超越したステータス
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朝から八雲が向かった先は、レベッカの運営する孤児院だった―――
―――改造した魔術飛行艇を飛ばして八雲が向かったのはアードラーにあるレベッカの孤児院だった。
今日も関所の兵士達に挨拶をしながら門を抜けてレベッカに教えてもらった孤児院の場所に向かうと、そこは地聖神を信仰する【地聖教会】の敷地にある別棟の建物だった―――
その建物は教会よりも大きな二階建ての建物だが、相当年数が経っている様子で壁の一部などが剥がれて落ちているところもあった。
八雲が魔術飛行艇をその建物の入口近くに止めると、丁度そこに年の頃四十代くらいのシスターが掃き掃除をしているのを見つける。
「ッ?!ああ、驚きました……もしかして……黒帝陛下……でしょうか?」
シスターは八雲の乗って来た魔術飛行艇に驚いたと同時に、どうやらレベッカから聞いていたようで八雲の身なりを見て黒帝だとすぐに理解したようだ。
「はい。九頭竜八雲といいます。あの、レベッカは今居ますか?」
「ああ!やっぱり!―――私はこの地聖教会でシスターをしておりますマディラ=メイア―と申します。レベッカは中におりますのでどうぞ♪」
掃き掃除の道具を入口の横に立て掛けて、シスター・マディラは八雲を建物の中に案内するとテーブルとソファーのある部屋に通す。
そこで暫く待っているとドアがノックされてレベッカが入室してきた。
八雲の『創造』したピッチリとしたレオタード風のスーツの上から黒いジャケット、下はスリットが切れ込んだ長めの黒いスカートを着ていた。
「おはよう……八雲。こんな朝早く……なにかあったのかしら?」
「おはようレベッカ。いや用事っていうのは迷宮の階層主を倒した時にドロップしたあの宝石、俺が『収納』に保管したままだっただろ?だから今から一緒に商人ギルドに行かないか?勝手に売却する訳にもいかないし、正直俺は物の価値に疎いんだよ」
「ああ!……そうだったわ。あまりに色々とあり過ぎて……忘れちゃっていたわ……ごめんなさいね」
「気にしてないよ。それで出掛けられるのか?」
「ええ、いいわ。すぐに準備するから……少し待ってちょうだい」
そうして一旦退室したレベッカが、八雲の『創造』した黒杖=吉祥果を手に持ち黒いローブを羽織って戻ってきた。
「お待たせ……それじゃ……行きましょうか」
大人の雰囲気を漂わせるエロフ……いやエルフに見惚れていた八雲は、
「ああ!それじゃあ表に置いてある乗り物で行こう」
と一瞬焦りながらもレベッカと表に出ると―――
「なんだろ?これ」
「変な形してるねぇ~♪」
「でも……浮いてる……」
孤児院の子供達であろう小さな男の子や女の子が、八雲の魔術飛行艇を珍しそうに囲んでわいわい楽しそうにしていた。
そして表に出てきた八雲とレベッカを見ると、初めて見る八雲に緊張したのかパッ!と魔術飛行艇から離れて俯いている。
「―――これが珍しかったのか?今日はレベッカと用事で出かけるけど、今度また遊びにきた時に乗せてあげるよ」
笑顔で八雲がそう伝えると、子供達は笑顔でお互いの顔を見合って喜んでいる。
「みんな……良い子にして待っていてね」
子供達にそう言ったレベッカを後ろに乗せて背中に豊満な柔らかい二つの感触を感じ、やや照れながら魔術飛行艇を発進させる八雲にレベッカは背中側でクスリと笑みを溢していた―――
―――首都アードラーにある商人ギルドへ
八雲とレベッカが向かった商人ギルドの建物の中ではギルド長のヤン=ジュリアス・ミューエが忙しそうにギルド職員達に指示を出しているところだったが八雲の姿を見つけてすぐに近づいて来ると、
「―――これは黒帝陛下!今日はまたどうしてうちに?それに英雄レベッカまでお連れとは何かございましたか?」
笑顔を見せるセミロングの金髪優男は、八雲の目から見ても商人根性が染みついていることが窺える対応振りだった。
「おはようヤンさん。実はこの間ルドルフとレベッカと行ったバルバール迷宮で階層主を倒したときに落としたドロップアイテムの売却をしたいんだけど、頼めるかな?」
「ほお、バルバール迷宮の階層主ですか!たしか巨大な宝石を落とすと噂では聞いていましたが、実物は私も見たことがありませんでした。ここでは何ですので是非、うちの宝石商人と一緒に鑑定させて頂けますでしょうか?」
ヤンの提案に反対する理由もなく、ヤンに案内されて商人ギルドの中の宝石取り扱い商人達のいるところまで案内をしてもらった。
そこに行くと、頑丈な鉄の扉に護られた部屋に辿り着き、ヤンが扉の魔法陣に左手を置き―――
「―――《認証》」
と唱えるとガチャリ!と扉の鍵が開く音がした。
「今のは?」
