9話 暗雲 、それは
「でも、俺ってば世界最強だし? それに勇者だって人間だ。きっと話せば分かるさ。俺がゴリアテとは違うってことを説明すればいいんだ」
「あなたは、その巨人と同じ体格、しかも今はゴリアテと同じ装備をしている。違いを証明するのは難しい。それに、過去の勇者は、ゴリアテ――彼のどんな弁明も嘘と断定してゴリアテを倒した。勇者は基本的に敵と認識した相手の話を聞かない」
「勇者は人の話を聞けよ……」
街の人の話を聞いて攻略を進めるのが勇者の仕事だろうに。
「それにあなたが世界最強……だったのは過去形。最大は変わらずだけど、最強ではない」
「なんでだよ。武器も手に入れたし(呪われてるけど)、強くなることはあっても弱くなるはずは」
「あなたは弱くなった。その装備のせいで」
「!?」
呪われてるけど、強力な装備だぜ?
説明にも最強の矛と盾とあるし。
「善にも悪にも属さない、始原の巨人。その状態ならあなたは勇者にだって勝てたはず。でも……」
「……でも?」
「その装備をつけたことで、あなたは世界に邪悪な存在として認識されている。勇者たち善なる陣営は、相反する邪悪な力への抵抗力が異常に高い。魔王や邪神がいくら【無敵】【無限再生】などのスキルを持っていてもそれを突破して討伐するのが勇者の仕事」
「魔王涙目じゃねえか」
「倒せないものを倒すのが勇者、というより勇者に倒せない邪悪は存在しない」
チートじゃねえか!そういうの俺も欲しかったよ!
「このおおお!!! 外れねえ!」
俺はまた全裸に戻ろうとしたが、どうしても装備を外すことができない。
「力ではその呪いを解除することはできない。ちなみに私の力でも無理」
「役に立たねー!」
「む……。あなたが勝手に装備したんだから私に文句を言わないでほしい」
それはそうだが、ぐぬぬ……。
「馬鹿なことをしていないで話を聞いて」
「へい」
馬鹿って言ったやつが馬鹿だぜとまた言おうとしたが、そういう空気ではなかった。
「勇者と聖地アズラタンの街の住民は仲が悪い。住民からすれば救世主―ゴリアテを殺した仇として勇者を見ている。だからダンジョンの暴走を止める手助けを呼ばなかった」
死んでも助けを求めないってそりゃ相当嫌われてるな勇者……。
「そして巨人を信仰するアズタランの住民は、その他全ての人間の街から毛嫌いされている。仮に助けを呼んだとしても助けが来たかは不明」
「そりゃあ、勇者が嫌いです!って公言してれば煙たがれるだろ。でもよ、勇者が巨神教の人間を見捨てちまうのはおかしくねえか?」
「どうして?」
「勇者が助ける人間を線引きしていいわけないだろ? 勇者なんだから」
「へぇ……」
目を見開いて俺を見る女神。
「なんだよ」
「なんでもない。あなたにしては良いことを言った…と思う」
褒められたのだろうか?
珍しいこともあるもんだ。
「さぁ、そろそろ目覚めるべき。あなたの信徒が迎えに来ている」
「エイルかな? 俺が街に向かうって言ってあったのに何かあったんだろうか。」
嫌な予感がする。
「巨神教の信者たちは、あなたを倒そうとする勇者に味方するはずがない。それどころかあなたを守ろうとする可能性が高い」
「そいつは無茶だぜ……。勝ち目はあるのか……?」
「……ゼロと言ってもいい」
「クソっ!」
早まった行動はしないでくれよ!
「急いで、あの子達を助けてあげて」
「そりゃあ、助けるが、どうしてそこまで肩入れするんだ?」
「お願い……あの子達はゴリアテにとって大切な……」
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目を開けばまだ辺りは薄暗い。
女神の話だと、誰かが俺を迎えに来ているとのことだが、どこにいるのだろうか。
「コウ様! 大変です! コウ様ッー!」
馬の蹄の音と共に、俺を呼ぶ声が近づいてくる。エイルの声だ。
「エイルか。どうしたんだ急に」
「ゆ、勇者が街に! お逃げくださいコウ様!」
女神の言った通りだった。
俺を倒しに、勇者がやってきやがった。
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