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7話 土木作業をする巨人


 巨神教に伝わる巨人、ゴリアテ。


 ゴリアテは国を持たず、彷徨うジプシーのような民族をここ聖地アズタランへと導き、荒れは果てた大地を平地へと変えて、そこに巨大な防壁を築き上げた。

 

 人が安全に暮らせる街、聖地アズタランはゴリアテの手で作られたのだ。


 いまは塵となって風にまってしまった巨人の像――ゴリアテだが、その心意気だけは俺が()がねばなるまい。

 お前の死は無駄にはしない。


 俺が人々のためにまず、何をするのか?

 それは、街を襲った魔物の対策、つまり暴走しているダンジョンを何とかしなければならない。


 ダンジョンに乗り出す事は、異世界転生において結構なメジャーな行為だが、俺にはこれまで無関係の話だった。


 ダンジョンの入り口よりも大きな俺にどう攻略するというのか?

 ん?


 最初から諦めていたことだが、町の英雄……いや神として祭り上げられることを選んだ俺は、エイルに案内を頼み、この街のためにダンジョンへと向かう。


 そう、決して生贄とかいう物騒な単語について深く知る前に街から離れたかったわけではない。

 決して。





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「ここがそのダンジョンか」

「ええ、いつも冒険者などでごった返ししているのですが、今は暴走騒ぎもありましたので、人気はありませんね」


 エイルの案内で、たどり着いた場所は、まるで地底へと続く深い深い洞窟型のダンジョンであった。

 かなり広めの入り口だが、それは普通サイズの人間にとってであり、当然俺が入ることはできない。


 腕……なら入るかな? とも思ったが、さすがに手が届く距離よりはこの洞窟は長いだろう。

 いくら俺の腕でもダンジョンの深さには及ばない。


「いかがなされるのでしょうか?」

「これは、正攻法では無理だな。だが、俺にかかればこれくらいは容易い」

「おお、さすがはコウ様!」


「少し下がっているがいい」

「はい!」


 エイルには、さすがですコウ様! しか言われていない気もするが、まぁいいだろう。


「最悪ですコウ様……」


 とか言われるよりは百倍いい。


 俺は早速、新しく手に入れた装備を使うことにした。


 握りしめてみればすぐさま理解できる。

 この武具に秘められた力が。このふざけた性能を。


 槍の形をしていたが、これの本当の姿はそうじゃない。自由自在に姿を変えて持つものに柄らを与えるのだ。本当の姿などないと言ってもいい。


《邪神の武具》


《いくつもの神の心臓を貫いたといわれる神槍の姿をとっているが、操るもののイメージによって自由自在に姿を変える神々の武器。盾とセットになっており『状態異常無効』『精神操作無効』のスキルを装備するものに与える》



《扱うものの精神次第で、最強の矛と最強の盾となるが呪われてい――》


 おっと、ここまでだ。

 何やら物騒な単語が脳内に再生された気がしたが、見なかったことにしておこう。

 いいね? 


 イメージの力で変化するその武具とはいいものを手に入れた。

 俺みたいな大きさだと、装備を変更するのは難しい。

 一つの装備で応用が聞くのはとても助かる。


 このダンジョンへの対策で、俺がイメージするのは、常に最強の自分……ではなく、このダンジョンの封鎖(ふうさ)に必要なものだ。

 

 破壊ではない。

 一時的な暴走さえ止めてしまえば今後のためも考えてダンジョン自体を破壊してはいけない。


 俺はそんじょそこらの転生者とはスケールが違うのだ。

 物理的な意味でも、その発想力においてもだ!


 さぁいでよ、そしてこの場面(シーン)に相応しいその姿を示せ!!


 現れるのは、土を掘るもの(スコップ)


 「大きいってことは強いってことさ。人間に悪さをする穴は、さぁ埋めてしまいましょうね」


 周辺の地面を円状に削りながら入り口へと土をかけていく。

 凄まじい力切れ味だ。


「地面を掘るのも切れ味っていうのかな? 分からん」


 なかなか重労働だが、今の俺は腹減りも疲れも感じない。

 やばい薬をやっている人も同じこと言ってた気がするが、俺のは女神の加護だからきっと副作用などはないはずだ。


 多分。


 迷宮、なんて言ったっけな。一度エイルに名前を聞いたのだが忘れてしまった。


 だが、気にする必要はない。

 なぜなら、もうそんなものは存在しないからだ。


 人はそこを山を呼ぶだろう。それほどの質量の土がどんどんと積み上げられていった。


 

 


「しかしコウ様、これでは私たちも近づくこともできませんが……。このダンジョンは私達の貴重な収入源ですので……」

「まぁ何ヶ月かして、暴走も収まったときにでもまた掘り返してやるさ。(ほり)も作っておくから、万が一魔物が外に出てきてもここからは外に出られないだろう」

「それは有り難いです。コウ様」

 

「この辺り一帯を封鎖するのは、まだ時間がかかりそうだから、エイルは先に街に戻ってるんだ。明日の朝、街で会おう」

「コウ様だけを働かせて私一人帰るなど、そんなこと出来ません!」

「と入っても手伝えることはないし、それに間違って土被(かぶせ)せちゃったら大変だしね。今は一人のほうが効率がいいんだ。頼むよ」

「私が足手まといなのですね……分かりました。街に戻りコウ様の偉業を告げ、歓迎を含めた祭典の準備をしてまいります」

「うん。頼んだ」


 エイルを返した後も一人黙々と作業を続け山と、それを取り囲む堀を完成させた。

 疲れは感じないが、今日は色々あった。

 

 俺は少し離れた場所で寝転んだ。

 エイルを返したのも、ちょっと一人になりたかったからだ。


 目を閉じて、遠い場所にいる存在へと呼びかける。




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「あんた、馬鹿?」

 

 夢の中。

 女神との交信の場である白い部屋での最初の一言は、罵声(ばせい)でした。


「バカじゃないし、バカって言ったほうが馬鹿だし」


「私は言った。あなたは神にも悪魔にもなれる、と」

「だから、神になろうって頑張ったじゃないか。今日とか超頑張ったぜ?」


「神は神でも、あなたが居座ったその席は、邪神」

「は?」



 ――うん。嫌な予感はしてたんだ。

 呪いとか生贄とか……。

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