「あれは《認証》……自分の掌や声や鏡に映した顔を……鍵の代わりにする……無属性魔術のひとつよ」
「へえ……指紋認証や顔認証みたいなものか」
そんな無属性魔術があるのを知って今度エルフの娘達の家にも導入してみよう、などと考えて中に入るとそこには数人の宝石関連を取り扱う商人が、幾つかの宝石を鑑定しているようで忙しそうに働いている。
「―――これはギルド長。お客様ですか?」
中で働いていたひとりがヤンの姿と八雲達の姿を確認して声を掛けてきた。
「こちらは皇帝陛下と英雄レベッカだよ」
「……エッ!?黒帝陛下ですって!?」
驚く商人達に、サッと片手を上げて八雲が宥めると、
「今日はひとりの冒険者として来ているんで、そこは騒がないでもらえると助かる」
そう説明して他の商人にも一応納得させた。
「それでは早速、鑑定を依頼したい宝石をここに」
そう言って大きなテーブルを指し示すヤンに従って、八雲は『収納』からダンジョンの第一階層主が落とした巨大な宝石をテーブルに置き、それを見ただけで腰を抜かしそうな商人達を尻目にテーブルに乗らないもうひとつの第二階層主の宝石は床に置いたので、さらに商人達の表情は固まってしまった。
「バルバール迷宮の階層主からドロップしたんだけど、ふたつ纏めて買ってもらいたい」
鑑定に来た品物が、まさかここまでの物だと予想していなかったヤンも突然現れた巨大な宝石に固まってしまっている宝石商人達もすぐに仕事の表情に戻って宝石の鑑定を開始する。
「宝石の価値はやっぱり大きさで決まるのか?」
「そうですね……普通の宝石か魔法宝石かでも価値が大きく変わります。大きさと魔術的価値、この二点と当然見た目の美しさも関係して価値が決まりますね」
「なるほど……」
ここにいる宝石商人達は専門家であり素人の八雲では分からないような差があるのだろうと納得していると、暫くして鑑定していた宝石商人が鑑定結果を報告しに来た。
「たいへんお待たせ致しました。このふたつの宝石は高純度の魔石でした。大きさといい質といい、最高ランクの魔石と言えるでしょう。そしてその買い取り額と致しましては―――こちらになります」
宝石商人がトレーに乗った見積額を記入した用紙を、俺とレベッカの前に出してきて、それを覗き込むと―――
『白金貨二枚』
―――と記載されていた。
白金貨1枚の価値が日本円計算=およそ一億円なので、合わせて二億円の価値ということになる。
「白金貨!?……こ、こんなに!?」
いつもクールなレベッカも今回の金額には目を剝いて驚いている。
そんなレベッカに八雲は―――
「どうだ、レベッカ?俺はこういうのは疎いから、この金額で問題なさそうか?」
―――と改めて確認すると、レベッカも落ち着きを取り戻して、
「エ?……ええ、そうね……これほどの価値があると思わなかったから……私も驚いたわ。八雲がよければこれで問題ないと思うわ」
そう笑顔で八雲に返事する。
「そうか。ではヤンさん、この金額で売却手続きをお願い出来るかな?」
「分かりました!それでは簡単な売却書類と支払いをさせて頂きますね」
そこからは事務的な手続きになり、書類にサインをしてそして支払の段階になると、
「―――支払いはレベッカのギルドカードに支払って」
と八雲が希望するのを聴いてレベッカが驚いていたが、
「俺に考えがあるから、いいから全部受け取っておいてくれ。悪いようにしないから」
そう伝えて支払いの白金貨はレベッカのカードへと振り込まれた。
帰ろうとして八雲達が乗る魔術飛行艇に、ギルド長のヤンを始め商人達が群がって、
「売ってください!」
と言ってきたことは言うまでもないが八雲は乗り物が後々の商売にもなりそうなので、もっと大きな話を持ってくると伝えて熱い視線で迫る商人達を宥めてなんとかその場は凌いだ。
ヤンを始め、宝石商人達も見送りに出てくるなか、八雲はレベッカを乗せて魔術飛行艇で商人ギルドを後にしたのだった―――
―――商人ギルドからの帰り、昼に近づいてきたこともありレベッカと昼食を取ることにした。
最寄りにあったレベッカお薦めのレストランに入ると席に着き、それぞれメニューから昼食を注文した。
「それで……私にお金を預けて、何を考えているのかしら?」
注文が終わったあと、早速レベッカが気になっていた本題を八雲に切り出してきた。
「そんな難しい話じゃないさ。レベッカ、うちの土地に孤児院を移す気はないか?」
「……エッ?」
突然の八雲の提案にレベッカは呆気に取られてしまう。
「突然……どうして、そんなことを?」
「今日レベッカの孤児院を見せてもらって正直なところ、彼方此方が痛んでいるように見えたんだ。特に壁の石が剥がれてきているのが危ない。子供達が当たって怪我をする可能性が無いとは言えないんじゃないのか?」
八雲の指摘を黙って聴いていたレベッカだったが、フゥと溜め息を吐いて、
