものだけでなく国の生活物資に関わる原料などが現在滞っているのです。一応遅れながらも届いてはいるのですが、このままでは流通の滞りが積み重なり、需要が高まり過ぎて街では物価の上昇が既に始まっている始末なのです」
「足りない品物はひとつに定まっているという訳ではない、ということですか?」
「―――はい。原料となる品から魔法薬まで幅広く物資が滞っていますね」
「その原因について、レオパール側はなんと?」
「それが―――」
そこでジョヴァンニが渋い顔に変わり言い澱む。
「―――国内での需要が高まったとしか言ってこないのです」
「他の国に輸出しているということは?」
「―――それも調べさせましたが、他の国もうちと同じような状況になっているようです」
その言葉を聴いて八雲は嫌な考えが浮かぶ。
「国内に物資を貯め込んでいく国が考えることは正直良いことじゃない。レオパールは何か動く準備をしているのかも知れない」
「それは!?……まさか戦争を?」
「そこまで大それたことを仕掛けてくるのかは、まだ分からないけれど少なくとも『エルフ狩り』の件といい、何かをしようとしているのは間違いないんじゃないかと思う」
「それと、実は黒帝陛下にご報告があるのです」
ジョヴァンニがさらに深刻な顔になって話し出した。
「以前、リオンで黒帝陛下が討伐された『切り裂き魔』の件なのですが―――」
ジョヴァンニによると―――
―――リオンの首都を恐怖に陥れた『切り裂き魔』こと自動人形の分析を行った。
―――魔術に精通する優秀な魔術師と自動人形に詳しい職人など、あらゆる人脈を使って徹底的に調べた。
―――すると、調査報告書には驚愕の内容が書かれていたと言う。
―――あの切り裂き魔のボディーにはレオパール原産の希少な特殊金属が大量に使用され、またその金属は刻まれた魔法陣同士を繋ぐ回路のような役割を持ち、その金属にはあらゆる場面に対応出来るように膨大な魔法陣が刻まれていたという。
そして、その魔法陣はすべてエルフ特有の魔法陣が刻まれていて、少なくとも製作者はエルフと見て間違いないようだった―――
「そして……最後に、黒帝陛下が切り裂き魔を停止させるのに貫かれた『核』の部分についてですが、分析した者達の見解では……強制的に人の魂を移し込む魔術の痕跡が残っていたと……」
「そんな……酷いことを……」
ユリエルがその話を聴いて両手で顔を覆って嘆くが八雲も動揺していた。
「魔術でそんなことが、出来るのか?」
「調べた魔術師はエルフだったのですが、レオパールの禁術とされるものには『反魂』という魔術があるそうです。詳しくは私も分かりませんが元々の魂の持ち主を死に追いやり、その魂を逃がさずに別の器へと移すのだとか……俄には信じられませんが」
「それは、まさに冥聖神様を愚弄する行いですぞ。なんと恐ろしいことを……」
ジェローム聖法王も神をも恐れぬその愚行に恐怖していた。
「しかし何故、人の魂なんか移し替える必要があるんだ?自動人形なのに?」
「私も気になったので自動人形の職人にその事も問いました。調査した魔術師と技師の見解では、人の魂を乗せることで魂が取り込む魔力を動力源にしているのではないか、ということらしいです」
「どういうことだ?」
八雲にはまだよく分かっていなかったのでジェロームが説明をする。
「―――黒帝陛下。人が魔力を持つのは、その身体の内にある魂が世界から魔力を集めることで保たれているのです」
「つまり他の人も俺も魂が魔力を集めて、その身に取り込んでいると?」
「―――そうです。人によって器の大きさは違えども、その原理は人であろうと魔物であろうと不変です。普通の自動人形は外部から魔力を供給して、それが尽きると停止してしまう制限があります」
「でも魂を移し込んで魔力を取り込み、供給し続けられるようになったら―――」
「ほぼ永久に動き続けるでしょう……」
そこで、ふと八雲はディオネのことを思い浮かべる……
―――ディオネも自動人形であり、八雲の神の加護である『創造』のカテゴリーに属するふたつの加護を用いた。
ひとつ目は『疑似生命の創造能力』による身体と疑似魂を創造。
ふたつ目は『疑似生命への自我の移植能力』によって自分自身の意志と判断力を与えた存在だ。
―――なので、ディオネも疑似魂で魔力を取り込み動ける構造をしている。
「どうやら、ますますレオパールが怪しくなってきたな」
「―――どうするのだ?黒帝殿」
エドワードから判断を仰ぐ言葉が出たので八雲は現状から考えて、
「俺は切り裂き魔の件はレオパールの誰かによる実験だと考えている。あと腐れのないように他国で実験して、その結果から次に何か事を起こそうとしているんじゃないかと」
「―――リオンを実験場にしていたと?」
ジョヴァンニの質問に八雲は頷いて返すと話を続ける。
「レオパールの誰かが事を起こそうとしているにしても、それが内側に向かうのか外側に向かうのか、そこはまだ分からないが少なくとも今は外側に向かう可能性は低いんじゃないか」
「―――それは三導師ですな」
―――クリストフがすかさず答えて八雲は頷く。
「ひとつの勢力に纏まっているなら外に向かうことも考えられるけれど、三つ巴……いや多分二対一になったら国の外へ向かっていくのは自殺行為に近い。だったらまずは―――」
「他の導師を消して、統一を狙う……ですか?」
ジョヴァンニが恐る恐る問い掛けると、
「少なくとも俺がそいつの立場だったならそうする。だけど、だからと言ってこっちに攻めてこない保証はない。だから各国ともに兵站の確認と整備、兵士の鍛錬と国内の警備体制を整えておいて欲しい。俺は―――レオパールを探ってみる」
「黒帝陛下自らがお調べに!?」
「いやノワールの龍の牙を動かすよ。一旦はリオンへ行って学院祭と街の物資の状況を見て、それからどうするか検討する」
八雲の判断に全員がその場で頷いて返した。
「それともうひとつ、これはレオパールとは別の件ですが皆様に告白することがございます」
「―――はい?なんです?」
ジョヴァンニが神妙な面持ちでそう切り出したことに八雲は何かと問い掛ける。
「エドワード王とアルフォンス王子の暗殺に関わっていたリオンの暗殺者達は……私の子飼いの暗殺ギルドです」
「―――ッ?!」
突然のジョヴァンニの告白に正直八雲だけではなく、その場にいる一同が驚いていた。
ジョヴァンニの告白にその場にいたエドワードとクリストフも緊張が走り、同じく暗殺ギルドが動いていたフレデリカも人事とは思えなかった。
「貴方が―――狙わせたのですか?」
近隣各国のトップが集うこの場で八雲の言葉によって一気に追い詰められた気持ちになったジョヴァンニは、今までの人生の中で一番生きた心地がしない時間だった。
「……結論から言えば……そうです」
そうジョヴァンニが認めた。
その言葉にエドワードもクリストフも怒りや憎しみよりも何故?という表情に変わっていく。
「指示をしたのは私を始め評議会議員の採決による総意でした―――ですが我々の総意ではありません」
相反する物言いにエドワード達も聖法王とユリエルも意味が分からない。
「信じて頂けないかも知れませんが、神に誓って真実を話します。あれは『災禍戦争』が起こる少し前になりますが議会での評議中に突然、誰も見たことがない女が現れました。女は我々にティーグルへ向けての出兵とその侵攻経路などを指示し、何故か我々はその言葉に逆らえずに従ってしまったのです」
「……」
八雲は黙ってジョヴァンニの言葉を聴き、同時に表情を見て嘘か本当かその表情の動きを観察していた。
「それでエレファンに侵攻している振りをしてティーグルに軍を向かわせたわけですが、そのあと別の女が私の元に来て、今度は暗殺者達をエドワード王とアルフォンス王子に向かわせろと指示していきました」
その話しに八雲はピクリと反応した。
「私はそれも何故か背くことが出来ずに命令を出していました。今更なにを下手な言い訳をと言われても仕方がありません。ですが、神に誓って真実を話しました。ですが、どうか裁きを下されるのであれば私ひとりに。他の評議議員達は誓って関係などしていません。お願い申し上げます」
最後まで話してジョヴァンニは深く頭をエドワード達に向かって下げていた。
そして話を聴いていた八雲は―――
「その現れた女達、当てましょうか?一人目は獣人の狐耳をした金髪の女、そして二人目は同じく狐耳をした銀髪の女だったんじゃないですか?」
―――とジョヴァンニに問い掛けると、
「な、何故そのことを?黒帝陛下は彼女達をご存知なのですか!?」
心から驚いた顔をして問い返すジョヴァンニとそれを聴いたフレデリカは、自国の暗殺ギルドに依頼をしに来た銀髪の狐耳の話しを思い出してハッとした顔をしている。
「一人目は『災禍』に操られた葵で、二人目は俺も名前は分かりませんが、葵によるとその女は『天孤』という位を頂いた地聖神の使徒だろうと言っていた」