「ええ……マディラとも話していたけれど……もうあの孤児院の建物は……そう長くはもたないだろうって……危険だから、新しく立て直すか、どこかに移ろうって……話していたところよ」
「やっぱりそうか。そこでだ。いま黒龍城のある土地にあのエルフの子達の家を建設して、今日くらいから移り住む予定なんだ。その近くに新築の建物を俺が用意するから教会ごとそこに移して、そして子供達をうちの入植者として迎え入れるってことなんだが、どうだ?」
「それは、有難いお話だけど……でも……どうしてそこまで、してくれるの?……私が運営しているといっても、孤児院なんて儲かるものじゃないことは……私が一番知っているわ。それって……同情なの?」
いつになくレベッカの視線が真剣なものに変わっている。
「同情がない……なんて言ったら嘘になる。俺さ、両親がいないんだ。事故で」
「エッ?……そう……だったの……」
「俺の場合、十四歳の頃までは親と一緒だったからまだマシだよ。でも、親が突然いなくなる気持ちは……分かっている」
「ごめんなさい……知らなくて」
八雲の身の上を知って沈んだ表情に変わるレベッカに、八雲は慌てて話しを進める。
「気にしないでくれ。だからって打算がないわけじゃない。孤児院の子供達だっていつまでも子供って訳じゃないだろ?いずれ成長して当然今までだって自立していったと思う。その時にうちの土地に家を持って、そのまま住んでもらうことで入植者を増やしていこうって考えなんだ。自立したら当然税金は納めてもらう」
「随分と気の長い話よね……でも、悪い話じゃないわ。戻ったらマディラと……相談させてもらってもいいかしら?」
「勿論さ!それと、移住するならひとつ頼みがあって、あの移住してきたエルフの娘達のことも気に掛けてやって欲しいんだ。レベッカは同じエルフだし、うちに移動してくるまでの間も随分と心を開いているように見えたからさ。そして面倒を見ている時に何か必要なものがあれば、今日の宝石を売った金の俺の取り分から出しておいて欲しい。俺も常にいる訳じゃないから。あ、もちろんルドルフには取り分を分けてくれてかまわないから。ユリエルの分は俺が渡しておくよ」
「そんなの……お安い御用よ♪ でも……本当に八雲は……ダンジョンであんな戦いが出来たり、あんな家を突然建ててしまったり……一体どれだけの力を持っているの?」
レベッカの自然に浮かんだ疑問に、当の八雲も、
「あ、そういえば最近ステータスを見てなかったな……」
と言って、Level.100越えてから自身の能力について最近興味を持っていなかったことを再認識してしまった。
エレファンの【魔物暴走】でかなり経験値を稼いだことは覚えているが、それも確認していなかった。
「ダメよ、八雲……冒険者にとってはステータスの確認は……命に関わることもあるんだから……ちゃんとチェックしておかないと」
「そうだよな。久しぶりに見ておくか」
そこで八雲がステータスを確認しようと展開してみると―――
「―――なんじゃゴラァア!!!」
突然奇声を上げた八雲に、レベッカは思わず手元のお茶を吹き出しそうになる。
「どうしたの!?《状態異常》でも……掛かっているの!?」
と驚きの声を上げて八雲に確認すると大人しくなった八雲が、
「なあ、レベッカ。体力とか魔力のステータスって、ふたつ表示されたりする?」
「は?……何のこと?」
「ありのまま見えていることを話すぜ……俺のステータスの生命、魔力、体力、攻撃、防御なんかが載っているステータスの一覧が二種類あって、ひとつは『リミット・ステータス』、もうひとつは『オーバー・ステータス』と表記されて別々に表記されてる。リミットの表示は体力とか全部9,999,999になっていて、オーバーの方はそれ以上の数値が書かれているんだけど、何を言っているのかわからないと思うけど、俺も分からない。ただ恐ろしい領域に足を踏み入れたことの片鱗に触れた気分だぜ……」
「ステータスが……ふたつに……リミットと、オーバーの……八雲、ハッキリとは言えないけど、それは多分……あなたの能力が……この世界での限界枠を超えた……そういう意味じゃないかしら?」
「この世界の限界を超えた……」
「歴史上、私の知る限りで……そんなステータスが現れたなんて人も話も……聴いたことがないわ。詳しく知っているとしたら、黒神龍様達、神龍様くらいじゃないかしら」
桁がこの世界から外れたのではないか、というレベッカの言葉に八雲は根拠もなく納得したところがあった。
「戻ったら一度、ノワールに訊いてみるよ」
レベッカもその考えに賛成してくれて昼食を終えたふたりは一路、孤児院へと向かうのだった―――
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