「し、しかし地聖神様の使徒ならば、何故エドワード王達の暗殺を?」
「そこは本人を捕まえてみないと分からない。『天孤』も《魅了》を扱うそうだし、エーグルの暗殺ギルドに現れて同じ依頼をしていったのもその銀髪の狐だったそうだ」
それを聞いてフレデリカも頷いて答える。
「はい。父上の暗殺に加担した暗殺ギルドの幹部から言質は取っております」
「そんな、一体この世界では何が……」
何も信じられないといった顔になるジョヴァンニに八雲は裁決を下す。
「ロッシ評議長の件は当事者であるエドワード王にお任せする」
その言葉に全員の視線がエドワードに向くと黙って瞳を閉じて考え込んでいる。
一分が過ぎたのか一時間が過ぎたのか、全員が時間の感覚がおかしくなるほどの緊張感が走る中、
「ふふっ……王族に生まれて暗殺など何度この身に降りかかったことか、なあ、クリストフ?」
「―――はい。兄上をお護りするのは本当に骨が折れました。最後は邪魔をする私も狙われだしましたからな!はははっ!」
そう言って笑顔で語り出すエドワードとクリストフ兄弟に一同唖然としていると、
「何を呆けているのだ!いま我ら全員でロッシ殿から神に誓って嘘偽りのない懺悔を聞かされた!聖法王猊下、確か人の懺悔の内容というものは他人に話すことは禁忌の所業でしたな?」
するとそれを聴いたジェロームが穏やかな口調で、
「―――その通りですエドワード王。ですから皆さま。今この場で聴いたジョヴァンニ=ロッシ殿の懺悔の内容は決して他に漏らすことのないよう、くれぐれもお願い致します」
「し、しかし……それでは!」
ジョヴァンニが何かを言い掛けるが、エドワードがそれを遮る。
「聖法王猊下によって今の話はすべて皆の胸の内に閉じられた!それでいい。ジョヴァンニ=ロッシ評議長、貴方はまだこの共和国には必要な方だ。これからのことを共に考えていく上で失うわけにはいかぬ」
「エドワード陛下……」
「だったらこれで、この話は終わり!―――ああ~!本当、疲れた……」
「八雲君ったら、うふふ/////」
八雲の本当に疲れ切った表情を可愛く感じてしまい、ユリエルは思わず笑みが零れていた―――
―――待たせていたノワール達と合流して黒龍城に戻ろうとしたところで、
「え?一緒に黒龍城までついて来るだって!?」
「婚姻が公式に発表された以上わたくしもシャルロットも八雲様のお傍に行きたいのです。ダメでしょうか/////」
「―――八雲様のお邪魔は致しません!どうか、お願いします/////」
八雲はヴァレリア王女と公爵令嬢のシャルロットに詰め寄られて一緒に黒龍城に連れ帰って欲しいという懇願を受けていた。
「突然だし、それにほら!やっぱ親御さんのご意向も確認して―――」
「―――ああ?うちのリアタンと婚姻したのに同居が気に入らないとぉ?」
エドワードはまるで人が変わったかのように怒髪天の表情を繰り出し―――
「う~ん……パパはやっぱ、シャルちゃんには少し早いかなぁ~って思ってるんだけ―――ゲボラァ?!」
「―――おほほほっ♪ この人は気にしないで、今のうちにどうぞ連れて帰ってちょうだい♪」
久しぶりにアンヌの木槌が唸りを上げてクリストフの脳天に炸裂し、変な声を上げたクリストフは床とキスしていた……
「よいではないか♪ お前の嫁なのだしユリエルも一緒に住んでいるのだから問題ないだろう?」
ノワールがシェーナを抱っこしながら八雲に言い放つ。
ノワールのユリエルも一緒に住んでいるという言葉にヴァレリアとシャルロットはユリエルへとにじり寄ると、ユリエルが一瞬ビクッと驚いていたが、
「―――聖女様!いえ、これからはユリエル様とお呼びさせて頂きます。これから同じ八雲様の妻としてよろしくお願い申し上げますわ」
「―――ユリエルお姉さまとお呼び致しますわ☆どうか不束者ですがよろしくお願い申し上げますね♪」
「あ、はい。ユリエルと申します。こちらこそよろしくお願い申し上げます。ヴァレリア様、シャルロット様/////」
何故か嫁同士、結束力を固められたように見えた八雲は背筋にスゥーと寒気を感じていた。
結局はヴァレリアとシャルロットも黒龍城に来ることになって一同でキャンピング馬車に乗ると大聖堂をあとにしたのであった―――
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